軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大切なものは何ですか?

食堂の個室でいつものようにローレット達は作戦会議を開いていた。

「ローレット様、イヴァン様は上手くやってくださっているようです」

ユーラリーからの報告にローレットは満足そうに笑みを浮かべた。

イヴァンには、生徒会役員のフランシスクの指示には従うようにと1年生達の間に浸透させていた。ただし、あくまでフランシスクに対してだけである。事実、リリアーナへの風当たりは厳しいままである。

それでもリリアーナの負担が減ったのは確かである。

「そう。ジャンヴィール様のお役に立てたということでしょうか?」

「間違いなく」

「認めることはないでしょうが」

「むしろ、借りをつくってしまったと悔やんでいるかも・・・」

三者三様の返答に対して、ローレットはベルテの言葉が正しいように思えた。人柄なのか若さ故なのか、ジャンヴィールは感情で好悪を考える傾向があった。それ故、どれだけ自分がジャンヴィールの為に尽くそうと、感謝されるイメージがローレットには全く想像できなかった。

「まぁ、それは良いです。別に感謝されることが目的ではないですし。感謝でも借りでも、要は私の提案を断りにくくなれば良いわけですから」

「それでは計画通り、次に移りますか?」

「そうですね。来月の武闘大会までに決着をつけておきたいですから。それに、せっかくイヴァンが頑張ってくれたのです。正直、無理かと思ってました」

「シルヴェーヌ様が「優秀」と評されただけありますね」

「はい。ビックリです」

「どうやって エドワード王子(第二王子) 派を大人しくさせたんでしょうか?」

中期に入ると、ローレットの予想以上に エドワード王子(第二王子) 派が勢いづいてしまった。エドワード自身は大人しいを通り越して、内気で自己主張が乏しい、ジャンヴィールとは真逆のタイプであった。それ故、ジャンヴィールが失脚しても、エドワードが権勢を振るうことはないと考えていた。だが、実際はローレット達の見込みは甘かった。確かに本人は変わらなかったが、 エドワード王子(第二王子) 派は立場が上がったことで勢いづいたのだった。

このままではリリアーナの立場だけを弱くする計画の遂行が難しく、次の段階に支障が出る恐れがあった。それをイヴァンは、見事計画のずれを修正してみせたのだった。

「事が終わったら教えてもらいましょう」

両親から手ほどきは受けたが、復讐計画はローレット自ら計画を練ったものである。これはあくまで自己満足の計画であるため、王族の援助はない。両親からも「勉強です。貴女がやってみなさい」「困ったことがあったらいつでも相談に乗るぞ」と言われていた。

失敗しても然程問題のない謀略の練習として、ローレット達は楽しそうに、次の計画に対してアレコレ意見を交わし合った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「今日は何の用だ?」

ローレットの顔を見るなり、ジャンヴィールは不機嫌そうな顔を露わに問いかける。しかし「帰れ」とは言わないあたり、ローレットの提案が助けになったことが感じ取れる。

「ジャンヴィール様を密告したのは私ではない、ということを信じていただけたかと思いまして。

私の提案、お役に立ちましたでしょうか?」

「ぐッ。

フン。あの程度で信じられるわけがなかろう。実際、フランシスクを勧誘したのは私達だ。それに、先に目をつけていたのはレジスだ。貴様は何もしていないではないか。それで信用しろとは、厚かましいにもほどがある」

「そうですか。信じていただけなくて残念です」

「用はそれだけか?」

「いえ。少しでもジャンヴィール様のお役に立って、私のことを信じて欲しいと思いまして、とある情報を仕入れてきました」

「情報?何のだ?」

「リュドヴィック様」

ローレットはジャンヴィールからリュドヴィックに向き直る。突然のことにも、リュドヴィックは優しげな笑みで応える。しかし向かい合うローレットは、拒絶されていることをはっきりと感じ取っていた。

(以前、姉のことで怒らせてしまいましたからね。リリアーナに慰めてもらったと聞きましたが、まだ根に持っていましたか・・・)

「貴方のお姉様、クロエ様の居場所がわかりました」

「どこだッ!」

顔色を変えたリュドヴィックが我を忘れてローレットに掴みかかろうとする。ダンス以外で男性と触れ合ったことのないローレットは、突然詰め寄られたことに怯えるも、護衛役のヴィヴィアンがリュドヴィックから庇う。邪魔されたことに苛立ちヴィヴィアンを睨みつけたことから、リュドヴィックが冷静でないことはこの場の全員が察した。

初めて見る姿に生徒会の皆は声を失う。いつもは飄々としているリュドヴィックが、周りからどのような目で見られているか気にも留めず、ヴィヴィアンの手を振りほどこうと必死になっていた。

「ジャンヴィール様、これでは落ち着いて話が出来ません。何とかしていただけないでしょうか」

震えるローレットの言葉で我に返ったジャンヴィールは、リュドヴィックに落ち着くよう声をかけた。しかし声は届かず、最後はガストンが押さえつけることでようやく落ち着きを取り戻した。

