軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

堕ちたシルヴィオ

トールとアスモと別れた俺は、一本道を歩いて屋敷へと戻ってきた。

トールとアスモにスライム枕を抱かせてやる予定であったが、今日は予想以上に時間がかかり、日が暮れかかってしまっていたために延期だ。

本人達はやはり今日抱きたいようであったが、後日理由をつけて連れ出せる理由が増えると説いてやると喜んで帰っていった。

俺が玄関へと入ると、ちょうど廊下にいたサーラとミーナが出迎えてくれる。

「「お帰りなさいませアルフリート様」」

「ただいま」

二人とも同じ言葉であるが、それぞれの性格を表すかのような声音だ。

それに何よりこうして家に帰ってくるなり、出迎えの言葉をかけてくれる事が嬉しいな。

自分がここにいていいんだと安心できるからな。

最後まで帰ることを嫌がっていたトールとアスモも、何だかんだとそんな実感を得ているのではないだろうか? 俺はそうであったらいいなと思いながら、スライムの入った革袋を置いて、外靴からスリッパへと履き替える。

「あれ? 柔らかい? アルフリート様、この革袋の中には何が入っているんですか?」

ミーナが俺の荷物を持ちながら、素朴な疑問を投げかける。

「スライムが入っているよー」

「ああ! スライムですね! 私も小さい頃は家に持って帰ったりしていましたよー。その度にお母さんに捨ててきなさいって言われましたけどね」

「私もありました」

「一度は持ち帰りますよね」

ミーナとサーラがどこか懐かしむように会話をする。

捨て猫や捨て犬を持ち帰って母親に怒られる的なエピソードだな。

まあ、無害で見た目も何となく可愛いスライムであれば、そんな扱いになるのだろう。

スライムを持ち帰ることは嫌がられると思ったのだが、あまりそのような感じはなさそうだ。

動物や魔物が日々の生活の中で身近である、村人出身であったからだろうか。

「アルフリート様はスライムを飼いたくなったのですか?」

「もしかして、スライムを美味しく食べる方法を見つけたとか!?」

俺がそんな事を考えていると、サーラとミーナが尋ねてくる。

ミーナの言葉は半ば願望であると思うが、スライムって食べられるのだろうか?

「ええ? スライムって食べられるの?」

「私は食べた事がありませんが、違う村では食べる事もあると聞きました」

サーラの言葉を聞いた俺は驚く。

マジか。スライムを食べる事もあるんだ。

「私も食べたことはないですけど、プニプニしていて美味しそうですよね。甘いシロップをかけて食べると、アルフリート様が言っていたカグラの団子のようになりそうです!」

「それはミーナが食べたいだけでしょう」

「えへへ」

……寒天みたいなものだろうか? どうしよう、ミーナの言葉を聞いて想像してみたらとても美味しそうに思えてきた。

スライムは熱と冷気によって硬度が変わる。俺が魔法で調節してやれば、硬くもなるし、柔らかくもなる。自分好みの食感にできるというわけだ。そうやって調節するとゼリーのような食感が得られそうだな。

問題は味と清潔さだ。

清潔さはよくわからないが、魔物でもウーシーやオークといった食べられるやつもたくさんいる。それに比べればスライムは綺麗のように思えるが、どうなのだろう?

でも、実際に食べている村もあるみたいだし、人体に害はなさそうだ。

雑食だから何を食べているかわからないが、そこは魚のように泥抜きや餌抜きしてやれば何とかなるのではないだろうか?

または敢えて果物などを与え続ければ、そのような味になるとかあるかもしれない。畜産で肉を柔らかくしたり、臭みを除くためにそんな方法があるしな。

スライムは物を消化して吸収する魔物だ。同じ食べ物を食べ続ければ、そのような味になるという事は十分にあり得る。

つまりブドウを与え続けた上でスライムを調理すれば、ブドウゼリーのような料理になるのでは!?

