作品タイトル不明
友好に乾杯!
ラルゴに案内され、ダイニングルームへと入るとエリック家が勢揃いして座っていた。
主催者であるエーガルさんが奥にあるパーティー席に座り、上座から順番にナターシャさん、ルーナさん、エリックという順番だ。
スロウレット家が五人、エリック家が四人であるがエーガルさんがパーティー席に座るのでエリック家は三人だけだ。
それではこちらは二人ほど対面者がいないという寂しいことになるのだが、それを考慮してかエリック家は間隔を大きく開けて座っていた。
「好きにかけてくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
エーガルさんがそう言い、ノルド父さんが上座に座る。
日中、大人達だけでお喋りをしていたからか、随分と仲が良さそうだ。
まあ、シルフォード家はスロウレット家と同じ男爵家。家格も同じなので気兼ねなく話せるからだろう。
それにどちらかというと同じうちの家も武闘派寄りだしね。
ノルド父さんが席に座ったので、俺もそれにならって一番下座に座ろうとすると……。
「「失礼しますね」」
エルナ母さんはワンピースの裾をつかみながら優雅に、エリノラ姉さんはきびきびとした動きで綺麗に腰かけた。椅子を引く時や座る時にガタッと音を立てるような粗相もしない。
二人ともとても美しい動きであり、見ている人の目を奪うようだった。
というかエルナ母さんならまだしも、エリノラ姉さんについては誰だと問い詰めたくなる。
いつもならガタッと椅子を引いて、勢いよくお尻を椅子に乗せるのに。
ピンと背筋を伸ばして澄ました表情までしちゃって。
とはいえ、こういう流れになると俺とシルヴィオ兄さんも丁寧にやらざるを得ない。
「「失礼します」」
俺とシルヴィオ兄さんも屋敷で習った作法通りに、音を立てずに綺麗に椅子に座る。
「ははは、俺達は同じ男爵家なんだ。気を遣う必要はないさ」
「そうですよ。お昼間のように気楽にしましょう? 今日は友好を深める会ですし」
「エーガルさんやナターシャさんがそう言ってるし、気楽にしようか」
エーガルさんとナターシャさんの勧めで、ノルド父さんが気楽にするように言う。
すると、優雅に座っていたエルナ母さんが少し力を抜いた。
「よかったわ。実は食事のマナーや所作を気にしながら食べるのが苦手なのよねぇ」
「でも、とてもそうと思えないほどエルナさんの所作は優雅ですよ? それにエリノラさんも騎士のような綺麗な動きでした」
うちの女性陣は取り繕うのがとても上手だからね。
隣を見てみると、エリノラ姉さんも同じように自然体で座っていた。
おいおい、エリノラ姉さん。いくら楽にしてもいいと言っても、もうちょっと足を揃えるなり、お淑やかにした方がいいのではないだろうか。
「はぁ、良かったわ。マナーとか気にするの苦手なのよね」
「……わかる。気を張っていたら美味しいものも味わえない」
同じように自然体でいるルーナさん。
だが、二人ともテーブルに肘をついたり、だらしなくはない。怒られない最低ラインをきちんと守ってはいるようだ。
「というわけで、二人も楽にしているといい」
「そういうことなら」
ここで俺とシルヴィオ兄さんが気を張っているのも空気が読めない行動だ。
ここは勧められるがままに自然体でいよう。
俺は心のスイッチを切り替えるように気を抜いて座る。
「うおおおおっ!? アルフリート、大丈夫なのか? 今、一気に目から光が消えたぞ!?」
「何を言っているんだよ。大袈裟な」
目から光が消えたって何だよ。意味が分からない。
「……まるで生物から命が消えていくのを見たみたい」
いやいや、ルーナさん。その表現はちょっと酷くない?
