軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

068 英雄

肉の壁を突き抜けたフラムは、開けた空間に出た。

魂喰いを片手に立つ彼女の視線の先には、埋め込まれた三つのコアがある。

先ほどの巨人に一つ使ったため、元は四つでこのあまりに大きな化物を支えていたのだろう。

フラムがコアに歩み近づくと、進路を遮るように、下から人の大きさほどの肉がせり出す。

それはやがて人の形となり、女性物のワンピースまで再現し、彼――マザーは、いつか見たのと全く同じ姿で、彼女の前に現れた。

「よくも……よくも、よくも、よくもおぉおおおおッ!」

マザーは手のひらを前に突き出し、空気を回転させて放つ。

フラムは横に飛び退き回避し、着地と同時に一気に接近、横一文字に剣を薙いだ。

刹那、マザーの姿が消失する。

気配を察知するまでもなく、その転移先を読んでいたフラムは、魂喰いを粒子化させ収納。

剣を振るった勢いのままに振り向いて、軽く飛びながらハイキックで、背後からの不意打ちを狙うマザーの頭部を強打する。

それを彼は右腕でガード――しかし蹴撃には反転の魔力が込められている。

オリジンの力では完全には防ぎきれず、彼は軽くよろめく。

その間にフラムは後退、十分に間合いを取ると、素早く抜いた魂喰いで十字を描き、二本の剣気を射出した。

マザーは――ガードすらしなかった。

彼の肉体は無残に四分割される。

直後、それら全ては切断前のマザーと同じ姿となる。

四人に増えた敵を前に、しかしフラムが怖気づくことはない。

「もう十分に暴れたんだから、終わりにしてもいいんじゃない?」

『まだよ、私はまだたどり着いていなかった――!』

全てのマザーが同時に呻き、頭を振りかき乱す。

彼は優しい母親となり、かつて自分を虐げた自身の母を乗り越えようとした。

彼は幸せな子供となり、記憶に刻まれた辛い日々を上書きしようとした。

産み落とされ、王都を包み込んだ時点でその目的は達成され、彼は“完全”になったはずなのだ。

しかし――足りなかった。

『私の中にはまだ“母”がいるのっ! どんなに振り払っても消えない場所に、母が棲み着いてるのよおぉおおおおッ!』

ユニゾンする叫び。

そうだろうな、とフラムは一人納得する。

どんなに否定しようとも、人間には生まれた時点で消えぬ縁が宿っている。

「確かに……」

繭に閉じ込められた人間たちは、みな同じ夢を見ていた。

マザーの記憶。

母に虐げられ、歪んでしまった一人の少年の記憶を、まるで自分の記憶であるかのように体験させられる。

だから、フラムも気づいてしまったのだ。

「都合の悪い現実を前にしたときの取り乱し方が、母親にそっくりだよね」

マイクの母――スザンナ・スミシーは、ヒステリーを起こすといつもそうだった。

怒鳴り散らして、ムキになって。

女装しているせいか、心なしか感情をむき出しにするその姿も彼女に似ている。

『……あなたさえいなければ、追い詰めるような真似さえしなければ、それに気づくこともなかったのに』

「気づかなければそれでよかったの?」

『じゃあどうしろって言うのよぉっ!』

「そんなものわかるわけないって」

どれだけ記憶を押し付けられても、他人は他人なのだから。

どこまで行っても全てをわかりあうことはできない。

だからわかりあおうとして、寄り添う。

「ただ強いて言うなら――」

確かに、スザンナ・スミシーはどうしようもない母親だったんだろう。

自分が産んだ子供にすら寄り添おうとせずに、ひたすら突き放し続けたのだ。

だが、その母を乗り越えようとしてマザーの選んだ道がこの有様だというのなら、こんなに虚しいことはない。

自己完結、他者の拒絶、自分を慕った子供たちを失敗品だと罵る。

その全てが――母親のやってきたことの焼き直しではないか。

「逆、だったんだと思う」

『どういうことよ』

「他人を自分と同化させるんじゃない、他者の声に耳を傾けていれば、自然と母親に対するコンプレックスなんて消えてたんじゃないかな」

螺旋の子どもたち(スパイラルチルドレン) は、確かに彼を母として慕っていた。

ただ、それだけでよかった。

