軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九尾之狐①

2度目のクリスマスデート。

前回は方違えで行き先を変更した為、今回はそのリベンジである。

目的地は大阪にある海岸公園で、今年もクリスマスイベントが開催されるのだ。

もちろん、方違えの問題がないことは確認済み。

無事に現地へ到着し、そろそろ慣れてきた腕組みをしながら明里ちゃんと公園を歩く。

屋台を冷やかし、予約していたお店でランチを食べ、ステージのイベントを観覧する。

夕暮れを弱々しく照らすイルミネーションを遠目に、海岸沿いを歩いていると、明里ちゃんが尋ねる。

「ねぇ、聖さん。私の友達を助けてくれない?」

「友達? 妖怪退治なら力になれると思うよ。誰を助ければいいの?」

クリスマスプレゼントは用意したけど、彼女からのお願いを叶えるというのもありだろう。

俺の得意分野だ。

「神様に連れ去られそうなの。どうにかできない?」

「神楽君のことか……」

正直、助けたくない。

明里ちゃんと親しげなあの男に利する行動を取る?

やだなぁ。

いや待て、そんな狭量な男が女性に好かれるだろうか。否!

海のように広い心を持つ男の方がモテるに決まってる。

そもそも、神楽君も他意はないと言っていた。

距離は近くても、それは俺と加奈ちゃんの関係性と同じもの。

明里ちゃんは人生のパートナーになるんだ。俺が信じなければ、誰が信じるというのか。束縛系彼氏なんて嫌に決まってる。

大切な幼馴染を助けてくれた婚約者に惚れる展開も期待できるだろう。

とはいえ、俺の意志がどうこう以前に、答えは決まっているのだが。

「神様からお気に入りを奪い取るってことだよね。ごめん、さすがに神様相手に戦うことはできない。勝ち目がないから」

「聖さんなら、神様と交渉することもできるんじゃない?」

「神様に仕事を依頼されたことはあるけど、こっちから指図することはできないよ」

狐の神使ですら、俺の理解できない力を使うんだ。霊素で戦闘力が上がったからって、太刀打ちできる存在じゃない。

そんな相手に交渉とか、不遜にも程がある。

『生意気』とか言って消し炭にされそう。

カッコよく『俺に任せて。君のためなら神だって吹き飛ばす』とか言ってみたかったが……身の程は弁えているのだ。

明里ちゃんは落ち込んだように顔を伏せてしまった。

せっかくのデートでこんな顔させたくなかったけれど、変に期待させてしまう方が不誠実だと思う。

正直者の俺は気まずい空気を感じながら、海岸沿いを歩いた。

手摺りの下は波が押し寄せ、潮騒が気まずい雰囲気を誤魔化してくれる。

じーー

……離れたところで見守っている秘書さんの視線が痛い。違うんですよ。お宅のお姫様がかぐや姫並みの我儘言うから。

そんな時、明里ちゃんが海の彼方を指して言った。

『ねぇ、聖さん。あっちに面白いものが!』

「面白いもの?」

この空気を変えようとしたのか、明るい声だった。

俺は全力で乗っかる為、海を凝視する。

……どれ?

何も見当たらないんですけど。

あちこち視線を向けるも、夕陽を反射する海しか見えない。

何を見つけたのか明里ちゃんへ聞こうとしたしたその瞬間──。

──♪♪♪♪♪!!!!

サトリの声が危険を告げる。

どこから何が迫っているのか確認する間もなく、俺の腹に何かが突き立てられた。

「明里ちゃん?」

突き立てられたのは漆黒に染まった小型の刃物。

それを手にするのは、さっきまで腕を組んでいた明里ちゃんだった。

は?

何が起こってる?

あまりの信じられない出来事に、俺は咄嗟に動けなかった。

至近距離なら何でも把握できる謎の力を手に入れて以来、初めての不意打ち。

しかも相手は婚約者。

意味がわからない。

フリーズする俺に対して、明里ちゃんは再度ナイフを振おうとする。

──♪

それを阻止してくれたのは、サトリだった。

デート中でも透明化して寄り添うパートナーは、二撃目を許さない。

立派に成長した体躯で襲撃者へ突進する。

『チッ』

舌打ちした明里ちゃんは攻撃を諦めて後ろへ跳んだ。

何だあの跳躍力は。武士の脚力でもないと再現できないぞ。

多少鍛えてる陰陽師ごときじゃ不可能な芸当だ。

「あっ、サトリ、ありがとう」

──♪

目前の危機が去った。

混乱する俺の脳みそが情報を受け入れるのに必要な時間を、サトリが作ってくれたのだ。

簡易結界を張るべきだったと、今更になって気づく。

そして、もっと今更ながら刃物を突き立てられた腹部を確認する。

「どこを刺されたんだ?」

ガッツリ貫通された服を捲るも、俺のお腹には傷が見当たらなかった。

これはもしかして、身体強化のおかげか?

