軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シルヴィオの防御力

暑い日差しが照り付ける中、俺とシルヴィオ兄さんは中庭で並んで木剣を振るう。

ノルド父さんから教えてもらい、習った振り方や型を延々となぞるように。

素振りの大切さはわかるが、これだけコンパクトにできる稽古なのだ。

ここよりも涼しい屋敷の玄関で行ってはダメなのだろうか。あそこなら十分に広いし、木剣を振るう余裕もある。熱中症になる危険性も低いし、暑苦しい中庭でやるよりもよっぽどいいのではないだろうか?

「アル、振りが乱れているよ。もっと脇を締めて振り抜くんだ」

「はい」

邪念が出てしまったからだろうか。振りが乱れてしまった。

俺は一先ずそんな思考を追いやって、言われた通りに脇を締めて振るう。

そうやって何回か振ると振りが安定してきた気がした。

しかし、何故だろう。以前に比べるとどうもキレが悪い気がする。

これも長い間稽古をサボっていた弊害なのだろうか。

そんな事を考えていると、隣からはキレのいい素振りの音が聞こえる。

チラリと隣に視線をやると、シルヴィオ兄さんが木剣を振るっていた。

それは俺と同じ型であるというのに、随分とキレも違う。

シルヴィオ兄さんの方が振りも自然で無駄が少ない。

まるでスッと空気を切り裂いているようだ。

やっぱりシルヴィオ兄さんは剣の方も上手くなっているんだな。ちょっと見ない間に立派になっちゃって。

弟として兄の成長は純粋に嬉しいものだが、剣が不得意同盟の盟友としては少し悲しい気分だね。

シルヴィオ兄さんの剣のレベルが上がると、稽古のレベルが上がってしまうじゃないか。

俺はシルヴィオ兄さんとまったり剣を打ち合っているだけでいいんだけどなぁ。

そんな事を考えながら剣を振っていると、再びノルド父さんの手が鳴らされる。

「よし、素振りは終わり。次は二人で打ち合いをしてみようか」

どうやら次はシルヴィオ兄さんと一対一らしい。

剣の技量と体力を見る限り余り勝てる気はしないのだが……。

それでもやれる事をやるだけだな。今回はシルヴィオ兄さんに大きく胸を借りるつもりで挑もう。

俺とシルヴィオ兄さんはいつものように距離を置いて向かい合う。

いつもは柔らかい表情をしているシルヴィオ兄さんだが稽古の時は違う。

眉や口を引き締めており、いつもよりも表情が凛々しい。

「アル、準備は大丈夫かい?」

「うん、大丈夫だよ」

一方で俺は表情が締まらないらしく、いつもこのような問いかけをされてしまう。

俺としてはキリっとしているつもりなのだが、どうにもボーっとしたような表情に見えるらしい。

最初の内はエリノラ姉さんも俺の表情を見て「やる気あるの?」と問いかけて怒っていたくらいだ。

今では慣れて気にしてないみたいだが、シルヴィオ兄さんは優しいからかいつも気遣って言葉をくれるのだ。

その優しさが嬉しいようで悲しくもある。

「それじゃ、始め!」

ノルド父さんが手を叩いて合図を鳴らす。

「「…………」」

しかし、俺とシルヴィオ兄さんは睨み合ったまま動かない。

当然だ。シルヴィオ兄さんは防御からのカウンターが得意なのだ。

シルヴィオ兄さんからすれば、俺が踏み込んできた瞬間が絶好のチャンスだろう。

わざわざ相手の得意な領域にこちらから飛び込んでもロクな事にはならないからな。俺は無暗に突撃したりしない。

しかし、それは向こうも同じ事。シルヴィオ兄さんは自分から仕掛けるのが不得意だ。焦らずに守りに入った方が自分の強さを十分に引き出せる。

そんなお互いの考えがあってか、俺とシルヴィオ兄さんは睨み合うのみ。

そんな様子を見て、ノルド父さんが呆れのため息を漏らす。

それを居心地悪く思ったのか、ついにはシルヴィオ兄さん自らが仕掛けてきた。

バカめ。自分の優位を放り投げるとは。

ニシシと笑いながら、俺はシルヴィオ兄さんの振り下ろしを一歩下がって躱す。

それから俺は空振ったシルヴィオ兄さん目がけて、水平斬りを繰り出す。

しかし、それはシルヴィオ兄さんにすんなりと防がれた。

シルヴィオ兄さんが振り下ろした木剣を即座に引き戻したためである。

相変わらず防御の動作が早い兄である。

心の中で舌打ちをしながら、俺は踏み込んで正面の振り下ろし、薙ぎ払い、斜めからの斬り下ろしと次々と仕掛けていく。

しかし、シルヴィオ兄さんはその一つ一つを丁寧に打ち払っていく。その防御技術は非常に洗練されていて無駄がない。その正確性は機械のようであり、どこにも隙がない。

俺は状況を打開しようと緩急をつけて攻めていく。だが、俺の振り下ろした木剣の腹がシルヴィオ兄さんに横から叩かれた。

勢いよく剣を叩かれた衝撃で俺の身体が外に流れていく。

これはヤバい。エリックとトングバトルをした時もこんな感じで勝負がついたはずだ。