チルドレンやオリジンコアなんて必要なくて、女装してようが何だろうが、マイクが真っ当に母親として彼らの面倒を見ていたのなら――望みは叶っていた可能性がある。

断言はできないが、少なくとも今ほど救いようのない状態にはなっていなかっただろう。

『無理よ……そんなこと。だって、だってぇ、お母さんはッ! 私にッ! 強引に押し付ける以外の接し方なんて教えてくれなかったのよぉおおおおッ!』

四人のマザーが、一斉にフラムに飛びかかった。

「そんなの、誰だって手探りなんだから!」

言い放ち、彼女は足裏に魔力を流す。

床の肉が切り取られ裏返り、傾くその力を加速に利用して、撃ち出されるように滑空した。

すれ違い、一人目の胴体を両断。

視線の先には三角形に埋め込まれたコア。

走れば間に合うか――そう思っていると、地面から新たなマザーが姿を現れ彼女の足をつかもうとした。

同時に背後からも気配を察知、重力反転し飛び上がり、さらに天井を蹴って敵の背後に着地。

低い姿勢から魂喰いで切り上げ、右太ももと左腋を直線で結び分断する。

一見してフラム優勢のようにも見えるが、その前に真っ二つにしたはずの一体が、二体に分裂してフラムに迫る。

『どうせもう手遅れじゃない、どうしようもないじゃない!』

飛びかかるマザーたち。

再び重力を反転させたフラムは、天井を走りコアに向かう。

「何をいまさらっ!」

こんなことをしておいて、こんな姿になっておいて、 どうにかなる(・・・・・・) と思っていたのか。

おそらくマザーは、チルドレンさえ完成すれば救われると思っていたんだろう。

そう信じることだけが、彼の人生の救いだったんだろう。

少しでも他者の声に耳を傾けることができたのなら、“そんな愚かな計画を”と止める誰かに出会えたこともあったかもしれない。

だが――フラムは胸の内で繰り返す。

何もかも、 いまさらだ(・・・・・) 。

『私は嫌よ! こんなっ、報われない気持ちのまま死んでたまるもんですかッ!』

天井から無数の腕が伸び、フラムの足を掴む。

すぐに振り払おうとしたが――固定された右足がギュルッ、と急速に捻れはじめた。

「ぐっ……! このおぉッ!」

このままでは回転が全身にまで伝染する。

フラムはやむを得ず、自らの右足、その膝から先を内側から反転させ切り離す。

その反動で、彼女の体は床へと吹き飛ばされた。

着地点にはマザーが待機し、手を伸ばしている。

騎士剣術(キャバリエアーツ) 、あるいは別の部位を吹き飛ばした衝撃で落下軌道を変える――そんな考えがフラムの脳裏をよぎったが、すぐさま却下した。

天井からもさらに五人ほどのマザーが生まれようとしている。

地上にも、すでに七人。

囲まれたこの状況で、これ以上の負傷は致命的だ。

だから――逃げるんじゃない、あえて攻める。

フラムは傷口から滴る血液を 氷結(・・) させ、マザーの顔面に飛び蹴りを食らわせる。

槍のように尖ったそれは、彼の鼻っ面を貫き頭部を破壊。

強引な攻撃に、フラムは着地と同時に地面を転がり、氷も割れてしまったものの、一時的に敵の数を減らすことに成功した。

そして魂喰いを杖に立ち上がると、片足で飛びながらコアに接近する。

無論、こんな状態で満足に移動などできるはずがない。

背後から近づいてくるマザーにも、足元から伸びる腕にも、追いつかれることを前提として――ありったけのプラーナを剣に宿す。

「ふうぅ……」

ただそれだけで、軽く気だるさを覚えるほどの生成量。

つまりフラムはここで勝負をつけるつもりなのだ。

接近するマザーたち。

限界まで引き寄せ、さらに床が盛り上がり、無数の腕が出てきたのを確認すると、

「はああぁぁぁぁぁぁあッ!」

両手で剣を床に突き刺し、溜まったプラーナを炸裂させた。

吹き荒れる魔力を帯びた刃風。

足元の腕はもちろん、接近していたマザーたちも、体を切り裂かれながら吹き飛んだ。

道が開ける。

足の再生も完了した。

あとはコアまで真っ直ぐに向かい、剣を振るうだけだ。

『嫌だっ、嫌だっ、嫌だああぁっ! 私は死にたくなんてないわ! お母さんが悪いんじゃない、私をこんな風に産んだお母さんがっ! なのにどうして私が不幸にならなくちゃならないのよおぉおおお!』

