軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「旦那様ったらさ、今度はあの愛人にドレスを仕立てたらしいよ〜、奥様にはここ何年も真面に買い与えていないのにさ!」

「良い奥様なんだけどちょっと地味だしねぇ。」

「まあ、子供にばかりかまってちゃあんな感じになるのも無理はないよ。

出身も子爵家だろ?だから乳母も雇わなかった訳だしさ。」

「『体型を戻してから仕立て屋を呼べ!不経済だろ。』って言ったんだって!愛人にはもう何着もドレスを贈ってるってのに。」

「あんた何でそのこと知ってるの?」

「キキル洋品店のお針子が私の従姉妹なんだ。ジークフリード様もあんまり店を知らないから奥方と同じ洋品店で愛人の服を仕立ててるんだよ。店の子達にはバレバレなんて全く恥ずかしいよねぇ〜」

クスクス、アハハ、男は皆ドジだねぇ・・・

裏庭にローズが足を運んだある日、メイドたちは洗い桶に足を突っ込んだまま雑談に花を咲かせていた。

初夏の日差しの元、若い彼女たちはゲラゲラと笑いながら家の柱である奥方を笑い者にしていた。きっとそこまで悪意を持っているわけではない。

噂話は面白い。それがどんな形であっても。

彼女たちの会話を耳にしたことで(もしかして旦那様は浮気をしている?)という疑惑が確信に変わった。

香水の匂い。自分に対する態度。帰宅時間。

この数年全てが少しずつ狂っていた。

子供を産んだ後から自分に興味が湧かないのか一夜限りの遊びをジークフリードが行っていたのは既に知っている。

社交界は下世話な人間が多い。

夜会で友人がすぐに教えてくれたのだ。

女性は勿論、男性も。

『まあ、決まった女を相手にしてるわけではないから君も適度に遊ぶことを勧めるよ?』だから今夜は俺とどうかな?

そう言って親切そうに手を取ってきたのは昔学院で自分に二度ほどちょっかいをかけてきた侯爵家の次男だった。

自分の妻もきっと今頃しけ込んでいるさ!と笑う彼をローズは苦笑いで制した。

「 息子(アルフレッド) に『良いお母様』だと思ってもらいたいの。私みたいな地味な女の手を取ってくれて有難う。そして主人のことを教えてくれてありがとう」

震える手で扇を口元に持っていき戦慄く唇を隠したのは4年前。

今年はあろうことかアルフレッドの9歳の誕生日会を忘れて、ジークフリードは遊びに出てしまった。

きっと最近執心している愛人宅であろう。

執事のドリルは初めの頃こそローズを家を取り仕切る人間として敬ってくれていたが、ここ2年は顕著に隠し事が増え自分の意見も無視するようになっていた。

筆頭の執事がそんな態度をとれば後の人間もそうなる。

侍女や下働きの人間も最近はローズの用事は軽んじており家の取り仕切りは難しくなってきていた。

ジークフリードが帰らないとわかっている日は明らかに手を抜いた食事を作り、使用人が食べるものよりひどい内容で食事を出してくることもある。

近年はローズのドレスやアルフレッドのスラックスの洗濯も、いい加減で見過ごせないレベルになってきた。

主人のシャツやジュストコールは完璧に仕上げても、ローズのドレスには取れるシミが残されたままだったりするのだ。

これではいけないとメイド頭に意見を言ったこともある。だが、明らかに不満そうな表情をして見せ、一刻もしないうちに執事のドリルから逆に意見が返ってきた。

「家を取り仕切る奥様が不満ばかり言っていては侍女たちや下働きの人間のやる気に関わります。」

「でも彼女は仕事を真っ当に熟していないのよ?クビにするべきでは?」

「失礼ながら、彼女は奥様がこの家に嫁がれる前から伯爵家に勤めているベテランです。奥様の権限で脅したところで他の者の反感をよけいに煽るだけですよ。旦那様に報告致しますか?」

ドリルは勝ち誇ったようにローズに威圧をかけた。

ジークフリードはお前を軽んじている。私たちからの意見の方が強いのだ。雇われている私たちはジークフリード様に『意見を聞いてもらえる人間だ』そう言外に言ってきたのだ。

