作品タイトル不明
武士娘の目指す場所 side:純恋
武士の朝は早い。
「うーん、よく寝た!」
今日もパッチリ目が覚めた。
訓練しに行こっ。
パクっとバナナで栄養補給して、ジャージに着替えたら出発!
まずは軽く学園の敷地を100周。
今日は時間がないから、全力で走らなきゃ。
「 純恋(すみれ) っちじゃん。おはよー」
50周したところで、 大仏(おさらぎ) 家の 愛美(あみ) ちゃんに会った。
「純恋ちゃん、 愛美(あみ) ちゃん、おはよう」
愛美ちゃんと一緒に走り始めて20周した頃、 宮城(みやぎ) 家の 鈴音(すずね) ちゃんも合流した。
武士の交流会で昔から仲良くしてるお友達が勢ぞろい。
一緒に走れるのは嬉しいけど、なんだか悪いなぁ。
「ふたりとも、わたしのペースに付き合わせちゃってごめんね」
「たまには全力出さないとだし、いいよー」
「この後何か予定あるの?」
鈴音ちゃんの質問に、わたしより先に答えたのは愛美ちゃんだった。
「ほら、今日土曜だし。九尾之狐でしょー」
「あっ、そっか。いいなぁ。私も一緒に行きたいなぁ」
鈴音ちゃんが羨ましそうに言う。
わたしは嬉しくなって誘ってみた。
「じゃあ鈴音ちゃんも九尾之狐と戦う? 先月はわたしも一撃入れたんだよ! 逃げようとする九尾之狐をズバッと!」
「それは前も聞いたー。ていうか、鈴っちが行きたい理由はそれじゃないでしょ」
「聖様と一緒に旅行なんて羨ましい……」
鈴音ちゃんは聖君のこと好きだねぇ。
鈴音ちゃんだけじゃない。
聖君が脅威度6弱の妖怪を倒し始めてから、宮城家での聖君人気はすごい。
交流会で会うたびに聖君のことを聞かれるほどだもん。
愛美ちゃんが理解できないって顔で言う。
「そんなにいいもんかなー。強いのは純恋っちから聞いてるけどさ。顔は普通じゃん。私は神楽家の嫡男みたいな美形の方が好きー」
「愛美ちゃんはわかってないなぁ」
今度は鈴音ちゃんがやれやれと首を振る。
そして、何十回と聞かされた話を繰り返す。
「顔なんてどうでもいいの。あの強さの前では比較にすらならないの。どんな妖怪が襲ってきても絶対に守ってくれる、そんな安心感こそ、聖様の魅力なんだから」
「はいはーい」
愛美ちゃんは面倒くさそうに相槌を打った。
確かに、鈴音ちゃんの言う通り聖君の強さはすっごく頼もしい。
聖君と一緒に戦えば、どんな妖怪にも負ける気はしない。
たとえ、伝説の九尾之狐相手でも。
おざなりな返事をする愛美ちゃんに、鈴音ちゃんが布教する。
「やっぱり愛美ちゃんも一度聖様が戦うところを見た方がいいよ。純恋ちゃんもそう思うよね」
「えっ、それは愛美ちゃんの自由だと思うよ。脅威度6弱はもう倒しきったんでしょ。見せたくても見せられないんじゃない?」
「そうなんだよねぇ。だからこそ、九尾之狐討伐に同行したいのに!」
「今のところ強くても5弱だよ」
これまでに倒してきた九尾之狐の欠片は、ほとんど脅威度4以下で、5弱は一回だけ。
それも聖君が一撃で倒しちゃったけど。
二人とも、なんでキョトンとした顔でこっちを見てるの?