どこまでも身勝手な戯言だ。

「いい大人で、そのうえ教会で権力も持ってて色々選べたくせに、こんなクソッタレな生き方をしたのはあんた自身だってのっ!」

切り捨て、吐き捨て、止まらず駆ける。

蠢く肉の壁、埋まった三つの黒いコア。

体が重く感じるほどの強い疲労感の中、それでもフラムは加速する。

前へ、前へ、前へ。

地上でみんなが待っている。

その顔を思い浮かべるだけで、いくらでも力が湧いてきた。

「てりゃああぁぁぁッ!」

右手に握る魂喰いを、コアめがけて鋭く突き出す。

その切っ先は、しかし目標に届くことはなく――ぬるりと壁から姿を現した 巨大な顔(・・・・) が、右腕ごと噛みちぎってしまう。

『ああぁぁァァァアアッ!』

もはや女性らしさなど捨てた、獣じみたマザーの咆哮が響く。

「あああぁぁぁああああッ!」

だがフラムも負けてはいない。

叫び痛みを誤魔化し止まりたがる肉体頭脳能力を総動員する。

まずは千切れた右腕に反転の魔力を仕込み、口内で発破。

『ぐごおおぉおおおおッ!』

顔を破壊され苦しむマザー、だがコア消失までは至らず。

しかし、もう遮るものは何もない。

前へ進み、残った左腕で魂喰いを握ろうと力を込める。

直後、彼女の両足を、床から伸びる無数の腕が掴み、オリジンの力により回転させた。

つま先が後ろを向き、ゴギッ、と鈍い音が体内を伝って耳まで届く。

さらに後方にいたマザーの増殖体が回転の弾丸を乱射――うち数発が命中。

内臓がいくつか欠損し、フラムは左腕まで喪失する。

『言ったじゃない、私は死なないのよ! あなたを殺して、他の連中も皆殺しにして、私は“完全”を取り戻すッ!』

勝ち誇るマザー。

そんなことしたって、一度認識した“母”の存在は消えやしないのに。

それでも、そう信じるしか、彼にはもう道が残されていなかった。

だが、追い詰められた状況にあっても、当然フラムは諦めたりはしない。

これぐらいの反撃はあるだろうと、それすらも想定していた。

嘘だ、ちょっと強がっている。

――痛い、苦しい、早くうちに帰りたい、キリルちゃんとお話をして、ミルキットと抱き合って、みんなと美味しいものでも食べてお風呂に入って死んだように眠りたい。

あとボロボロになった服を着替えたり、たまには可愛い服を買うために買い物にも行きたい。

とにかく――やりたいことが、たくさんあった。

だからどれだけ辛かろうと、諦めるわけにはいかない。

「私だって……こんなところで、死ぬもんかあぁぁぁああああッ!」

反転(リヴァーサル) 、掴まれた両足をフラムは自らの意志で切断する。

反動で跳ねる、両手両足を失いボロボロになった胴体。

それでも、コアにたどり着くまでは少し足りなかった。

だが彼女は重力反転を行使、ふわりと浮かび軌道修正、力が渦巻く水晶に、辛うじて到達する。

『まさか、そんな体で……っ!?』

フラムは、 口で咥えて(・・・・・) 魂喰いを亜空間より引き抜いた。

コアを壊すのに必要なのは、斬撃としての威力ではない、反転の魔力だ。

つまりどんな体勢であっても、魔力を宿せる 何か(・・) が接触すれば、破壊は可能である。

「ふっ、がああぁぁぁあああああッ!」

首の力だけで剣を傾ける。

刃の腹が、三角形に配置されたコアに接触した。

流し込まれる魔力。

オリジンの力が逆回転を始め、生じた負のエネルギーに耐えきれず、水晶が砕ける。

パキッ――コアによる力の供給が停止すると、フラムに迫っていたマザーたちは動きを止め、壁の脈動も収まった。

手足を喪失したフラムはずるりと落ち、柔らかな床の上に横たわった状態で、「はあぁ」と大きく息を吐く。