「ガストン、もう大丈夫だ。大丈夫だから。手を離してくれないか」

「本当に落ち着いたのだな」

「はい、ジャンヴィール様。お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」

「良い。ガストン離してやれ」

解放されたリュドヴィックが静かに大きく深呼吸をして、ローレットの前に立つ。リュドヴィックが落ち着きを取り戻したのがわかり、ローレットも落ち着きを取り戻す。間に立っていたヴィヴィアンに礼を言って下がらせると、ローレットはリュドヴィックと話すべく1歩近づく。

「危害を加えるつもりはなかったのだが、襲いかかるような真似をしてしまった。済まなかった」

「許します」

深々と頭を下げたリュドヴィックに対して、ローレットはあっさりと許しを与える。ローレットを悪辣非道と考えているジャンヴィール達は、ただ驚くばかりだった。

「それで、どうすれば姉の居場所を教えてもらえるのだろうか?」

「簡単な事です。

生徒会を辞めてくだされば、交換に情報を差し上げます」

ローレットの条件にリュドヴィックが息を呑みリリアーナに目を向ける。以前心を救われた際、リュドヴィックはリリアーナの力になると心に誓った。もしローレットの提案を受ければ、その時の誓いを破ることになってしまう。

「酷い!!何で、そんな意地悪するんですかッ!どうしてローレット様は私達の嫌がることばかり。

タダでくれても良いじゃないですかッ!リュドヴィック様の弱みにつけ込むなんて、卑怯ですッ。

それに、リュドヴィック様が辞められて一番困るのはジャンヴィール様じゃないですか。どうしてそんなにジャンヴィール様を苦しめるんですか。今ジャンヴィール様が苦しい立場にいるのも、全部貴女のせいでしょう」

突然リリアーナが叫んだ。しかし状況を全く理解出来ておらず言いがかりをつけるリリアーナに、ローレットは唖然としてしまう。

静かな生徒会室に、リリアーナの微かに乱れた息だけが聞こえる。

「何とか言ったらどうなんですかッ?」

静寂を破るリリアーナの怒鳴り声で、ローレットは我に返った。あまりの理不尽さに沸々と怒りが込み上げてくる。思わず言い返しそうになるのを、グッと奥歯を噛みしめて堪える。

(危なかったー。我慢、我慢よ。落ち着いて。落ち着くの。相手にしては駄目)

自分に言い聞かせて何とか堪えるも、横に立つヴィヴィアンから不穏な気配が漂ってきた。チラリと横を見ると、ヴィヴィアンは怒りを通り越して殺意を向けている。よく見ると、強く握り混んだ拳をもう片方の手で押さえ込んでいた。ヴィヴィアンなりに必死に堪えているようだった。更に後ろからも、呪詛のようなリリアーナへの暴言が聞こえてきた。とても小さかったことと、泣きながらローレットを非難していたため、リリアーナ本人の耳には届いていないようだが、このままではマズいとローレットは空気を変えるべくシナリオを進める。

「それでどうされますか?」

「そ、それは・・・」

リリアーナに熱い眼差しを向けられ、リュドヴィックは答えを出すことが出来なかった。

「リュドヴィック様、先程の行動が貴方の本心、本当の願いなのではないですか?」

静かに諭すようにローレットが語りかける。

ローレットの言葉にリュドヴィックの心が揺れる。しかし理性は、立てた誓いを捨てられない。

「何を悩んでいるのかわかりません。しかしクロエ様は貴方を助けるため、自らその身を捧げたのではないですか?クロエ様が救いたかったのはベルトラン家ではなく、まだ幼かった貴方だったのでは?

長い間、クロエ様の身を案じていたのでは?ずっと居場所を知りたかったのでは?必ず助けると誓ったのではないのですか?

リュドヴィック様にとって本当に大切なものは何ですか?」

ローレットの言葉にリュドヴィックの心が大きく傾く。手に入れられなかった姉の居場所が目の前にある。これを逃せば、いつ情報が手に入れられるかわからない。もしかしたら突き止めることが出来ず、助け出すことが出来ないかもしれない。姉は苦しみ続けたまま死んでしまうかもしれない。

答えは決まっているのに、リリアーナの悲しそうな瞳がリュドヴィックを引き留める。

答えに苦しんでいるリュドヴィックの肩をガストンが拳で叩く。

「ガストン?」

「こちらのことは心配するな。

今度はお前がその身を捧げる番だろ?でないと、一生後悔することになるぞ」

ガストンの言葉に礼を言うと、リュドヴィックはジャンヴィールの前に行き、跪いた。もう迷いはなかった。

「ジャンヴィール様。私個人の我が儘で、お側を離れることをお許しください」

「良い。許す」

事情を知っているジャンヴィールは、リュドヴィックの望みを喜んで叶える。立場故決して対等ではなかったが、ジャンヴィールにとってリュドヴィックは確かに友と呼べる相手だった。友の望みを叶えてやることが出来、ジャンヴィールはむしろ誇らしい気持ちだった。そしてリュドヴィックもジャンヴィールを友と思い、切れることのない友情が伝わっていた。それが永遠の決別だったとしても。

礼を述べリュドヴィックが立ち上がると、ジャンヴィールは黙って右手を差し出した。リュドヴィックも黙ったままその手を握り、2人はただ微笑み合った。2人の間に言葉はいらなかった。

その光景を皆が見守るも、状況を全く理解しておらず、空気を読まない者が一人いた。

「おかしいです、こんなのッ!確かにリュドヴィック様にとってお姉様は大切な人かもしれません。だからって、何かを犠牲にしなきゃいけないなんて、おかしいです!