かなりの腕力で突き立てられたはずなんだけど、チクッとした痛みしか感じなかった。

アドレナリンで感覚鈍ってたんじゃなくて、本当に刺さってなかったのか。

『ねぇ、どうして刺さらないの? 防刃ベストも身に着けてないのに』

明里ちゃん?が不思議そうに聞いてくる。

セリフから察するに、俺の腕を取っていたのはその確認の為?

おい、いつから計画していたんだ?

「……お前が怪しかったからだ。防御が間に合った」

状況がわからない。

だから、まずは相手から情報を引き出そう。

正直なんて言えば情報を抜けるかすらわからんが、それっぽいことを言えばしゃべってくれそう。

「明里ちゃんは舌打ちなんかしない。お前は何者だ?」

とりあえず、明里ちゃんの姿をした偽物という想定で問いかける。

この段に至ってようやく、秘書さんが異常に気付いた。

「姫様、いったい何を! そのダガーをどこで!」

『そこの愚鈍な女と違って、貴様は気付いたか』

やっぱり偽物だったようだ。

偽物が明里ちゃんの声で話している。しかし、その口調は明里ちゃんのものではない。

正直いまだに本物との差異がわからない。

変装? 擬態?

「峡部様、これはいったい……」

「見ての通りです」

なんて言っちゃったけど、何が何やら。

兎にも角にも、明里ちゃんの居場所を聞き出す為に生け取りにしないと。

なぜ俺が人間に襲われているのか分からないし、安眠の為にもとどめを刺したいところだが、婚約者の命が最優先だ。

足を潰すくらいで我慢してやろう。

懐の札に手を伸ばしたところで、偽物が強気な口調で告げる。

『貴様、わかっているだろうな。我を攻撃すれば器であるこの娘の命はないぞ。そこを動くな。霊獣も大人しくさせよ』

「まさか、妖怪が姫様に取り憑いている?!」

『今頃気づいたか。そこの女も余計な真似をするなよ』

えっ、あっ、そうなんですか?

別人が成りすましてるんじゃなく?

いや待て、よく見れば明里ちゃんの体になんか変な影が見える。

あれは、ケモ耳?

ケモ尻尾?

しかも一本じゃなく9本。

つまりあれは──。

「九尾之狐」

『やはり貴様は油断ならん。ここで確実に殺さねば』

図星みたいだ。

明里ちゃんに妖怪が取り憑いたことはバレても、その正体まではバレないと思っていたのか。

……いやいや、ちょっと待て。

九尾之狐は封印されてるはずだろ。

ちゃんと監視もされてるはず。

じゃあ、こいつはどうしてここにいる?

いつ封印が破られた?

いつから明里ちゃんに取り憑いてたんだ?

『懐から札を取り出そうとしたら、この娘の肉体を切り裂くぞ。早く手を上に上げよ。これは脅しではない』

九尾之狐はそれを証明するように明里ちゃんの頬をなぞり、ゆっくりと切り傷をつけていく。

自分の肉体じゃないからって、何てことを。

秘書さんはその脅しに屈して動けない。

俺も懐から手を出し──。

「急急如律令」

焔之札を飛ばした。

明里ちゃんの脚に向けて飛ばし、程よい位置で爆発させる。

「峡部様、何をするのですか! これでは姫様が!」

「テロリストとは交渉しない。常識ですよ。まさか、妖怪の言葉を信じるんですか?」

テロリストじゃなくて妖怪だけど、同じようなものだろ。

妖怪が人間の言葉を話していること自体異常なんだけどね。

さすがは伝説級の妖怪ということか。

本格的な戦闘が始まる前に、秘書さんへ指示を飛ばす。

「御剣家の人を呼んでください。俺の名前を使ってかまいません。あと、一般市民の避難も」

「……かしこまりました。……明里様をどうかお願いします」

秘書さんが俺の指示に従う通りはないが、これがベストと判断してくれたようだ。

戦場となる海辺から全速力で離れていく。

俺も戦闘準備としてバッグから札を取り出した。

その頃には爆煙が海風に流されてゆく。

『おのれぇ……』

無傷の明里ちゃん……否、九尾之狐がそこにいた。

デートは中止だな。

予定外だけど、狐狩りの時間だ。

〜〜〜

【予告】

明日も更新します。

戦闘終了まで毎日投稿後、2〜3週間お休みします。

燃え尽きた……。