軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の真骨頂

カグラ滞在五日目。俺は今日も清々しい朝を迎えていた。

昨夜トリーが言った通り、カグラを去るのは七日目である明後日となった。

今日でトリエラ商会もほとんどの商談を終えるとのことなので、商会メンバーはもうひと踏ん張りだというように旅館を出ていった。

そして観光二人組である俺とルンバは、今日も春と修一と会うので朝早くから神社へと向かう。

今日は春に遅いと怒られないように早めの出発だ。

旅館から出て、住宅街の方へと歩いていくと隣を歩いていたルンバが口を開く。

「明日は買い物とかするから、実質的に自由にできるのは今日が最後だよな?」

「そうだね。だから、今日は春と修一にお別れを告げないといけないね」

「そっかー、楽しかったけれど仕方がねえな」

軽い調子で呟いて、両腕を頭の後ろに回して歩くルンバ。

言葉ではそう言っているが、ルンバの表情を見るとそこまで寂しくはなさそうだ。

「あんまり寂しくなさそうだね……」

「まあ、元は各地を旅していた冒険者だしな。人との出会いや別れは慣れたもんだな! 寂しくないかと言れば寂しいが、悲しんでもそこで会える人との時間は増えねえ。だから、いつも通り、そこで出会った人との時間を精一杯楽しむだけだ!」

ルンバのそんな台詞を聞いた俺は、思わず進めていた足を止めてしまう。

「お? アル、どうした?」

「……ルンバが何か良い事言っている」

「おい、それどういう意味だよ!?」

いや、だってルンバだよ? ルンバってそんな良い台詞を言うような奴じゃないじゃん。少なくても俺の中でのイメージはそんな感じだった。

「ルンバも旅する冒険者だったって事だね」

「初めからそう言ってるじゃねえか」

そんな事を言い合いながら、俺とルンバは道を歩き続ける。

すると程なくして、連日通っていた神社の階段前へとたどり着いた。

今日もこいつは急な斜面であり、段数も数えきれないほどだ。

自分がそれを上ると想像するだけで、息が荒くなってしまいそう。

目の前にある段差を眺めた俺は軽く息を吐き、ルンバの方を向くと両腕を上げて、

「……さあ、ルンバ担いで」

「おいおい、今日は自分で上れよ」

俺の要望をきっぱりと拒否するルンバ。

「何を言ってるのさ。それじゃあ、朝早くに来た意味がないじゃん。春と修一がやってくる前に、ルンバがちゃっちゃと俺を担いで階段を上るんだよ」

今日は昨日よりも早起きをし、朝食を食べ終わったらすぐに出発した。

食休みを入れないなど、いつもの俺からすれば考えられないことであるが、これも春と修一に自分で階段を上れなどと言われないためだ。

ここでルンバに担がれなければ、何のために早起きし、食休みを削ったのか。

「今日はやけに早く出発したと思ったら、そういう事だったのか。アル、努力する方向が間違ってねえか?」

「間違ってないよ。だから、早く担いで」

俺の食休みと早起きを否定するなど許されない。そしてそれを無にすることもだ。

だから、春と修一が来てしまう前に、担いで階段を上ってほしい。

俺が両腕を上げてヒシヒシと近付くと、ルンバが苦笑いをしながら頂上を指さす。

「……そうは言っても、すでに二人共上から見ているぜ?」

「何だって!?」

ルンバの指さす方を急いで見ると、神社の頂上には春と修一が立っている姿が見えた。

俺が春と修一に気付いたのがわかったのか、

「アルー! 今日は一人で上るんだぞ!」

「男ならこれしきの階段一人で上りきってみせろ!」

などという叫び声が頂上から響いてくる。

ぐぬぬぬ、これほど早起きして来たというのに既に頂上で見張っているとは。早寝早起きしすぎだろう。

「ガハハ、俺が担ぐと春と修一に怒られるしな。良い運動になるしアルも自分で上れ」

俺が歯噛みしていると、ルンバがそう言って悠々と先に階段を上っていく。

どうやら今日は本当に手を貸すつもりはないらしい。

「アルー! 早く上ってこい!」

去り行くルンバの背中を眺めていると、頂上にいる春のよく通る声が響いてくる。

春と修一は一人で上れといった。しかし、自分の足で上れとは一言も言っていない。

であれば、ここは楽をするための万能の力である魔法を使うべきであろう。それも一種の自分の力のはずだ。間違った解釈ではないはず。

旅の間に思案していた魔法を試す時がきたのだ。

旅の俺は常々思っていた。何とかして空を飛ぶような魔法はないのかと。

それがあれば、大きな山だって迂回せずに進むことができるし、日常的な動作も遥かに楽になる。

エリノラ姉さんから逃げる術として開発された、無魔法によるシールドを空中に連続展開して歩く魔法。それであれば空を歩くことはできる。

しかし、その技は意外と結構難しいもので神経を使うのだ。自分の体重がかかっても壊れない強度のシールド。それを持続しながら歩く先々へと絶え間なく展開。通り過ぎたシールドは存在するだけである程度意識してしまうし、魔力消費もあるので解除もしなければならない。それを歩きながら永遠とするのだ。

王都のように空中でジッとして景色を観察するにはもってこいだが、移動するのには少し向いていない。

俺はもっと楽に空を移動したいのだ。

そう考えたところで目に付けたのが無魔法のサイキック。

これは無機物に己の魔力を浸透させて自在に操る魔法。制御さえできれば浮かすことも、移動させることもできる。

しかし、人間自身は元から魔力があるために対象とできない。ならば己の制御下に置いた無機物に自分が乗ってみてはどうか?

