軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不毛な言い合い

船酔いでダウンしていたミーナとシルヴィオ兄さんが回復したところで、俺達は大人しく屋敷へと戻ることにした。

「さっきのお城、凄かったですね! 王都で見たミスフィリト城にそっくりでした!」

「うん、砂だけであんなものができるなんてね」

道を歩くミーナとシルヴィオ兄さんが笑顔で砂の城について語り合う。

しばらく横になって休憩したことで回復したのか、もう顔色は元の状態にまで戻っているようだ。

これなら突然リバースする心配もないだろう。

後ろにいるルーナさんとエリノラ姉さんは、銛突きで魚を取ることに成功したようだ。

腰にぶら下げられた網には何匹かの魚が入っている。

服が少し海水や土で濡れてしまっているが、その表情はとても晴れやかだ。汚れなど気にならないくらい楽しかったようだ。

海に来るなり銛で魚を捕まえてしまうなんて、なんて男らしい姉なのだろうか。

「……アル君はやっぱりおかしい」

俺が網に入っている魚を見ていると、エリノラ姉さんの隣を歩くルーナさんがポツリと呟く。

「確かにね。浜辺に砂の城なんて作ってどうするのかしら?」

「……エリノラもおかしい。私が言いたいのはそうじゃない。普通、土魔法であんな精緻な物は作れないから」

「そうなの? 旅の途中でも普通に土魔法で家を作っていたけど……」

「……土魔法で物を作るというのは簡単なようでとても難しい」

ルーナさんの言葉に俺はしみじみと頷く。

道中でエリノラ姉さんは簡単なことのように家を建ててといったが、土魔法で物を作るというのはかなり難しいのだ。

椅子だって、土台となる脚が少しでも歪であれば座れなくなってしまう。様々なパーツが重なり合う家となると当然難度は高くなる。

いつも簡単に作っているようだが、作る時はそれなりに神経を使ったりもする。

まあ、俺はそれすらも慣れたけどね。

「……アル君は砂漠の民であるお母さんよりも土魔法が上手い」

「砂漠の民ってラズール人よね? ラズール人はそんなに土魔法が上手いの?」

珍しくエリノラ姉さんがいい質問をしてくれた。

ラズール人といえば砂漠地帯に住んでいる人のことで王都などによく香辛料を売りに来ている。肌が浅黒くてターバンのようなものを巻いたりと、実にアラビアンな格好をしている。そんな印象だ。

実際に話を聞いたこともないので、ラズール人がどのように暮らし、どのような文化を持っているかほとんど知らない。だから、気になるな。

「ラズール王国は国土のほとんどが砂漠。厳しい環境を生き抜くために自然と魔法の扱いに長ける」

「特に人々にとって一番身近なものは無限に広がるような砂だ。だから、ラズール人は土魔法が特に上手い」

ルーナさんの言葉を補足するようにエリックが言う。

厳しい環境に住むラズール人からすれば、魔法というものはとても素晴らしい恩恵だろう。

例えば、旅の途中で水がなくなっても水魔法があれば生きていける。土魔法を使って、その場にある砂を利用すればそのまま建物になる。夜になって冷え込めば、火魔法で炎を起こせば凍死しない。

