軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話.モブなのに

朝が来た。

チュンチュンと小鳥のさえずりを聞きながら、学校の制服へと着替える。

「おはよーおにぃ」

「ああ、おはよう咲。髪の毛がボサボサだぞ?」

「うぃー。たーくー!」

「へいへい。姉貴は相変わらず朝は壊滅的だな。ほれ、ソファ座って、これで顔拭いてろ」

「あぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……絶妙のホカホカ温度のおしぼりぃ……」

「拓、すまんな。何から何までお前に任せきりで」

「いんだよ、俺が好きでしてんだから。ほら姉貴、頭をフラフラさせんな! ブラシが髪にからまんぞ!」

「うぃー……」

相変わらずの朝の弱さである。

着せ替え人形よろしく、身の回りの世話を大体拓に任せている咲は、拓が居ないと生きていけないとまで公言している。

まぁ目が覚めたらしっかりしているので、あくまで寝起き限定なのが救いだ。

ちなみに拓は、隙を見せれば俺の世話までしてくる 甲斐甲斐(かいがい) しさだ。

流石は我が家の以下略。

「兄貴、今日は能力測定の日だろ? 兄貴が毎日トレーニングしてたの知ってるぜ。良い結果出ると良いな!」

「おにぃ毎日頑張ってたもんねー。頑張ってねぇ……ふわぁぁ……」

「っ!! ああ、ありがとう咲、拓」

妹と弟の激励に涙が出そうになる、駄目だな歳を重ねると涙もろくなっちまって(まだ16歳だけど)

自分がモブだと気づいてからは、毎日鍛錬を続けてきた。

と言っても、そんなに大変な事ではなく。

腕立て腹筋背筋にスクワット、それから早朝か夜に少し周辺を軽く走る、その程度の事だけど。

それを毎日欠かさず行ってきただけ。

剣士の訓練等、戦いの訓練なんてしていないし、あくまで基礎鍛錬のみだから、何もしてないよりマシって程度である。

ちなみに俺は魔力なんてものが欠片もない。

いや欠片はある、ゼロではない。ほんの少し、熟練の魔導士が集中したらほんの少し感じられる程度はあるらしい。

熟練の魔導士でないと感じられない程の魔力量って逆にどんなだよと思わなくもないが、ゼロではないのだ。

ちなみに我が家の自慢の妹は、中学生でありながら賢者顔負けの魔力量があるらしく、ヴァルハラからすでに声が掛かっている。

来年入学予定で、俺は先輩になる。

『ブレイブファンタジー』の続編でもあれば、サブキャラクターに選ばれそうである。

その我が家の誇れる妹曰く、

『おにぃに魔法の才能はないよ』

と断言されてしまった。切ない。

まぁモブだもんね、仕方ないよね。

モブにはモブの出来る事があるんだと心を奮い立たせたのを今でも忘れていない。

そんな反骨心もあって、基礎鍛錬は続けてこられたのかもしれない。

まぁ兄として、先輩として、妹に情けない姿を見せるわけにはいかないと思いつつ、モブだしなぁと諦めに近い感情もありはするけれど。

拓が用意してくれた朝食を食べ終わる頃には、咲の身支度も終わったようだ。

「おはよーおにぃ」

「それさっきも言ったぞおはよう」

「うぃー。だって寝起きって記憶なくない?」

「あー、あるある。酒飲んで寝た人とか」

「例としておかしかねぇか兄貴」

咲と拓が並んで椅子に座るのを、温かい目で見つめる。

俺の自慢の妹と弟は、今日も逞しく可愛いのだ。

「おにぃ、その目で外で私達見たら駄目だからね」

「そうそう。こっぱずかしいからな」

何故に俺は見ていただけでそう言われるのか。

「ごめんごめん。それじゃ、俺は先に出るから、戸締りよろしくな」

「はーい」

「あいよ」

二人の返事を聞きながら、カバンを手にしてドアノブを回し、一歩外へ。

暖かい日差しが俺を照らし、

「おはよう榊君」

天使のような声と姿をした、リーシャ・エーデルハイトの姿を見た俺は回れ右をして家に戻った。

「ちょっと榊君!?」

ドアの後ろから俺を呼ぶ声がする。

何故? どうして彼女が俺の家に?

