軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

土間研究室

「はじめまして〜! 君が峡部 聖君だね。噂はかねがね。俺はここの研究員、 円(まどか) って言うんだ。よろしく〜」

放課後、校舎を出ようとしたところで、なんかすごくノリの軽い男が話しかけてきた。

白衣を着た彼の胸元にはIDカードがぶら下がっており、学園の関係者であることは間違いない。

陰陽術の研究者が俺に何の用だろうか。

「はじめまして。峡部 聖です」

「いやぁ、君に会えて光栄だよ。握手握手」

彼は素早い動きで近づき、呆気に取られている間に手を取られた。

円と名乗った研究員は年上の面白いお兄さんっぽい雰囲気を醸し出しており、一気に距離を縮めてこようとしてくる。

嫌だなぁ、こういうの。

子供扱いされるのは慣れたが、社会人として距離感は大切にしてほしい。

「何か御用ですか?」

「あっ、いきなり馴れ馴れしくてごめんね〜。用件ね、うん、率直に言うと勧誘に来たんだ」

顔に出したつもりはなかったが、円さんは素早く距離を取って本題に入った。

「博士が是非とも君に会いたいって仰ってね。君さえよければ共同研究したいらしいんだ。今ちょっと時間あるかな? 研究室で詳しい話をさせてもらいたくって」

研究……ここのところ新生活にかまけて放置していたが、術の改良や道具の作成は俺の趣味の一つである。

峡部家に伝わる術を全て教わって以降、それしかすることがなかったとも言う。

せっかく学園での研究費は全て出してくれると言うのだから、そろそろ再開しても良い頃合いだろう。

博士という華々しい肩書きをもった人物が相手だ。一緒に実験すれば、新しい知見が増えるかもしれない。

「詳しいお話を聞かせてもらえますか? 時間は空いてます。源さんはどうしますか?」

「お邪魔でなければ、同行させていただいてもよろしいでしょうか」

ここまで空気に徹していた源さんも、一緒に来ることとなった。

帰り道の途中にある源さんの家で別れるはずだったが、まさかの延長である。

「もちろん大歓迎さ〜。源家の才媛が所属するとなれば、我が研究室にも箔がつくからね!」

源さんも勧誘対象だったらしい。

俺達は3人で研究室へ向かうことにした。

そういえば、聞き忘れてた。

「円さんはどこの研究室に所属しているんですか?」

「土間研究室だよ」

〜〜〜

大学を内包する陰陽師学園には、研究機関としての役割もある。

大学部の3回生になれば、どこかの研究室へ所属して卒業研究に励むことだろう。

もっとも、開校初年度の今は1回生しかいないのだが。

そんな研究室は二つの建物に分かれている。

一つはその名の通り研究室棟、もう一つは敷地外の物々しい壁に囲まれた実験棟。

俺達は前者へ向かった。

「初めて中に入りました。やっぱり広いですね」

「危険度の低い実験は大体こっちでするからね〜。博士個人の部屋は狭いから、ガッカリしないでね」

白い通路を案内された先には『土間』のネームプレートが掲示されていた。

円さんは「博士入りますね〜」とノックもおざなりに扉を開ける。

続いて俺達も中へお邪魔すると、そこには白衣を着こなす壮年の男性が待っていた。

「紹介するね〜。こちらがこの研究室の主、土間博士です。まぁ、博士なのは別分野なんだけど。なにせ陰陽術に公的な学術機関がなかったもんで。この学園では教授だよ。ちなみに僕は助教」

「 主(しゅ) …… 神(かみ) ……。君が峡部 聖君かね。日本の守護者に会えて光栄だよ」

土間博士はなぜか最初だけソワソワしていたが、続く言葉は権威ある研究者らしいものだった。

博士が一言挨拶してすぐ、円さんがインターセプトする。

「ごめんね〜博士は口下手で。こう見えて基礎研究から実用段階までいろいろ功績を残してるすごい人だから。ほら、陰陽師科の募集要項のために、役所で霊力を測定する機械設置してたでしょ? あれ作ったのこの人」

