軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣よりも斧?

氷魔法を適度な温度で放出し、維持しながら歩きことしばらく。

コリアット村が見えてきた。いつものように出迎えてくれる麦の穂達は立派に育ち、青々と大きくなっていた。

今日も穏やかな風が吹き、俺を歓迎してくれるかのように麦を揺らす。

「久しぶりー」

そのことが嬉しくと俺はにんまりと笑いながら、麦に声をかけて歩く。

あと二か月もすれば黄金色に染まって収穫の時期か。それから数日後には収穫祭が始まってしまうわけで、一年はあっという間なんだと思い知らされるな。

感慨深く思いながら、俺はコリアット村の中心部へと向かっていく。

すると、いつものように民家がいくつも立ち並び、今日も人々が物々交換をしていたり、革をなめしていたり、洗濯をしていたりと各々元気そうに生活をしていた。

「あ、アルフリート様! お帰りなさい!」

「久しぶりですね!」

「皆、久し振り!」

どうやら俺が帰ってきたという情報はとっくに回っているようだ。

村人達が気さくに「お帰り」と声をかけてくれる。

家族だけでなく、こうやって村人にも言ってもらえると嬉しいものだ。コリアット村に帰ってきたんだという実感が湧いてくる。

「カグラっていう遠い国行ってきたんですって?」

「そうだよ。馬車で一週間かけて隣国の港町まで移動して、そこからまた船で一週間くらいね」

俺が道中にかかった時間を言うと、村人達が驚いた表情をする。

「凄えな。俺、ここらへんから出たことないから外がどうなってるか全くわからねえや」

「港町ってことは海があるのか」

「海っていえばあれだろ? しょっぱい水が辺り一面にあるんだとか」

コリアット村の周りから出たことがない村人からすれば、隣国や海といったものは未知の世界だ。

そんな村人達にとって、俺が経験してきた外の話は大変面白いのだろう。俺の周りにたくさんの村人が集まってきた。

「……なあ、気のせいだと思っていたんだが何だかここら辺だけ涼しくないか?」

旅の話に区切りがついたところで、集まってきた村人であるローランドが言う。

「確かに、ここら辺だけ妙に涼しいな。一応家の影にいるがそれにしても涼しすぎる」

「だよな。ここだけ妙に快適なんだよ」

ウェスタとローランドが仲良くそう言う。

ああ、それは俺が氷魔法で冷気を放出しているからな。これだけ村人が集まってくるとさすがに暑苦しくなるので通常よりも温度を下げているのだ。

「……なんかアルフリート様の身体から湯気みたいなものが出てないか?」

俺の近くにいるローランドとウェスタは目ざとく気付いたらしい。

「本当だ」

そしてローランドが好奇心旺盛に近寄ってくる。

「……アルフリート様の周りがヒンヤリとしてるぞ!」

「本当か!?」

ローランドの声を聞いて、ウェスタが俺の腕を握ってくる。

「アルフリート様の周りじゃない! アルフリート様本人がヒンヤリとしているぞ!?」

「マジか!?」

ウェスタの驚きの声を聞いて、周りにいる村人が一斉に群がってくる。

それは寒い真冬に温かいカイロを持っている人にたかるが如く、皆が俺から発生している冷気の恩恵を得ようと身体を触ってくる。

「本当だ! 冷てえ!」

「アルフリート様がヒンヤリとしてるぞ!」

「ああ、この冷たさが堪らない!」

違った。そんな生易しいものではない。まるで飢えたゾンビが人肉を求めるが如しの激しさだ。肌の出ている腕だけだったものが、次は顔、服の中と村人達の腕が次々と入ってくる。

