軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺阿家の第弐秘術

夏休みが終わった。

そして、秘術の授業が再開する。

「うん、よくできている。夏休みの成果が出ているね」

「ありがとうございます。先生が付き合ってくださったおかげです」

製紙の授業で先生が褒めてくれた。

素人感丸出しだった紙漉きスキルが、夏休みの練習を経て見習い職人レベルには上がっている。

それもこれも、部活の顧問よろしく夏休みに監督してくれた先生のおかげである。

学園の道具と部屋だけ貸してもらって自主練習するつもりが、先生の厚意で指導までしてくれたのだ。

どうせならと、秘術に関わる工程も体が覚えるくらい繰り返し練習させてもらった。

「峡部君が勉強熱心だから、調子に乗って先取りしすぎたかな。もう教えることがなくなってしまいそうだ」

「そんなことありませんよ。まだまだ教えていただかないと」

「本来なら、夏休み前までに知識を、残り半年で技術を磨くはずだったんだ。それを君たちはもう習得してしまった。ここまで作れるようになったら、あとは数をこなすだけだからね。授業としてはやることがないんだ」

ここまでできるようになったのは、懇切丁寧に教えてくれた先生のおかげ。

乾燥中の紙が乾いたら、俺が市販で買っている札の2グレード下の質になる見込みだ。それでも商業レベルではある。

俺はもう自分で札を用意できるようになった。

「それに、峡部君は自分で応用法を模索しているね?」

「なんでバレたんですか?」

「手の動きでわかるよ。これでもベテラン職人だからね」

先生の言う通り、俺は自分に最適化されたオーダーメイドの札を作ろうとしている。

その為にこの授業を受けていたと言っても過言ではない。

夏休み後半は自宅で試行錯誤に費やしていた。

まさか所作で見破られるとは、さすが本職である。

「源さんに至ってはもう私以上の腕前だ。養子か嫁に来て、辺阿家を継ぐ気はないかな?」

源さんも『盟友』の為、俺に付き合う形で練習をしていた。もともとレベルの高かったスキルがさらに洗練されて、俺では理解できない職人レベルへと到達したらしい。

この子、天から何個才能を与えられてるんだろう?

頭の良さだけで全てカバーできるものなのか?

「魅力的なご提案ですが、辞退させていただきます」

「はっはっは、冗談だよ。いや、今の時代だとハラスメントになりかねないね。変なことを聞いてすまなかった」

そう言って誤魔化す先生だが、わりと本気で勧誘してただろ。

後継者がいないから学園へ来たと言っていたし。

「それにしても、2学期が始まる前に技術を習得する生徒が現れるとは思わなかったよ。初年度からここまで優秀な生徒に恵まれるとは、これもまた縁というものかな」

なにやら真剣な表情で語り出した先生は、覚悟を決めた様子で続ける。

「峡部君は恐ろしいほどの集中力とやる気でコツを掴んでいった。源さんは一度見るだけで要点を掴む才能で以って、あっという間に技術を盗んでしまった。二人とも私の想像を超える逸材だ」

ここまでべた褒めされると照れてしまう。

で、その前置きの後に来るものは一体なんでしょうか?

神妙な空気に尻込みする自分がいるのですが。

「そんな二人だからこそ、提案したい。雷之陣の授業を受けてみないかい?」

「雷之陣って、専門科目にあったやつですよね。申し込んだのに、後から取り下げられていた」

「私も申し込んでいました。中止となった理由は、安全上の問題が認められた、と」

源さんも申し込んでいたか。

雷って、どう考えても強力だもんね。

そんな秘術を習えるなら習いたいに決まっている。

ただ、理由が物騒だし、ながらく雷系統の術を使う家なんて聞いたことなかったから、何かあったんだろうなと察していた。

「ああ、二人が申し込んでくれていたことは知っているよ。申し訳ないことをしたね」

それから、先生は事の経緯を教えてくれた。

「雷之陣は我が家の第弐秘術として隠し持っていてね。プレオープンで二十人の生徒に教えていたんだ。入学式の頃、何とか一回成功した子がいたのだが……二回目で怪我をしてしまってね。専門科目から除外することになった。子供達へ教えるにはまだ早いと」

もともと雷之陣は辺阿家の秘術ではなかったらしい。

はるか昔、神より雷之陣を賜った家があり、それはもう大活躍したという。

しかし、次代へ繋ぐ前にお家騒動が起こり、失伝してしまった。唯一残ったのは、わずかな手掛かりだけ。

その手掛かりを手に入れた辺阿家のご先祖様が、試行錯誤の末に復活させたのだという。

先生が生徒へ教えたのはその技術である。

「だから、今は阿部家が選んだ大人の希望者へ指導しているのだが……あまり見込みがなくてね。この術の継承者を探していたんだ」

辺阿家が復活させたは良いが、これまた伝承には失敗していた。

どうも適性が必要らしく、血縁や頭の良さでは使えるようにならないのだとか。

辺阿家は習得のコツだけを記した指南書を継承し、歴代当主が術を使えないまま今に至る。

「これは習得が困難でとても扱いが難しい反面、強力な術でもある。神から術を賜った陰陽師が使えば、今で言う脅威度6強の妖怪にも通用したという」

ほほう、それは是非とも使えるようになりたい。

今俺が使っているのは一般的な術だ。

もしもその強力な術を使えるようになれば、九尾之狐本体だって敵じゃないだろう。

他の秘術も習得中だが、手札はいくらあっても足りない。

とはいえ、すぐに飛びつくにはリスクもある。

「質問ですが、怪我のリスクについてはどのような対策をするんですか」

「それは少数指導でどうにでもなる。実際に使用するときは、私の目の前でだけとする。君達ならそのルールを必ず守ってくれると確信している」

これはもしや、怪我をしたプレオープンの子供が先生の目の届かない場所で使ったのでは?

プレオープンに参加した子供は有力な御家の子供ばかり。だから授業を急遽取り止めることになったとか……ありえそうだな。

そして、習得に頭の良さは関係ないと言いつつも、教える相手は厳選したいという先生の狙いも感じる。

俺達はそのお眼鏡に適ったのだから、絶好の機会を利用しないなんて勿体無い。

「是非、教えてください。申し込みはもう必要ないですよね」

「はっはっは、もちろんだよ。源さんはどうするかな?」

「よろしくお願いします」

こうして、製紙の授業が終わり、雷之陣の授業が始まった。