軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法のようにご飯が消える

味噌汁の味付けでひと悶着は起きたが、俺とバルトロはつつがなく朝食を作ることができた。

最後に手慣れた卵焼きを人数分焼き上げると、そこからの給仕をサーラとミーナに任せる。

肝心の味噌汁の味付け調整はバルトロに任せ、俺はダイニングルームへと座った。

俺以外の家族も既に席についている。

お腹が空いたな。早く料理が運ばれてこないだろうか? 朝から動いて、朝食の匂いを嗅いで試食したせいか酷くお腹が空いている。

ノルド父さんやエルナ母さん、シルヴィオ兄さんも試食をしてしまったせいか、今日はいつもよりも空腹の様子。

三人共それとなく会話はするが、視線がずっと厨房の方を向いている。

俺も気持ちは同じなので、会話をしながらじーっと厨房の方を眺め続けた。

そうする事しばらく。ミーナとサーラが料理を持ってきた。

「お待たせしました!」

俺達の目の前に、ご飯、卵焼き、鮭の塩焼き、なめこの味噌汁、ほうれん草の煮浸しといった料理が並ぶ。

おお、この屋敷にこれほどまでの和食が並ぶ時がくるとは。朝は和食派の俺からすれば大変嬉しい事である。洋食系もいいけど、やはり前世が日本人な俺からすればたまには和食が食べたくなるものだ。

「こうやって並ぶのを見てみると、色合いが綺麗だね」

「どれもこれもご飯と合いそうだわ」

「今日のメニューはご飯に合うものを作ったからね」

まずはご飯と合うおかずの味を楽しんでもらいたい。

お米の味を既に知っている俺達だからこそ、改めてそこを感じて欲しかったのだ。

「それじゃあ、さっそく食べようか」

俺達が感想を言い合うと、ノルド父さんが少し急かすように言う。

皆、お腹空いているのだ。そのノルド父さんの提案に異論はなく、俺達は静かに食事にとりかかった。

まずは、熱々の湯気が立っている味噌汁だ。味噌汁はぬるいものよりも熱いものの方が美味しいからな。まずはゆっくりと口に含むようにお椀を傾ける。

すると、ヌメリのある小さななめこがするりと口の中に入って来た。それと同時になめこの味と味噌の味がたっぷりと染み込んだ汁が舌の上で広がり出す。

粘り気のあるなめこが口の中で踊るのが、また面白い食感を与えてくれる。

くにゅりとしているなめこを咀嚼しながら、味噌汁と一緒に飲み下す。

ああ、この味噌の味が堪らない。やっぱり温かい味噌汁を飲むと、心が落ち着くなぁ。

「「……ふぅ」」

「……はぁ」

チラリと視線をやってみると、ノルド父さん、シルヴィオ兄さん、エルナ母さんが同じく味噌汁を飲んでホッとしている所だった。

味噌汁を飲んでボーっとするとリラックスできていいよね。緑茶と同じくらい落ち着くと思うんだ。

それから味噌汁を一口、二口と飲むと、俺はご飯にとりかかる。

バルトロが竈で炊き上げてくれた白米。

水っ気が多い事もなく、ふっくらと炊けている。

ご飯だけ掬って食べると、お米本来の仄かな甘みが感じられた。噛めば噛むほど染み出る味は、おかずがなくてもご飯が進んでいく。

ご飯だけの味を堪能した俺は、一口だけご飯を口に含み、味噌汁をすすった。

味噌汁とご飯が混ざり合って、口の中でほろりとご飯が溶けていく。

それが堪らなく美味しい。

「……ああ、やっぱり味噌汁とご飯の相性は最高だな」

「味噌汁だけでご飯がいくらでも食べられそうだわ」

エルナ母さんも俺の真似をしていたのか感心したように呟く。

味噌とご飯の相性は最高だからな。そう言うのも過言ではないな。

「暑さで食欲が落ちる夏でも、味噌汁を冷やして飲むとご飯も食べやすいからね」

「それいいわね。二杯目は冷たい味噌汁を飲んでみたいわ」

味噌汁とご飯のおつな食べ方にエルナ母さんが早速目をつけたみたいだ。

今は夏の季節だからな。冷たい料理を食べたくなる気持ちもわからなくない。

「味噌汁は後で冷やしてあげるけど、そういう事ならほうれん草の煮浸しがおすすめだよ。冷たくて美味しいから」

俺がそう言って、ほうれん草の煮浸しを勧めると三人が無言でほうれん草の煮浸しに手をつける。

「あら、冷たくて美味しいわね」

「シャキッとしていて水気があって気持ちがいいね」

「ほうれん草と醤油も合っているね」

これにはシルヴィオ兄さんとノルド父さんが気に入ったようだ。

ほうれん草の煮浸しをご飯の上に乗せて、美味しそうに食べている。

味噌汁を冷たくして頂くのもいいけど、瑞々しい野菜が美味しいこの季節。まだまだ野菜も負けていないよね。

「あら? もうご飯がなくなちゃったわ」

「他の卵焼きといい、鮭の塩焼きといい、ご飯に凄く合うからすぐになくなっちゃうよね」

エルナ母さんとノルド父さんのお椀を見れば、ご飯はなくなっていた。

おかずとご飯の組み合わせを気に入ってくれた証拠であろう。

「……これがカグラ料理の神髄と言う訳ね。魔法のようにご飯が消えていったわ」

空になってしまったお椀を見つめてわななくエルナ母さん。

いやいや、全てエルナ母さんの胃袋の中に入っていっただけだから。

「お肉と一緒に食べるのもいいけど、こういう優しい味がするおかずと食べられる方が僕は好きかな」

「僕も!」

ノルド父さんだけでなく、シルヴィオ兄さんも強い反応を見せる。

普段からあまり食に強い反応を見せない二人としては珍しい光景だ。予想以上にカグラ料理の味が気に入ったようだ。特にシルヴィオ兄さんはほうれん草の煮浸しが気に入っている模様。先程からご飯と一緒にパクパクと食べている。

「……私は濃い味がするものとご飯を食べる方が好きだけど、こういうおかずとご飯を食べるのも悪くないわね」

カグラ料理とご飯の相性に、思わず濃い味派のエルナ母さんも薄味派を認めたようだ。

「それはそうとミーナ、お代わりをよろしく」

「私もお願い」

「はい」

ノルド父さんに呼ばれて、控えていたミーナがやってきて空になったお椀を受け取る。

俺とシルヴィオ兄さんも気が付けばご飯が少なくなっていたので、慌てて残りを口に入れてお代わりを頼んだ。

「……ああ、サーラ。空腹を堪えながら給仕するのが辛いです」

「頑張ってくださいミーナ。ここで働いているからこそ、私達も美味しい食事が食べられるのですから」

お腹を鳴らしながら俺達のご飯をつぎに行くミーナ。

ミーナとサーラはメイドとしての仕事があるから、朝食を食べるのは俺達の後なのだ。

エルナ母さんとノルド父さんの食の進みからして、ご飯だけでなく、おかずもお代わりをするのは間違いないだろう。

お腹を空かせているミーナとサーラを待たせるのは忍びないが、二人が朝食を食べるのはもう少し時間がかかりそうだ。