軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奇術師もいいかも

ナイトが立ち上がることができたので、俺は早速サイキックをかけてみる。

すると、ナイトの短い足が一歩一歩とゆっくりと動き出す。

足に鉄板を仕込んでいるせいか、床を歩くとゴッゴッと音が鳴るが構いやしない。

俺はサイキックによって、手と足をバラバラでありながらバランスを取れるように動かしていく。

「ああ、右手と右足が同時に動いてる」

それはそれでロボットらしくて面白いのだが、ナイトがやるにはカッコ悪すぎる。

俺は腕と足が同時に動かないように意識しながら手足を動かす。

すると、今度はナイトの足が絡まって前のめりに倒れてしまった。

「うーん、魔法で歩かせるって難しいなー」

俺は倒れてしまったナイトを起こしながら思わずボヤく。

それから歩くことの理解を高めるために、自分で歩いてみる。

右足、左足、右足、左足……とりあえず自分の中できちんとリズムを把握しておこう。

そして次はバランスを取るために手を振って……。

うーん、何だか転生して歩くのに四苦八苦をしている頃を思い出す。あの時も思い通りに手足が動かなかったり、新しい身体になったせいかリズムがとりづらかったりしていたよな。

「……ねえ、アル? さっきから廊下を行ったり来たりしてどうかしたの?」

そうやって過去を振り返りながら、歩くことを改めて確認しているとシルヴィオ兄さんが声をかけてきた。

「……シルヴィオ兄さんが無言で俺の部屋に入ってくるなんて珍しいね。エリノラ姉さんみたい」

「いや、アル。ここは廊下だからね?」

シルヴィオ兄さんに言われて辺りを見回してみると、確かに俺達がいる場所は二階の廊下であった。

歩き方の研究をしているうちに、俺は広い廊下へと無意識に出ていたらしい。

「ちょっと歩くことを確認していてね」

「そ、そうなの?」

ヤバい。シルヴィオ兄さんの目が変人見るような目になっている。

ここはきちんと説明をしておかなければ、変な誤解を招く。

「そうだ。シルヴィオ兄さん、ちょっと協力してよ!」

「協力?」

首を傾げるシルヴィオ兄さんをよそに、俺は部屋に戻ってナイトを持ってくる。

「今この人形を歩かせようとしていてね。でも歩かせるのに苦戦しているから、イメージを掴むためにシルヴィオ兄さんに協力してほしいんだ!」

俺はシルヴィオ兄さんに協力してもらうために、自分が如何に崇高なことをしているか説明。

そして目の前で成果を見せるべく、サイキックでトコトコと歩かせる。

「うーん、やっぱりまだ不器用だ」

「……アルは奇術師にでもなりたいのかい?」

「えっ? 別になりたいわけではないよ?」

そんな人形を動かすだけで……いや、やりようによっては人形劇のようで見世物になるな。

人形にしかできない、かつ魔法だからこそできるコミカルな動き。そこにギミックを仕込みつつ、王都の劇のように風魔法で声を飛ばして命を吹き込めば……案外いけるかもしれない。

他にも空間魔法を使った物を消すマジック、脱出マジックもある。

転移で神出鬼没にあらゆる国に現れて奇術を披露して日銭を稼ぐ。

「なりたいわけでもないけど、奇術師の生活も悪くないね……」

「そ、そうかい? でも、アルなら得意の魔法を活かして魔法学園に通って、宮廷魔法使いを目指すことも――」

「絶対に嫌だ」

「……そっちは断固拒否なんだね」

田舎で暮らしたいのに都会の学校に行かされて、都会で働かされる。それは何という地獄だろうか?

「まだ俺は七歳だよ、将来のことを考えるには少し早いよ。それよりシルヴィオ兄さん、ちょっと目の前で歩いてみてくれる?」

「え? うん、それくらいならいいよ」

とりあえず幼いことを主張しての先延ばしだ。こう言えば、ノルド父さんもエルナ母さんも引き下がるのでとても便利な言葉だと思う。

俺の頼みを引き受けたシルヴィオ兄さんが廊下を歩く。

「……どう?」

てくてくと十メートルくらい歩いて通り過ぎたところで、シルヴィオ兄さんが振り返る。

早い。人間って結構早く手足を動かしているんだな。自然な速度だったけど、よくわからなかった。

「シルヴィオ兄さん、ゆっくり歩いてくれる? 俺がいいって言うまで」

「う、うん。わかったよ」

真摯に頼み込むと、シルヴィオ兄さんは引き受けてくれるので大好きだ。

エリノラ姉さんにこんなことをやらせたら、「何であたしがずっと歩かないといけないのよ!」とか怒るからな。

しばらくはゆっくりと歩くシルヴィオ兄さんを観察する。

手足の動きや、全体のバランス、頭の位置などを確認しながら。時に自分も並走して歩いて。

そして、シルヴィオ兄さんと言葉を交わしながらひとつひとつの事をナイトに試していく。

その度に何度もナイトは転び、時に前に進んでいく。

そして、気が付けば青色の空は茜色に染まり……。

「おいで! ナイト!」

シルヴィオ兄さんが腰を下ろして両腕を広げると、俺の操ったナイトがトコトコと小走りをする。

そして、シルヴィオ兄さんの前まで進むと、ナイトは最後にジャンプ。

すっぽりとシルヴィオ兄さんの胸の中に納まった。

「やったよアル! 今度こそ成功だよ!」

「俺のナイトが歩いて、小走りをしてジャンプして……それも一度も転けることなく……っ!」

ナイトの成長っぷりを見ていた俺達は感動のあまりに泣きそうになる。

自分の子供が初めて歩いた時の感動を得たかのようだ。

「抱いてみると、身体のところどころに硬さがあるね」

「……バランスを取りやすいように鉄板を仕込んだからね」

歩きやすさなどを追及するあまり、抱き心地レベルは下がってしまったのは仕方がない。抱き心地とかそういうのはスライムクッションの担当だからいいんだ。

シルヴィオ兄さんが床にナイトを置いたので、俺はサイキックでナイトを歩かせる。

俺達の喜びを分かち合うように、コミカルな動きでジャンプしたり、俺達の周りを回るように走り回る。見ていて凄く可愛い。

「あはは、喜んでいるね」

「こうやって動かしてみると、命が宿っているかのようだね」

そうやって可愛く動くナイトを眺めていると、階段の方からサーラが上って声をかけてくる。

「アルフリート様、夕食のお時間ですよー」

おっと、気がつけばもう夕食の時間か。

随分と長い間、ナイトを動かすのに夢中になっていた気がする。

シルヴィオ兄さんも夢中になって気が付かなかったのか、窓から見える茜色の空を見て笑っていた。

「それじゃあ、ご飯を食べに行こうか」

「うん」

俺はナイトを自分の部屋に置いてから一階のダイニングルームへと向かう。

それからシルヴィオ兄さんと一緒に階段を降りながら、

「あっ、シルヴィオ兄さん。俺がナイトを動かしていたことは皆に秘密にしてね。今度タイミングを計って驚かせたいから」

「わかったよ」

俺が無邪気さを装って言うと、真に受けたシルヴィオ兄さんがクスクスと笑いながら頷く。

まあ、実際は今日の夜の見回りであるミーナを驚かせたいからだけどね。日が暮れるのが楽しみだ。