子供の頃からジークフリードに仕えている人間たちの結束は固い。代々伯爵家に仕えていると言う矜持があるからだ。

だがそれと仕事を蔑ろにする事は全くの別物であり、その家の妻を下に見るのも勿論間違っている。

ローズは頭の回転の速い人間だ。

下のものを御せないと主人に知られるのはプライドが許さなかった。

「言いたければ言えばいいわ。この前帰省していたでしょう?実家の子爵家の侍女たちはこのような仕事のミスは犯さないのよ。久しぶりに実家でドレスを洗って貰ったら貴方達との仕上がりの違いが尚更気になってしまって。洗濯が苦手でいらっしゃるのなら今度からドレスの洗濯は実家に頼むわ。当然主人にもその話は通させて頂くわね。」

ローズも負けじと嫌味を混ぜてドリルに言葉を返す。するとドリルもカークランド家が出て来るのは不味いと分かったのであろう。

「指導しなおしますので今回はお許しください。下働きの娘たちにはよく言い聞かせますので。」

そしてやっと頭を下げた。

ローズはため息を吐くとドリルに静かに言った。

「伯爵家の家の中が荒れることは妻として許せることではないのです。アルフレッドももう9歳になりました。1人で 他家(おともだち) にも足を運ぶようになりましたでしょう?家のことを理解する歳です。他の家やカークランド家は完璧に掃除が行き届いているのにペンデルトン家は薄ら埃が被っている・・・なんて学園で話してご覧なさい。ジークフリードもいい笑い者よ。」

ドリルたちはそれから表立って仕事に手を抜くことは無くなったが、ローズに対する根底の侮蔑の感情は変わらなかった。

結婚当初、子爵家の持参金でこの家は持ち直し、家の者たちは一様にカークランド家から嫁いだローズを大切にしてくれたものだ。なのに少し儲けが出るとジークフリードは皆の前でローズをバカにするようになった。

アルフレッドが4歳の頃。ジークフリードは商談をまとめるのに難航していたことがあった。

少し話を聞けば先方に多忙を理由に面会を断られ続けているとのこと。それは学院で生徒会を時期同じく務めた伯爵嫡男であった。縁のある知り合いであったので「まあ!それなら私が手紙を出して会ってもらえるように取り計いますわ。」とローズは橋渡しを買って出た。

とんとん拍子に話は進み見事商談は成立。

夫の役に立てたことが嬉しくてローズがニコニコしていると夕食の席でジークフリードは急に怒り出した。

「君はたった一つの切っ掛けを作ったのに過ぎない。それなのに自慢げに話してみっともない。自分がそんなに偉いと思っているのか?」

ローズは謝った。

ジークフリードのいう通りちょっと手伝っただけなのに、態度が大きかったかも知れない・・・と反省したからだ。

「君にはそういうところがある。私の母ならそんなことは絶対にしなかったよ。学院を卒業していることを鼻に掛けるなんて女としてどうなんだ?夫として恥ずかしい。」

ジークフリードは経済的理由から学院を卒業することは叶わなかった。

ローズとしてはそれをバカにしたことも無かったし、逆に自分の学歴を自慢だと思ったこともない。だが、学歴を気にする 相手(夫) を思いやれなかったのだと反省しその夜は寝室で涙を零し反省をした。

ジークフリードはそれを切っ掛けにローズを『頭でっかちの、気の利かない妻』と外でも吹聴するようになった。

ローズは何を言われても最初の自分が悪いとそれに対し口答えをすることは無かった。

これ以上夫との関係を拗らせたくは無かったのと息子であるアルフレッドに良い夫婦関係であると思って貰いたかったからだ。

社交界にローズを伴うことも、この頃から目に見えて回数が減った。

いつの間にかすっかり元のサイズに戻ったローズにジークフリードは目を向けなかったし関心も既に無かった。

家計を握っているのは多くの家でそうであるように夫だ。

だが色々歯車が噛み合わなくなったのは出産してすぐだったようにも思う。

産後、サイズが変わったのでドレスを仕立て直したかったがローズは夫の許しを得られない。

『不経済だ。』その不機嫌そうな夫の一言で終わってしまった。

ジークフリードから見て、母と違い、多くのドレスを嫁入り道具として持参したローズは結婚当初から鼻持ちなら無かった。家具は北国の一流家具職人の手による高価なクローゼットにドレッサー。子爵家からの嫁入りだというのに大粒の貴金属があしらわれた宝飾品類。

