軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

綺麗な蕾

「スライムいないかなー?」

屋敷を飛び出して一本道を歩く俺は、近くにスライムがいないかと辺りを見回す。

辺りは本当に長閑な自然が広がっているのみで、スライムの影らしきものは見えない。

スライムというのは比較的どこにでも出現する魔物だ。

川の近くにいることもあれば、草原にいることも、山にいることもある。どこから紛れ込んできたのかコリアット村の住宅地や畑にもいる事があるくらいだ。

それ故に明確にどこに行けば会えるのかわからないが、転移が使える俺なら広い範囲を探すことができる。

旅の途中で出会う事ができたキッカとアバロニア王国を繋ぐ道辺りがいいだろうか? 以前アリューシャ達と何匹も捕まえたし、あそこならたくさんスライムがいるかもしれない。

そう考えた俺は道中を脳裏で鮮明に浮かべる。

見晴らしのいい草原に遠くに見える山々。そして馬車がギリギリすれ違えるほどの道幅を持つ道。

「転移!」

魔力の光が俺の身体を一瞬で包み込み、身体が浮遊感を襲ったかと思うと、俺のいる場所は屋敷の一本道ではなく、以前に馬車で通りかかった道になっていた。

周囲に人影はまったくない。草原と湾曲した土の道だけが延々と続いていた。

空を見上げると、悠々と白い雲が流れており、千切れた部分は白いインクを筆で引き伸ばしたかのよう。

遠くの方では茶色の鳥らしい生物が空を飛んでおり「ヒュルルルルー」と鳴き声を上げていた。

俺はすぐに歩きだす気にもならなかったので、道から外れた斜面になっている地面に腰を下ろす。

穏やかな風が吹いて、俺の前髪を揺らす。コリアット村の周囲とはまた違った静けさのある平原だ。

「ここも悪くないね」

そんな事を呟きながら、俺は仰向けに寝転がる。

勢いよく背中を倒したが、地面に生えている草がそれを吸収してくれる。

大きく息を吸うと、コリアット村と似たような土の匂いがした。

生えている草を見れば、コリアット村の草原と同じ種類のものだ。

どうやらコリアット村からこの辺りまでは、同じような土壌で草が生えていのだろうな。

「たまにはこうやってコリアット村の外でのんびりとするのもいいなー」

この世界にある大陸というのは俺が思っている以上に広い。この文明レベルと魔物が存在する状況があっては都市を作ることがかなり難しいのであろう。

だから、コリアット村以外にもたくさんの田舎の村々や自然が豊かな場所がある。

転移魔法があるのだから、こうやってたまには転移して他の場所でのんびりするのも悪くないな。

そんな事を思いながら、俺はゆっくりと目を瞑る。

風が吹くと、草原の草が揺れてサラサラと心地の良い葉音を鳴らす。

人の声は聞こえず、時折動物や鳥の声が聞こえるだけだ。

だだっ広い草原に一人寝転んでいると、まるで世界には俺一人しかいないのではないだろうかと思えてくるほどだ。

「ヒュルルルルー」

空を飛んでいる鳥のこんな声すら、自然の一部のように感じられていいな。

「ヒュルルルルー」

鳥が近付いてきたのだろうか? 鳴き声がドンドンと大きくなってきた。

一体どんな鳥なのだろう?

