軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

激戦の果てに

照明の魔導具が再び光を灯した瞬間、意識のある者が枕を手に次々と立ち上がる。

先程枕が散らされたお陰か枕の数には大差ないが、依然としてルンバが危険なのは変わりない。

そもそもこの枕投げってどうなると決着がつくのであろうか? まさか全員がくたばるまでであろうか? だとしたら笑えない。

そうなると俺はルンバと戦わなければいけなくなるではないか。

このままだと商会のメンバーはいずれルンバにやられてしまう。そうなる前に何か一手を打つ必要があるな。

だが、その前に――

「トリエラ会長がここにいるぞ!」

サイキックでトリーが被っている布団を引き剥がして叫ぶ。その場にいるとそこは死地となるのは明白なので即座にその場を離れる。

「ああー!? アルフリート様本当に酷い――」

『『くたばれ会長!』』

トリーの叫び声は無数の枕によって遮られた。

顔面に回転のかかった枕が直撃するのが見えたから奴は戦死だな。華奢な体格をしたトリーがあの直撃に耐えられるとは思えない。

メイドやエルナ母さんにチクりまくってきた罰が当たったのだよ。胸がスッとする思いだ。

やがて商会のメンバーが積み上がった枕を回収しに行く。

その中には白目を剥いているトリーも掘り出されて、粗大ごみを投げるかのように入り口近くに捨てられた。

『やっと始末できたな』

『ああ、あんな所に隠れていたとは。アルフリート様に借りができたな』

『綺麗な秘書を侍らせやがって……』

トリーを始末した商会のメンバーはとても晴れやかな笑顔をしていた。

……あれ、お前達の上司だよな? 明日からお前達大丈夫なのか?

「そういや、アルの姿が見えないな? あいつは放っておくと何をするかわからん奴だから早めに潰したいな。魔法も使ってくるだろうし」

トリーの台詞で思い出したのか、ルンバが辺りをキョロキョロと見回してそんな物騒な事を呟く。

ルンバの獣のような視線から逃れるように布団に籠る。

ダミーとして、そこらにある布団をこんもりと盛り上がらせておくのも忘れはしない。

トリーの野郎! 死に際にまでチクるような台詞を吐きやがって! どこまでもやってくれる男だ。

「あいつは体が小さいから布団に隠れられるとわかりにくいな」

ルンバがそのような言葉を呟きながら、足下にある布団を蹴り飛ばす。

どうやら俺を探しているようだ。

商会のメンバーはトリーへと投げた枕を回収し、対ルンバ戦への準備を整えているようだ。

ここは何とか彼らと合流するべきだろう。先程トリーを倒すのに一躍買った俺だ。きっと同志として迎え入れ、共闘してくれるに違いない。

「んー、ここか?」

俺が心の中でそんなことを考えている間に、ルンバがやってくる。

間違いない。俺の鍛えられた第六感が警鐘を鳴らしている。ルンバは次で俺の下へとやってくるだろうと。

あれほどダミーを用意したというのに早すぎる。これだから直感型の人間は厄介なんだ。

ルンバの布団を踏みしめる音が聞こえてくる。

先程、女将が部屋に来た時とは違う緊張感に襲われる。こっちはちっとも楽しくないぞ。

近付いてくるルンバにタイミングを合わせて、俺は息を潜める。

「んー? ここか? おっ! ここに――」

バッと布団が剝ぎ取られた瞬間、俺はサイキックで枕を高速で撃ち出した。

魔法の力によって大人顔負けの剛速球で飛んだ枕は、ルンバの顔面へ直撃。

確かな手ごたえを感じた俺だが、背筋に悪寒が走ったので身を投げ出す。

ダンッ!

