軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【コミカライズ開始御礼】ローザは「受け」を増やしたい(後)

なんだか頭がふわふわするな、とローザが気付いたのは、レナードの隣に座り込んでから、しばらくも経たぬ頃だった。

そんなに強い酒だったのだろうか、と傍らに転がった瓶を見やり、ようやくそこで、半透明の瓶の中に、ハーブのようなものが入っていることに気付く。

(ハーブワイン……?)

まさか危険なものを飲んでしまったろうか、と一瞬冷や汗が滲んだが、横のレナードも同じものを飲んでいるし、呼吸困難など劇的な症状もないので、危機感は徐々に緩んでいった。

いいや、それどころか、物思いがふんわりと溶け出すような感覚があり、心地がよい。

「――でさ。挙げ句に『役立たず』とか『もっとしっかりしなさいよ』ってさんざん罵られて。なんかもう、馬鹿馬鹿しくなっちゃってさあ」

レナードが語る声も、うわんうわんと反響して、よく聞こえない。

油断すると体がふらつきそうになる中、ローザは必死に言葉をかき集め、なんとか、レナードの身に起きた不幸を把握しようとしていた。

「ええと……それは……さぞ、おつらかった、れしょう……でしょうね」

なぜだか、呂律もよく回らない。

「うん。なんかさぁ。世界がこう……ガラガラーってね、崩れて、一変しちゃったっていうか」

「わかります。世界が……世界がね。変わるのれすよね」

「もう女の子を口説いて回る自分なんて、想像できないよ」

「ええ、ええ。わかります」

朦朧としはじめたローザをかろうじて支えているのは、ひとえに薔薇愛への執着であった。

どうやらレナードは大変な不幸に見舞われ、よくわからないけれど周囲の女性陣にディスられ、女好きキャラ卒業を決めたらしい。

今彼は、世界が変わったと言った。

なるほど女を愛でる世界から飛び立ったなら、あとはもう、殿方同士で愛し愛される新しい世界に向かうしかないだろう。

もちろんそんなはずはないが、理解力を低下させたローザにかかれば、そうとしかならなかった。

「……へえ。わかる?」

不意に、レナードの声が低くなる。

「俺の気持ちが、ローザちゃんに」

「わか、わかります。一般的には、なかなか理解を得られないかもしれないけれど……わたくしには、わかります」

ローザは、滑舌の甘い己に活を入れるべく、ぐっと腹に力を込める。

それから、熱っぽい瞳でレナードのことを見つめた。

「わたくし……今初めて、本当のあなたに、触れた気がします」

潤んだ世界の向こうに、こちらを振り返るレナードの姿が見える。

その秀麗で、軽薄そうな顔を、ローザは新鮮な感動を持ってしみじみと眺めた。

(ああ……わたくしはなぜ今まで、気付かなかったのかしら)

彼は軽薄なチャラ男くん。

「俺様攻め」とするには風格が足りず、「ヤンデレ攻め」とするには狂気が足りない、つまり「攻め」としては中途半端な人員だ。

だがどうだろう。

その、寂しがり屋なあり方。

周囲からの評価を気にして止まないいじらしさ。

弱さを指摘されただけで世界が崩壊するほどの衝撃を受けてしまう繊細さ。

これは――まさに、天性の「受け」素養だとは言えまいか。

そう思えば、なんだか途端に彼が魅力的に見えてくる。

ボディタッチの多さは寂しがりやな性格の表れ。

馴れ馴れしい態度は強がりの表れ。

(そう。彼こそは、意地っ張りで、けれどその実愛されたがりの……「チャラ男受け」!)