それが今回俺が試す空中移動魔法である。大袈裟になっているけど、ただサイキックで浮かした物質の上に自分が乗るだけだけどね。

それを今回試してみようと思う。

周囲を見渡すと、階段の舗装されていない斜面には大きな岩がむき出しになっている場所がある。恐らく大雨かなんかで土が削れて、地中にあった硬い岩が出てきてしまったのだろう。

それを見つけた俺は、剥き出しの岩の周りに土を土魔法で取り除く。岩と固まった土が離れたら岩にサイキックをかけて魔力を浸透させる。

己の魔力の制御下においたら、大きな岩をこちらへと引き寄せた。

「うん、これなら余裕で俺が座れるね」

岩は大きく、七歳児の俺が座っても余裕があるくらいだ。巨体であるルンバが座ればギリギリといったところか。

とにかく、これなら俺が乗る分には問題もあるまい。ただ、半ば地中にあったせいか少し土に塗れて汚い。

立てば問題ないが、やはり汚いのは嫌だ。

そう思って俺は水魔法を使って、岩に水をかけていく。

当然ながら岩にこびりついた土は、ちょっとやそっとの水では取れやしない。長い間固まっていた土がこびりついているからだ。

だから、俺はさらに魔力を込めて岩にかける水の圧力を上げることにした。

ドバドバと噴射されていた水圧が上がり、シャーという空気を切り裂くような音に変わる。

勢いよく放たれた水は岩にこびりついていた頑固な土をみるみる落としていく。

これは前世であった、高圧洗浄機の再現だ。高い水圧の水を発射することで車や壁面の頑固な汚れを落とす方法である。

水を発射するだけで面白いように汚れが落ちていく。その快感といったら堪らない。

俺は勢いよく水を発射しながら、岩全体の汚れを落としていく。

「あいつ、岩なんて掘り出して何やってんだ?」

「何だ? アルは階段が上るのが嫌でいじけているのか?」

頂上の方から既に上り終わったルンバや春のそんな声が聞こえてくる。

いやいや、さすがにこんな事でいじける俺じゃないから。

そんな事を思いながらも放置して洗っていると、岩の端っこが微かに欠けたような気がした。

思わず俺は噴射している水を逸らして、岩を観察する。

「……あっ、しまった。水圧が強すぎたか」

少し威力が強すぎたらしい。岩が抉れてしまった箇所がいくつかある。

これはいけない。このまま続けていたら岩が水圧で破砕されるところだった。

俺は魔力を弱めて水圧を下げ、再び岩に水をかけていく。

様子を見ながらやっていくも今回は岩が削れるような様子はない。

これなら問題はなさそうだ。

屋敷やマイホームの壁の掃除に使えるのでいいと思っていたが、これはもう少し練習する必要があるな。綺麗にする前に、屋敷や家を壊してしまいそうだ。

岩がまるごと綺麗になったところで、俺は火魔法と風魔法で水分を取っていく。

さすがにゆっくりと乾かしていると、頂上にいる人達が痺れを切らしそうで怖いので、半渇きのままで岩に乗る。

それから俺は足下にある岩に再びサイキックをかけた。

それからいつもより慎重に岩を浮かすと、すんなりと岩が地面を離れていく。

微かな浮遊感と共に、俺の視界が岩と共に上がっていく。

岩にサイキックをかけて浮かすだけの簡単な作業。シールドを使った空中歩行魔法と違って、自分が動く必要もないし、魔法を連続発動する必要もない。

実に簡単に俺が空を浮かび行く。

おお! やはり俺の考えに狂いはなかった。

空を移動するなら、こうした方が断然に楽だ。

これならわざわざ遠い場所まで歩く必要もないし、面倒な山道も進む必要はないな。

朝、布団から出たくない時は、布団に包まりながら宙を移動。コタツから出たくない冬場も同じように移動できる。

まさに神の御業! 人生を自分の思うままに、楽に生きさせてくれる。これこそが魔法の真骨頂だ。

俺は喜色満面の笑みを浮かべながら、斜面を登っていく。

空中を斜めに進むと、意外と斜面というのは短いものであっという間に頂上についた。

ロープウェイみたいな感覚だったな。

「お待たせ。一人で上ってきたよ」

俺がそう言いながら、頂上に着くと春と修一、ルンバ、そして見知らぬ男性二人があんぐりとした表情を向けてくる。

「「「そこまで階段を上りたくなかったのか?」」」

「当然」