「……純恋っち、5弱は普通に強いからね」
「やっぱり九尾之狐討伐に同行するには、5弱を軽くあしらえるくらい強くならないとだめかぁ」
「わたしも軽くはあしらえないよ。強敵だよ!」
そ、そうだよね。
聖君が簡単に倒しちゃうから、ちょっと認識がおかしくなってたかも。
先にランニングを終えた私は、他の訓練メニューを片付けて待ち合わせ場所に向かった。
「雫ちゃーん!」
「おはようございます」
「おはよ! 聖君はまだ来てないの?」
「見ての通りです」
待ち合わせまであと3分。
聖君はいつも5分前には来ているのに。
あっ、遠くに聖君が見えた。
あれ? なんかいつもと違う。
「二人ともおはよう。待たせてごめんね」
「おはようございます」
「おはよ! 聖君、疲れてる?」
「えっ、そんな分かりやすく顔に出てた?」
私が質問すると、聖君は顔を揉んでみせた。
何があったんだろう。
九尾之狐討伐前はいつもウキウキしているのに。
「心配してくれてありがとうね。昨日は慣れないことをしたから、疲れちゃったんだ」
そう言って、いつもの笑顔を見せてくれた。
でもやっぱり、いつもより元気がない。
歩くたびに体の芯がブレてる。聖君らしくない。
私が次の言葉に悩んでいると、雫ちゃんが聖君に話しかけた。
「デートは上手くいかなかったのですか?」
「主観的には上手くやった方だと思います。でも、評価は相手次第なので……」
「お疲れ様でした。戦闘に影響はありませんか」
「問題ありません。準備はばっちりなので」
デート?
あっ、聖君婚約してるんだっけ。
じゃあその子と?
デート……って、何をするんだろう。
雫ちゃんはそんなプライベートなお話も知ってるんだ。
「それじゃあ、移動を始めましょうか」
「はい」
「あっ、待ってよ!」
~~~
今日は福島県の神社にある欠片を討伐する。
でも、神社の人がなぜか欠片を渡してくれないみたい。
「本当に封印を解除するのか? これはかつて禍をもたらし、厳重に封印することとなったのだ。口伝によれば、近隣の陰陽師が束になっても敵わなかったという。いくらあなた達が強かろうと、伝説の九尾之狐相手では──」
「東北に住む者として、封印を守ってきた貴方の意見は重く受け止めております。しかし、負の遺産を後世に残すことこそ危険だとは思いませんか。それでご納得いただけたからこそ、同意書にサインをされたのでしょう。私は貴方の未来を想う心に尊敬の念を抱いていたのですが……」
「しかしだな──」
東部家の御当主様が説得しているけど、神主さんはさっきから同じことを言ってる。
どうしたんだろう?
「お爺ちゃん、あの人はなんで欠片を渡してくれないの?」
「あの者が言った通り、封印を解除して勝てるという確信がないから、という理由が一つ。もう一つは、御役目を失うことが恐ろしいのであろう」
お爺ちゃんが教えてくれたけど、ちょっと意味がわからない。
妖怪がいなくなった方がみんな嬉しいはずなのに。
隣にいたお兄ちゃんが続けて教えてくれる。
「要するに、あの神主は聖の強さを知らないから、倒せるか不安なんだと。それに、封印の維持っていう仕事がなくなったら金が入らなくなって、業界での発言権も下がるから、嫌なんだよ」
「聖君なら絶対倒せるよ」
「それは、自分の目で見た人だけが確信できることだ。それと、ここの神主の評判的に、金の方が一番の理由だろ。私利私欲ってやつだ」
お金……そっか、お父さんもよく言ってた。
人を動かすにはお金が必要だって。
はつげんけんって言うのはよく分からないけど、お仕事をするには、いろいろ必要なんだね。
「東北陰陽師会の頭領ともあろう者が、あんな子供に戦わせるとは、恥を知りなさい」
「御剣様、すみませんがちょっと行ってきますね」
「儂らは護衛だ。好きなようにすると良い」
神主さんがこっちを指差した時、聖君が動いた。
私たちはいつでも守れるように、聖君の傍についていく。
聖君は神主さんに向かってにこやかに挨拶する。
「はじめまして、この討伐隊の代表を務める峡部家の次期当主、峡部 聖です。本日は討伐にご協力いただきありがとうございます」
「ぬ……」
聖君は普通に話しかけただけなのに、神主さんが戸惑っている。
どうしたんだろう?