「アルフリート様? アルフリート様!」

「はっ! ええと、何かな?」

ミーナに肩を揺さぶられて、俺はハッと我に返る。

「大丈夫ですか? 外出してお疲れになりましたか? 目が死んでいましたよ?」

「……まるで、徐々に命がなくなっていくかのような瞳の死に具合でした」

ちょっと考え込んでいただけだと言うのに凄い言われようだ。

だけど、ミーナとサーラの様子を見るにからかっている様子はない。本当に心配しているようだ。

「大丈夫だよ。ちょっとスライムが食べられるか考え込んでいただけだよ」

「そうですか?」

「大丈夫だから夕食の準備に戻って。俺はスライムを枕にする作業をするから」

「「枕に?」」

首を傾げるサーラとミーナをよそに、俺はサイキックで革袋を持ち上げて二階へと向かった。

スライムを水耐性の強い魔物の革に詰め込んた俺は、早速シルヴィオ兄さんに試してもらべくリビングへと向かう。

「シルヴィオ兄さん! スライムクッションができたよ!」

「お帰りアル」

俺がスライム枕、もちいスライムクッションとなったものを持ちながらリビングに入ると、ソファーで本を読んでいたシルヴィオ兄さんがにこやかに言葉をかけてくれる。

「それがスライムクッションかい?」

「うん、そうだよ! 早速使ってみて!」

「……中からスライムが出てきたりしないかい?」

俺がスライムクッションを渡すと、手に持ったシルヴィオ兄さんが不安そうに聞いてくる。

疲れにくくなると聞いて試すことを承諾したはいいが、実際にスライムの柔らかい感触が手に伝わってきて怖くなったのだろう。

「餌を食べさせているし紐で縛ってあるから大丈夫だよ。どっちにしろ出てきても俺達で倒せるし」

「そうだよね。スライムは小さな子供でも倒せるし大丈夫だよね」

シルヴィオ兄さんは自分に言い聞かせるように呟くと、スライムクッションをソファーの上に置く。

それからじーっと眺めた後、ゆっくりとお尻をその上に乗せた。

「……あっ」

シルヴィオ兄さんの口から自然に漏れる声。

「どう?」

「……アル、凄く座り心地がいいよ」

俺が尋ねると、シルヴィオ兄さんは柔らかな表情で答えた。

「でしょ?」

「うん! これならずっと座っていてもお尻が痛くなることはなさそうだよ」

シルヴィオ兄さんはスライムクッションの感触を楽しむように、座り直したりする。

どうやらシルヴィオ兄さんもスライムをクッションにする良さをわかってくれたらしい。先程の強張っていた表情とは大違いだな。

「スライムの硬さはちょうどいい? 氷魔法で冷やせばもう少し硬くできるし火魔法で温めればもう少し柔らかくできるよ」

「うーん、今はこのくらいでいいかな? 少し使ってみてから判断するよ」

「わかった」

シルヴィオ兄さんは、スライムクッションを初めて使うからな。まずは使用して自分の好みを把握するところから始めるといいだろう。

「じゃあ、俺も自分のクッションを使おうかな」

今日は一日外を出歩いて疲れた。俺もスライムクッションを使ってゴロゴロしたい。

俺はもう一つのスライムクッションをソファーの上に置いて、ゆっくりとその上に座った。

俺の体重を弾力のあるスライムが柔らかく受け止めてくれる。

自分のお尻の形にスライムが変形してくれるお陰か、妙にお尻がフィットするのがいいところだ。

俺はそのままスライムの感触を楽しむようにだらりと座る。

それから寝転びたくなったので、寝転んで頭の下に敷くことで枕として使用する事にした。

いつもの羽毛枕もフカフカでいいが、弾力のあるスライム枕も最高だな。

……何だろう。巨大なコンニャクの上で寝転んでいるかのようだ。

次は枕を冷やしちゃおうかな。外から帰ってきたばかりなので涼が欲しい。

俺はスライム枕を氷魔法の冷気でじっくりと冷やす。

すると中にいるスライムが冷えて硬くなっていく。自分の手で硬度を確認し、満足のいくところでストップ。

俺は改めてスライム枕に顔を埋めた。

するとヒンヤリとした感触が頬を伝っていく。

それは真夏の暑さを吹き飛ばすようで、火照った身体にとても気持ちが良かった。

「はぁ……ヒンヤリしていて気持ちいい」

表情を弛緩させながら思わず呟く。

すると、近くにいるシルヴィオ兄さんも気になったのか、

「……冷やすとそんなに気持ちいいのかい?」

「シルヴィオ兄さんもやってみる?」

「うん、お願いするよ」

シルヴィオ兄さんに差し出されたスライムクッションを氷魔法で同じように冷やす。

「わっ、凄い! 本当に硬くなった!」

冷やされていくスライムクッションを突いたシルヴィオ兄さんが、驚きの声を上げる。

その反応がどこか可愛らしくて、俺はクスリと笑ってしまう。

「これくらいの冷たさと硬さでいい?」

「うん、十分だよ!」

どこか興奮したような声を上げるシルヴィオ兄さんに、スライムクッションを渡す。

すると、シルヴィオ兄さんは早速頭の下に敷いて寝転び出した。

「はぁ……冷たくて気持ちいいね」

「スライムを枕にするのも悪くないでしょ?」

恍惚の表情を浮かべているシルヴィオ兄さんに俺は笑みを浮かべて言う。

「うん、これなら眠る時も使いたくなるよ」

シルヴィオ兄さんはゆっくりと目を瞑り、やがて寝息を漏らすようになった。

どうやらシルヴィオ兄さんはスライムクッションの魅力に堕ちたようだ。

今朝は、魔物であるスライムを頭の下に敷いて眠るなどあり得ないと言っていたというのにぐっすりだ。

スライムクッションをここまで気に入ってくれると、俺も今日一日頑張った甲斐があったな。

「ふわぁ……」

一息ついて、眠っているシルヴィオ兄さんを見ていると猛烈に眠気が襲いかかってきた。

今日一日動き回った疲れがやってきたらしい。

休眠を欲する身体の本能に従った俺は、ソファーに寝転んでスライムクッションを頭に敷く。

それからゆっくりと俺の意識は沈んでいった。