そして、続く博士の実績紹介に俄然興味がわいた。

「霊力適性チェッカーを作ったのは博士だったんですか?!」

「う、うむ」

この世に存在しなかった霊力量の定量評価を実現した機械、とても興味を惹かれていたんだよなぁ。

どうやって作ったんだろう。

「挨拶が遅れてしまいました。はじめまして、峡部 聖です。こちらは源家の長女、雫さんです。こちらで詳しいお話を伺えるとのことですが……」

「うむ。ぜひともあなたさ……あなた方の力を借りたい」

「博士は今、霊力や陰気の計測を主に研究しているんだ〜。そこで、今一番強いって噂の聖君に力を貸してほしいと思ってね!」

なるほど、日本最強の保有する霊力について知りたいと。

さすがは教授、日本最先端の情報をよく理解していらっしゃる。

テレビ出演で一躍有名人となった晴空君と比べて、俺の知名度が低すぎる気がするんだよね。

修学旅行での出来事もイマイチ拡散されてなかったし。

「力を貸すかは内容次第ですが、それだと共同研究ではなく、ただの協力者では?」

「はっはっは、もちろんそれだけじゃないさ〜。聖君は道具の開発でも実績を上げていると聞いたよ。その経験と現場を知る者としての意見はとても貴重なんだよね〜。ちょうど今、現場で役立つ新しい研究に着手したいと思っていてね。君と共に研究テーマから模索したいって博士と話していたんだ」

ほほぅ、ずいぶんと期待してくれているようで。

円さんの言葉に、教授がコクコク頷いている。

学園内でヒエラルキーの高いはずの教授が、こちらの顔色を窺っているようにさえ見える。

そんなに俺と共同研究したいのか。

あの画期的な発明をしたすごい人が。

ふふふ。

「一応断っておきますが、我が家の秘術を公開するつもりはありませんよ?」

「もちろん! そんなずうずうしいお願いするわけないさ〜。でも可能なら、君の式神ってことになってるジョン君には会いたいなぁ。道具で人体を形成するというのは、素晴らしいアイデアだ」

こ、こやつ、なぜそれを知っている。

ジョンが幽霊であることは、身内と荒御魂討伐メンバー以外に教えていない。

邪気の無い笑みを見せる円さんだが、そんな秘密をサラッと口にするあたり侮れん。

一体どんな情報網を持っているんだ。

これは暗に、協力しなければ秘密を話すという意味か?

「聖君には興味を持ってもらえたみたいだね〜。よかったよかった。雫ちゃんはどうかな?」

「私も興味があります」

全然興味なさそう。

声音が淡々としてるよ。

とりあえず俺が参加するから参加しておこうって感じか。

お勤めご苦労様です。

「まだ中学生だし、本格的に所属するかどうかは、これから決めるテーマが気に入ったらってことで。今日はもう遅いから送っていくよ〜」

終始円さんの仕切りでこの場はお開きとなった。

〜〜〜

「戻りましたよ〜」

「ど、どうだった?! 私についてあの方は何か仰っていたか?!」

「お、おち、落ち着いてくださいよ博士。そんな胸ぐら掴まれたら話もできないでしょっ」

酷い目にあったと愚痴をこぼす円は、襟を正して来客用のソファへ腰掛けた。

その間も博士は鼻息荒く報告を待っており、視線で『早くしろ』と命令している。

「ご命令通り、博士の印象をそれとなく探ってみました」

「それでなんと!」

「あ〜もう鬱陶しい。……博士が霊力適性チェッカーの製作者だと知って驚いてましたよ。あのすごい発明品の製作者に会えるなんて、って目を輝かせてました。まぁ、改善点は山積みですけど、霊力持ちを探すだけなら十分な機能でしたし。俺も手伝ったって言ったら……博士?」

博士が望む報告を簡潔に伝えたところ、博士から飛んでいた人を殺しかねないほどの圧が消えた。

円が様子を窺うと、そこには膝をついて天に祈りを捧げる信者がいた。

「あぁ……私の研究は無駄じゃなかった。あの方の役に立つため、今日まで生きてきたのだっ」

「あっはっは、マジでイカれてますね博士。それはそうと、ちゃんと聖君を連れてきたんですから、俺の研究に力を貸してくださいよ。博士がこんな調子で対応してたら、間違いなく逃げられてましたからね」

「偉大なる神よ、私を見守ってくださる御慈悲に感謝を」

「ダ〜メだ、聞こえてないなこれ」

新たな神に謁見した博士は、これまで抑えてきた興奮をぶちまけるのだった。