軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歩く氷の魔導具?

「アル、シーラを口止めできるような名案はねえか? 俺の家とアスモの家は隣同士だ。このままじゃ、シーラと姉ちゃんが出会うのは時間の問題だ。俺が姉ちゃんにシバかれてアウト。そうなると、エリノラ様が帰ってきた瞬間に、俺は大事な友であるアルの事も密告しなくちゃいけねえ」

どこか芝居臭い表情でそう告げるトール。

大事な友であるなら、そこは密告してやるなよ。それさえなかったら、こっちは万事解決なのに……。

という心の言葉を直接口に出さずに、俺は考え込む。

タイムリミットはエマお姉様が家に帰ってくるまでだ。

エマお姉様が家の前をうろついた時点で、シーラさんと出会うと言ってもいい。

そうなると後日、トールが裏切りをするは確定となって、エリノラ姉さんが帰ってくるなり俺がシバかれるというわけだ。

……急いで対処をしなければならない。

「それよりも水! 客を家に招いたのに水の一つもでないとかどうなってるの!」

俺とトールがどうすれば姉からの制裁を回避しているか話し合っていると、隣にいるアスモが苛立った声を上げる。

「んだよ、今大事な話してんだよ。水くらい自分で入れろよ」

「客である俺を働かせるのか! もういいよ、アルに魔法で入れてもらうよ!」

「おい、アスモ。客であり、貴族である俺を働かせるのはいいのか?」

あれだけ客を働かせる気かとトールに喚いておきながら、結局はトールと同じではないか。

俺が抗議するように問いかけると、アスモが悪びれる様子もなく、

「だって、アルが入れたら氷付きだし」

「本当だな! となるとこの季節、アルは飲み物係りだな!」

アスモの言葉に便乗してトールが意味の分からない事を言う。

それじゃあ、俺がトールとアスモの下僕みたいで嫌だが、そろそろ俺も喉が渇いたので癪ではあるが、飲み物を用意することにする。

俺は椅子に座りながら土魔法を使用。ちょうどいいサイズのコップを三つ作り、そこに氷魔法でブロック状の氷を入れる。そこに水魔法でそれぞれ水を入れると完成だ。

「はい、できたよ」

俺がそう言うと、喉が渇いていたのか二人共無言でコップを傾ける。

それからゴクリゴクリと喉を鳴らして、勢いよくテーブルに叩きつけた。

「ぷはぁ! うめえ! 夏にこんなに冷たい水が飲めて幸せだな!」

「冷たい水が染みる!」

完璧に仕草が酒場でエールを飲むおっさんである。

まあ、暑いこの季節は冷たい飲み物が何よりも美味しいからな。二人がそんな仕草をしてしまうのも無理はないだろう。

氷魔法が使える村人などいないし、高級な氷の魔導具を持っている村人もいるはずがないからな。

そんな事を思いながら俺も自分のコップを傾ける。

氷魔法で冷やされた水が口に入り、渇いていた口の中が潤う。それを一気に飲み干すと、スッと喉の奥を通り、胃の中へするりと落ちていった。

外の日差しや暑い空気を浴びて火照っていた身体から、熱が奪われる爽快感。

「ぷはぁっ! 美味い!」

気が付けば俺も二人と同じようにコップをテーブルに叩きつけていた。

暑い夏であれば、冷たい水もこれほど美味しく感じられるのか。

今度山に登って新鮮な湧き水を汲んできて、氷魔法で冷やして飲んでみるのも悪くないな。

きっと魔法で作った水よりも美味しいはずだ。

いや、絶対にしてやろう。そう心に決めた瞬間だった。

「「アル、お代わり!」」

「はいはい」

トールとアスモが二人してコップを差し出すので、俺は自分の分も含めて水魔法で水を注いでやる。

俺が注ぐなりトールとアスモはまたも一気に飲み干し、お代わりを要求してきた。

どうやら余程喉が渇いていたらしい。

三杯目を飲むと、二人はようやく落ち着いたのかお代わりを要求しなくなった。

「アルは一家に一人は欲しい便利さだな」

「その褒め方は止めてくれ」

最初に言い出したのはルンバだっただろうか?

