軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海水? 何それ美味しいの?

「おお、ここが港町エスポートかー」

キッカから馬車に揺られ続けること四日。

俺達はアルドニア王国にある港町エスポートにたどり着いていた。

建物は白を基調とした色で統一され港を中心に広がっている。

港には大中小の帆船が港についており、その多くが運んできた荷物を下ろしたり、荷物を積んでいるところであった。

『おらー、さっさと運べ。ちんたらやってたらいつまで経っても終わんねえぞ!』

『『へい!』』

長い航海によって日焼けした屈強な男達が活気ある声をあげて動き回る。

キッカ同様に多くの品々や人が流れ込んでいて賑々しいのだが、キッカとはまた違った活気があった。

すぐ近くに海があるせいか、人々の喧騒に交じって波の音が聞こえてくる。

海だ。この世界での初めての海。

この世界に転生してから一度も見たことがなかったので、かなり新鮮味があるな。

コリアット村は山々に囲まれているせいか、海なんてないのだから当たり前か。

こんなゆっくり海を眺めたのなんて何年ぶりだろうか?

この世界に住む普通の村人ならば海を見る事なく生涯を終える者も多いと聞く、例え前世で見た事があろうと貴重なことなのには変わりない。しっかりと堪能しようと思う。

大きく息を吸えば、海から流れてくる風によって潮の香りが運ばれてくる。

「アルフリート様はコリアット村出身だから海は初めてだろう?」

「コリアット村には海はないからな」

俺が港に降りて海を眺めていると、樽やバケツを持ったアーバインとモルトがやってきた。

他のメンバーは積み荷の整理とかをやっており忙しそうだ。この二人は海水でも汲みに来たのであろう。

「うん、そうだよ。凄いよね。これが全部水だなんて」

いや、見た事あるよ。というのもおかしいのでここは無知なフリをしておく。実際この世界の海を見るのは初めてなので嘘ではない。

俺がそんな風に答えると、アーバインとモルトが悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうせしょうもない事を企んでいるのだろう。