体型を理由に新しいドレスなんて作らず自分が持ってきたご自慢のドレスを着たらいい!本気でそう思っていたのだ。

ローズは仕方なく体型がまだ戻らない時期に招待された夜会や茶会に、胸とウエストの調整が効くデザインの 服(ドレス) をいつも着ていく事になる。長兄ダグラスの妻がローズの装いに気づき『この前とその前も同じドレスを着ているわ!』と家族に話したことから次兄のペイリーが心配してドレスを3着、誕生日の贈り物としてくれた。

ダグラス・カークランド子爵は見兼ねたのだろう。『俺たちがペンデルトン伯爵に話をつけてやるぞ?』と言ってくれたがローズは兄弟の介入を断った。

『お兄様たちが思っているほど私たち夫婦は拗れているわけではないから。体型が変わっているのは今の時期だけだから勿体無いわって私がジークフリード様にドレスを強請らなかっただけよ。』

自分はちゃんと笑えているかな?そう思いながら声の震えを押し殺した。

カークランド家の兄弟たちは妻を大切にし温かい家庭を築いているのに、自分は夫から蔑ろにされているという事実を、ローズは自分に認められなかった。

しかも兄2人に嫁いだのはどちらも彼女の友人である。

持参金をあんなに用意してくれたのに、その自分が夫と上手くやれていないことが恥ずかしい。

それにローズにも信念がある。

自分の親がそうであったように、子供に愛情を持って沢山接したいと希望し乳母は頼まなかった。自ら母乳を与え、大きくなれば勉強も結果だけを見るのではなく共に教科書を開いた。

小さな頃からアルフレッドは成績も良く、多くの友人にも囲まれることから人望もあるようだ。

少年特有の反抗期もあり口数が少ない期間もあったが、ローズの変わらない接し方にアルフレッドも徐々に大人になっていく。

どういうわけかジークフリードは、実家のペンデルトン前伯爵夫妻が関わる時は 息子(アルフレッド) と親しげに接し、可愛がった。

普段は自分のことにかまけてばかりで顧みないのに、義両親が訪れる日だけはアルフレッドといつも誠実な親子関係を築いているように装うのだ。

ローズとしてはそれが癇に障りはしたが、アルフレッドが父親にかまってもらって嬉しそうにしているのを見ると、アルフレッドの為に我慢した。

いつも日中出掛けているのにジークフリードはその日だけはアルフレッドに玩具を買い与えたり、ボードゲームを囲んだりする。父親に相手にされる度にアルフレッドは嬉しそうで満面の笑みを浮かべるのだ。

『母親だけじゃダメな時ってあるのよね・・・』それを突きつけられると本当に虚しく、その事実がローズを苦しめる。

結婚して子供を産み、夫は愛人が居るが離婚はしない…………。

振り返れば 夫婦生活(セックス) はもう8年も無い。

きっと、多くの貴族がそうなのだ。

だから社交界に出れば誘い誘われ貴族は夜遊びをする。

偶にアルフレッドにもう1人弟か妹をとせがまれるたびに、『私だって本当はもう1人子供が欲しい。』と、そう胸が苦しくなる。

自由になる僅かなお金をアルフレッドにまわし続けると、当然自分のドレスなど仕立てられない。余裕がないローズは社交界から遠ざかり、浮気をするような機会もないが(当然夫を裏切るつもりなど毛頭無いのだが)他に人との交流もまったくない。このまま歳を重ねて行きジークフリードから一生目を向けてもらえなかった場合自分はどうなるのだろうか?