全身を稲妻が貫いたかのような感覚に、ローザはふるりと身を震わせた。

そうだ。

そうだったのだ。

これこそ、「攻め」過多な騎士団を麗しき薔薇園へと進化させる、たった一つのエレガントな答え。

遊び人で軽薄な、中途半端に攻め攻めしい騎士たちは皆、「チャラ男受け」へとジョブチェンジさせてしまえばよいのだ。

「はっ。わかる、ねえ。――世界が掌を返したように、一日ですべてを失う経験なんて、あんたにわかるとも思えないけど」

レナードが俯いたまま呟く。

密かな憎悪の籠もった声であったが、ワインと――そこに含まれていた鎮静剤でラリったローザは、なんら危機感を抱かず、むしろ鼻をふんすと鳴らして相手に詰め寄った。

「なにかを失ったということは! なにかを得たということではないでしょうか!」

彼女はこの、騎士団薔薇化計画の命運を突如握ることとなった青年を、絶対に手放すわけにはいかなかったのだ。

彼を「チャラ男受け」として開花させる。

その可否に、薔薇界の展望が託されているのだ。

ローザはぐっと身を乗り出し、言い募った。

「あなたに冷ややかな態度を取りだした女性がいた。それはきっと事実でしょう。けれど、よく思い出してみてください。きっとその冷ややかさを上回る、熱い視線を向けだした誰かも、いたのではありませんか!?」

彼女はレナードになんとか気付かせたかった。

女性にちやほやされるだけの世界になんて、もうしがみつかなくていいと。

見切りを付け、視線を逸らしたその先に、きっと熱い視線を向けてくる「攻め」はいるのだと。

「有象無象からの好意を求めるのを止めたその先に、本当にかけがえのない存在が見えてきたのでは!?」

だが、レナードは煩わしそうに身を引き、吐き捨てた。

「そんなのいるもんか。どの女の子も結局は、俺のうわべに群がってただけだったんだ。一度でも失敗したら、それで終わり」

「女性の話はいったん措きましょう! 仲間は!? ご友人は!?」

「は?」

レナードは一瞬怪訝そうな顔になったが、すぐに「真の友情とかってことか?」と呟き、首を横に振った。

「ないね。はは、それどころか、騎士団の連中のうち何人かには、すっげえ睨まれたよ」

(熱い視線を向けられたということ!?)

「騎士団でつるんでたやつらとも、今じゃもう、全員とぎくしゃくしてさ」

(まさか全員で、レナード様を巡る争いを!?)

「だってあいつら、友人面しておきながら、心の中では『おまえに、人の上に立つ資格なんてなかったんだ』とか呟いてんだぜ」

(え!? 世間的には友人のフリをしながら、内心では「おまえは俺の下になるのがふさわしい」と思っていた!?)

レナードはそんなことかけらも言っていなかったが、ローザ流の翻訳に掛かればそうなる。

(こ、これは……来ちゃっているのでは!? 騎士団に、恋のビッグウェーブが!)

全身にぞくりと腐るえが走る。

レナードを「チャラ男受け」に導くのは長期戦になるかと思いきや、すでに彼は、いいや、騎士団全体が、その世界に足を踏み込んでいるのではあるまいか。

少なくとも、理解力を低下させたローザには、そのように思われた。

「レナード様!」

よってローザは、一層前に身を乗り出し、強く訴えた。

「もっと……もっとお話を聞かせてください。わたくし、絶対あなたの助けになると誓いますから!」

なんてことだ。

騎士団に大ラブアフェア時代が到来していたなんて。

絶対にこの波を逃すわけにはいかない。

アドバイザーとして参与し、より深く、より迅速に、レナードとのかけ算を成立させてみせる。

燃えるような決意が、ローザの瞳を深い紫色に輝かせた。

「へえ」

一方のレナードは、笑みにますます皮肉な色合いを強めた。

それはそうだ。

負の感情を読み取る呪いを得てしまってからこちら、彼はこうした「善意的な人間」が、どれだけ悪辣かを、ずっと突き付けられてきたのだから。

心配そうな顔をして、「おまえに囮をさせたばかりに済まないな」と詫びてきた騎士仲間は、その実、心の中では、レナードの指揮力不足を罵っていた。

見舞いに来た友人は、内心ではレナードの失敗を喜んでいた。

顔ではレナードの不幸を哀れみ、「癒やして差し上げたいわ」と申し出てきた恋人たちも、実際のところ、弱さを露呈したレナードに深く失望しているだけだった。

役立たず、弱い、見損なった、そんな忌々しげな声をどれだけ注ぎ込まれたことか。

討伐隊のリーダーなんて、もともと荷が勝ちすぎていたのだ。

なのにベテラン勢がいないから、お鉢が回ってきてしまった。

そもそもを言えば、上級貴族の子息がひしめく騎士団に、下級貴族の、それも庶出の自分が紛れ込んでいることからして、身の丈にあっていなかったのだ。

要領よく、軽薄な雰囲気の内側で、自分がどれだけ努力を重ねてきたか、おまえらは知らないだろう――レナードは誰彼構わず、怒鳴り散らしてしまいたかった。

自分にとって、「強い」だとか「格好いい」と褒められることが、周囲から認められることがどれだけ重要で、そのためにどれだけの労力を費やしてきたか、誰も知らないだろうと。

