軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫡男派閥懇親会

あっという間に懇親会の日が来た。

場所は源家本邸ではなく、高級ホテルの大ホール。

わざわざ送迎車まで用意する歓迎ぶりに、この後の方針を考えるとちょっと罪悪感が湧く。

「よく来てくれたわね! 歓迎するわよ!」

「お招きいただきありがとうございます。僕も楽しみにしていました」

招待状の送り主である源家第二夫人──恵杜さんが受付前で出迎えてくれた。

今日までSNSでやたらメッセージを送ってきたので、一見好意的な回答をしていたら、俺が嫡男派閥に擦り寄ろうとしていると勘違いしたらしい。

いや、源さんと相談しながら、そう勘違いするように仕向けたのだから、“らしい”というのは間違いか。

そのまま油断していて欲しいので、一人称も子供らしく僕でいこう。

さっそくホールの中へ案内されると、室内楽による生演奏が聞こえてくる。壁際にはブュッフェ形式でたくさんの料理が並び、ステージではパフォーマンスが披露されている。妻子含めて関係者全員が思い思いに時を過ごしているようだ。

陰陽師の集まりなのに全員セミフォーマルなスーツ姿である。

金かかってんなぁ。源パパは浪費家な妻を持って可哀想なことで。

源さん曰く、『源家の懇親会』と銘打っておきながら、実際には嫡男派閥だけが集められているらしい。

ここに俺を呼んだ理由は、長女派閥への牽制と、峡部家と敵対していないという自派閥へのアピールが目的だ。

「皆さん、聖君が来ましたよ!」

馴れ馴れしいな。

俺とあんたに碌な交流ないだろ。

メッセージでも初っ端から砕けた口調で、ビジネス相手との交流という自覚が感じられなかった。

「これはこれは峡部殿、この場でもお顔を拝見できて喜ばしい限りです」

「その節はどうも」

懇親会に誘ってきた男が最初に挨拶してきた。

思っていたより分家の中でも地位が高かったようだ。

男を皮切りに次々と挨拶に来る。

「君が噂の峡部家の嫡男か。いやはや本当に子供じゃないか」

「はじめまして、峡部聖です」

「会えて光栄だよ。東北で大活躍だったとか」

「こちらこそ、お会いできて光栄です」

め、めんどくせぇ……。

人の名前を覚えるのは苦手なんだ。

初見の相手にどう接するか、判断の連続で頭が疲れる。

ようやく一区切りついたところで、恵杜さんが食事を勧めてきた。

「食べ盛りだし、お腹空いたでしょう。いっぱい食べていいのよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えていただきますね」

さすがは源家、いい食材使ってる。

しかし、恵杜さんが俺のそばを離れない。これではゆっくり食えたもんじゃない。

お皿に盛ったローストビーフがなくなった瞬間、もう次の客がやってきた。

そんなに俺が味方であると宣伝したいのか。

「ややっ、これは峡部さん。お忙しいなか遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」

「いえいえ、いつも九尾之狐討伐でお世話になっていますから」

この人も九尾之狐討伐メンバーだ。

もともとメンバーは嫡男派閥と正妻派閥で半々らしい。

源パパが勢力間調整に苦慮する姿が目に浮かぶ。

顔見知り相手に油断していると、男の妻が会話に混ざってきた。

「夫が九尾之狐討伐でご一緒しているでしょう? いつも『峡部さんはすごい』と言っているのだけど、本当に九尾之狐を倒せるのかしら?」

喧嘩売ってんのかコイツ。

九尾之狐討伐に参加している人は別として、大半の人間がうっすら俺のことを舐めてるんだよな。

子供だから侮られている……というよりはオーラがなさすぎるのが原因か?

