軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九尾之狐討伐②

九尾之狐──それは中国、インド、日本、その他多数の国でも暗躍したとされる大妖怪である。

日本では玉藻前や白面金毛九尾の狐とも呼ばれ、その呼び名の通り、白い顔に金色の毛並みの狐の姿をしている。

普通の妖怪が人間を直接殺そうとするのに対し、こいつは人間社会に潜り込んで混沌を齎した。具体的には、美女に化けて時の君主を操り、幾つもの国を滅ぼしたらしい。

そんな九尾之狐は日本へやってきて、時の天皇を誑かそうとしたところで陰陽師に正体を見破られてしまった。

討伐依頼を受けた武士を筆頭に、陰陽師の大部隊が攻勢を仕掛け、最後は倒しきれずに封印することとなったようだ。

それほど強く悪質だったため、日本三大妖怪に数えられることもある。

その封印が栃木県の殺生石であり、後にこれを高名な和尚が打ち砕いた。

砕かれた欠片は日本全国へ分散し、さらに重ねて封印を施した結果、長年に渡り大妖怪の封印を維持できているそうな。

そんな欠片の一つが、ここにある。

最初に討伐する九尾之狐の封印体──殺生石の欠片は、俺ら子供への配慮により、学園に近い京都のお寺のものが選ばれた。

欠片のサイズとしては中くらいだそうで、今回の結果次第で討伐計画は修正される可能性がある。

とりあえず実戦で感覚を掴み、臨機応変に対応しようという、社会人らしい計画となっている。

全員揃ったことを確認し、お寺の住職に殺生石の欠片を用意してもらう。

「皆様、よくぞお越しくださいました。こちらです」

意外なことに、住職は余所者である俺達を歓迎してくれているようだった。

恵雲様から『封印利権を奪われると言って抵抗するところもある』と聞いていたのだが。

「そろそろ、封印が限界を迎えているような気がするのです。私どもの封印もいつまで保つか、不安を抱いておりました」

やはり、神様が依頼してきただけあって危ない状態なのかもしれない。

長年封印を維持し続けてきたことで、住職はそのリスクをよくよく理解しているようだ。

住職はそう言って欠片のある本尊まで案内してくれた。

目的のブツは仏像の台座の下に収められていたようで、何の変哲もない無骨な岩が取り出された。

そこらへんに転がっていても気づけないであろう、普通の岩だ。

「恵雲様、ここの欠片は仏像に加工されて祀られていると聞いたことがあるのですが、あれは違うのですか?」

「はっはっは、あくまでも そういうこと(・・・・・・) にしているだけだよ。その方が箔がつくからね。欠片とはいえ、殺生石を削るなんて、並大抵の力ではできないよ」

言われてみれば、そりゃそうか。

妖怪を仏像にして祀るなんて、危険極まりないことをするわけがない。

恵雲様の解説は続く。

「あの仏像で信仰を集め、その力をもって封印を保持しているようだね。とても興味深い」

仏像にも役割があったのか。

その役割も今日をもって終了だ。お疲れ様でした。

「こちらが殺生石の欠片となります。では、参りましょう」

どこへ、といえば、戦場である。

街中にあるお寺で戦うわけにはいかない。

都市部から離れた山の中に戦場を用意してあるのだ。

俺たちがお寺に集合したのは、輸送中に封印が解けても対応できるようにする為。

国は万が一にも市民へ被害を出さないよう、徹底したリスク管理を指示してきた。

これも、準備に時間がかかった理由の一つである。

程なくして、戦場となる広場へ辿り着いた。

「到着です。予定通り、我々が監視いたします。皆様ご準備を」

東部家が欠片を監視し、いつでも封印できるようにしている。

その間に、俺達は戦闘準備を進めていくのだ。

既に準備万端な武士達は無防備な陰陽師達を守ってくれる。

「配置につけ!」

「「「おう!」」」

「聖君は私たちが守るから!」

「よろしくね」

気合に満ちた純恋ちゃんはもちろんだが、その隣で警戒してくれている縁侍君と御剣様が頼もしすぎる。

今回の主役ということで、俺の周りは最も守りが固くなっている。

他の武士達もそれぞれ割り当てされているようだ。

「準備できました」

「こっちはもう少し時間がかかります。待ってください」

我が家の陣は特にこだわりのない一般的なものなので、他の家よりも準備が早く終わる。

精錬という下準備をずっと行なっているからこその時短である。

やがて、全員の準備が整った。

「それでは、封印を解除いたします」

住職がブツブツと呪文を呟く。

厳重な守りは幾重にも重なっており、その拘束を一つずつ外していくそうだ。

5分経っても解呪は終わらない。

頃合いを見て、俺も詠唱と印を結び始める。バックアップの為に周囲を大きく囲む陰陽師たちも同様だ。

住職の額に汗が浮き、声にも苦しさが混じり始めている。

10分経った頃、ついにその時が来た。

「皆さん、封印が解けます」

封印に精通している恵雲様が警告する。

俺が用意した攻撃用の陣、その真ん中に安置した岩に何ら変化はない。

何か異常事態でも起こっているのか注視していると、住職の呟きが終わった。

「「「……!」」」

解呪の終わりと同時、九尾之狐が岩と置き換わるように突如現れた。

9本の尻尾、金色の体毛、顔には白い模様が入っている。その体躯は岩よりもはるかに大きく、周囲の人々の大半が3メートルほど上の頭を見上げている。

それは、伝承に残された九尾之狐そのもの。

しかし今回相手にするのは、所詮欠片の一部に過ぎない。

見えているものと相対しているものに齟齬がある。

この現象に、俺は心当たりがある。

(サトリ)