「そう言ってもらえるなら……俺の助けに、なってもらっちゃおうかなあ」

潤んだ瞳でこちらを見つめる伯爵令嬢に、ふらりと身を起こして向き直る。

「ええ。わたくしにできることなら、なんでも!」

「はは」

無邪気に言いつのる女に、憎悪の炎が勢いよく吹き上がる。

嘘つきめ。

これまで、善人面してすり寄ってきた女たちは、誰も彼も冷酷だった。

それはそうだ、彼女たちが求めているのは見栄えよく、体裁のよい「有能な騎士」であって、討伐で失態を演じ、呪いを受け、酒で必死に心を宥めている惨めな男ではないのだから。

(化けの皮を剥いでやるよ)

レナードはぎらりと瞳を光らせ、少女のほっそりとした腕を掴んだ。

そのまま、体がぐらついたのを利用し、勢いよく草むらに引き倒す。

「えっ……あのっ、大丈夫ですか!?」

相手は、レナードが酔いすぎて倒れてしまったと思ったのだろう。

なんとか肩を掴んで身を起こそうとする。

だがレナードはそれを振り払い、もう片方の手で一層強く彼女の手首を握り締めた。

「痛……っ」

一瞬、彼女の胸元が淡く光ったような錯覚を抱く。

だが、獰猛な敵意に全身を浸したレナードは、すぐにそれを意識の外に追いやり、至近距離からローザを見下ろした。

(さあ、この子をどうしてやろう)

すぐに流れ込んでくるだろう醜悪な本音を一つ一つ拾い上げて本人に聞かせてやろうか。

いいや、そんなまどろっこしいことよりは、服を引き裂いて、乱暴してしまえばいいのかもしれない。

あっさりレナードを見限って、侮蔑してきたすべての人間への復讐として。

ローザ・フォン・ラングハイムは王女殿下のお気に入り。

そんな彼女を害せば、今度こそ自分は、誰からも引き留められることなく、さっさと除隊させられるだろう。

牢獄行きかもしれない。

だが、善人面をしたやつらに毒を注ぎ込まれる未来を考えれば、悪人に囲まれていたほうがいっそましだ。

「なあ、それなら教えてくれないかな。今のこのしみったれた俺に、どんな価値があるのか」

レナードは自嘲しながら、ローザに囁いた。

「『無能』に転落した俺のことを、どうせ内心では馬鹿にしてんだろ――」

《素敵素敵素敵素敵! 人間らしい弱さや懊悩を表に出したレナード様って本当に素敵!》

だが、口汚く罵ってやろうとした矢先、それを上回るボリュームの「声」が、怒濤の勢いで脳内に流れ込んできて、レナードは咄嗟に動きを止めた。

「……は?」

《素晴らしいわこれはもう刮目して見ずに入られない今のレナード様には深みがある奥行きがある人間的な魅力が溢れている! これはもう騎士団の皆様もレナード様を気にせずにはいられない!》

聞き間違いかと思ったが、数秒腕を握ってみせても、やはり「声」は絶え間なく響いてくる。

徹頭徹尾、レナードを褒めちぎる内容だ。

「なにを……」

レナードは動揺した。

魔獣の呪いは、「負の感情」のみを伝えるものだったはずだ。

こんな、正の感情に満ちあふれた内容なんて聞いたことがなく、初めて耳にした「心からの賛辞」は、レナードをあまりにも無防備にしてしまった。

「レナード様。どうかそんな悲しいことを仰らないで。あなた様は『無能』になったのではなく、人間らしい弱さや葛藤、そういう、人に深みをもたらす経験をしただけ。わたくしは、今のあなた様のほうが好ましく見えますわ」

