軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お洒落な店でたまにあること

「なるほど、あなたは貴族様であられましたのですね」

「オヤジが言うと気持ち悪いからやめてよ。さっきの通りでいいから」

「……わかった」

俺がそう言うと、オヤジは肩の力を抜いて元通りの口調になる。

明らかにオヤジはそういうかしこまった口調が苦手そうだしな。実際に俺もやられるのは苦手なタイプだけど。

「だから、俺はここで屋台も出さないし、無暗に人には広めないから今後の売り上げに影響もないよ」

俺がそう言うと、オヤジは考えるように腕を組んで唸る。

「……実際いくら出せるんだ?」

「銀貨二十枚でどう?」

これくらいの金額であれば、四人家族で三ヵ月は暮らせる。

香草の情報であれば、それくらいが妥当ではないだろうかと思う。

しかし、オヤジさんは難しい表情をしている。

最初は低めにしておいて、相手がごねるようなら徐々に引き上げればいいと思っていたが、さすがに安すぎたか?

「……今、嫁が妊娠していて赤ん坊のためにいい物を食べさせてやりたいんだ。もう少し出せないか?」

オヤジがさらに理由を捏ねて交渉してくるかと思ったが、オヤジの言葉はそれはもう真っ当なものであった。だから、情報を売ってでも今お金が欲しかったのか。

大切な嫁さんと、これから生まれるであろう赤ん坊のためにいい飯を食べさせてあげたい。

……何だろう。ここ最近の交渉事と違って酷く真面目だな。

それに比べて最近の俺はどうだというのか。

トールと結託してシーラさんに悪口をチクらせないように懐柔したり、シルヴィオ兄さんをスライムクッションの魅力に落とそうとしたりとしていたり……。

精神年齢を考えて同年齢か少し上くらいのオヤジの方が真っすぐに生きている気がする。

このオヤジの真剣な表情と言葉が嘘であり、俺の情に訴えかけるための交渉術だとしたら本当に大したものだ。というかそんな思考をするのがもうダメなのかもしれない。

「……じゃあ、二倍の銀貨四十枚でどう?」

「助かる! じゃあ、早速教えてやるよ! この香草はだな――」

「待って。まだ俺はお金を払ってないよ。きちんと払ってから言わないと悪い人だったらここで逃げちゃうよ?」

「……お、おお。そうか」

大事な嫁さんへの気持ちが溢れて早まってしまったのだろう。そんな姿すらも微笑ましいな。

俺はオヤジを宥めてから、懐から革袋を取り出す。

「あっ、さすがに銀貨四十枚も持ち歩いてなくて、金貨とかになるんだけどお釣りとかある?」

「……さすがに屋台だから銀貨六十枚も持ってねえな」

ですよね。屋台で金貨とか出す方がおかしいんだから。

前回財布を使ったのがカグラだったせいか、大きなお金とカグラのお金ばかりが入っている。これは両替しないとダメだろうな。

空間魔法による亜空間ならば、銀貨をたくさん収納しているが今すぐにそれを使うわけにもいかない。

「ちょっと、両替して持ってくるから待っててねー」

「おう、わかった!」

オヤジにそう告げて、俺は離れていく。

それから適当な路地を曲がって、建物の影に入るとこっそりと空間魔法を発動。

亜空間から木箱を取り出して、亜空間から取り出した銀貨四十枚をそこに入れていく。

よし、これで完璧だな。きっちりと四十枚入っている。

木箱を持った俺はゆっくりと歩きながら、オヤジの屋台の方へと向かう。

「おお? もう両替してきたのか? 両替屋まで結構な距離があるはずだが」

「近くに使用人がいてね。こういう時のためにお金をたくさん持っているんだ」

「なるほど、さすがは貴族様だな!」

真っ赤な嘘ではあるが、お金さえ持ってこれば特に気にする事でもない。

「はい、この木箱に銀貨四十枚入ってるよ」

「おお! 待ってろ。今ちょっと数えるからよ」

木箱を渡すと、オヤジは蓋を開けて丁寧に銀貨の枚数を数える。

「おお、ぴったしだな! というかお前さんこそ、一気にお金を渡してもいのか? こういうのは俺の情報が正しかったか確認してから後にも金を払うもんじゃねえのか?」

「オヤジの人となりは信用しているしね。そんな悪い事をする人は注意なんてしてこないよ」

「まあ、そうかもしれねえな」

そんな風に言われて照れくさくなったのか、オヤジが頭をかく。

悪い事を考える奴は、そういう自分の不利益になることは基本的に喋らないしね。

本当に悪い奴は、それすらも完全に隠し通してみせるから質が悪いんだけど。

「それにもし、間違っていた上に逃げたら貴族としての力を使って追いかけるし」

こっちには権力があるし、転移魔法だってあるからね。

もし、俺を騙して逃げるようならばどこまでも追いかけるまでだ。