「よし、ラルゴ。皆が席に着いたことだ。料理を運んできてくれ」
「かしこまりました」
エーガルさんの言葉に一礼すると、ラルゴさんが奥にある扉を開く。
すると、そこにはワゴンを手にする三人のメイドが待機していた。
その中の一人は、うちのメイドであるミーナだ。心なしか、その表情はいつもよりも硬い。
そりゃ、そうだろう。ここはシルフォード家。いつもとは違う職場であり、貴族の屋敷なのだから。
……心配だなぁ。
俺がそんなことを思っている間にも、メイド達がワゴンを押して進みだす。
一瞬、ミーナは遅れたものの迷うことなく俺達の方へとやってきた。他のメイドは手慣れた様子でワゴンを押していく。
誰が誰に配るなどの打ち合わせは事前にしているのだろうな。
エーガルさんやノルド父さんの方から順番に料理や食器が並べられていく。
こちら側の方が人数が多いので、ミーナはシルフォード家のメイドと協力してだ。
さすがにこういう作業はサーラやメルといつもやっているし、もたつくこともないな。
テーブルの上には、綺麗に盛り付けられたカルパッチョが出てくる。
それに船上とは違って豪華に飾り付けられた色とりどりの刺身も。
とにかくこちらは見栄えを意識しているのか、見る者の目を楽しませようという料理人の心遣いと繊細な業が見えていた。
「これが生の魚の身……刺身かしら?」
俺が刺身に見惚れていると、エルナ母さんが興味津々の表情で言う。
「ああ、生の魚の身だ。聞いたところによるとカグラでも生の魚を食べる文化があるのだな。とても美味しいのでよければ挑戦して食べてみてほしい」
「船の上で食べたけど美味しかったわ」
「うん。エルナ母さんとノルド父さんも食べてみるべきだよ」
船の上で食べた刺身は、それはもう美味しかった。ぜひともその美味しさを知ってもらいたい。
「そうなのね。じゃあ、後で食べてみるわ」
「生の魚は食べたことがないから少し緊張するね」
そんな感じに談笑している間に、テーブルの上にはエビや海藻、小魚などが入った海鮮サラダ。海の魚の塩焼きや貝の塩焼き、白身のオリーブオイル焼き、海老とキノコのアヒージョ。付け合わせのパン。
などと港町エスポートでのバーベキューにも引けを取らないご馳走が並べられていく。
海鮮料理をあまり見たことがないエリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんは目を輝かし、エルナ母さんやノルド父さんも嬉しそうに表情を緩めていた。
そんな俺達の表情を見たエリックが、腕を組んで誇らしそうに頷く。
エリックが料理して作ったわけではないけど、自分の領地にはこれだけ凄い食材があると知ってもらえるのは嬉しいから共感できるな。
嬉しそうにするエリックを微笑ましく眺めていると、ミーナがワゴンを押して俺の前に皿を並べてきた。
その表情は難関を終えてホッとしたもの。まだ俺の分を配膳し終えてないんだから、あからさまに安心しないでほしい。最後まで集中力を持続させてくれ。
最初に並べられたのは食器、取り皿。それから海鮮サラダだ。
「アヒージョを溢したりしないでね」
「もう、アルフリート様。いくらなんでもそんな初歩的なミスをしませ――あっ」
油断したミーナの口から掠れるような声。
俺の前に差し出されたアヒージョが手から滑り落ちて、斜めになっていくのがスローモーションで見え
る。
ほら、見たことか駄メイドめ!
俺は心の中でそんなことを叫びながら無魔法のサイキックを瞬時に発動。
ミーナの手から斜めに落ちていくアヒージョの皿を自然な動作で、ミーナの手へと戻した。
「はれ?」
「いいから、そのまま皿を置いて」
何が起こったかよく理解できずに固まった状態のミーナにボソリと言うと、ミーナが我に返ったのか再起動。俺の皿を目の前にアヒージョを置いてくれる。
それからミーナはさすがに肝が冷えたのか、集中力を持ち直して滞りなく俺の配膳を終える。
そうなるとミーナの配膳の仕事は一旦終わりなので、ワゴンを押しながら奥の部屋へと戻っていった。
「「…………」」
俺が微かに魔法を使ったのを鋭敏な感覚で察知したのか、ノルド父さんとエルナ母さんから怪しむような視線が突き刺さる。
その顔を見るに「こんなところで何の魔法を使ったんだ」というところだろうか。
俺はミーナのフォローをしてあげただけで何も悪いことなんてしていないよ。だから、そんな疑うような眼差しでこちらを見ないでほしい。
そんな微妙な雰囲気を察したのかエーガルさんがキョトンとした表情で尋ねる。
「ん? 二人とも何かおかしなことでもあったか?」
「……いえ、何でもないですよ。気にしないでください」
「ええ、問題ないですよ」
と二人は笑顔を浮かべながら言っているものの、後で何かしたか問いただすというような気配を感じた。
ノルド父さんとエルナ母さんは魔力に鋭敏すぎると思う。他の皆のように気付かなければ転移だって、もう少し気を抜いてできるんだけどな。
「そうか。じゃあ、準備も整ったし早速食事にしようか。今回はうちの領地の名物をふんだんに集めた。皆、心行くまで海の幸を楽しんでくれ!」
エーガルさんがそう言うと、皆が察したようにワイングラスなどを手に持つ。当然俺とエリックは歳が低いので中身は果実水だ。
「ではシルフォード家とスロウレット家の友好を願って乾杯!」
「「乾杯!」」