このままいくとモロに木剣の振り下ろしを食らってしまうので、俺は身体にある衝撃に逆らわず、そのままエネルギーを利用する形で大きく後ろに倒れ込む。

「えっ?」

そして身体の崩しとエネルギーを利用して、驚くシルヴィオ兄さんに回転斬りを放つ。

シルヴィオ兄さんの脇腹に一撃が入ったかと思えたが、手には硬いものを打ち付けた衝撃が伝わってくる。

よく見れば脇腹ギリギリのところでシルヴィオ兄さんが木剣を立ててガードしていた。

シルヴィオ兄さんの体勢が悪いので、俺はそのまま体重を乗せて押し切ろうと試みる。

しかし、シルヴィオ兄さんはすぐに引き下がって体勢を整えた。

「ちょっとズルくない? どこに打ち込んでも攻撃が通る気がしないんだけど」

最初はともかく、最後の一撃まで防ぐっておかしいよ。あの攻撃は絶対に通ったと思ったのに……。シルヴィオ兄さんってば、腕がもう一本あるんじゃないだろうか?

「アルこそ、最後の攻撃で倒せたと思ったけど避けて変則的なカウンターまでしてきて。一体そんな動きをどこで覚えたんだい?」

「いや、あれは覚えたというよりも、同じようなパターンで倒したことがあったから。咄嗟に体を捻ってみただけだよ」

エリックみたいにはなりたくない。そういう思いが俺の身体を突き動かしただけだ。決して覚えたとかそんなものではない。

マズいな。今のパターンの避け方も次は通用しないだろう。

シルヴィオ兄さんの方が体力も多いし、このままだとジリ貧になる未来しか見えないや。

一先ずはここで体力の回復を図って考えよう。

そう考えたところでシルヴィオ兄さんが再び剣を構えて突撃してきた。

「シルヴィオ兄さんが攻めてくるなんて!?」

「僕だって攻撃の練習もしているんだからね!」

それもそうか。自分の弱点がわかっていてそれを放置している兄じゃないからな。

それにここで攻撃の手を緩めれば俺の体力は回復してしまう。体力が多いシルヴィオ兄さんからすれば、それは勿体ないことだろう。

シルヴィオ兄さんが、こちらへと近付いてきて突きを放ってくる。

くっ、いきなり避けにくい突きを放ってくるなんていやらしい――と、思ったが、シルヴィオ兄さんの突きは非常に単調で遅いな。

エリノラ姉さんの殺人的な突きをいつも食らっているせいだろうか。生ぬるく感じてしまう。

エリノラ姉さんの突きは一つ一つが致命傷な上に鋭く速い。

その上に避けても包囲するようにやってくるのだ。あの嵐のような突きに比べれば、シルヴィオ兄さんの突きはそよ風のようだ。

シルヴィオ兄さんの繰り出す単調な突きをステップで避け、逆にこちらが踏み込んでがら空きの胴へと突きを放つ。

カンッと乾いた木剣の音が鳴り響く。

……まただ、またシルヴィオ兄さんに攻撃を防がれた。

「突きを放った後なのに剣を戻すのが速すぎるよ。その速さで突きができればいいのに……」

「……わかってるんだけどね」

さすがに本人も自覚しているのか、シルヴィオ兄さんはガックリと項垂れた。

結局その後は持久力勝負になり、俺はシルヴィオ兄さんの防御を崩すことができずに負けてしまった。

だってどれだけ打ち込んでも攻撃が通らないんだもん。勝てるわけがないよ。俺の体力が先に尽きて、負けるのは当然の流れだ。

中庭にて座り込む俺に、シルヴィオ兄さんが声をかけてくる。

「アル、体力が減ったね。やっぱり体重が増えたからかな?」

「やめて! その言葉は聞きたくない!」

突きを指摘したせいだろうか。シルヴィオ兄さんの言葉がいつもよりも嫌味っぽい。

俺が頭を抱えるように耳を塞ぐと、満足したのかシルヴィオ兄さんはコロコロと笑う。

「にしても、シルヴィオ兄さんは剣がすごく上達したね」

「ありがとう」

「特に防御がね」

俺が付け加えるように言うと、シルヴィオ兄さんがガックリと項垂れる。

いやだって、シルヴィオ兄さんの防御力が凄いんだもの。剣の扱い自体も上手くなっていたけど、それは防御と比べれば微々たるものだ。

「盾を持ったらエリノラ姉さんの攻撃でも防げるんじゃないの?」

盾無しの状態でこれなのだ。もう片方の手に盾が加わればどうなるか。

ひょっとしたらエリノラ姉さんを相手にできるのかもしれない。

そうすればシルヴィオ兄さんは、対エリノラ姉さん専用の盾になることができる。

普段の稽古もより多くシルヴィオ兄さんが相手することになるだろう。

「残念ながら僕を盾にしようとしても無理だよ。前までは姉さんの攻撃も少しだけ防げたんだけどね……」

「……今は無理なの?」

俺が問いかけると、シルヴィオ兄さんは陰りのある表情で、

「姉さんは王都で騎士団の演習に混ざっているんだよ? もっと強くなっているに決まっているよ」

……おお、まったくもってそうだった。

そうか、エリノラ姉さんは修行パートを終えて帰ってくるのか。きっと以前よりもさらに理不尽な強さを手に入れて帰ってくるんだろうな。

俺とシルヴィオ兄さんはどこか遠い表情で澄み渡る青い空を見上げた。