魔法を上手く使えば、生きるか死ぬかというシビアな状況も打開できるのだ。

人々も本気になって魔法を極めざるを得ないのだろうな。

「人は生きるためなら大概何とかできるものね」

「じゃあ、魔法の苦手なエリノラ姉さんは魔法だけで魔物と戦えばいいんじゃない? ほら、生きるためなら何とかなるんでしょ?」

「じゃあ、剣が頼りないアルは剣だけで魔物と戦えばいいってことね?」

不敵な笑みを浮かべるエリノラ姉さんを見て、俺は思わず後退る。

その目はまさに獲物を狙うようであり、自分が魔法だけという枷を負ってでも、俺と魔物を対時させる意思が感じられた。

「……この言い合いは不毛だからやめよう」

「アルが言い始めたんでしょうが」

俺が引き下がると、エリノラ姉さんがつまらなさそうに鼻を鳴らす。

本当に良かった。冗談で終わってくれて。

「お帰りなさいませ皆様方。海に行ったので肌がべたついているでしょう。お湯の準備が整っておりますので湯浴みでもいかがです?」

エリックの屋敷に帰るなり、執事であるラルゴが恭しく礼をしながらそう言った。

ふと、自分の身体を見てみれば、多くの砂が服や肌についている。

砂でミスフィリト城を作っている時に付いてしまったのだろう。それにずっと海風に当たっていたせいか肌が少々べたついている。

「あれ? 汗はそんなに掻いていないはずなのに肌がべたべたする」

「本当ですね。私もシルヴィオ様も船酔いしたせいでずっと休憩をしていたので、それほど汗は掻いていないはずなのですが……」

「それは海風や水しぶきに当たったせいでしょう。水はもとより、海水近くの空気は塩を含んでおりますので」

「なるほど。だから肌がべたつくんだ」

「普通の水とはまったく違うんですね」

ラルゴの解説に感心の言葉を漏らすシルヴィオ兄さんとミーナ。

海が初めてな二人からすれば何事も新鮮に感じられるのだろうな。

「何だか髪がキシキシするわね。あたしだけかしら?」

自分の髪をいじっていたエリノラ姉さんが確認するように俺の髪を勝手に撫でる。

ああ、俺もどことなく海風とかのせいで髪がキシキシしている気がするな。

「……アルの髪って、ちょっとごわついてるからよくわからないわ」

「くせ毛って言ってよ」

ごわついているって表現はなんか嫌だ。

エリノラ姉さんは俺の髪を撫でても何も得られないと思ったのか、あっさりと手を離す。

「ふふっ」

俺がエリノラ姉さんに不満げな視線を送っているとエリックが小さく笑った。

「何笑ってんだよ?」

「確かにごわついているな」

「くせ毛だって。というか勝手に触らないでよ」

俺を小バカにしたような表情で髪を触ってくるのがムカつく。

くそ、自分の髪がちょっとサラサラだからって調子に乗りやがって。

「……海水を浴びると髪の毛がキシキシする。放っておくと髪の毛が痛むから早くお湯で流そう」

「このままでいるのも気持ち悪いし、お風呂に入りましょうか」

「賛成です!」

部屋に入ってゆっくりするよりも、まずはお風呂に入ってしてさっぱりした方がいい。意見の一致によって女性陣がお風呂の準備をするために移動していく。

「ああ、ミーナさん」

「はい? 何ですか?」

ラルゴが引き留めるように声をかけると、ミーナは満面の笑みで振り返る。

もはや、気分はバカンスにきた令嬢のよう。それとなくルーナさんとエリノラ姉さんの輪に混ざり、呑気に浴場に向かおうとしている。

ちょっと自分がメイドだってことを忘れているのではないだろうか。

「ミーナさんは早めに上がってください。そろそろ夕餉の準備などをしなくてはいけないですから」

「……はい、わかりました」

ラルゴの釘を刺すような言葉によって我に返ったのか、ミーナが陰りのある表情で返事する。

自分が貴族令嬢だったら、どれだけ良かっただろうか。そんなことを考えていそうだな。

「まあ、先にお風呂に入らせてもらえるんだしいいじゃない」

「そうですね。メイド風情の私が先にお風呂に入らせてもらえること自体に感謝しないとですね」

エリノラ姉さんに慰められながら移動していくミーナ。

まあ、ミーナはメイドだから仕方がない。これからはみっちりと働いて、スロウレット家のメイドとして活躍してもらわないとな。

「さて、シルヴィオ兄さん、エリック。俺達もお風呂に入ろうか」

「何を言ってるんだ貴様は? うちの家に男女別の風呂などあるはずがないだろう」

俺が何げなく言うと、エリックに即座に突っ込まれた。

そういえば、そうだった。うちの屋敷にだって男女別の風呂はないもんな。

「……ということは?」

「あはは、姉さん達が上がるまで僕達は待機だよ」

やっぱり、そうなりますよね。