ローレット様!それって、ローレット様には何の価値もありませんよね。だったら、タダでリュドヴィック様に教えてあげても良いじゃないですか!弱みにつけ込むなんて卑怯ですッ!弱みにつけ込んで苦しめる、それが上位貴族のやることなんですかッ!

何とか言ったらどうなんですか!」

「リリアーナ」

レジスがリリアーナを落ち着かせようとするも、リリアーナはローレットの言葉を待ち睨みつける。

(話になりませんね。察しが悪いどころか、見当違いだなんて。本当に入学前の試験で満点を取ったのかしら?頭が良いのではなかったの?)

リリアーナの成績は全て『完全記憶』の 授かりし者(ギフテッド) によるものである。考えて導き出したものではなく、記憶にあるものを書き写しただけ。しかし誰も、本人ですらそのことを理解していなかった。天才だと勘違いしていた。

(それより、みんなが限界そう)

第五位貴族にも関わらず、第一位のローレットへの暴言。更に見当違いの言いがかりと、側近であり友人でもあるヴィヴィアン達の我慢は限界に達しようとしている。ヴィヴィアンがローレットに「殴って良いですか?」と尋ねているような目を何度も向けていた。状況を鑑みれば、殴ったところで社会的に問題はない。しかし感情は別だ。ジャンヴィール達からの印象は間違いなく悪くなる。多少なりとも得てきた信頼が崩れ去ってしまう。復讐はまだ終わっていない。

立ち去った方が良いと判断したローレットは早々に立ち去ることにした。

「リュドヴィック様、情報は後日お渡しします。生徒会辞任が発表されましたら、こちらから連絡を差し上げますが、それでよろしいですか?」

「ああ、それでかまわない」

「ローレット様ッ!私の質問に答えてください!」

用件を全て終えると、ローレットはジャンヴィールに挨拶をして、今にも爆発しそうなヴィヴィアン達と生徒会室を出て行く。全く目にも留めないローレットの態度に、リリアーナの怒りが大きくなっていく。扉が閉まっても尚、リリアーナの喚きは廊下にいるローレット達にはっきりと聞こえていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ローレット達が去った後、側近と生徒会役員を辞めたリュドヴィックも部屋を去り、生徒会室にはジャンヴィールとガストン、レジス、リリアーナが残っていた。レジスからリュドヴィックが条件を受け入れた理由を聞かされたが、リリアーナは何回聞いても理解出来なかった。

「何でですか?どう考えてもおかしいです。だって、リュドヴィック様のお姉様は被害者じゃないですか。助けるなら、ジャンヴィール様のお力があった方が良いじゃないですかッ。そうすればジャンヴィール様の評判だって良くなって、リュドヴィック様もお姉様も幸せになれるじゃないですか。それのどこが駄目なんですか」

「そうは言っても・・・」

またレジスが同じ説明を始めるが、何故自分の言うことを理解してくれないのかリリアーナは苛立つばかりだった。

リュドヴィックの姉は親の借金の肩代わりとして、とある貴族に引き取られてしまった。つまり悪いのは親であり、姉は関係ない。それなのに、レジスは「問題ない。法律で認められている」と言うばかりだった。責任は自らが取るものであり、他人が背負うものではない。まして子供に押しつけるのは非人道的以外の何物でもない。リリアーナは、自分の言っていることは正しいと信じて疑わなかった。

そしてもう一つ納得出来ないことがあった。ローレットの条件がジャンヴィールの為になるということだ。ジャンヴィールとリュドヴィックは友人とも言える関係だ。信頼出来る側近を辞めさせることが、どうしてジャンヴィール様の為になるというのだろうか。それに正しいことをすれば、評価されるのが当然である。ジャンヴィールが困るようなことなど何1つないはず。それなのに、姉を助ける際にリュドヴィックが側近のままだと、ジャンヴィールがその貴族に借りをつくることになるという。ジャンヴィールは正しいことをするだけ、被害者を助けるだけなのに、どうして借りをつくることになるというのか。

感情や感覚で善悪を決めるリリアーナにとって、法律と慣例で常識を語るレジスの説明は、間違っている社会の構図だった。

(同じ志を持っているレジス様でさえ、間違った考えのまま。私がもっと頑張らないと)

決意を新たにしたリリアーナは、レジスの説明が終わるとただ一言「わかりました」とだけ口にした。それを聞いて、ようやく理解してくれたとレジスは安堵するが、その言葉の意味合いは両者にとって全く違うものだった。