軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話.モブは依頼を完遂する

「よし、これで三つ目おしまい。次に行こうリーシャさん」

「ええ、了解」

ローガン師匠からの依頼である支柱の埋め込みと魔力の結合作業。

それも残すところあと二つだ。

最初は難しかったけど、二つ目からは同じ作業だったので楽だった。

魔力の線が複雑に絡み合っていて、式はさっぱりだったけれど……教えてもらった通りの魔力の道を刻んでいく。

そうする事で、点と点が結び合うように線ができて、魔力が繋がっていく。

前世の知識で龍脈という、風水の気の流れの道筋、ルートを指す言葉があったけれど、それを作ってる感じだ。

すでに五芒星の形で、この広大なヴァルハラの地を結界が覆っている。

それの上から、更に逆五芒星の形で結界を二重にする。

その際に、元の龍脈に絡むルートがある為、そこの調整が複雑で難しい。

ここが、魔力の視える"魔眼"持ちの俺でないと無理と言っていた理由なのだと思う。

魔力の線が複雑に絡みすぎていて、一歩間違えれば既存の結界が壊れてしまう可能性すらある。

そりゃ他の凄い人達でも出来ないはずだよ。

「やっぱり榊君は凄いわね」

「え?」

次の目的地に向かって歩いていると、突然リーシャさんがそんな事を言った。

「だって、私はローガン導師の作った支柱であれば、あくまで近くに行けばだけど、違和感を感じて……なんとなくだけれど、ここに何かあるなって感じる事が出来るの。だけど、榊君が作った支柱は、何も感じない。違和感が何も無くて、言われても分からないかもしれない。それくらい、場に溶け込んでいる」

それって単に、俺が失敗しているのでは……?

なんか急に不安になってきたんですけど。え、大丈夫だよね俺……。

「あ、失敗しているとかじゃないと思うわ。結界が強まっている、それは分かるの。だけど、どこに支柱があるかと言われたら、近くに行っても私では分からない」

ほっ、リーシャさんのお墨付きなら大丈夫そうだね。

「ふふっ。榊君は、私の言葉に一喜一憂するのね」

「そりゃ、リーシャさんの言葉は信用してるからね」

「!! そ、そう。もう、榊君そういうところよ」

「?」

俺がリーシャさんを信用してるなんて当たり前の事である。

勿論リーシャさんだけじゃなく、烈火達全員、疑う事なんて一つもない。

まだこの世界に転生して、会った事のないサブキャラクター達もいるけれど……その全てのキャラクターが、俺は好きだ。

全員エンディング見たからね。

まぁ、一番好きなのが主人公達とリーシャさんなのは間違いないけれど。

この世界で生きていく以上、魔王を倒した後がある。

ゲームでは見れなかった世界が、見れる。

『ブレイブファンタジー』の世界が、キャラクター達が大好きではまり込んだ俺にとって、こんなに幸せな事はない。

家族も大好きだし、俺は恵まれている。この幸せを毎日噛みしめている。

「よっと」

「ギャァァァァッ!!」

道中に居るモンスターを、リーシャさんは難なく斬り捨てて行く。

こちらから攻撃を仕掛けなければ何もしてこないモンスターも居るのだが、こちらが何もしなくても攻撃を仕掛けてくる、いわゆるアクティブモンスターが存在する。

そういうモンスターから、俺を完全に守ってくれているのだ。

まるでお姫様とそれを守るナイトである。

男の俺がお姫様なのは悲しいけど、強さを考えたら妥当なので何も言えない。

むしろ嬉しいまである。あの剣聖リーシャ・エーデルハイトに守ってもらえるとか。

「安心してね。貴方は私が守るから」

惚れてまうやろー!

違う、すでに惚れていた。

いや人としてね。純粋な好意でね。

男女間のそれじゃなく、もう本当にかっこよくて可愛くて推せる。

「う、うん。ありがとうリーシャさん。俺も信じてるから」

「ええ。私もその言葉が聞けて嬉しいわ」

グゥッ……堪えろ俺の心臓、こんな事でいちいち破裂していたら、身が持たないぞ……!

軽い会話を重ねつつ、四つ目の支柱を埋める場所へとたどり着く。

「皆の為ならえんやこらっ!」

魔力クリスタルを力技でまず埋めて行く。

ハンマーを使って、腰を入れて打つべし! 打つべし!

「……」

リーシャさんは周りを警戒してくれている。

学校の中にいる内通者。

その人が何か仕掛けてくるかもしれないと思っているのだろう。

藤堂先生は昨日、学校の中に入り込んでいるかもしれない魔族を徹底的に探したそうだ。

けれど、あの学食に居た魔族以外は、見つからなかったらしい。

結界はローガン師匠が修復して、新たに入り込む事はないとの事。

ただ、あの人は……家族を人質に取られている。

指示も送られてくるだけ。

あの人からは何も伝えられない。

大切な母を守る為に、魔族の為に働かせられている。

カイン・セルリアン。サブキャラクターの一人で、半人半魔である。

魔族の母と、人間の父を持つ。

父はすでに他界しており、母に育てられていたのだが……魔王の四天王の一人、バラン・ギランにヴァルハラに潜入するように命を受けて入学してきた、というストーリーだ。

敵対すべき人との子である為、魔族の村でも煙たがられていた彼は、命令に従う。

従わなければ、母を殺すと脅された為だ。

彼の住んでいた村は人間の大陸の一番近い村だった事もあり、事情を知った烈火は彼の母親を助けるべく最初にその村へと奇襲をかける。

そこで母親を救い出す事に成功すると、彼は烈火に恩を感じ、仲間になってくれるのだ。

ただ、この事からも分かるように……彼の母親を助けられるまで、彼を仲間にする事は出来ない。

そして、そんな状況になるのはまだまだ後のお話だ。

という事は、である。

彼と出会ったら、しばらくは敵なんだよなぁ……!