『ああぁぁぁぁぁあああああああああああッ!』

マザーが断末魔の雄叫びをあげた。

肉の壁から血色が失せ、全ての崩壊が始まる。

『あ、あぁ……あああぁぁ……壊れて、いく……』

王都を包む子宮も、フラムのいる部屋も、全てから色が消え、朽ちていく。

『嫌だ……死にたくない、こんな報われない人生で終わりたくない……』

どこからともなく聞こえてくる声を、フラムは心底哀れんだ。

どうして子供のままで大人になってしまったのか。

誰も途中で止めなかったのか。

方向転換させてくれる誰かとの出会いは――無かったんだろう。

『ねえ、フラム・アプリコット……あなた、英雄なんでしょう?』

めぐり合わせは時に優しく、しかし時に残酷だ。

平等なんてこの世には無い。

誰とも出会えなかったフラム。

誰とも出会えなかったミルキット。

誰とも出会えなかったキリル――そんな想像をするだけで、フラムは寒気がした。

誤った道に進む可能性は、誰にだってあるのだ。

『反転の力で理不尽を砕いて、インクも救ったんでしょう? だったら、私のこともどうにかしなさいよ』

だからと言って、この無責任な男を“被害者”として扱うつもりは無い。

フラムは、死を目前にしてすり寄ってくるマイク・スミシーを、冷たく突き放した。

「あんたの人生なんて、反転したって救えない」

ついに床が崩れ落ち、フラムの体は重力に引かれて地表へ落下していく。

その頃には手足はほぼ再生していた。

『……なによ、それ』

全身で風を受けながら、聞こえてくる男の声を聞く。

『嫌よ、嫌……私は死にたくない、こんな理不尽があってたまるものですか……私は、私……は……』

フラムは落下しながら、再生した右手で魂喰いを握る。

「あれだけたくさんの人を巻き込んでおいて、そんなのが通るわけないよ」

そして軽く振るい、プラーナの刃を飛ばした。

それは辛うじて残っていた、 生きた(・・・) 肉片を切り裂く。

すると……絶えず恨み節を垂れ流していた男の声が、ぴたりと止まった。

「はぁ……やっと終わったぁー……」

とても長い戦いだった気がする。

犠牲者も今までとは比べ物にならないほど多く、見下ろす街並みは、ところどころ無事な部分はあるものの、かなりの大打撃を受けている。

復興には長い時間を必要とするだろう。

だが、喜んでいいのかはさておき、フラムたちの家は無事だった。

フリーフォールする彼女の口元に笑みが浮かぶ。

「さて、そろそろ――」

地表が近くなってきた。

重力反転で速度を緩め、着地の準備をしなければ。

そう思い立ったフラムの視界に、

「おかえり、フラム」

ひょっこりと、目に涙を浮かべたキリルが現れる。

「……た、ただいま、キリルちゃん」

まだ大聖堂のてっぺんより高い場所にいたはずなのだが、確かにあの天井まで飛べると言っていた彼女なら、ジャンプでこの高度まで達することは可能だろう。

だが実際に見せられると、唖然とせずにはいられない。

キリルはフラムの体を両手で抱えたまま、両足で軽々と着地する。

そのままいわゆるお姫様抱っこの体勢で歩きはじめると、復活した仲間たちが駆け寄ってきた。

「待ってキリルちゃん、降ろして! 恥ずかしいから降ろして!」

何となくエターナあたりには見られなくない――早く開放してもらおうとフラムは暴れたが、キリルは「思ったより元気だ」と爽やかに笑うばかりで離してくれそうにない。

いつもは控えめで弱気な彼女だが、今日はいつになく強引だ。

というより、フラムの言葉が伝わっていない。

それだけ彼女が無事戻ってきたことが、嬉しかったんだろう。

