軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

船旅の終わり

トリーの言葉によって和やかな俺の気持ちは即座に消え失せた。

ソードフィッシュといえばイリヤがエスポートで解説していた、カッターナイフの如し鋭いヒレを持つ魚ではないか。

「確か大群で来られたら、危険な魚なんじゃ……」

俺がそのようなフラグ的な台詞を呟いてしまったせいか、次々と銀色のソードフィッシュが浮上してきた。

青々とした海で、銀色の大きなヒレを持つ魚が大群で飛び跳ねる。

このまま飛び跳ねる姿をじーっと眺めたくはあるが、相手はカッターナイフを装備した危険な魚のようなもの。和やかに観察している場合ではない。

「皆さん! ソードフィッシュの大群が近付いてきたっす!」

このような経験が何度かあるのか、トリーが冷静に声を張り上げる。

それにより甲板ではしゃいでいたアーバインやモルト、ルンバといった面子が真面目な顔つきになる。

「バカ野郎! お前達! 何のために物見にいるんだ!」

船長であるダグラスが物見にいる船員に怒鳴りつける。

「すいません! 急に浮上してきたもんで気付きませんでした!」

まあ、近くでいきなり浮上してきたからね。遠くを見るのに意識を割いている物見が見逃すのも仕方がないと思う。一番近くにいた俺とトリーでさえ先程気付いたばかりなのだから。野生的な察知能力を持ったルンバが俺達の傍にいればすぐに気付けたのかもしれないが。

「わかったから、お前達は他に何かいねえか遠く警戒してろ! 他の奴等は近辺だ!」

「「はいっ!」」

渋い顔をしながらも即座に命令を出していくダグラスさん。

船員達が周囲の警戒のために勢いよくシュラウドを登っていく。

「風魔法をやめてスピードを落としたら回避できる?」

メインマストの下にいるアリューシャが杖を掲げながら叫ぶ。

ソードフィッシュが並走しているのならばこちらがスピードを下げれば、ソードフィッシュの突撃を回避できるかもしれない。

「いえ、ここまで近付いたら回避できるかわかりませんから、アリューシャとアルフリート様はこのままスピードを維持してください。私が魔法で群れを散らしますので」

「わかったわ!」

「わかったよ」

いつものイリヤの優しげな声とは違った、力強い声に安心しながら返事をする。

相手は何を考えているかもわからない魚なのだ。気まぐれに進路を変えるかもしれないし、追っ払った方が確実だと思う。

「後ろからは何も来てないぜ!」

「前や右側もだ!」

それぞれの方角の近辺を確認したアーバイン、モルト、ルンバが声を上げる。

テキパキと動き、それぞれが考える銀の風のメンバーが頼もしい。

伊達に船の護衛依頼を任されるパーティーではないな。海の魔物への対処に立慣れた感じがする。

「アルフリート様は危ないのでアリューシャの近くにいてください」

感心しながら銀の風のメンバーを眺めていると、こちらにやってきたイリヤが俺に注意を促した。ここにいればソードフィッシュがイリヤの迎撃を抜けて突撃してくるかもしれない。

単体であってもナイフが飛んでくるに等しい奴等なので、俺は迷わずアリューシャの傍で魔法を維持する。本当は船室に引っ込んだ方がいいのだが、風魔法を維持するという名目で見学をする。

