軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いつもの光景

「できたよ」

内装が終わったので扉を開けてそう言うと、ゾロゾロと皆が家に入ってくる。

「はー、玄関から凝っていますね。丁寧に靴を入れる棚までありますよ」

感心の声を上げながら靴棚をガラリと開けるミーナ。

それがあるのとないのとでは、やはり玄関らしさが変わるからな。他にも玄関の床には土落としの窪みをつけてみたり、きちんと段差をつけたりしてあるぞ。

俺が得意げにミーナにそんな事を語っていると、ノルド父さんが尋ねてくる。

「アル、ここは土足で入っていいのかい?」

「一応、靴下のまま歩いても汚れないくらいにツルツルにしてあるよ?」

大理石までとは言わないが、少し歩いたくらいじゃ土や砂が付いたりすることはない。

「……どれだけ魔力を込めたのよ」

床を手で触って呆れたような声を上げるエルナ母さん。

俺としては、やはり家では寝転びたいのですよ。屋敷でもスリッパか裸足だし、やはり室内では素足でいたいと思う。

「これなら靴を脱いでも大丈夫ね!」

エリノラ姉さんは靴を脱ぐ方が好きなのか、早速靴を脱いで玄関を上がる。

それを見て、床を確かめていた皆も次々と靴を脱いで上がっていく。

「一階にはリビングと台所、衣裳部屋、荷物部屋に浴室、脱衣所といった感じで、二階はそれぞれの寝室と空き部屋だね。まあ、全体的に屋敷と似たような構造だよ」

俺が大まかな間取りを説明するが、皆は好き勝手に扉を開けたり部屋を覗いたりする。

その動きは、さながら不動産屋の下見にきたお客の如しだ。

まあ、部屋の間取りなんて言葉で説明されてもわからないし、実際に受ける印象も違うからな。

それをよくわかっている俺は特に気にせずに歩き回る。

もし、何か不満の声があがれば、できるだけ期待には応えるつもりだ。

「くっ! 荷物部屋なのに私の実家のリビングより広いです! 理不尽です!」

悲痛な声を上げるミーナに、ロウさんが優しく肩を叩いて首を横に振る。

その首の動作は諦めろということだろうか。

「台所とリビングはくっ付いているのね」

「大掛かりな料理も作らないし楽に生活ができるように作ったよ」

今は旅先で屋敷のように本格的な料理を作ることもない。簡易的な料理を作るだけなら台所とリビングがくっ付いていた方が色々と便利だろう。

「椅子にテーブル、食器もある。もはや屋敷にいるのと変わらないね」

「んなわけないでしょノルド父さん。椅子とソファーは硬いし、色合いだって暗い。屋敷と同じわけがないよ」

あっちには素晴らしい椅子やソファーがたくさんあり、絨毯も敷かれて色合いだって美しいし、装飾もセンスがある。

こんな一日で作った家と屋敷を比べたら屋敷が可哀想だ。

「……アルのその考え方が異様な魔法力の正体なんだね。僕はこれで十分だと思うけど」

俺の言葉を聞いて、納得とばかりに頷くノルド父さん。

魔法という素晴らしいものがあるなら、己の欲求を満たせるように努力するのは当然のことだよ。俺は快適な時間を過ごすために、これからも魔法を磨き続けるつもりだ。

「スライムクッションがもっと欲しいわね? 近くにスライムでもいないかしら?」

「周囲の見回りに行った時に探そう」

「そうね」

俺の提案にしっかりと頷くエルナ母さん。

エルナ母さんは敵に回すと厄介だが、こういう時非常に気が合うので好きだ。

「それと提案があるのだけど、スライムをもっと大きな革に詰められないかしら? 枕サイズとは違った、もっと大きなサイズのクッションが欲しいわ。それをギューッと抱きしめて眠ると凄く気持ちいいと思うのよ」

「それは俺も考えていたよ! でも、スライム一匹だと厳しいし複数入れると管理が面倒になるんだ。だから上位種のビッグスライムを入れたらいけるかもしれないけど、どう思う?」