妙にその褒め方が定着してきている気がする。

俺がそんな事を思いながら水を飲んでいると、トールが尋ねてくる。

「なあ、アル。魔法ででけえ氷とか作れねえのか? そしたら、この家も涼しくなると思うんだ」

「あー、確かに。大きな氷とか置いていたらそれだけで部屋が涼しくなりそう」

人間、一つの欲を満たすと、次なる欲が湧いてくるもの。

一つの欲を満たしたトールとアスモは、涼しい気温という欲が湧いてきたようだ。

「確かに暑いね。じゃあ、もっと涼しくしようか! 氷だけ設置するなんて甘いよ!」

そんな事を思いながらも俺も二人の言葉には同感の想いだったので、即座に提案に乗った。

椅子から降りた俺は、空中へと両腕をかざして氷魔法を発動。

トールの家の中一面に冷気を放出した。

白く吐き出された冷気は、部屋にある暑い空気を駆逐していくように広がっていく。

「「うおおおおおおおおおおおおっ!? 涼しい!」」

冷気の恩恵を受けたトールとアスモは興奮の声を上げていた。

「すげえなアル! お前こんな事までできるのかよ! 飲み物係から冷気係りに昇格だ!」

そんな褒め方をされてもまったく嬉しくない。

「歩く氷の魔導具だ!」

こっちに至っては完璧に俺の人権を無視している。

「とりあえず冷気が逃げないように扉を閉めるよ」

トールとアスモは冷気に感激しており全く動かないので、俺はサイキックで家の中にある窓や扉を閉めた。

ふう、これでしばらくは室内の温度が上がることがないだろう。

日差しがなくなったせいか薄暗くなったので、無魔法のライトボールを発動。

ただ光るだけの光球を五つほど作って、室内に配置しておく。

「うん、これで昼間と変わらないくらいの明るさだな」

部屋の明るさに満足していると、やっと落ち着いたトールとアスモが不思議そうな顔で言う。

「……今まで疑問に思っていたんだけど、アルって実は結構凄い魔法使いなのか?」

「俺達と違って全然魔力切れとかしないしね」

トールとアスモがそう呟いて、視線でどうなんだ? と聞いてくる。

「うーん、どうなんだろ? 世間一般の魔法使いとは魔法の使い方も違うみたいだし、よくわからないや」

神様のお陰で魔力が人並み外れて多いのはわかるが、実際の技量がどうかと聞かれてもよくわからない。

銀の風のメンバーであるアリューシャやイリヤよりも魔力コントロールは得意としているが、世の中が求めるような戦闘能力については経験がないしな。

そもそも世の中が求めている魔法使いの価値がよくわからない。

土魔法でジェンガを早く作りあげるとかなら自信があるけど、必要なさそうだな。

というか俺は魔法を使って国に貢献するつもりもないし、働くつもりもないので考える必要性もないな。

俺には今の魔法技術と空間魔法があれば豊かなスローライフをおくることができる。

それで十分じゃないか。

「……なあ、アル。閃いたんだが、ここでシーラをもてなして口止めするっていう方法はどうだ?」

「悪くないね。こちらには暑さを吹き飛ばすような冷気と冷たい氷水がある。交渉することは十分可能だ」

暑さに苦しむシーラさんからすれば、今のトールの家は天国とも言えるだろう。

この場所で心地よい時間を提供すれば、シーラさんも口をつぐんでくれるのではないだろうか?

「どうだアスモ?」

「……姉ちゃんは暑いのが苦手だからいけると思う。ダメ押しにお土産で料理を振る舞ってあげれば完璧かも……」

「なるほど! シーラさんは食べるのが大好きだからね! もしもの時は、お土産である調味料を使った料理で懐柔しよう!」

これならいけそうだ。俺とトールの未来が明るく輝いてきたぞ!

俺とトールは表情を明るくして笑い合う。

「よっしゃ、じゃあ早速お招きするか!」

「待つんだトール! こちらから行けば裏があると警戒されてしまうかもしれない。ここは向こうからやって来るように誘導して恩を売っておこう」

「そうだな! だとしたらアル、こっちの窓に来てくれ!」

俺の言葉を即座に理解したトールが機敏な動きで窓側へと移動する。

そこはトールの家とアスモの家の最も近くなっている場所だ。

お互いに窓を開ければ、気軽に近くで会話をできてしまうほどの距離だ。

「ここでさっきの氷魔法を使って、冷気を送れるか? そうすれば木窓の隙間からアスモの家に冷気が流れ込むはずだ!」

「さすがはトール。コリアット村一の策士だな」

「へへへ、よせって。聡明なアルの知恵があってこそだぜ」

俺がここぞとばかりに褒めると、トールが謙遜しながらも褒め返す。

こういう時、俺とトールは本当に馬が合うよなぁ。

「……どっちも狡いだけだよ」

「「失礼な」」