穏やかな晩年を迎えようとしている両親と自分の将来を比べれば恐ろしくなる。

夫の帰らない屋敷の一室でローズは自らの人生を振り返った。

いつの間にかアルフレッドが爵位を立派に継ぐことだけが人生の唯一の目標になりつつあるのではと思い至ると恐ろしい。

夫の愛情が得られないからと言って、決して一人息子に依存しすぎてはいけない、と自分を窘めるのであった。

そんなある日ローズはゴールドスミス伯爵から呼び出されることになる。

「ご子息が怪我をされたので、至急拙宅に来て欲しい。」

早馬が持ってきた手紙に飛び上がりローズは殆ど身支度を整えることもせず、ゴールドスミス家の門を叩いた。

ペンデルトン家と同じくらいの大きさの館は草木は少なめで外見は少々古びていた。

しかし中に足を踏み入れると調度品はどれも一級品。執事やメイドはローズの着ているものと変わらないほどの高級な生地を使った制服を身に纏っていた。

汗が滲む額をハンカチで押さえ応接室で待つこと数分。

現れたローガン・ゴールドスミス伯爵は非常に大柄な無骨な雰囲気の男性であった。

シャツとスラックスという簡単な出立ちではあったががっしりとした体つきは威圧感がありローズは一瞬侍女の誰かを連れてこなかったことを後悔した。

使用人に付き添いを『お願い』しないといけない状況が嫌で御者のみを連れてきてしまったが、2人きりになるのが戸惑われるほど、彼が威圧的な人間に見えたのだ。

挨拶もそこそこに2人は席につくとゴールドスミス伯爵は落ち着いた口調で語り始めた。

「実は息子さんがジョシュと喧嘩してしまってね。揉みあって階段から2人して落ちてしまったのですよ。まあ男には有りがちな擦り傷ばかりで心配は要りませんが先ほど念のため医者に診せました。軽く頭を打っていることから念の為今日は動かさない方がいいと言われています。

お節介だとは思いましたが今夜の寝室を用意しています。」

「無事なのですね。」

太く静かに響く声は安心感があり、知らず知らずローズは大きく息を吐き出した。

ホッと安堵の表情に変わるとゴールドスミス伯爵はそのタイミングでお茶を勧めてきた。

ゴールドスミス伯爵は社交界にはあまり出てこない文官家系の家柄だったと記憶している。

何が起こったのか・・・話し始めると話の筋道はしっかりしており時系列に伝えてくれる。彼の落ち着いた語り口は感情を抑えており分かり易かった。

アルフレッドとジョシュは教師も認めるほど親しい友人関係で普段から家の行き来もしている。

アルフレッドの誕生日会には勿論招待したし、ジョシュからも招待を受けて遊んでいる。

親同士で話をしたことは無いが身元の確かな人間同士の通う学院である。故にどのような爵位であろうと交友を咎めたことはローズは一度も無かった。逆に政治的な思惑を子供に話したりしたこともない。

2人は本当に 性格(うま) が合ったから仲良くしていたのであろう。

それがこのような怪我をするほどの喧嘩に至るとは想定外だ。

今日は宿題を2人で終わらせた後、子供部屋に篭って雑談をしていたらしい。

すると暫くしてアルフレッドが部屋を飛び出してきた。

『そんなこと聞きたくない!!』とアルフレッドが叫んだ後2人で揉み合いになり階段の踊り場から雪崩れるように2人して落ちてきたそうだ。

「私の息子に非があるのですが揉めた理由をどうしても話してくれないのです。ジョシュは自分が悪かったの一点張りで、アルフレッドは先ほどから一言も口をきいてくれません。」

普段は私と雑談したりするんですがね・・・

とゴールドスミス伯爵は思案気に腕を組んだ。

「私が話してみてもよろしいでしょうか?」ローズは全ての話を聞き終えるとゴールドスミス伯爵に申し出た。

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カーテンを半分だけ引いた客間にアルフレッドは寝かされていた。

ローズを見ると体を起こし顔を歪めポロポロと静かに涙をこぼし始める。

ローズはそっと枕元に腰掛けるとアルフレッドの頭を優しく抱き込んだ。

「お母様に話せる?」

そういうとアルフレッドはさらにしゃくりあげるように泣き出した。

暫く落ち着くのを待っているとやがてアルフレッドは決意が固まったかのように訥々と話し始める。

ことの発端はアルフレッドが班隊長に選ばれたことから始まった。

公爵家次男坊のホークはアルフレッドが班隊長に選ばれたことが気に入らず何にかにつけて嫌がらせをするようになったという。少しの欠点や班隊長として至らない部分を言いつけたり、友人とグルになって質素なアルフレッドを貶めたりしたという。

嫌な思いもしたが他の友人もジョシュも『ホークは家柄だけの奴だ。親の威光に縋ってるだけじゃ班隊長になれないんだといういい見本だよ』とことある毎に味方に付いてくれていた。

