軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

労働からの解放

エリノラ姉さんとキッカで遭遇しそうになった俺は、スライム探しをキッカ周辺からコリアット村へと切り替えた。

あの辺りにいるといつエリノラ姉さんがすっ飛んでくるかわからないからな。コリアット村でもスライムを見かけた事はあるし、適当に歩いて探せばいいだろう。

そう考えて、俺はコリアット村へと転移で戻ってくる。

これでエリノラ姉さんと遭遇することはないだろう。

いや、でもキッカにいるという事は後三日ほどでここに帰ってくるという訳か。

という事は俺が自由な時間を謳歌できるのも、後三日という事だ。そう考えると三日という時間は余りにも短く感じてしまう。

スライム枕やクッションだけでなく、マイホームの増築や料理作り、魔導具いじりや、食材の買い漁り、一日中昼寝とやりたい事はたくさんあるというのに……。

「おい、どうしたんだよアル。浮かねえ顔をして」

そんな事を思いながら村を歩いていると、村の木陰で涼んでいるトールが声をかけてきた。

隣にはアスモもいるが、暑さで参っているのかこちらに視線すら寄越さない。

太陽の熱で火照った身体を冷ますのに必死らしい。ぐったりと寝そべっている。

「……もうちょっとでエリノラ姉さんが帰ってくるかもしれないんだ」

「おおっ! エリノラ様がもう少しで帰ってくんのか!? 手紙とかそういうのが来たのか?」

俺が浮かない顔をしている理由を告げると、座っていたトールが勢いよく立ち上がった。

「ずぼらなエリノラ姉さんが手紙なんて書くわけないよ」

エルナ母さんとノルド父さんは帰る日にちが決まったら、手紙を出すようにって言っていたらしいけど、エリノラ姉さんは見事に忘れているらしい。

そんな愚痴をエルナ母さんが溢していた。

「じゃあ、何で帰ってくるとかわかったんだ?」

携帯なんて便利な物はない世界だ。手紙も来ていないのにどうやって、そんな情報を知ったのか。トールが疑問に思うのは当然だ。

しまった、どうしよう。空間魔法で転移してキッカに行ったら、エリノラ姉さんを見たとか言えないや。

「……わからないけど、そろそろかなーって」

「んだよそれは? 適当に言うなよ。期待するだろうが」

俺の答えに呆れたトールが、不貞腐れたような声音で言う。

「でも、時期的にそろそろ帰ってくるのは事実なんだ。自由な時間が減ってしまうのかと思うと浮かない顔になっちゃうよ」

「へっ、そんな事に怯えても仕方がねえだろ? 先が暗かろうと明るかろうと俺達が今を生きる時間に変わりねえよ」

「……そうか、それもそうだね。悲観的になって大切な今の時間を無駄にしたら勿体ないよな! さすがはトール! いつも無駄にやらかしているだけの事はあるね」

「最後の言葉は余計だ。とにかく、いつものように楽しく遊ぼうぜ!」

いつもやらかしては、エマお姉様やミュラさんに怒られているだけの事はあるな。考え方がポジティブだ。バカなトールだけど、こういう前向きな部分は見習った方がいいのかもしれないな。

