軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コマ遊び

「まあ、こんな感じで回してぶつけ合ったりするのが主な遊び方かな……よっと!」

俺はポケットから新たなコマを取り出して、同じように床に投げる。

すると初めに投げたコマに勢いよくぶつかって弾き飛ばした。

「おお、なるほど!」

「わかりやすいな!」

ぶつけ合うというバトル的な要素が感性に響いたのか、ルンバとトールが興奮したような声を上げる。

「後はこうやってコマを使った技を見せ合うことかな?」

俺は未だに床で回っているコマを手ですくうように拾い上げて、手の平の上で回す。

どじょうすくいなどと呼ばれる比較的簡単な技だ。

「おお! そんなこともできるのか!」

どうやらゲイツはこういった小技に興味があるようだ。

「ちなみに手の平に乗せても指は切れないから安心しなよトール?」

「うっせえ! 早くコマを寄越せよな!」

トールの反応を見て皆で笑いつつも、俺はコマをトール達に渡していく。

まずはきちんと紐を巻きつけることができるかどうか心配だったが、前世とは違って日常生活で紐やロープを使うことが多いせいか、トール達は一回の説明で紐を巻きつけることができた。

やはり日常生活で慣れていると違うんだな。

コマの紐を巻きつけることができたのなら後は簡単だ。

親指を上部に置いて、人差し指を側面に当てて胸の前で構える。

後は斜め下に投げて、素早く紐を引くだけだ。

俺の説明を聞いたトール達が早速とばかりにコマを構える。

「よし、行くぜ!」

「おう! 誰のコマが最後まで残るか勝負だな!」

「勝つのは俺さ!」

いつもよりもテンション高そうな三人を見ながら、俺は少し距離を取る。

コマの初心者三人がいっせいにコマを投げると言うのだ。何が起こるかわかったものではない。

「いっせーのでっ!」

トールの声を合図にして、三人が一斉にコマを投げつける。

そして次の瞬間、一斉にゴンッ! ガガガンッ! ガラララララという音が響いた。

それから何故か、後方にいた俺の顔の傍を一つのコマが通り過ぎる。そして後ろの食器棚にぶつかって、何かにぶつかる音と何かが割れる音が響いた。

まったくもってカオスだ。

「ああああああああああっ!? やべえええっ! 何か食器の類が割れた!」

後ろに飛んできたコマはトールのものだったのか、トールが振り返りながら悲壮な声を上げる。

食器も確かに大事だとは思うが、俺の顔の真横を通り過ぎたのだからもう少し気遣ってくれてもいいと思うんだが……。

そして同じく投げちゃ初心者のルンバとゲイツを見ると、

「おっ! 目測を誤って壁にぶつかっちまったぞ! ガハハ! もう一回投げ直すか!」

「……ふむ、思った通りの場所にいかないし綺麗に回らないな。もう一度試すか……」

どうやら二人共綺麗に回すことができなかったらしい。

ルンバは力を入れ過ぎたのか、思いっきりコマを壁に当ててしまっている。

トールの家の壁がくっきりと凹んでいた。

ゲイツはコマを綺麗に着地させることができなかったのか、カラカラと床を滑らせていた。

二人共見事な失敗の典型的な例を見せてくれたものだ。

「何が壊れたんだ? 俺の食器だといいけどよぉ……というか何で後ろにコマが飛んだんだよ!?」

楽しそうに紐を巻きなおしているルンバとゲイツを見ていると、立ち直ったトールが焦燥の声を上げながら食器棚へと近寄る。

「……多分、コマを投げる時に紐を引きすぎたんだよ」

ここまで真後ろに飛ぶような事態は見たことがないので断定はできない。けれど、そうとしか思えないな。

「んだよそれ!? 投げる時に引けばよく回るってアルが言ったんだろ!?」

「物には限度ってものがあるよ」

さすがに俺も後ろに飛ぶとは予想していなかった。

もっと下手くそなトールを気遣って、シールドでも張っておくんだった。

「ああああああああああっ!?」

「どうしたトール?」

俺がそんなことを考えていると、トールが再び奇声を上げる。

振り返るとそこには、可愛らしい青色のカップを手に持ったトールが。

トールの家にあるコップにしては場違いで、それなりの値段がしたであろうことが伺えるコップだ。

ミュラさんが紅茶を飲むのに奮発して買ったとか、そんなところだろうか?

「……これ、姉ちゃんのお気に入りのコップだ。昔、エリノラ様が王都でのお土産にくれたってやつ」

「……え? エマお姉様の?」

ミュラさんが奮発して買ったものじゃなくて良かった。

けれど事態は十分にマズい方向だ。

俺もエリノラ姉さんとダイニングルームでキャッチボールをして、エルナ母さんのコップを割って怒られたことがある。

女性って結構壊した物のことを根に持つんだよなぁ。

いや、でも優しいエマお姉様のことだから素直に謝れば許してくれるんじゃないだろうか?

「あっ! また壁に当たったぞ! 力加減が難しいな?」

「力み過ぎじゃないのか? もうちょっとこう肩の力を抜いてだな……」

カラララララララッ!

「……ゲイツは力を抜きすぎじゃねえのか?」

「……そうかもしれないな」

ショックで固まるトールをよそに、ルンバとゲイツは楽しそうにコマを回して一喜一憂している。

こっちはのほほんとしていて楽しそうだな。

「アル! 魔法でなんとかならねえのか? こう壊れたコップが直るような魔法!」

「身体の傷を治す魔法なら使えるけど、コップのような物を直すような魔法はないよ」

「そ、そんな……」

俺がきっぱりと答えてやると、トールが顔を青くする。

残念ながら万能な魔法でもできることとできないことがある。

本当は俺が知らないだけど、そのような魔法があるのかもしれないが、少なくても今の俺に壊れたコップを直す魔法は使えない。

というかそんな無機物を直す魔法があれば、エルナ母さんのコップやら、ナイトやらを自分で修復している。

素直に謝ることを提案しようとすると、トールがバッと顔を上げて言う。

「じゃ、じゃあ米はねえか!?」

「米?」

こいつは何を言っているのだろうか?

姉のコップを壊してしまったショックで、遂に頭がいかれてしまったのだろうか?

「アルってばこの間言ってただろ? 米には粘着力があるって!」

「……ああ、なるほど。言ってたけど今炊いたお米なんて持ってないよ? でも、セリアさんのところにお米を下ろしたところだから、駆け込めば数粒くらい分けてくれるんじゃないの?」

「おお、そうか! ちょっと行ってくるわ!」

俺の助言を聞いたトールは、希望に満ちた表情で家を飛び出していく。

素直に謝って怒られるという選択肢がないのがありありと見える。だけど、ここまでいくと清々しいな。

何とかして壊した証拠を隠蔽しようとするその努力には、共感できないこともないので俺は温かく見守ることにする。

「おーい! アルちょっと見てくれよ! コマが上手く回らねえぞ!?」

「ちょっと、俺の方も見てくれ」

さっきから壁に当て続けるルンバと、コマを転がし続けるゲイツが遂にアドバイスをもらいたいそうだ。

ルンバが投げている方向の壁を見ると、拳で殴りつけたのではないかと思えるほどの陥没の跡があったので、俺は急いで二人の下に向かう。

これはコップを壊した、壊してないに関わらずにトールが怒られそうだな。

今度美味い飯でも食べさせてあげるか。

そう思いながら俺はトールの家の壁にシールドをかけて、ルンバとゲイツにアドバイスをした。