──♪

いつもそばにいる頼もしき霊獣へ視線を向ければ、以心伝心で動いてくれる。

不思議な鳴き声と共に力が振るわれると、九尾之狐のまやかしが消え、少し離れた場所で体長2mの狐が姿を現す。

陣の端っこまでそろりそろりと動いていた狐は、己が見つかったことに気付いたようだ。

「元の場所に戻れ」

隣にいたはずの縁侍君が、いつの間にか狐の前に立ち塞がっていた。

牽制するように刀を振るうと、狐は元の位置まで飛び退く。

ナイスフォローだ、縁侍君。

ここからは俺の仕事である。

「燃やし尽くせ──炎柱之陣」

待機させていた陣を即座に起動し、狐を呑み込むように炎で埋め尽くした。

込めた力は第陸精錬霊素。

脅威度6弱を容易く屠るその一撃は、断末魔を上げるいとますら与えない。

役目を終えた炎が辺り一面を明るく照らし、塵となった九尾之狐と共に消えた。

うーん、オーバーキル。

こりゃあ第伍精錬霊素でも十分倒せたな。

小さい欠片ならもっと弱いはずだし、次からは他の精錬霊素も試すか。

俺が反省していると、これまたいつの間にか縁侍君が隣に戻っていた。

「縁侍君、フォローありがとね」

「いや、これが俺の仕事だし」

何そのワード、かっこいいんだけど。

今度俺も使ってみよう。

いやいや、それよりも気になってたことがあるんだった。

「サトリが幻覚を破る前に動いてたよね。見えてたの?」

「見えなかったけど、変な気配が動いてたからな。九尾之狐がいるとわかってれば気づける」

えっ、俺は何も感じなかったんだけど。

相変わらず武士の超身体能力にはついていけない。

とはいえ、ヒント自体は共有されていた。

皮肉にも、大きな被害を出したせいか、九尾之狐についてさまざまな記録が残されている。

特に、殺生石へと封印された決戦において、九尾之狐特有の厄介な能力──幻影は既に解明されていた。

……にも関わらず、一瞬騙されてしまった俺達は恥じることしかできない。

攻撃手である陰陽師が揃いも揃って狙いを逸らされてしまった。

「あれが幻影ってやつか。完全に騙された」

「自分の姿を消して、囮の幻影を作って……頭良すぎだろ。こりゃあ厄介だな」

武士も皆見破れたわけではない。

「縁侍は騙されなかったのに、お前は見上げてたな」

「一瞬だろうが! そういうお前もアホ面晒してただろ」

歴史に残る大妖怪、九尾之狐討伐に集まっているだけあり、この場にいる陰陽師も武士も実力者揃い。

業界においても上澄中の上澄である。

そんな人物達が騙されたのだ。

直接戦闘力はそれほどでなくとも、搦手でこられたら苦戦してしまうかもしれない。

能力の厄介さや、人間社会への介入など、特異性から荒御魂ではないかとも言われている。

「分身は幻影の近くを離れると維持できなくなるって話だったか」

「本体は無限に幻影を作れるんだろ? やばいな」

「でも、その幻影も破られてたし、何より……」

東部家の関係者は見慣れていても、他のメンツにとって第陸精錬霊素の威力は初見である。

「や、ヤバかったな……想像してたよりもずっと」

「聖君……いつの間にあんな強くなったんだよ。俺が知ってるのは強と一緒にお昼寝してる姿なんだが」

「いつの話してるんだよ」

「こりゃあ、神から直接依頼されるのも納得だな」

ふっふっふ、親父の同僚達も驚いてる驚いてる。

最近こういう反応見られなかったから、ちょっと楽しい。

実は一番反応を見たかった御剣様はどんな顔をしているのかな?

「欠片はやはり問題ないな。警戒すべきは本体のみだ」

あれぇ?

全然驚いてない。

目を見開いて顎が外れるほどとは言わないが、多少なりとも驚いてくれると思ったのに。

純恋ちゃんも驚いてない。荒御魂との戦いで既に見てるから。

「やっぱり強いなぁ……。私も頑張らなくちゃ!」

源親子も驚いてない。

何だろう、もうちょっと反応してほしい。

と思ったら、源家の分家の皆さんが良い反応を見せてくれている。

「おい、なんだあれは。聞いてないぞ」

「脅威度6弱を一撃と仰っていたではないか。我々の想像が及ばなかったということだろう」

「どう見ても余力を残している。あれ以上の力を秘めているだと……? 今年中学生になったばかりだろう。想像しろと言う方が難しい」

「どうりで。御家に不和を招いてでも、当主殿が秘術継承を強行したわけだ」

「峡部家を味方につけなければ。関東のパワーバランスが一気に変わるぞ」

「関東で収まる話か?」

耳を澄ませれば、とても承認欲求を満たしてくれる言葉の数々。

いいよいいよ、その調子で俺の偉業を語り継いでくれ。

「まさか、こんなあっさりと……。これならば、九尾之狐の完全討伐もありうるか」

住職の呆然とした呟きを背に、俺は学園へと帰るのだった。