その理由を、お兄ちゃんが教えてくれた。
「ははっ、聖をダシに約束を反故にしようとしてたのに、今更あいつの異常さに気づいたな」
「異常?」
「普通の中学一年生は見知らぬ相手とビジネストークできるわけないんだよ。戦闘面だけじゃなく、交渉もできるなんて神主も思ってなかっただろうな。ほら、言い訳にしていた相手に反撃されて逃げ場がなくなった」
お兄ちゃんの言う通り、続く聖君の言葉に神主さんは頷くしかなかったみたい。
「古来より受け継がれてきた伝統を打ち壊すのは、いつだって新しい世代です。脅威度6弱を屠ってきた実績は伊達ではありません。後世に明るい未来を引き継ぐためにも、忌まわしい封印は僕にお任せください」
「……無理だけはしないように」
「ありがとうございます。貴方が九尾之狐の欠片を封印してくれていたおかげで、次代の陰陽師はここまで強くなれました。ぜひ、その成果を見ていってください」
その後はいつも通り、人気のない場所で九尾之狐の封印を解除してもらった。
今回の欠片は封印が解除されると、すぐに逃走を選んだ。
お爺ちゃんとお兄ちゃんには敵わないと判断して、私の方へやってくる。
「純恋! そっちにいったぞ!」
「見えてるよ!」
お兄ちゃんに教わった、九尾之狐の移動の痕跡の見つけ方──絶対に見逃さない。
欠片の大きさと威圧感から、脅威度5弱だと思う。
全力で押し戻さないと!
(御剣流奥義──御剣!)
ギャォン
大上段からの一撃は、確かに九尾之狐を押し戻した。
けど、全然奥義じゃなかった。
私は鼻先を斬っただけで、あとは九尾之狐が自分で後ろに引いたみたい。
やっぱり難しいなぁ。
「──焔之陣」
私が九尾之狐を押し戻すのと同時に、聖君が攻撃した。
いつも通り、九尾之狐は燃え尽きて戦いは終わり。
聖君、すごいなぁ。
あの頃からずっと、私の先にいる。
ちょっと前に進んだと思ったら、いつの間にかさらに先にいる。
いつになったら追いつけるんだろう?
「純恋ちゃん、ありがとね。ちょうど良い位置に動かしてくれたよ」
「本当は真っ二つに斬りたかったんだけど、失敗しちゃった」
「十分だよ。トドメを刺すのは陰陽師の役目なんだから」
役に立てたなら良かった。
でも、私の目標にはまだ遠い。
私はいつか、聖君と一緒に戦えるくらい強くなりたい。
九尾之狐は素早いけど、聖君が本気を出したら一人で倒せる。
今はまだ一緒に戦っているとは言えない。
お爺ちゃんくらい、ううん、お爺ちゃんよりも強くなって、聖君の隣に立てるようにならないと!
「お爺ちゃん、帰るまでに稽古つけて!」
「純恋、焦るな。奥義には到達していないが、良い線を行っていた。この調子であれば、縁侍より先に修得できるやもしれん」
「爺ちゃんが孫娘可愛さに贔屓するからだろ。俺には『見て盗め』って言うくせに、純恋にはちゃんと稽古つけて……」
「ふん、漢なら己の力で必殺技を編み出してみよ」
「その前に既存の技術を継承しろよ」
お兄ちゃんもやる気だ。
私も頑張らなくっちゃ。
「ところで純恋、漢字テストの結果はどうだったのだ。まだ結果は返ってきてないのか」
「ま、まだだよ」
答案用紙は空欄多めで出したけど、結果はまだ来てないから。
嘘じゃないよ。
……勉強も頑張らないとだよね。