しかし今朝はどうも様子がおかしくホークと取り巻き達は一日中ニヤニヤと嗤い、他の友人たちも目を合わせてくれない。

アルフレッドは違和感を感じながら授業を受け、帰宅前にジョシュから自宅に誘われた。

『落ち着いて聞いてくれ。3ヶ月前の君の誕生日の日ペンデルトン伯爵は母上とは違う女性と食事宿に行かれていたらしい。』

ジョシュはなるべく友人が傷つかないように気を張って喋ったがアルフレッドは一言目から真っ青になった。

アルフレッドの父親が不倫しているという事実を両親が話していたのをホークは盗み聞きしていたのだそうだ。食事宿とはこの国では情事の際よく使われる大人の宿泊施設で、耳の早い少年たちが最近意味を理解し得意げに話していたことからアルフレッドも事情を理解した。

誰に見られたのかは分からないが父親はその宿に入っていくところを見られ、ホークの両親に話題を提供することになったのだ。

『あんなに勉強を頑張っているのは不倫して家庭を顧みない父親から愛情を少しでも向けて貰いたいためだろうと母様も話していたよ。全く父親に大っぴらに愛人がいるなんて気の毒だな。』

とホークはアルフレッドの居ない教室で全く気の毒そうに思っていない態度で話した。

ホークたちの話ではジークフリード・ペンデルトン伯爵は美丈夫でモテるが妻は地味で冴えない人間であると 母親(ローズ) まで笑い者にした。

ホークの父親いわく男性ばかりの遊戯場では最近キャセリーヌという女性をいつも伴っており、どうしても仕方ない夜会などだけは妻を嫌々エスコートしている。美しい女性を連れ立って歩くのは男のロマンだがアルフレッドみたいにはなりたくないな。とホークは締めくくったそうだ。

ジョシュは『あくまでもホークの話したことだし真実とは違うと思う。でも皆の前で話してしまったから教室内が混乱したんだ。』と。

散々迷ったがアルフレッドに伝えようと決意した経緯を話した。

アルフレッドはショックで部屋を飛び出しそれを止めようとしたジョシュと階段で絡れて転落したのだという。

偶々帰宅したゴールドスミス伯爵が素早く対応をしてくれ医者を呼び、ローズにも早馬を飛ばした。

話が終わるとローズはアルフレッドに申しわけがなくて唯々抱きしめた。

多感な年頃の息子になんと辛い現実を背負わせてしまったのか。

勿論貴族には愛人を囲っている男性も沢山いる。

だが、妻がここまで蔑ろにされているのはペンデルトン家くらいかもしれない。

愛人を囲うような浮気癖のある男性たちの多くは、愛人に何かを買い与えれば、妻のご機嫌を伺うために妻にはそれ以上の宝飾品を贈り、使用人たちに見縊られないようにするため権限も大きく譲渡しているものだ。

それなのに自分ときたら、ドレスを買ってもらえなくても自分に非があるのだと抗議の声を上げることすらしなかった。貴族なら当前の装備品を調えられずに社交を怠ってきたことで、他家から軽んじられたのだと今更ながら気が付いた。

そもそもの間違いは、 兄弟(カークランド) に自分の家庭の事情がばれたくないというローズの自分勝手な矜持のためだ。

いつも成績が良く品行方正なローズは両親から褒められて育った。

やんちゃな兄弟たちに比べて手がかからずに育ったローズは、両親に結婚で迷惑をかけるだなんてとてつもない恥だと思っていた。

自分さえ我慢していれば丸く収まるのだと信じて疑わなかった。

だがアルフレッドは自分と夫が関係をきちんと正さず、話し合いをしてこなかったとばっちりを正面から受けて、教室で明日からやっていくのも困難なほど馬鹿にされ、厳しい状況に立たされている。

いつの間にか部屋は薄暗くなり灯りはベッドサイドのランプひとつだけであった。

母子は静かに抱き合い深い悲しみをお互いに共有した。

コンコンコンコンとノックの音が聞こえ振り返るとそこにはゴールドスミス伯爵が1人でワゴンを押して入ってきた。

「食事を取って休むといい。今日は泊まっていくとペンデルトン邸に私が言伝を出しておいた。この部屋にもうひとつベッドを入れるからゆっくりして行きなさい。」

そう言うと返事も待たずに退室してしまった。

至極あっさりした言葉であったが母子には有り難かった。

2人にはペンデルトンを離れて考える時間、話し合う時間が必要であったからだ。どうせジークフリードは家には戻らないし、食事は粗末なものしか用意されていないのだ。

ドリルたちも清々するだろうと思うと苦い気持ちになる。

ローズはゴールドスミス伯爵の温情に感謝し、その日はアルフレッドを抱きしめながら眠りについた。