サブキャラクター最強とまで呼ばれたリーシャさんには及ばないまでも、彼も中々の戦闘力を誇る。

部隊分けでパーティを進める時は、第二部隊に入る候補になるレベルである。

後半で仲間になるキャラってレベルが低かったり、敵の時は強かったくせに……とかなる場合が多いけれど、彼は違う。

レベルも一周目ならこちらより高く、強さも主人公勢より一歩劣る程度なのだ。

まぁ、レベル追いついたら流石に主人公達の方が強いのだけど。

「よし、終わり」

「流石ね榊君。それじゃ、ラストだけど……そろそろお昼だし、あの近くの木陰で少し休みましょ」

「そうしようか」

気付けば、午前が終わろうとしていた。

広大なヴァルハラの敷地内だからね。

いくらバフで強化して、移動スピードを格段に上げているとはいえ……時間は掛かる。

「よいしょ。はい榊君の分」

「え? 良いの?」

「良いも何も、私も貰ったのよ。急な事だからって、藤堂先生が準備してくれてたの」

「!!」

そういえば、藤堂先生はあのゴツイ肉体で脳筋と思われそうだが、うちの拓と同じように料理が得意なのだ。

イメージのギャップって凄いよね。

弁当の蓋を開けると、色とりどりの野菜に、美味しそうなハンバーグ、ふりかけのかけられた食欲のそそるご飯。

それにタコさんウインナー、だと!?

「うわぁ……凄い美味しそう」

「……時々、藤堂先生は生まれてきた性別を間違えたのではないかと思うわ」

「辛辣ぅ!?」

「ふふ、藤堂先生には今言った事秘密にしてね」

「あはははっ! 了解」

そうしてリーシャさんと二人、木陰で涼みながら弁当を食べた。

なんだろう、この幸せな時間。

ずっと続かないかな……。

まぁ無情にも、食べれば弁当は減るわけで。

「「ごちそうさまでした」」

お弁当に手を合わせ、蓋をしてリーシャさんに渡す。

「その、リーシャさんに渡して良いの?」

「ええ。まとめて返す方が良いでしょ? それに、榊君はハンマー持ってるじゃない。邪魔でしょ」

そう言われれば是非もない。

アイテム類を少し入れておける『魔法のカバン』があればなぁ。

しかし、あれはダンジョンドロップ産なので、今しばらく我慢である。

錬金術部に素材があれば創ってもらう事もゲームでは可能だったけれど。

いやアーベルン先輩なら頼めば創ってくれそうだな。

必須アイテムではあるわけだし、来週取りに行こう、そうしよう。

「ついたね。ここで最後だ」

「それじゃ、警戒し……榊君、下がって」

「!!」

魔族か!? と思ったら、違う。

こいつはっ……!

「グルルルルルッ……!」

エルダーグリズリー! 人工ダンジョンの高難易度ボス!!

要はクマなんだけど、エルダーとついている事からも分かるように、クマの先輩、いやそれも言い方おかしいかな?

とにかく、クマの中でも上位種なのである!

「グォォォォッ!」

「「!!」」

巨体がこちらへと走ってくる。

俺はリーシャさんの邪魔にならないように後ろへと下がりながら、バフを掛けていく。

「『パワーエンハンス』『スピードエンハンス』『フィジカルエンハンス』」

「助かるわ榊君! はぁぁぁっ!!」

「グルゥッ!?」

エルダーグリズリー、長いなクマで良いや。クマの右腕の振り下ろしを、避ける事無く剣で弾き返し、クマは態勢を崩された。

その隙をリーシャさんが逃すはずもなく、

「『天魔連斬』」

「グルゥゥゥゥッ……!!」

凄まじい速度の連撃である。

あんなもの食らったら、ひとたまりもないだろう。

クマはそのまま崩れ落ち、アイテムへと変わった。

「お疲れ様、リーシャさん」

「榊君もバフありがとう。普段なら弾けなかったでしょうし、もう少し時間が掛かったかも」

「それでも流石だよ。俺だけなら死んでた。リーシャさんが居てくれて良かったよ」

「またまた、冗談が上手いんだから。でも、そう言ってくれて嬉しいわ」

あの、冗談ではないのですけど?

俺だけなら、あのクマ扱い出来ませんよ?

「さっ、警戒を続けておくから、榊君は続きを」

「うん。任せるねリーシャさん」

「必ず守るから任せて」

またリーシャさんがかっこいい事を言う。

胸がトゥンクしながらも、最後の支柱の作成に取り掛かる。

「よし……!」

「凄い……私でも肌で感じる。結界が、今までの何倍にも強化されてる……!? これは、ローガン導師も驚いているんじゃないかしら」

「そ、そうかな? とりあえず、藤堂先生とローガン師匠に報告に行こうかリーシャさん」

「そうね。報酬で何か美味しいものでも買いましょ榊君」

「お、良いね。奢るよリーシャさん」

「私も同ポイント入るわよ?」

「男にもかっこつけたい時がありましてですね……」

「え? さっきも恰好良かったわよ榊君」

「え?」

「……。っ! な、なんでもないわ口が滑ったの忘れて頂戴。さ、戻りましょ」

「あ、待ってよリーシャさん!」

滅茶苦茶早口でそう言って、先を歩くリーシャさんの頬が、少し赤くなっていた。