「ちょ、ちょっとちょっと! 俺は男にたかられる趣味はないんだけど!? こら! 服の中に手を突っ込むな!」

「俺達も好きでやってるんじゃねえけど、冷たさに飢えているんだ! 我慢してくれ!」

氷の魔導具も、氷魔法もない村人はこれほどまでに冷たさに飢えているのか。

俺は村人達のフラストレーションを舐めていたようだった。

このままでは最終防衛ランであるズボンにまで手が侵入されかねない。

そこまで侵入されてしまえば、俺は何か大切な物を失う気がする。それだけは避けなければならない。

俺は村人にもみくちゃにされる中、氷魔法の温度を下げて冷気を一気に放出した。

すると、俺の身体から一気に白い冷気が広がり、村人達全員を呑み込む。

「うおおおおおおっ!? 冷てえっ! 何だこれ!?」

「よくわからんが気持ちがいいぞ!」

村人達が冷気を浴びて歓喜している間に、俺は見事に人混みから脱出をする。

俺よりもヒンヤリとしている冷気のお陰で村人達の意識が移行したようだ。

それを確認した俺はわき目もふらずに、民家の影に逃げ込んでトールの家の近くに転移した。

ふう、さっきは酷い目にあった。

何が嬉しくて男達に全身をまさぐられなければならないというのだろうか。あのまま逃げ出せずにいたらと思うとゾッとする。

夏に冷気を求める村人の力を舐めていたのだろうか。

とにかく今後はこんな事にならないように気をつけよう。

そう心に決意を固めた俺は、民家の影から出てトールの家へと歩く。

すると、トールの家の前にトールとアスモの姿が見えた。

二人は農作業を終えて休憩でもしているのか、家に入ることもなく家の影で涼んでいるようだ。

探す手間が省けてラッキーと思いながら、俺は再び民家に隠れて空間魔法を発動。お土産である木刀や醤油、味噌といった壺を入れた木箱を取り出す。

木箱と木刀を持つのが面倒なので、荷物をサイキックで浮かせて、俺はトールとアスモの下へと近付いた。

「おっ? あれアルじゃない?」

「おー! アルじゃねえか久し振りだな!」

早速気付いたアスモとトールが座りながら手を振ってくる。

久し振りの友人との再会にも関わらず、影から出てくる気配はまったくない。暑いという気持ちはわかるが、立って出迎えてくれてもいいのではないだろうか。

「お土産なんだ?」

「食べ物はある?」

そして次に出てきた言葉がお土産の催促である。

これは本当に友人と言えるのだろうか。ちょっと心配になってきたな。

「久し振りの再会なのに、もう少し気の利いた言葉はないの?」

「だってアルが帰ってきたっていうのはとっくに聞いてたしな」

トールの言葉にさも当然とばかりに頷くアスモ。

「だとしても『会いたかった』とか『お帰り』とかいう言葉があるじゃ……何か二人がそんな言葉を言う姿を想像したら吐き気がしてきた」

「だろう?」

「でしょ?」

うん、トールとアスモがそんな言葉をかける姿がまったく想像できないや。むしろ、そんな言葉を言い出したら何か企んでいるのかと警戒してしまいそうだ。

気安い関係のこいつらだからこそ、こんな適当な感じでいいのだ。

俺がそんな風に心の中で納得していると、アスモが腕を組みながらマジマジとこちらを見つめてくる。

「……アル」

「どうしたのアスモ?」

「……やっぱり太ったな」

「なっ!」

やっぱりこいつらも一目でわかるほどなのか。

「うはははは! デブのアスモに言われたとなったらアルももうお終いだな!」

「アスモに言われるとショックだよ」

「お前達、俺に喧嘩売ってんの?」

トールと俺の言葉を聞いたアスモが、青筋を立てながら言う。

ああ、これは地味に怒っている感じだ。後々面倒な事にならないように怒りを鎮めてもらおう。

「まあまあ、今日は食べ物のお土産もあるから許してよ」

「なら、アルは許す」

「食い物が木箱に入ってるのはわかるけど、その長細い棒は何だよ? 木剣じゃねえよな?」

そんなアスモの言葉にも気づかず、サイキックで浮遊させた木刀を指さすトール。

どうやら木刀が気になっているらしい。

「これは木刀だよ。カグラで買ったんだ」

「木刀? 木剣じゃねえのかよ?」

「違うよ。カグラでは剣じゃなくて、刀っていう武器を主に使っているんだ」

「その剣と刀の違いってなんなんだよ?」

「剣は両刃で真っ直ぐだけど、刀は片刃で反りがあるよ」

俺がサイキックで引き寄せて見せてやると、トールが興味深そうに眺める。

「本当だな。なんかちょっと曲がってるし木剣とちょっと形が違えぞ!」

反っていると言え。カグラの鍛冶師に怒られるぞ。

「……俺にはどっちも同じように見えるけど……」

「似ているように見えるけど、剣は刺突が向いていて、刀は斬るのが向いているから実際の戦い方は違うものだよ」

「へえー! そうなのか! ところでこれ、三本あるけど俺達にくれるのか?」

トールが期待に満ち満ちた表情をしながら尋ねてくる。

その顔を見れば、トールが欲しがっているというのは明白だ。

「いいよ。これは二人にあげるために持ってきたから」

「よっしゃー!」

「おお!」

俺がサイキックで渡してあげると、トールが嬉しそうに叫び声を上げて、アスモが驚いた声を上げる。

冒険者になりたいといっていたトールは、異国の武器に触れることができて嬉しいのだろう。目を輝かせながら木刀をジッと眺めている。

一方、アスモは剣との違いが未だによくわからないのか、ジーッと木刀を観察していた。

それから二人は木刀の観察を終えると、互いに距離をとって素振りをしはじめる。

アスモは当然剣を学んでいないために、振り方も滅茶苦茶だし、身体もブレブレだ。

ノルド父さんやエリノラ姉さんがここにいれば、眉をひそめながら矯正し、基本を叩き込むかもしれないな。

一方、トールはエマお姉様からいくらか教えてもらっているのか、それなりにしっかりと振れるようになっていた。当然俺にでも気付くような粗がたくさんあるが、俺がカグラに行っている間に上達していることは確かだ。

「おお、トールってば随分上達したね」

「へへへ、だろ?」

俺が褒めてあげると、トールは少し照れの入った笑顔を浮かべる。

というかこれは木剣じゃなくて、木刀だから本来の振り方は全然違うはずだけど、そこは気にしないようにしよう。俺がそんな事を思っている間にも、トールは自分の力量を示すように木刀を振るう。

当然、ブンブンと空気を裂くような音は聞こえるけど、ノルド父さんと比べるのはやはり酷だな。ドラゴンスレイヤーと村人は違うんだから。

「でも、トールは剣よりも斧の方が扱いが上手いけどね。最近は薪の形が均一だってミュラさんが褒めていたし」

「やっぱり? じゃあ、次のお土産は斧にしてあげようかな?」

「本当やめろよな! 俺が使いたいのは剣だから!」

本気で嫌がるトールを見て、俺とアスモは笑い声を上げるのだった。