「お、おお、そういうところは貴族っぽいな……」

何だろう、その言葉はちっとも誉め言葉になっていないような気がする。

オヤジから香草の情報、在り処を教えてもらった俺は、後日自分で香草を探しに行くことにした。

オヤジは丁寧にも屋台を畳んで案内してくれようとしたが、丁重に断っておいた。

今の俺は朝から歩き回って疲れているからな。そもそもキッカへと休憩をしにきたというのに、またもや用事を作って出かけていては何のためにここに来たのか。

俺はここにあるカフェで休憩をし、英気を養ってからスライムを捕まえに行かねばならないのだ。

残念ながら香草を採集するのはまた今度。でも、今日が終わると香草の事を忘れてしまいそうだったので、オヤジからいくつか香草を貰ってポケットに入れておく。これならズボンを脱ぐ時に思い出すからな。

オヤジに手を振って別れた俺は、今度こそ足早に屋台通りを突き進む。

すると、道の両脇に並ぶ屋台がなくなり、徐々に落ち着きのある店が並び始めた。

店にある看板や道にある看板を眺めながら、いい感じのカフェがないか探して歩く。

服屋さんに、花屋さんに、野菜屋さん、魔物肉を豪快に提供する店なんてものまである。

さっきのようなスラッシュホークの香草焼きのようなものばかりがメニューにあるのだろうか?

知らない街で店を探して歩くのは嫌いではない。こんな場所にこんな店があるんだという発見は心をワクワクとさせる。

その日に入る気分でなくても気になった店は記憶にチェックをつけておき、ふと思い立った時に入ればいいのだ。

転移が使える俺であれば、様々な店を覚えておいて損はないからな。

のんびりと歩き回りながら俺はくまなく看板をチェックしていく。

そうしていると、通りの端っこにブドウを使った料理を売りとしているカフェのような店を見つけた。

看板に書いてある文字を確認してみると、鶏肉の白ブドウ煮込み、ブドウのチーズのサラダ、ブドウのサンドイッチ、ブドウクッキー、ブドウパンと、これでもかというくらいにブドウが使われたメニューばかり

だ。

キッカはブドウが有名だしな。ブドウジュースも凄く濃厚で美味しかったし、料理として出されてもきっと美味しいだろう。

ブドウをそのまま果物として食べる事はたまにあるが、料理として食べた事はあまりなかったな。

看板を確認して興味をそそられたら、次は店内の様子をチェックだ。

今の気持ちからすれば中に入りたい気持ちは山々であるが、こういうお洒落な料理を出す店には多くの女性がいることが多い。

中に入って女性からの突き刺さる視線、女性トークによって居心地が悪くなることのないように、きちんと中を確かめないとな。カップル専用の店だったとしたら目も当てられない。

過去から得た経験を生かして、俺は恐る恐る店の様子を窓から確認する。

店には大きな窓がついているお陰か、それほど広くない室内であるが意外と広く見える。

客足は女性の二人組が一つ、あとは一人客の男性と女性が一人ずついるくらいか……。

これなら子供である俺でも一人で入れそうだな。

意外と落ち着いた雰囲気に勇気づけられた俺は、そのまま扉を開けて店に入る。

「いらっしゃいませー、何名様でしょうか?」

カランカランと扉についていたベルが鳴り、女性店員がお決まりの言葉を聞いてくる。

「一人だよ」

「お好きな席にどうぞー」

愛想のいい笑顔で促されて、俺は居心地の良さそうな席を探すために辺りを見渡す。

すると二階から賑やかな女性の笑い声が微かに聞こえてきた。

若い女性のグループは二階にいるのだろう。

多分、俺のような男性客や一人客の女性が尻ごみしないようにするために配慮なのだろう。

一階に若い女性がたくさんいたら、絶対に回れ右していたからな。入ることができるのはイケメン男性とカップルくらいだろう。

とりあえず、二階に上がるのは絶対になしだ。

「店長! あの子供迷子とかじゃないんですか?」

「バカね。あれほどふてぶてしい表情で入ってくる迷子なんていないわよ。ちょっとは見る目を養いなさい」

「ああ! 確かにそれは納得です!」

すんなりと入らせてくれたのは嬉しいが、その判断の仕方は如何なものだろうか?

子供扱いされると煩わしさを感じるが、されないと釈然としないというような複雑な気持ちが湧いてくる。

そう思いながら視線を彷徨わせると、窓際にいる一人客の男性がどこか助けを求めるような視線を向けてきた。

……あれは、お洒落な店に意気込んで入ったはいいが、予想以上に男性客がこなくて焦っている目だ。

過去の経験からそう推測した俺は、心の中でため息を吐いて男性の隣のテーブルへと移動して座る。

すると、男性がホッと安心したような笑みを浮かべて会釈した。

俺はそれに武士の情けとばかりに軽く頷いた。