すると、つい先程まで俺が寝転んでいた場所に枕が突き刺さった。

……おかしい、布団を敷いているというのに直接畳に叩きつけたような音がした。

顔面に枕を食らいながら、手首のスナップだけであの威力。相当なタフさと攻撃力だ。

「いやあ、驚いた。いきなり枕が飛んでくるとは思ってなかったぜ」

「こっちも顔面に枕をぶつけたのに、枕が飛んでくるとは思わなかったよ」

それなりの速さの枕を顔面に受けたのにも関わらず、ビクともしていない様子だ。

獰猛な笑みを浮かべて枕を拾い上げるルンバに対して、俺はそこらに転がる枕にサイキックを発動。枕に魔力が宿り、俺の周囲を十個の枕が守護するように浮遊する。

「へへへ、魔法を使ってくる相手と枕投げは初めてだから期待してるぜ」

『おお、魔法だ! 一度に十個の枕を浮かべるなんて!』

『あれ全部飛ばせるのか?』

『……枕投げに魔法を使う奴がいるとは』

枕投げで騎士の陣形を使うギュンターには言われたくない。

「今度はこっちから攻撃だ!」

ルンバが全身の筋力を使うように体を捻り、腕を振り上げる。

それは今までにないタメを含んでおり、盾を持った重兵を吹き飛ばした威力以上の秘めている事は想像できる。

そして、筋肉の盛り上がったルンバの腕から枕が投げつけられた。

盾一枚では防ぎきれないと判断した俺は、床にある布団五枚にサイキックを発動。壁を作るかのように起立させる。

空気を押しのける枕が盾に突き刺さり、一枚、二枚、三枚と押しのけ、四枚目でようやく止まる。

布団三枚じゃなくて、多めの五枚にしておいて良かった。

「……やるなあ。結構力を込めたんだが」

攻撃を防がれたというのにルンバが楽しそうな顔をする。

『おお、あの攻撃を防いだぞ』

『ということは、ルンバの全力は盾二枚じゃ防げないということか』

『俺達が絶え間なく攻撃を浴びせていけば、そうそう全力投球はできないだろう』

『これなら勝てるんじゃないか?』

喜びの声を上げる商人達をしり目に、俺は反撃とばかりにサイキックで枕を飛ばす。

「よっ! ほっ!」

男の急所である股間と脳震盪を引き起こせる可能性がある顎を狙ったのだが、どちらも腕で叩き落とされた。

『躊躇なく股間を狙うとは……』

『こっちも敵になったら恐ろしいな』

サイキックによる同時操作は手数が重要なので、気にせずにルンバの急所を狙い続ける。

人体には他にも様々な弱点があるが、枕ほどの面積の大きい物で狙うとなるとやはり顎と股間が一番だな。股間と脳はどうしても鍛えられることができないからな。

やらなければ、こちらがやられるので無慈悲に狙い続ける。

枕が叩き落されれば、またサイキックを発動させて自分の弾に。

ルンバに向けて真っ直ぐに飛ばすのではなく、カーブやフォークといった変化球、空中での一時停止とスピードにも変化を織り交ぜる。

途中でルンバが投げてくる枕は、全てサイキックで俺の支配下におく。

ふふふ、枕を投げれば投げるほどこちらに有利になるのだよ。

「アル! 性格が悪いぞ!?」

防戦一方になったルンバがそのようなことを叫ぶ。

これだけフェイントを織り交ぜているのに、致命傷への一撃を避けるとはBランク冒険者の実力は伊達じゃないな。

「こうでもしないとルンバは倒せないからね」

「……やっぱり魔法使い相手に遠距離は不利だから、近付いてぶん殴るしかねえな」

「ちょっと待ってルンバ! 枕投げだよ!? ちゃんと枕の投げ合いをしようよ!?」

ルンバの不穏な台詞を聞いた俺は焦る。

「最初にトリエラが枕ありなら殴っていいって言っていたじゃないか」

くそ、ルンバの癖に覚えていやがったか。

ステップによる回避と迎撃に専念していたルンバが、じわりじわりと近付いてくる。

ルンバを近付かせることだけは絶対にいけない。

ルンバに殴られれば、枕越しであっても気休めにしかならない。

身を低くして突撃してくるルンバを近付かせまいと、サイキックで布団を引っこ抜こうとする。

「それはさっき見たぜ」

「チッ」

が、ルンバが思いっきり布団を踏みつけたことでピタリと動かすことができなかった。

アーバイン達のようにこけたところで袋叩きにしてもらう予定だったのに。

『枕を投げろ! ルンバを近付かせるな!』

ギュンターさんもマズいと感じたのか、枕を奪われるリスクを冒しつつも攻撃を命令する。

一斉に枕が投げつけられる中、俺もそれに便乗して枕を射出する。

「そら! これでも食らえ!」

ルンバが足下にある布団をこちらに蹴り飛ばし、盾にすることでそれらを防いだ。

足下にある布団がいくつも舞い上がって俺達の視界を防ぐ。ルンバの姿が俺達の視界から消える。

これはヤバい。

『全員接近戦に備えろ! ルンバが来るぞ!』

ギュンターの焦ったような声が響く中、黒い影が俺を覆う。

獣のような凶暴な気配を感じた俺は、近くにあるありったけの布団をサイキックで引き寄せて防御する。

パンッという布団を思いっきり叩いたかのような音が響き、殺し切れなった衝撃が伝わってくる。

後ろに仰け反った俺はゴロゴロと転がって後退。そしてすぐに立ち上がる。

凄いな、布団を干す時に思いっきりトンボで叩いたかのような音がしたよ。

「おっ? 防がれたか?」

しまった、さっきの攻撃を受けて気絶したふりでもしておけばよかった。すぐに追撃をされないように立ち上がる稽古の癖が仇になった。

『うおー!』

「ふん!」

『ふぶっ!?』