そう考えると、フラムもこれ以上強引に拒絶することはできなかった。

「仕方ないなあ……」

妥協して受け入れるも、一番最初にエターナの姿が見えると、やはり嫌な予感がする。

彼女も含め、繭から自力で脱出した全員は、マリアの回復魔法を受けて傷は癒えているようだ。

とはいえ、あれだけの大怪我をしたあとなのだからおとなしくして欲しいものである。

しかし、近づいてきたエターナは、フラムの顔を覗き込むと、予想通りにやにやとした表情を浮かべている。

「フラム、浮気。ミルキットに言いつける」

「第一声がそれですか……」

呆れるフラムに、エターナは珍しく肩を震わせて笑った。

そして、今度は優しい笑みで、フラムの頭をぽんぽんと撫でる。

特に言葉は無かったが、彼女なりに、色々と心配してくれていたらしい。

「おつかれさまでした、フラムさん」

「はい……マリアさんこそ」

ライナスの隣にいる彼女は、素直にフラムのことをねぎらった。

ミュートとの戦いのあと、目を覚ましたときに彼女はいなかった。

もしかしたら今回もまたいなくなるんじゃないかと思っていただけに、ここに残っているのはフラムにとって少し意外だった。

いや――おそらく、しばらくしたらまた姿を消すのだろうが。

この姿で普通に生きていけるとは思えないし、どうにも彼女にはその気が無いように思えてならない。

「すっかり敵の術中に嵌っちまって面目ない、フラムちゃんがいなけりゃ死んでたよ」

「ああまったくだ、またフラムに借りを作ってしまったな」

「いえ、そんな」

少し前まで、手の届かない場所にいる人たちだと思っていた。

そんな彼らに褒められるだなんて。

慣れていないフラムは、頬を赤らめてはにかむことしかできなかった。

「空が……!」

キリルが天を仰ぎ呟く。

崩壊する天井の隙間から、陽の光が王都に差し込んだ。

繭も力を失ってゆっくりと地表に落ち、そして着地と同時に風船が割れるように解けて消えている。

元通りになっていく王都の景色を見て、フラムは改めて激しい戦いが終わったことを実感した。

犠牲になった人間は多かっただろうが――それでも、救えた人たちだっている。

「フラムのおかげだね」

「キリルちゃんがいなかったら無理だったよ」

「いーや、フラムがいなかったら勝てなかった」

「ううん、キリルちゃんがいたからこそだって」

「……意外と強情だ」

「そこは退けないから」

手柄をあげたからといって、フラムは傲慢にはならない。

すると謙虚な二人を前に、ライナスが調子に乗りはじめる。

「ま、俺たちの勝ちってことでいいんじゃねえの?」

「わたしたちはほとんど何もしてない」

「そうだな、手柄と呼ぶには弱すぎる」

が、エターナとガディオに即座に否定されて、彼は不貞腐れるように唇を尖らせた。

「えー、別にいいだろ? 俺らもフラムちゃんが上で戦ってる間とか、割と頑張ったって。なあマリアちゃん」

「ふふふっ、そうですね、みなさん頑張っていたと思います」

一同がマリアの笑い声を聞いたのは、久しぶりのことだった。

ライナスはそれを特に喜んだようで、その後も饒舌に調子に乗り続ける。

そんな無駄話をしているうちに“チルドレン”は完全に崩壊した。

雲ひとつない青い空が、頭上に現れる。

温かい日差しを受け、フラムは強い眠気を感じる。

言うまでもなく、彼女は相当に疲労している。

しかし、さすがにキリルの腕の中で眠るのは色々とマズいと思ったのか、必死に耐えていたが――

「いいよ。おやすみ、フラム」

本人に許可をもらってしまった。

こうなると、もう抗えない。

フラムはゆっくりと瞳を閉じて、心地よいまどろみに身を任せた。