《わたくし、今のレナード様のほうが! すごくすごく! よいと思います!》

やはり何度聞いても、この少女の発言は、表の声と裏の声が一致している。

いや、幾分か心の声のほうがテンションが高いようだが、きっとそれは、ハーブワインで酔っているせいだろう。

酒や薬に慣れた自分ですら、少し意識が危うくなるくらいなのだから。

そうした微差はあるにせよ、内面にまで一切の悪意がない人間というのに、レナードは初めて出会った。

「……ローザちゃん……。それ、本気……?」

「もちろんです!」

「だって俺……失態晒して……途端に、みんな、掌返したように、馬鹿にして……」

「なにを仰るんです! レナード様は全力を尽くされたではありませんか! レナード様は頑張りすぎです!」

もごもごと反論すると、心の声までが一緒くたになって、それを遮った。

《もうもう! レナード様はもう少しご自身の弱さを許すべきだわ! そうよ、レナード様はもっと、守られてしかるべきよ!》

まさかそれが「『受け』にふさわしく、『攻め』から守られることにもっと慣れるべき」という意味とは知らぬレナードは、力強い断言に思わず絶句した。

《ああ。心の底から、レナード様にはもっと守られてほしいものだわ。周囲の全員からドロッドロに甘やかされて、愛されてほしい。レナード様はそうした環境がふさわしい方だわ》

しみじみとした述懐を聞き取り、レナードの目には、涙が滲みそうになった。

――もっと守られることに慣れるべき。自身の弱さを許すべき。

そんな、寛容で慈愛深い言葉を聞いたのは、ずいぶん久しぶりのことだったからだ。

強くあれ、有能であれ。

それは、庶出の自分が貴族の端くれとして認められるために、レナード自身が己に課した誓いだった。

彼が一見要領よくそれをこなすと、周囲も一層、要求を強めた。

格好いいわ。

理想の男ね。

わたしたちのことを守ってね、騎士さん。

擦り寄ってくる女性たちの賛辞は、どれだけ甘美に響き、レナードを奮い立たせてきたことか。

けれど同時にそれは、絶対にこなさねばならぬ課題として、彼を呪縛するものでもあった。

助けてくれ。

我々を守ってくれ。

縋ってくる市民の懇願は、どれだけレナードの心を鼓舞したことか。

けれど、一方的に縋られ、要求されつづけることに、本当の自分は、とうに疲れ切っていたのではなかったか。

――なぁんだ、使えない。

歯を食いしばって、頑張って、頑張って。

荷の勝ちすぎる任務を引き受け、呪いに蝕まれ、夜を徹して戦い続けた挙げ句に向けられた、蔑み。

それを聞いたとき、レナードの心には、ふっと穴が空いてしまった。

囃し立てる声に膨らみすぎ、やがて弾けた心の内側では、幼い彼が、きっとこう叫んでいたのだ。

どうか認めて。

もう十分頑張ったと褒めて。

一度だけでいい、誰か、守って、労って――と。

(俺は本当は、「理想の騎士」なんかじゃ、ないんだ……)

敵をなぎ倒し、いつも強気で、守るべき女を片腕に抱いて笑っている。

そんな、雄々しい騎士に憧れ、自分なりにそれを目指したつもりだが、レナードの本性は、もっと別のものだ。

気弱で、人からの評判が気になって仕方ない。

魔獣に襲われたら普通に怖いし、誰かに守られたいと、願うことだってある。

ずっと心の奥底に隠していた、みっともない本性。

それを、この少女だけは掬い上げ、認めてくれる――。

「……俺、騎士なのに、守られたいとか思っちゃって、いいのかなあ」

「当たり前ではありませんか」

「みっともなくない? ほら、こうして呪いに動揺して、酒に溺れてるとこまで含めて」

「なにを仰るのやら」

美しい紫の瞳が、レナードに柔らかく微笑みかける。

「ふふ。それこそが、素敵なのに」

《腐腐。それこそが、素敵なのに》

肉声とぴったり同じ心の声が、全身に満ちてゆく。

少女の腕を掴んでいた手が震え、そこに、ぽつりと涙が落ちた。

「レナード様?」

「…………っ」

なんて綺麗な少女なのだろう、と思う。

負の感情だけを拾い上げてくるはずの呪い。

どんな善良な人間でも、大なり小なり胸の内には敵意や蔑みを飼っていて、それは当然のことのはずなのに、いざ目の当たりにしてしまうと、ひどく恐ろしかった。

この世界なんて敵だらけ。

信じられる存在なんてなにもない。

そう思って耳を塞いでいたのに。

――有象無象からの好意を求めるのを止めたその先に、本当にかけがえのない存在が見えてきたのでは?

