作品タイトル不明
96話.学年対抗戦・開幕①
「兄貴ー、起きてるかー?」
「っ!?」
拓の呼ぶ声で目が覚める。
時間は7時丁度。
寝過ごしては無いけれど、いつもより遅く起きてしまった。
「兄貴ー?」
「すまん拓! 今起きた!」
「了解ー! こっちでやっとくから任せてくれよな!」
「頼むー!」
頼りになる拓に朝食の準備等を任せて、制服に着替える。
「にゃん(珍しいな玲央。お前がこの時間まで寝ているとは)」
マカロンが猫の姿で椅子へと飛び乗り、こちらを見ている。
俺は姿見から目をそらさずに答える。
「色々と考えてたら、寝付けなくて。気付いた時には寝てたって感じかな」
「にゃー(心臓に毛が生えているようなお前でも緊張するのだな?)」
あの、マカロンの俺へのイメージってそんななんです?
俺の心臓は少しの事で壊れてしまいそうなほど繊細なんですけど?
「いや、緊張というか……楽しみでね。画面上で何度も見たあのフィールドを、今度は自分の足で歩き回れるなんて感動だよ!」
「にゃ(成程な。それでこそ、だな。今日は学園以外のイベントはあるまい。勝っても負けても、楽しむが良いさ)」
マカロンはそう言い、眠そうに丸まってしまった。
本当に、まんま猫である。
準備を終えた俺は、下に降りる。
味噌汁の良い匂いが鼻をくすぐる。
「丁度準備出来たぜ兄貴。今日はなんかの戦いの日なんだよな? ゲン担ぎの意味も込めて、カツ丼にしといたぜ」
「おお! ありがとう拓! 早速頂くな!」
「おうよ。俺は姉貴起こしてくるから、兄貴は先に食べててくれよな」
そう言って二階へ上がる拓。
我が家の最強の主夫は今日も姉の世話で忙しいのに、俺の世話までかけて申し訳なさでいっぱいです。
「あむ。……美味い! また腕を上げたな拓……!」
サクサクのトンカツに、甘辛い煮汁と卵が絡んでたまらない美味しさである!
「いや、誰が作ってもそんな味変わんねぇって兄貴」
「おひゃよぅおにぃ~」
カツ丼を食べていると、拓が咲を引きずって(文字通り)降りてきた。
「咲、ヴァルハラに入る為にしっかりすると言っていたお前はどこへ……」
「大丈夫~……明日の私がきっと……」
「「……」」
ダメそうである。
まぁ、やる時はやる子なので心配はしていない。
本当にダメでもお兄ちゃんは見捨てないし、拓も見捨てないだろうけど。
「拓、任せて良いか? 俺は食べたらすぐに出るよ」
「おーけー。リーシャの姉御は待たなくて良いのか?」
「今日はリーシャさんは用事があるらしくてね。多分外に出たら紅葉さんの車が待ってると思う」
「あー、あん時の。了解、こっちは気にすんな兄貴。頑張っ……いや、兄貴はほどほどにな?」
「そこは頑張れで良いんだぞ拓?」
「兄貴は頑張ったら無茶するじゃん」
「うぐっ……」
これまでの実体験が伴う為に何も言い返せない。
「それじゃ、いってきます!」
「いってらっしゃい!」
「いってら~おにい~!」
朝食を全てたいらげた俺は、そのまま外へ。
事前に連絡を貰っていたので、家の前に大きな黒いリムジンが止まっていても驚かない。
いややっぱり違和感は凄いけれど。
「おはようございます。お待ちしておりました榊様」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「ええ。ではこちらへ」
「はい」
そうして車に乗り込み、学園へと向かう。
学園に到着すると、いつもとは違い車が多い。
それを見て思い出した。
今日は、軍の上層部の人達も観戦に来るのだという事を。
ゲームでは一行そういう事があると書かれていただけだったので、完璧に忘れていた。
「榊様、お嬢と共に勝利を。応援しております」
そう言ってニヒルに笑う黒木さんに、俺も笑って応える。
「はい。楽しんできますね」
「ははっ。こいつは一本取られました。そうですね、榊様はまだ学生です。勝ち負けよりも、楽しまれてきてください」
車に戻る黒木さんを見送った後、俺は下駄箱へと向かう。
いつもならリーシャさんと共に歩くこの道を、随分と久しぶりに一人で歩く気がした。
「少し良いかね?」
「!! はい、なんでしょうか?」
一人で向かっていたからだろうか。老齢の紳士服を着た、おおよそ学園には似つかわしくない……封建制度の貴族のような見た目をした方が話しかけてきた。
「君はもしかして、藤堂 誠也殿のお弟子さんかな?」
「いえ、違いますけど……」
それはリーシャさんである。
俺とは似ても似つかないし、そも性別が違う。
「ふむ……そうか、違ったか。只者ではない気配を感じてね、もしやと思ったのだよ。これは失礼をしたね」
そう言って帽子を取り、頭を下げた。
その時に見えた眼。
開いてはいるが、色が無い。
これはもしかして、見えていない、のか。
「俺は榊 玲央と申します。ヴァルハラの一年生です」
「おお、ありがとう。私は 小十郎(こじゅうろう) 。 柳生(やぎゅう) 小十郎だ」
柳生 小十郎……知らない名前だ。
ゲーム内で出た事のない名前。
だけど……強者特有の雰囲気を感じる。
「おっ! 居た居た爺さんっ! まっすぐ軍部用の部屋に行けっつったろ!」
少し離れた位置から、藤堂先生がやってきた。
やはり藤堂先生の知り合いか。
「おお誠也殿。いやなに、凄まじい気配を感じてな、つい話しかけてしまったのだよ」
「あぁン? って玲央かよ!」
「あ、はい。おはようございます藤堂先生」
丁度俺は柳生さんの後ろだったので、見えなかったのだろう。
俺に気付いた藤堂先生が、豪快に笑う。
「ったく、この爺さんにまで目をつけられたか。相変わらずだな玲央」
「え?」
あの、目をつけられたとは? 俺今日は本当に何もしてませんよね?
「爺さんは初めてじゃねぇんだ、場所はわかってんよな? 俺はこいつの担任だからよ、教室に行かなきゃなんねぇんだ」
「成程。分かった、私は先に向かっておこう。楽しみが増えたよ」
そう言って、足音すらさせずに歩いていく。
気配も感じないし、あの人凄く強いのでは。
「あの、藤堂先生。あの人は……?」
「ほぅ? 玲央でも知らねぇのか?」
「あ、はい」
だってゲームで居なかったんです。
「あいつは年齢で軍を引退したんだがな。元だが、元帥大将だった奴だ」
「!?」
元帥大将!? それって、軍全体の総司令官じゃないか!?
「ま、俺の元上官だ。今は引退したが、それでも軍での権力は衰えを知らねぇ奴でな。表には出ねぇが……ま、軍の裏ドンみてぇな奴だと覚えておけばいい」
な、成程……だからゲームでは出なかったんだろうか。
「ククッ……さ、行くぞ。目に留まるのは、戦いでにしとけ」
「あ、はい……」
そうして藤堂先生と共に、E組へと向かう。
今日は待ちに待った学年対抗戦の日だ。
この日の為に、皆で努力してきた。
頑張ろう……!