いいだろう、俺の価値をわかりやすく見せてやる。

この後の展開を考えたら、必要な措置だ。

「おい、やめなさい! 峡部さん、妻が失礼なことを言って申し訳ない。後で言って聞かせますので」

「あら、私も興味があります。聖君がどれほどすごいのか」

恵杜さんまで乗ってきやがった。

いいだろう、お望み通り見せてしんぜよう。

日本最強の力の一端を。

「せっかくです。ひとつ余興なんていかがでしょう」

「あら、もしかして陰陽術を披露してくれるのかしら?」

「ステージをお借りしても?」

恵杜さんは満面の笑みで頷いた。

彼女にとっても臨むところらしい。

あるいは、この流れ自体仕組まれたものなのかもしれない。

だが、あえて乗ってやる。

恵杜さんが司会からマイクをひったくり、盛大にアナウンスする。

「聖君が我々のために、陰陽術の実演をしてくれることになりました。皆さん是非ステージに注目を!」

学園祭で披露した演出に加えて、最後に一発ドカンとかませばいいだろう。

第漆精錬なんて使うまでもない。経費は源家が出してくれると言っていたし、秘術を使えば重霊素で十分だ。

まずは用意してもらった大量の札に霊力を込め、一気に飛ばす。

どうもこの軍隊操作、俺が思っていた以上にすごい技術らしい。

体外の霊力を完全に把握しなければできない、高等技術だとか。子供よりも大人の方が驚いていた。

「あの年齢で大人以上の技術を持っているとは」

「本当に一人で操っているのか?」

「だから言っただろう。峡部殿はすごい力を持っているんだと」

「力だけでなく、こんな繊細な操作をできるとは」

学園祭でも疑われた裏方の存在も、アウェーなこの場にいるはずもなく。

札飛ばしという霊力を持つ者なら誰でもやったことがある遊びだからこそ、その凄さが伝わる。

一通り動かしたところで、拍手が起こった。

うんうん、注目を受けて称賛されるのは心地よいものだ。

だが、まだ終わりじゃない。

「会場中央の的をご覧ください」

軍隊操作の中に紛れ込ませておいた自作の札を飛ばした。

その先には、事前に用意してもらった木製の的が置いてある。

「灼熱の焔が罪科を問う──業火之札」

ドカンと一発かますなら、やはり火だろう。

人間の根源的恐怖を呼び覚ます炎が的を中心に炸裂する。

霊体特化バージョンだから、ホテルの備品に延焼することはない。当然、火災感知器にも感知されない。

それでも、現世に影響が全くないわけではない。

「「「きゃー!」」」

「落ち着きなさい、これは現世に影響するものではない。はずだ……」

「これが霊体特化でなければ我々は……」

近くにいた人間は肌を焼かれる感覚に防御反応を取り、放出された熱は室内の温度を一気に上昇させる。

霊体特化の札一枚で大した予備動作もなく、現世の環境を大きく変えてみせた。

間近で体験した源家の人々は、感想を口にする余裕もなくなっている。

そんな中、真っ先に口を開いたのは恵杜さんだった。

「さすがは嵐様が目を掛けるほどの麒麟児。素晴らしいショーをありがとう!」

その言葉に促され、汗の滲む観客達は一斉に拍手してくれた。

ようやく理解したらしい。

俺がなぜ安倍家や東部家に重宝されているのかを。

日本最強の看板を奪えるほどの力を持ち、味方につけた方がいいと判断されたからだ。

ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。

だからこの女も、俺を味方につけたくて堪らないのだろう。

さっきからマイクを手に持ったまま俺に話しかけてきているが、結局言いたいことは最後の問いだけ。

「うちの子こそ、源家の次期当主に相応しいと思うでしょう? ねぇ、聖君?」

会場の全員へ聞かせるように、俺に向けてマイクが差し出される。

恵杜さんが強引に俺を招待したのも、いまだにしつこくお母様を勧誘するのも、全てはこの言質を取る為。

本当に、迷惑だ。

「さぁ? それを判断するのは源家当主です。僕ではありません」

もういいだろう。

梯子を下ろす時がきた。

俺は向けられたマイクに続けて問う。

「ところで、嵐様はどこにいらっしゃるんですか? ご挨拶したいのですが」

「嵐様は……急用で来られなくなったのよ」

源家の懇親会と銘打っておきながら、当主が来ていない。

そりゃあそうだろう。

恵杜さんが自分の基盤固めに開いた懇親会なのだから。

当主に裏工作を見られるわけにはいかない。

「お忙しいですからね。それは仕方ありません。では、彩さんと雫さんは?」

知っていて敢えて聞く。

俺を誘う時に嘘をついた自覚がある恵杜さんは目を逸らす。

「雫さんは京都だから、わざわざ呼び出すわけにもいかないでしょう。彩さんはまだ来ていないようね」

苦しい言い訳だ。

「そうですか。では帰ります」

「待ってちょうだい!」

「なぜ?」

ここに来てようやく、自分の筋書きが崩れたことを理解したらしい。

慌てて引き止めようとするが、根本的に間違えている。

「僕は 奏(かなで) 君とほとんど面識がありません。もちろん、貴女とも」

本来ならここに来る理由はない。

「この会に出席したのも、雫さん達との付き合いの一環です。貴女のお願いを聞いてきたわけではありません」

ここに来たのは、俺のスタンスを明白にする為。

杜撰すぎる恵杜さんの筋書きに乗っかる奴などいるはずがない。

メッセージで『峡部家をあらゆる面で優遇する』と宣っていたが、信用できない相手からの空手形なんて何の価値もない。

「僕は、源家の懇親会が開催されると聞いたから来たんです。御当主様だけでなく雫さんも彩さんもいらっしゃらないなんて……これは本当に 源家の(・・・) 懇親会なんですか?」

俺が源家と認めているのはこの3人である。

奏君には悪いけど、恵杜さんを仲間認定した覚えはない。

俺の心の壁は高いのだ。

「失礼します」

ここまで言えば誰もが俺の言いたいことを理解したはずだ。

そして、その発言力は先の実演会で証明されている。

俺は今度こそ退場した。

さて、源さんに問題なくことが運んだと連絡しないと。

下手な勘違いを生まないよう、今回の件は全て連携している。

戦友となる相手と確執なんて抱えたくない。

スマホを取り出すと同時、俺を呼び止める声がホテルの廊下に響いた。

「待ちなさい! 聖君!」

もう一悶着ありそうだ。