混乱している俺の心情を横に、ドアが開いた。

「あの、突然来たのは謝るけれど。何もそんなに邪険にしなくても良くない? 流石に傷つくのだけど?」

「ご、ごごごごめん! 邪険にしたわけじゃなくって!! そ、その、驚いて咄嗟にね!?」

「ふふ、そうみたいね。なら、行きましょ? 話は登校しながらでも大丈夫でしょう?」

あ、これ逃げられないやつ。

笑顔の裏に、お前逃がさないからなって表情が見える。

「い、行ってきます……」

「「行ってらっしゃーい」」

二人の声を支えに、なんとか一歩を踏み出す。

今日の試練は能力測定の後からだと思っていただけに、予想外である。

主人公である轟 烈火ですら、家に来るなんて恋愛ムーブは無かったぞ。

「妹さんと弟さんが居るの?」

「あ、はい」

「だからなんで敬語」

「その、憧れてたから」

「っ!? そ、そう。そっか、情報通の貴方なら、私の事も当然知っているのよね。その過程で、その、き、気に入ってくれたって事?」

「そういう感じ、です」

嘘ではない。実際は剣聖、リーシャ・エーデルハイトのルートを読む事で滅茶苦茶好きになったのだけど。

「そ、そう。ありがと……って礼を言う事じゃないわよね!? な、なんだか恥ずかしいわね」

「ご、ごめん」

「榊君が謝る事じゃ……あー! もう! 調子が狂うわね!」

なんだ、こんな姿は初めて見るぞ?

主人公である轟 烈火と話す時だって、ずっとクールに振舞っていたし、赤面なんて告白された時だけだったはずなのに。

「と、とにかく! 私は昨日の話の続きがしたくて……こうして待ってたの!」

成程……藤堂 誠也の呪いを解く事。

それがリーシャ・エーデルハイトのお話の主な話だからね。

その方法を探し、解呪成功させるまでの間で、主人公である轟 烈火と友情から愛情に関係が育っていく。

それくらい、藤堂 誠也の事が大事なんだ。

この行動力も、その想いが故。そう考えれば納得がいってしまって、それ故に推しの想いがムクムクと出てくる。

「そ、その優しい目はなんなのよまったく……。他の男共が私を見るどの目とも違う……そう、藤堂先生が私を見る目に近いような……まさか父性!?」

「俺16歳なんだけど!?」

「ふふっ! 知ってるわよ。でも、ようやく砕けて話してくれたわね。その話し方で良いわ。畏まられると、困るの。その、貴方には友人になってほしくて……」

「!!」

ぐぅぁぁぁぁぁっ!! 尊いっ! 推せる! 可愛いかよ!

ご飯3杯はいけるっ! それを見てる奴であったならどんなに! どんなに良かったであろうかっ!

当事者になると、こんなに辛い言葉はない。

剣聖であるリーシャ・エーデルハイトは、主人公勢によく絡みがあるメインキャラクター並みのサブキャラクターだ。

時には味方に、時には敵に。

人気投票、使用率全て主人公勢を差し置いて一位を誇る鉄板キャラクターなのだ。

そんな彼女に友達になってほしいと言われて、喜ばない奴がいるだろうか? いやいない、反語。

しかし! しかしっ! 俺はご存じの通りモブキャラクターなのだ。

こんな 一(いち) モブが、友人となるなんて許され……

「だ、駄目かしら……」

「是非友達になってくださいっ!!」

しょうがないじゃん! あんな悲しそうな表情でそんな事言われたら無理じゃん!!

「そ、そう!? ありがとう! その、今まで戦場を駆けまわっていたから、友人なんていなくて……少しだけ不安だったの。榊君は見てて面白いし、それに……私の事を思って、仲の良い友人達に、話さなかったでしょう? それを見て、信じても良い人だと思ったの」

「!!」

あの後も、見ていたのか。

全然気配を感じなかった。

流石である。

「だから、嬉しいわ。これからよろしくね榊君」

「うん。よろしくリーシャさん」

こうして、モブである俺が、主人公勢に加えて剣聖であるリーシャ・エーデルハイトと友達になれてしまった。