見つけた、とレナードは鼻を啜った。

この世でただひとつ、信じられるもの。

負の感情なんてかけらも持ち合わせない、どこまでも清らかな存在。

「どうされました? お加減が?」

《ど、どうしましょう。わたくしのせいかしら! 説得が無理矢理すぎたかしら。押しつけがましかったかしら。ことを急ぎすぎたのだわ……やってしまった!》

おろおろと、自責の念すら滲ませて問うてくる姿に、ますます胸が引き絞られる。

レナードは一度だけ眉を寄せ、表情を引き締めると、

「申し訳ございませんでした!」

少女を解放し、勢いよくその場に跪いた。

「あそこだ!」

さて、ちょうどそのとき庭園に駆け込んできたベルナルド以下男性陣は、ローザにのしかかるレナードの姿を見つめて、血相を変えた。

「おい、レナード・シュトルム――」

だが、彼らが一斉に魔力を練りはじめた、そのときだ。

レナードが突然立ち上がり、かと思えばローザに向かって跪きだしたので、呆気にとられた。

「申し訳ございませんでした!」

彼は酒の影響などかけらも感じさせない、いいや、それどころか、これまでの軽薄ごとかなぐり捨ててしまったように誠実な声で、吼える。

「ローザちゃん――いいや、ローザ・フォン・ラングハイム様! どうかあなたに、俺の剣を捧げさせてください!」

「はい?」

これにはローザも、ぽかんとしている。

彼女はふらりとした動きで身を起こし、無意識にだろう、腕を擦りながら、困惑を隠せぬ様子で首を傾げていた。

「え……? 剣? わたくしに?」

「はい。俺は、あなたを守る剣になりたい」

「えっ!? あなた様に剣になってもらいたいとは、全然思っていないのですけど!」

剣ではなく 鞘(さや) に――とローザが反論するよりも早く、レナードはローザのドレスの裾に、深々と額を押し付けた。

「今、確信しました。俺が守るべきはあなただ」

「えっ、いえそんな、ぜひレナード様は、守られる側に――」

「いいえ! あなたという存在がいる限り、俺はもうなにも怖くない。もう二度と、有象無象の好意を求めて鬱々となんてしない。軽薄な態度を装うことももうやめて――俺は、あなたを守るのにふさわしい男になりたい」

唐突な誓いに驚いたのだろう。

あるいは小鳥のように繊細な彼女だから、異性に接近されて、恐怖を覚えたのかもしれない。

みるみる青ざめてゆく。

「そ、そんな……なぜ、突然……」

ハーブワインを含んでいたのも悪かったのだろう。

体力の限界を迎えたらしい彼女は、ふうっと遠い目をし、そのままゆっくり、後ろに倒れ込んだ。

「ローザ様!」

「姉様!」

「ローザ!」

跪いていたレナードが。

一連のやり取りを見守っていたベルナルドが、レオンたちが、次々と彼女の元へと駆け寄っていく。

「……事情はよくわからないけど」

気絶した少女を囲んで大騒ぎしている一同を見て、アントンだけが唯一、その場で足を止めた。

「さては、まーた自爆したね、ローザ?」

ローザとはベクトルが反対なだけのソウルメイトである彼は、顔を引きつらせながら、あっさりと真実を見抜いたのである。

(負の感情を聞き取る呪い……負の感情……腐の感情……。まさかね)

言葉遊びのような発想に、我ながら馬鹿らしいと鼻を鳴らす彼だったが、まさかそれが正解であると、いったい誰が理解できようか。

「ローザ様! しっかりなさってください! ローザ様!」

「馬鹿者! 介抱であろうと、おまえは二度とローザに触れるな!」

「も、申し訳ありません!」

血気盛んな若者たちがわあわあ大騒ぎする現場に、慌てて足を向けながら、

(なんか、また面倒そうな信奉者が増えたな……)

アントンはげんなりとして、密かに溜息を落とすのであった。