「知っているか? 海の水ってのはとても美味いんだぜ?」

「ああ、川の水のように澄んでいるからのど越しもいいから飲みやすいんだ。飲んでみるといいぜ!」

こいつら俺が海水のことを知らないと思い込んで嵌めようとしているな。

爽やかな笑顔の下に隠された邪気をビンビンと感じる。

ここは敢えて目論見に乗ってやるか。

「そうなの? じゃあ、飲んでみようかな」

「おう! 俺達がすくってやるから待ってな!」

ビシッと親指を立てて、海水の傍にまで降りていく二人。罪悪感はないらしい。

むしろ今まで見た中で一番の笑顔だ。

アーバインとモルトが樽を沈めて海水を汲んでいく。

樽を海水で満タンにしたあと、バケツにも海水を入れて戻ってきた。

アーバインが革製の水筒の中身を捨てて、バケツの海水を汲み上げる。

そこまでして俺に飲ませたいんだな? 水筒なんかで汲まれたら無知な人はゴクゴクと飲んじゃうじゃないか……。

「ほいよ! ゴクゴクといってみな!」

ゴクゴクといったら塩分の過剰摂取で逝ってしまうわ。

「うん、ありがとう」

アーバインの邪気百%の笑顔と共に差し出された水筒を受け取る。

今頃奴等は心の中でほくそ笑んでいるのではないだろうか? だがそうはさせない。

「アーバイン達もここに来たらいつも飲んでいるの?」

「あ、ああ! そのために俺達は樽一杯に海水を汲んでいるんだぜ。当たり前じゃないか」

言質は取りました。

「そうなんだ。じゃあ飲むよ」

俺は水筒を一気に傾けて口の中に海水を放り込む。

その瞬間、視界の端でアーバインとモルトが顔を歪ませているのが見えた。

通常ならここで吐き出すはずだが、そうはいかない。

俺はマジックの要領で口の中で空間魔法の収納を発動。口の中にある狭い空間が亜空間となり、ドバドバと海水が流れ込む。

亜空間に収納されたので海水は一切俺の身体に入らない。

なので、海水をいくら流し込んでも平気だ。念の為に俺は演技で喉を鳴らして、さも美味しい水のように味わう。

「「……………………あれ?」」

俺が余りのしょっぱさに海水を噴き出すとでも思っていたのだろうか? アーバインとモルトが呆けた声を漏らす。

お互いに顔を見合わせて目を丸くしている様が面白い。

戸惑う二人をよそに、俺は口の端からわざとこぼした海水を拭うような仕草をし。

「ぷはぁー! 美味しいね! とても澄んでいて喉越しがいいよ!」

「「…………お、おう」」

表情を引きつらせて曖昧な返事をする二人。

それから二人は耳を寄せ合い、ひそひそと小声で話をしだした。

「どうなってんだ? 俺達が汲んだのは海水だよな? 塩水だよな? どうして平気なんだよ?」

「知らねえよ! 俺にも意味がわからん! アルフリート様は舌がぶっ壊れているとかじゃねえのか?」

失礼な。俺の舌は正常である。

二人がひそひそと相談している隙に、俺は空になった水筒を樽へと沈めて満タンにする。

「ほら、アーバインとモルトも飲みなよ。美味しいよ?」

俺が無邪気な笑顔で差し出すと、途端に二人はバツが悪そうな顔をする。

「えっ? い、いや、俺は別にいいかな? 喉乾いてないしな。モルト、お前飲めよ。さっき喉乾いたって言ってただろ?」

「はあああっ!? お前俺を売るなよ!?」

「美味しい水なんだし喉が渇いていなくても飲めるよね? いつも美味しく飲んでいるんでしょ? 澄んでいてのど越しもいいんだよね?」

「「……………………」」

この後二人は、海水を霧状に噴き出して虹を作った。

海水を子供の俺に飲ませようとした二人は、アリューシャに叱られて重労働を課せられた。

海水を一気飲みしたと思われた俺は、アリューシャとイリヤに心配されたがマジックで消したということにして誤魔化した。

実際に道中でも消えるマジックは見ているのだ。

だが、納得はしているが納得できないという表情をしていた。

荷物の発注、宿の確保、ここでの商売などなど。俺とルンバに出来ることは何もないので、お昼までは自由となっている。

お昼にはこの港町ならではの名物、海鮮バーベキューを皆でやるとのことなので楽しみだ。

トリーが俺の驚くものを用意してくれていると言っていたのが気になる? 一体なんなのだろうな。

何はともあれ、その場所にきちんと集合するためにも今回は案内役としてイリヤが同行してくれている。そのお陰で今回の観光は華やかになりそうだ。

「本当にお身体は大丈夫なんですか?」

「本当に大丈夫だよ。飲んでないから」

どうやら俺が塩水を一気飲みしたと疑っており、後で倒れないかの監視もあるらしい。

俺の腎臓はそんなにタフじゃない。本当に飲んでいたとしたら身体が塩分を排出しようとして、今頃脱水症状になっているだろう。

「そうですか? 何か体調に異変があればすぐに言ってくださいね?」

心配性な彼女は不承不承といった感じで引き下がったが、今も心配げな様子だ。

「海鮮バーベキューが楽しみだな!」

隣を歩くルンバは特に何も心配していない。いつも通りの平常運転である。

「そうだね! 獲れたての魚介類を味わえるんだから楽しみだよ」

「そうですね。ここにある魚介類は全て獲れたてですから、凄く美味しいんですよ!」

すでにここに訪れた事のあるイリヤが、白い肌を上気させて言う。

コリアット村では魚介類を食べることほぼできないからな。精々冷凍で運ばれた鮮度の低い魚が届くくらいであろうか。ほとんどは川魚や手長エビなどである。

七年ぶりに海の魚や貝……そうぞうするだけで涎が出てきそうだ。

網で焼く海鮮料理は美味しいだろうな……。

期待に胸を膨らませながら、俺達は舗装された石畳の道を歩く。

ここはキッカほど混雑していないせいか、俺達が横に並んでも問題ないくらい。

一応、俺が子供というか護衛対象なのでルンバとイリヤが俺を挟み込むような陣形になっている。

並び方だけは家族のように思えるが、俺達三人は余りにも似ていないのでそう思う人は恐らくいないだろうな。

道の端には今朝揚がったばかりであろう魚達が所狭しと並んでいる。

銀色の皮に黒い斑点模様を散らした魚。お腹にはたっぷりと脂がのっているようで丸々としている。全長は八十センチくらいで、マダイくらいの大きさはあるんじゃないだろうか? こんな大きな魚をこの世界では見た事がない。

「それはギンジョウですね。膨らんでいるお腹を見てわかる通り、脂が乗っているんでとても美味しいんですよ?」

異世界の魚を興味津々に覗いていると、イリヤさんが身を屈めて説明をしてくれた。

イリヤさんが屈むと胸がさらに強調されてとんでもないことになっている。

下から見上げるのでイリヤさんの顔が見えづらいな。

まあいい。今は膨らんだ胸より膨らんだお腹をした魚さんだ。

ギンジョウの隣に視線を移せば、背中部分が青く黄色い縞模様のついた全体的にシャープな魚が。ヒレの部分がとても尖っていて触れれば手が切れてしまいそうである。

キッとつり上がった目をしており、顎が大きく尖っている。ぎらついた刃物のような魚だな。

「隣の刃物みたいな魚はソードフィッシュです。ヒレの部分は刃なので触ったら危ないですからね?」

「またソード系なの!? 怖っ!」

アルドニア王国には物騒な生き物が多いな!

「これって水面から飛び跳ねてきたりするんじゃ……」

「はい、水面付近を泳ぐ魚です。攻撃的で人間を襲うというわけでもないんですが、大群で跳ねてこられると非常に危険です」

どうしよう。あとは海を渡ればカグラに到着だというのに帰りたくなってきた。

「実際にソードフィッシュの大群が船にやってきたらどうするの?」

「私とアリューシャの魔法で追い払いますよ! ソードフィッシュくらいなら何度も追い払ったことがあるので大丈夫です!」

にっこりと笑みを浮かべて答えるイリヤ。

カッターを装備して突っ込んでくるような魚でも「ソードフィッシュくらい」なのか。

それ以上の生物はどうなるのか。思えばこいつは魔物ではなくただの魚だ。ただの魚でこれなら海の魔物はどんな化け物なのか。ちょっと聞くのが怖い。

ノルド父さんがルンバなしで航海を渋っていた理由がわかった気がする。

「ははは、こいつの顎ってゲイツみたいだな」

イリヤの説明を聞いたのにも関わらず、ルンバは恐れることなくソードフィッシュのヒレを摘まんで笑っていた。

確かに顎のところがゲイツとよく似ている。あいつってば今頃何しているだろうな。