そんな好奇心から目をうっすらと空けると、何やら鈍く光る爪のようなものが見えた。

「おわぁっ!?」

慌てて横に転がると、その爪は俺の頭にあった場所の草をスッと刈り取って過ぎ去った。

鋭利な切り口のようなもので切り裂かれた草を見てゾッとする。

そして頭上を見上げると、鋭い刃を生やした茶色の鳥が空を舞っていた。

あれって、もしかしてアーバイン達が道中で警戒していたスラッシュホークだろうか? 空から急降下して刃を突き立ててくるって聞いていたし。

以前は日向ぼっこをしている時に、襲ってきたら嫌だなとか思っていたくらいだが、まさかこうして本当に襲われるとは思わなかった。

俺がそう思っている間に、スラッシュホークらしき魔物が脚の爪を立てて急降下してくる。

とりあえずこのままにしておくと、ずっと襲われる気がする。

こうやって頭上から振ってこられたら、ゆっくりと昼寝もできないし、スライムだって探すことができない。

だからといって、魔法で殺してしまうと血とかが出てくるし、俺の気分も悪い。血の匂い誘われて他の魔物がやってくるかもだし、ここは穏便に追い返す方針にしよう。

そう決めた俺は手を上にかざして風魔法を発動。

魔力を普段の換気より多めに込めて突風を生み出す。

俺へと一直線に向かってきたスラッシュホークは、もろに突風を全身に受ける。

そして、ついには風の力に負けて、驚くように遠くへと飛んでいった。

「おお、鳥が風に負けて飛んでいく様はシュールだな」

吹き飛んでいくスラッシュホークを眺めながら呟く。

スラッシュホークはかなり遠い場所まで飛ばされると、翼をバタバタと動かして何とか体勢を立て直した。それでも全身を揺さぶられた衝撃があるのか、空を飛ぶさまはどこか頼りない。

再び襲ってくるようなら、もっときつい突風をお見舞いするし、それでも向かってくるなら仕方がないが爆音で追い払おう。

そう考えながら見つめていると、スラッシュホークはそのままよろよろと彼方へと飛び去って行った。

それを見て俺は息を撫で下ろす。

魔物が少なくて平和過ぎるコリアット村と同じように考えていたのがいけなかったのだろうな。

コリアット村の外で、のんびりする時は入念に周囲をチェックしとかないといけないな。

「スライム見つからないなー」

平原にある道を歩きながらスライムを探しているのだが、中々見つからない。

時間で言うと小一時間は経ったであろうか?

周囲にある景色はほとんど変わらない。精々遠くにある山々が近くなったかなと思う程度だ。

どこまでも広がっている平原を眺めながら、延々と伸びている道を進む。

どうでもいい時は普通に見かけるのに、探している時に限って見つからないのは何故だろう。失くした物を探している時と同じ雰囲気がする。

俺から発せられる物欲センサーを恐れてスライムが逃げているのではないだろうか。そんな気さえしてくる。

そんな事を思いながら俺は辺りを眺めながらひたすらに道を歩く。

すると、広がっていた平原に大きく抉れた場所を見つけた。

まるで小さな隕石でも降ってきたかのようにクレーターができており、蜘蛛の巣状の亀裂があちこちに走っている。

長閑な平原の雰囲気をぶち壊すように地面が捲れ返っており、そこだけとても痛ましい。

一体何があったのだと思ったが、よく見るととても見覚えがあった。

「……そうか。ここはルンバがスラッシュボアを一撃で倒した場所だ」

このクレーターはルンバが作ったものだったな。道理で見覚えがあるはずである。

ここはあの時の場所だったのか。スライムを探すためにひたすら歩いていたら、こんな所にまでやってきているとは。

感慨深く思いながら、俺は小さなクレーターへと近寄る。

近くで見てみると、クレーターは思ってよりも深くて大きい。それだけルンバの破壊力が凄まじかったというわけか。

相変わらずバカげた力を持っている男である。魔力による身体強化も使っていないのに、どうしたらこんな威力を出せるのか。まったくもって謎である。

ここは前世のように道路整備がしっかりとしているわけでもないしな。

こんな平原にできたクレーターをわざわざ直そうとも思わないだろう。辺りにはスラッシュボアやスラッシュホークという危険な魔物達がうろついている訳だし、地形を直すのも難しい。

でも、これだけ綺麗な草が生えそろっているのに、ここだけ土が抉れているのは痛々しいしな。ちょっと土魔法を使って、クレーターを埋めてあげるか。

そう思って土魔法を使おうとすると、クレーターの中央でピンク色の何かが見えた。

「ん?」

気になって覗き込んでみると、そこにはピンク色をした花の蕾があった。もうすぐで開花する寸前といったところであろう。

花の種が風で飛ばされてやってきたのか、鳥や魔物といった生き物に付着してやってきたのかはわからない。

だけど、その一輪の花は過酷な自然の状況にも負けずに真っ直ぐに育っていた。

「……綺麗な花だな」

俺はクレーターの中央にある一輪の花の蕾を見つめながら呟く。

それから俺は土魔法でクレーターを埋めずに、水魔法を使って花に水分を与えた。

この蕾が綺麗な花を咲かせることを祈って。