商会のメンバーが勇ましくルンバに接近戦を挑むが、ルンバの枕叩きを腹に貰い、ゴロゴロと転がってピクリとも動かなくなった。

『……あ、あれは殴ったんじゃないか?』

『……い、いや、枕だけが直撃していた』

『そんな……』

ルンバの枕殴りを目にして商会メンバーが恐れ慄く。

俺も見たけど確かにあれは枕だけしか直撃していなかった。

「ギュンターさん! ルンバを囲みましょう!」

『お、おう! 皆でルンバを囲め!』

『『おう!』』

ギュンターの声を合図に、皆がルンバを取り囲むように動く。

こいつを好きにさせてはいけない。

「おお? 取り囲んで俺をどうする? 接近戦には自信があるぜ?」

二十人以上の男性に取り囲まれたルンバだが、怖気づいた様子はない。むしろ、これからどうするんだと楽しみにしている様子だ。

『アルフリート様、作戦はありますか?』

頬に冷や汗を垂らしたギュンターが小声で尋ねてくる。

「……ルンバの浴衣の帯を取りましょう」

『取ってどうするので?』

「帯さえ取れれば服が脱げます。服が脱げれば股間が露わになるのでそこを全員で袋叩きにしましょう」

やはり顔への防御は硬いので、股間を狙おうと思う。股間を両手で塞いだなら顎を思う存分叩いてあげればいい。

『名案ですね。それなら私達は帯を使って攻めるとしましょうか』

ギュンターがフッと笑いながら自分の腰の帯を抜く。

すると商人達も察したのか何人かが己の帯を取り払う。

しゅるりと衣服が擦れる音がして、男性達の引き締まった太ももが露わになった。

非常に美しくない光景である。

「お、おい? 急にどうした?」

商人達の行動をルンバが訝しむ。

『私達は商人です。荷物を固く結ぶのも亀甲縛――人体を拘束するのもお手の物ですよ。ルンバの動きを封じて仕留めてみせましょう』

ギュンターの言葉に商人達が鷹揚に頷く。

カッコいい台詞の中におかしな単語が聞こえたのは俺だけだろうか?

『行くぞお前達! ルンバの腰布を奪え!』

『『おうよ!』』

ギュンターの声を合図に一斉に男達が帯や枕を手にして駆け出す。

ああ、帯を取ったせいか浴衣が緩んで見えてはいけないものが見えてしまう。

「狙いは何だかわからねえが、帯を取る気だな!? よくわからんが嫌な予感がするから渡さんぞ!」

『帯を取れ! 剥け!』

『足に取り付いてでもいい! 動きを止めるんだ!』

『帯で縛れ!』

『帯を取ったら股間殴りだ!』

男達がルンバに取り付いて、帯を引き抜こうと必死になる。

「さっきまでビビってた癖に何だこいつら!? 股間殴りなんて冗談じゃないぞ!?」

ルンバは男達の勢いに押されつつも、枕を使って取り付いてくる男達を枕で殴りつける。

組みついてきた奴を豪快に放り投げる。

俺の目の前に男が転がってきた。大の字になって白目を剥くのはギュンター。

自分の帯を引き抜いて襲いかかったせいかモロに股間が見えている。最悪の絵面だ。せめてうつ伏せになってほしい。

ルンバに迎撃される者を少しでも減らすために、俺はサイキックで枕を顔面に飛ばしたり、腕に直撃させたりと援護する。

そうやって男達が犠牲を出して攻め続ける中、一人の男が高らかに帯を掲げた。

『帯を取った! 帯を取ったぞ!』

そんな朗報を聞いて喜びの表情を見せる男達。

「くっ!」

帯を取られただけだが、ルンバが今回の枕投げ大会で初めて苦渋の表情を見せた。

『よっしゃぁ! 後は帯で動きを封じて股間を叩くだけだ!』

『へへへ、やられた仲間の分を返させてもらうぜ!』

絶対的な強者が弱みを見せたことにより男達が一層活気づく。

「ちくしょう、お前の帯をよこせ!」

ルンバが相手の帯を解いて自分の物にしようとするが、そんな事をさせる商人達ではない。

得意の縄芸を披露して、ルンバの腕に帯をかけていく。

「ぐっ! この! 股間を殴られてたまるか! おらぁっ!」

しかし、それでやられるルンバではない。

帯に腕の動きを阻害されながらも力でねじ伏せて男達を吹き飛ばす。

『おい、女――ぐぎゅっ!?』

股間を殴られるという種の危機に直面しているせいか、凄い馬鹿力だ。

入り口の方まで飛んで行った男達もいる。

獣は止めを刺す間際が一番恐ろしいというノルド父さんの言葉がわかった気がする。

『いける! いけるぞ!』

『あとは押し倒して股間を叩いてしまえ!』

「そうはいかねえぞ!」

商会の男達は残りが十人と少なくなっているが、彼らの勢いと縄技術、そして俺の魔法による援護があれば倒せるはずだ!

であるはずなのだが、どうも俺の第六感が危険だと警鐘を鳴らしている。一体どういうことか? 何か見落としていることがある気がする。

妙な胸騒ぎを感じていると、突然入り口の扉が開いてアリューシャがひょっこりと顔を出してきた。

「ちょっとあんた達! さっきから騒がしいんだけ――きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」

「どうしました!? アリューシャさん? 男性の部屋に何かあるんで――ひゃああああああああああああっ!?」

続いて顔を出した女将も顔を真っ赤にして逃げ去った。

「「…………」」

『『『…………』』』

呆然とする俺達。

ふとこの部屋を見渡せば、股間丸出しの男がゴロゴロと転がっており、中央では十人以上もの男が半裸になって掴み合っていた。

女性陣が叫んで逃げ出すのも納得の光景である。

この後、三之助がやってきてしこたま説教された。