俺が尋ねると、エルナ母さんは考え込むようにして唸る。

「……そうね。ビッグスライムなら大きさは申し分ないけど革の方が心配ね。他の魔物に比べて攻撃性は少なくて穏やかな個体も多いけど、力自体は強いのよ」

さすがは元冒険者であるエルナ母さん。ビッグスライムについての知識もしっかりとあるようだ。

「むむむ、そうなると今の革よりも丈夫なものが良さそうだね」

スライム抱き枕については、もう少し考え込む必要がありそうだ。

トリーと一緒にまた研究しないとな。

「ちょっとアル! あたしの部屋だけ微妙に狭いんだけど!?」

俺がスライム抱き枕について考え込んでいると、二階からドタドタとエリノラ姉さんが降りてきた。

「あー、そこは内装の関係上どうしても狭くなっちゃうんだ。諦めて」

「空き部屋っていう余裕があるのに、どうしてあたしの部屋だけが狭くなるのよ!」

理由なんてない。ただ俺のマイホームをバカにした嫌がらせだ。それ以上でも以下でもない。

「別に寝るだけだし、そこまで気にしなくてもいいじゃん」

「じゃあ、部屋代わりなさいよ」

「やだ」

俺がきっぱりと否定すると、エリノラ姉さんがちょっとイラっとしたような顔をする。

ふふふ、この家は全て俺の土魔法でできている。

つまりは俺の支配下にあるといってもいい。各々が快適に過ごせるかどうかは俺の裁量によって決まるのだよ。

「寝室の他にも書斎まであるんだね」

不機嫌そうなエリノラ姉さんの視線をスルーしていると、二階を見終わったのかシルヴィオ兄さんも降りてくる。

「うん、存分に本を読むといいよ」

「本の形をしているだけで開けなかったよ」

「そうだね。でも、ページの表面を文字の形に削っていけば本にはなりそうだね」

「そんなことまでできるの?」

俺がふと思いついたことを口にすると、シルヴィオ兄さんが食いついてくる。

「細かい作業だし、文字が多いから時間がかかると思うけどね」

「最初は絵本みたいなのでいいから作ってみてよ! 僕、土魔法で作った本を読んでみたい!」

「わかった。暇な時にやってみるよ」

スライム抱き枕に土魔法の絵本と道中の暇つぶしができたな。

こういう期限が決まっていなくて自分の気が向いた時にできる作業は好きだ。仕事と違ってスケジュールに怯える必要もないので、今の時間を憂うことなく過ごせるしね。

そんな事を思いながら、俺は土魔法で作ったソファーに寝転がる。

屋敷のように柔らかくないが、頭の下にスライムクッションがあるので大分楽だな。

「さて、そろそろ夕食の準備をしようか」

俺がそんな風にだらけていると、ノルド父さんがパンと手を叩いて言う。

「もうするの? アルが家を作ってくれたお陰で余裕もあるし、そこまで急がなくていいんじゃないの?」

「俺ももうちょっと休憩してからがいい」

エルナ母さんの言葉に同意するように俺も声を上げる。

どうせ暗くなっても無魔法のライトで灯りは確保できるし、光の魔導具もあるから平気だ。

水だって魔法があるから汲む必要もないし、火だって魔法で起こせる。

早めにやっておくべきものといえば、周囲の環境確認と魔物への警戒くらいだろう。

とはいえ、この面子に気配を悟らせずに近付いてくる魔物がいると思えないしな。

「それもそうだね。じゃあ、しばらくはゆっくりしていようか」

ノルド父さんは、しょうがないなというように笑うと、肩の力を抜いてエルナ母さんの隣の椅子に座った。

すると、エルナ母さんが嬉しそうに表情を緩ませる。

何だかんだノルド父さんもエルナ母さんが絡むと弱いよね。俺だけが言ったら一蹴されていた気がする。

「ミーナ、紅茶を淹れてくれるかしら? それと持ってきたクッキーも持ってきて」

「俺もー」

「あたしもー」

「僕も」

「わかりました! すぐにご用意いたしますね!」

全員が紅茶とクッキーを所望したので、ミーナが元気よく返事して紅茶セットを取りに馬車へと向かう。

「あはは、何だか全然旅をしている気にならないね。屋敷にいるような気分だよ」

「……何かごめんね? せっかく野宿を楽しみにしていたのに」

「いいよ。これはこれで貴重な体験だし楽しいから」

隣に座って苦笑いを溢すシルヴィオ兄さんを見て、俺は申し訳ない気持ちになった。