「で、無駄にいい事を言う本音は?」

「貴族のアルがいると母ちゃんも強く怒れねえんだよ。というかアルを気遣って、面倒な仕事を免除してくれる可能性があるんだ」

畑の方を指し示しながら、さらりとクズい発言をするトール。

トールが指し示す方角には、ジトッとした視線を向けてくるミュラさんがいた。そして、俺の視線に気付くと、ミュラさんはにっこりと笑みを浮かべて会釈してくる。

「ほらな? いつもは長い間喋ってたら怒るのによ」

俺も軽く会釈をすると、トールが嬉しそうに笑いながら言ってくる。

クズなのだが、こうも開き直って言われると咎める気にもならないな。むしろ清々しさすら感じられる。

「ところで、今日は何をしにきたんだ?」

「おいおい、俺が用もなく外を出歩いちゃいけないのかな?」

「こんな暑い中、アルが用もなく外を出歩くはずがない」

俺がトールに言い返すと、ようやく冷却が終わったのか寝転んだままのアスモが言った。

まったくもってその通りだ。こんな暑い季節に用もなく出歩くような性格はしていないからな。俺の事をよくわかっている友人である。

「今日はスライムを探しているんだ」

「スライムだぁ? そんなの探して何になるんだよ。あんなの狩ったところで食えるわけでもねえし、金にもならねえぞ?」

「……精々突いて遊ぶだけ」

俺が今日の崇高なる目的を話すと、トールとアスモが口々に呆れの声を上げる。

まあ、普通の人からすればそんな感想だろうな。

だが、スライムの正しい価値を知っている俺は違う。

「ふふふ、二人共スライムの素晴らしさをわかってないようだね」

「何に使うってんだよ?」

俺が少し勿体ぶるとトールがちょっとイラつきながらも反応してくれる。

「スライムを枕カバーに詰めて枕やクッションにするのさ!」

「……アルの頭がおかしいのはいつも通りだけど、結果的に凄い物になるのは知ってる。だからちゃんと話を聞くけど、それは良い物なのか?」

さすがは友であるトール。俺の事をわかっているから話が早い。

だけど、頭がおかしいというのは不要だと思うんだ。

「二人共スライムを触った事はある?」

「あるぜ。プニプニしてるけど、ちょっとヌルヌルした液体がついてるよな」

「感触は知ってるけど魔物だし、好んで触りたいとは思わないね」

ふむ、触ったことがあるなら説明も簡単だ。

「二人は知らないかもだけど、スライムは氷魔法で冷やすと弾力を保ったまま硬くなるんだ!」

「「……それで?」」

俺がわかりやすく説明したというのに、トールとアスモが怪訝な表情をする。

バカな。どうしてこれだけの判断材料が揃っていながら察する事ができないのだ。

「いやいや、スライムがあの弾力を兼ね備えたまま硬くなるんだよ? どうして枕にしたら心地良い物になると想像できないかな?」

「いやいや、冷やしたらあの感触のまま硬くなるとわかっても、そうしようとは普通思わねえよ!」

「アルの発想は突飛すぎるよ」

そうだろうか? あれだけプニプニとした感触なのだ。枕にしたら気持ちよさそうとか最初に考えないものだろうか? さっきもスライムを枕にするって言葉にしていたのに。

「つまり、あれか? アルはヒンヤリとしつつ、適度な弾力を持つスライム枕を完成させるためにスライムを探しているのか?」

「そうだよ。今の季節、夜になっても暑さのせいか寝苦しいだろうからね。そんな時に冷やしたスライム枕を抱いて眠れば心地良く眠れるから」

「……そう言われるとヒンヤリとしたスライム枕は気持ちよさそう」

俺の説明を聞いたアスモが、想像したのか柔らかな表情を浮かべる。

夜は日差しがマシにはなるが、暑くないというわけではない。

クーラーや扇風機がないと寝苦しい事は確実。朝起きたら汗がびっしょりという事も多いだろう。

「じゃあ、俺達でスライム探すか! スライムがいそうな場所なら心当たりがあるぜ!」

「俺も心当たりがある」

トールがそう言い、アスモもやる気に満ちたのか立ち上がりながら言う。

「おっ、本当? 今日はスライムを探して歩き回っていたから、案内してくれると助かるよ」

「その代わり、俺達にもヒンヤリとしたスライムを抱かせろよな!」

「キンキンに冷やして、夜には抱いて寝るから」

シルヴィオ兄さんは、睡眠時に魔物であるスライムを頭の下に敷いて寝たり、抱いたりするのは嫌がっている様子だがトールとアスモはまったく忌避感がないようだ。

「二人は寝る時にスライムを抱くのは平気なの?」

「はっ、あんな小さな子供でも勝てるような魔物に何を怯えてんだよ。何かされても腕を突っ込んで核を握り潰せば終わりだろうが」

「スライムに人を傷つけるような力はないし、枕に詰めるんだから出てこられないでしょ」

試しに意見として聞いてみると、トールとアスモに鼻で笑われた。

普段から魔物や動物と触れ合って、危険性も理解している二人は平気なようだ。

まあ、シルヴィオ兄さんはあまり外に出ないから、身近に魔物がいることはなかっただろう。仕方のない価値観の差なのかもね。

「だよねー」

「んじゃあ、アル! スライム探しに行くためにちょっと協力してくれ!」

「いいけど、何するの?」

「簡単だぜ。アルはじーっと母ちゃんの方に視線をやっていればいいんだ。それだけでいいから」

簡単だから。ただそれをするだけでいいという単語ほど怪しいものはないと思うのだが。

俺はトールに背中を押されて、畑仕事をしているミュラさんの方を向く。

すると、トールが後ろで大きく息を吸って叫ぶ。

「母ちゃん! アルがスライムを探してるから、ちょっと案内して一緒に捕まえてくるぜ!」

うわー、こいつわざわざ大声を張り上げて遠くから言いやがった。

近付いて一対一で話したら却下される事を危惧してのことだろう。

しかも、貴族である俺が見ている中でだ。

俺のためと思わせるトールの言葉を否定することは、俺の行動すらも否定するという風に捉えかねない。

ミュラさんは、俺の前で否定はできないだろうなぁ。

「え、ええ、アルフリート様のためにスライムを探してくるのね。わかったわ。でも、森の深くには入っちゃダメだからね。暗くなる前に戻るのよ」

トールの言葉に反応したミュラさんは険しい顔を一瞬したものの、にこやかな表情で許してくれた。

「わかった! アスモも行くから、アスモの母ちゃんにもそう伝えておいてくれ!」

「……わかったわ」

トールはそう一方的に告げると逃げるように走り出す。

俺とアスモも遅れてそれについていく。

最後、ミュラさんの眉がピクピクと動いていたな。

この暑い中、一人残され、トールの仕事分を追加されたミュラさんの気持ちを察すれば無理もない。

「へへへ、やっぱりアルがいると母ちゃんもチョロいな」

「そうだね。もう、アルには毎日遊びに来てもらいたいくらいだ」

真夏の労働から解放されたお陰か、トールとアスモが晴れやかな表情で笑いながら言う。

労働から解放される喜びは知っているので否定はできないが、あんまりやり過ぎるとシバかれるよ。