大丈夫。いざとなったら全力でシールドを張って防御するから。

俺の前ではルンバが大剣を担ぎ、その隣ではモルトが円形の盾を構えて立っているので安心である。

モルトについてはゲイツのようにならないことを祈っておこう。俺がモルトをシールドで守らなければならないというような状況は勘弁してほしいから。

船の左側ではパシャパシャと水飛沫を上げながらソードフィッシュがこちらに近付いていた。これが全部跳ねるナイフだと思うと、肝が冷える。

やっぱり海の魔物は一味違うんだな。

普通の魚であればサイキックで網を飛ばして大漁にゲットして晩飯確保だというのに。

相手がソードフィッシュだと鋭いヒレで網を切り裂かれてしまうので残念だ。

俺がそんな事を考えていると、ソードフィッシュの大群の迎撃担当であるイリヤが杖を掲げて呪文を唱えた。

「『我は求める 猛る灼熱と弾けし業爆を』っ!」

裂帛の声と共に杖が振るわれる。

するとイリヤの杖の先端から小さな炎が出現し、ソードフィッシュの群れへと飛んで行った。

確か魔法書では爆発系統の呪文だと記されていたが、随分とショボい魔法だと思えるな。

ぼんやりと視線をおくっていると、ソードフィッシュの真ん中に到達した炎がカッと光り、次の瞬間、轟音を上げて爆発した。

その衝撃で多くのソードフィッシュが弾け飛び、大量の海水が立ち上る。

遅れてやってくる風圧や波による揺れはルンバのズボンを掴むことで俺は堪える。

そして遅れて打ち上げられた海水が降り注いできた。

「気をつけろ! ソードフィッシュが降ってくるぞ!」

爆発によって打ち上げられたソードフィッシュと共に。

上を向いて叫び声を上げるルンバ。

物騒な切れ味をもった魚が降って来ると聞いて、俺は慌てて風魔法を中断して無魔法のシールドを頭上に展開。

「アリューシャ!」

「わかってる! 『我は求める 吹き荒れる風の障壁を』っ!」

モルトの声に応じて、アリューシャが呪文を唱えて杖を振るう。

それによって船の上を覆うかのように風が渦巻き、降り注ぐ海水やソードフィッシュを外へと弾いた。

……俺ってば自分を守ることしか考えていなかったな。アリューシャのように風魔法を応用すれば防げたというのに。咄嗟の事とはいえ、自分だけ殻に籠ったことが恥ずかしい。

魔法の制御はできても、正しい場面で正しい魔法の選択をできなければ意味がないと思った瞬間だった。

だがまあ、俺は冒険者になるつもりでもないから必須のスキルではないと思うのだけれどね。コリアット村にこんな凶暴な生物はいないし。

あくまで俺の目的は豊かなスローライフを送ることであって、魔物から人を守ることではないのだ。俺はそんな物語に出てくるような主人公や英雄でもないし、最低限の自衛はできるので良いじゃないか。そんなわけで俺は開き直る。

降り注ぐ海水が止み、ソードフィッシュの大群がいた左側を見ると、そこには飛び跳ねるソードフィッシュの姿がなかった。

ほとんどが弾き飛ばされたか、爆発の衝撃で遠くへと行ってしまったようだ。プカプカと浮いている個体は爆発の衝撃で気を失ったか、ショック死した個体であろう。

なるほど、海に爆発魔法を放てば相手のショック死を狙えるし、泳いでいる奴等は波で追い流せるわけということか。

中々いい戦略である。ただ船の転覆の可能性や、降り注ぐソードフィッシュには注意しなければならないが。

「全員無事か?」

イリヤの爆発魔法が落ち着き、ソードフィッシュの大群が流されたところでダグラスが声をかける。

口々に返ってくる返事によって、怪我人が誰もいないことがわかった。

上にいた船員は爆発魔法を使うだろうと予測していたためか、しっかりシュラウドやらロープに掴まっていたようだ。危険な船旅をする船員達は逞しいな。

「おい、モルト。ソードフィッシュを回収するぞ。エスポートでイリヤが食べると美味いって言ってたし」

「ああ、塩焼きにするといけるんですよね! 特に筋肉の発達したヒレ回りとか!」

あと、冒険者達も。

その後は、ソードフィッシュの大群が突撃してきたりすることはなく、俺が風魔法で船を加速させることでその日は大いに進むことができた。

あそこの海域は魔物が多いらしく、風も少ない。そのせいかよく魔物に襲われるのがいつものことらしい。

そんな危険な海域にいても楽しくもなんともないので、俺はダグラスさんの許可が出ている時は、それ以降もずっと風魔法を使っていた。

ちなみにソードフィッシュの塩焼きは、白身ながらもあっさりとした味をしつつも、発達したヒレ回りは濃厚な味をしていて美味しかった。

途中で岩垣からザリガニのような魔物やヤドカリのような魔物が出てきたが、風魔法による加速や、船員さんの操舵技術によって飛び移られることもなく戦闘は避けられた。

ただ最後にシーサーペントを見かけた時は凄くビビった。あんな奴が体当たりでもしてきたら一発で船が沈みそうだと思ったからだ。

船底に穴なんて空けられたらどうしようもないしな。人間とは海の魔物に対してなんて無力なのだろうか。

あんなのとまともに戦闘なんてやってられないよ。

そうやって風魔法をできる限り使いながら移動すること五日。

本来の予定日数よりも一日早い六日目にして俺達はカグラに到着した。