軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初回授業

いよいよ本格的に学園生活が始まる。……とは言っても、最初の1週間は一般科目の実力テストラッシュと決まっているのだが。

初日ということもあり、朝の会にはクラスメイトが全員揃っていた。

これから専門科目で秘術を学んだり、研究を始めるようになれば、集まりは悪くなるだろう。

朝の会が終了して早々、俺達は教室を移動する。

移動した先は個人指導塾のように区切られており、それぞれの進捗に応じて授業を進めるらしい。

「今日から数学を教えさせていただきます。まず初めに、この実力テストで峡部さんの学習状況を確認させてください」

俺の数学担当は仕事ができそうな美人教師である。

さすが阿部家、男のやる気を引き出すのが上手い。

綺麗な女性の前では格好つけたくなるのが男のサガ。

はじめから手を抜くつもりはなかったが、全力をもってテストに臨んだ。

デジタルでの試験だったため、結果はすぐに出た。

「中学生の内容はほぼ完璧ですね。とても素晴らしいです」

そりゃあ、さすがにね。

前世で大学まで行った大人が、中学の内容でつまづいていたらまずいでしょう。

陰陽師学園への進学が決まった後、授業中に先取り学習させてもらったからなおさら盤石だ。

それでも取りこぼした問題があって少し恥ずかしい。

さて、これで心置きなく秘術の勉強に専念できるな。

「それでは、休憩を挟んで実力テスト高校編を行いたいと思います。解けなくても構わないので、今の実力を確認させてください」

おっと?

私立は指導内容が進んでいるとは聞いていたけど、そこまで突き進んじゃう感じですか?

あの、高校の内容はまだかなり不安があるというか、数Ⅲの記憶が消えているというか。

あっ、あっ、始まっちゃう!

「高校1年生の内容まではできていますね。それ以降は公式を見た覚えがあるといったところでしょうか。教える内容が残っていて、少し安心しました。それでは、高校2年生の内容から勉強を始めましょうか」

「よ、よろしくお願いします」

うん……12歳でここまでできればすごいよね。

前世で大学受験突破した時の知識はどこへ消えたんだろうね。

数Ⅲどころか数Ⅱすら曖昧だったよ。

三角関数なんて日常生活で使わないんだよ、ちくしょう。

「陰陽師としての才能は伺っておりましたが、まさか勉強面でもこれほどとは。感服しました」

やめて。

前世の知識があってなお、高二の内容すらフワフワな俺を辱めるのはやめて。

その後も様々な科目でテストを受け、軒並み高校1年生レベルの内容は覚えていることを確認した。

各科目の先生達は『家庭教師もなしに、よくぞここまで』と感心するものの、俺としては恥ずかしいばかりである。

まぁ、そんなことはどうでも良い。

陰陽師学園はエスカレーター式なので、陰陽師科に入った時点で大卒の資格は確定で貰えるのだから。

俺達の本分は、陰陽術の勉強である。

「はじめまして。私は 辺阿(へあ) 家当主、 雷(らい) 。君が紙作りに興味を持ってくれたこと、とても嬉しく思う。我が家の秘術を、是非とも君に託したい」

授業が始まってから早一週間。

一般科目のテストラッシュを終え、ようやく専門科目を受けられる。

その最初の授業は、紙作りだ。

札を作るにも、陣を描くにも、紙は必需品である。

良い紙を使えば、地面に刻むよりはるかに高い効果を発揮できる。

なお、その効果はお値段によって変わります。

そんな紙の中でも最高級品を作る技術こそ、辺阿家の秘術である。

見事な禿頭のお爺さんは俺を歓迎してくれた。

「峡部家次期当主、峡部聖です。これからよろしくお願いします、先生」

「講師を始めて1年経つけれど、先生と呼ばれるのは慣れないね。こちらこそ、よろしく頼むよ」

1年というのは、プレオープンのことらしい。

学校運営における問題点を洗い出しするための期間だ。

晴空君や一部の陰陽師の子供が参加しており、一足先に秘術を習っていたのだとか。

ズルい、俺も誘ってよ。

「この時間、他のクラスの子は一般科目を習っているから、峡部君につきっきりで教えられるよ」

「とても贅沢な時間ですね」

「ははは、そう言ってくれると嬉しいよ。それじゃあ早速、授業を始めようか」

紙作りの秘術は、まず座学から始まった。

紙の歴史に始まり、一般的な和紙の作り方など、陰陽師とは関わりのない内容が続き、初回の授業が終わる。

「退屈だったかな」

「いえ、面白かったです。それに、基本を抑えてこその応用ですから。秘術を教わる前に基礎を固めるのは当然だと思います」

「聞いていた通り、とても物分かりの良い子だね」

聞いていた?

その言葉について問うと、辺阿先生は御剣家に所属していた過去を教えてくれた。

「怪我をきっかけに引退したんだ。そんな私に今でも連絡をくれる後輩がいてね。彼から君のお父さんの話も聞いていたんだ」

なるほど、俺が御剣家を訪れる前の話ね。

しかし、御剣家の名医でも治せなかった傷とはいったい?

素直に尋ねたら、あっさり答えてくれた。

「彼の治療は、損傷部位への内気誘導と、それに伴う自己治癒力の増強によるものだ。歳をとると、怪我の治りも悪くなる。おまけに陰気をしこたま浴びてね。どうしようもなかったんだ」

そう言って辺阿先生は右手をさする。

授業中の庇うような動作からなんとなく察していたけど、やっぱり妖怪にやられていたか。

前線に出られなくなったから、後継者育成に力を入れているのだろう。

「そうそう、後輩からの話だけど、最近はもっぱら君の霊獣の話ばかりだよ。今日は連れていないようだが、素敵な霊獣に恵まれたようだね」

後輩って霊獣マニアさんで確定じゃん。

サトリが生まれてから一度、御剣家で彼にお披露目したことがある。

その時のはしゃぎ様は凄まじかった。

霊獣マニアさんは、亜龍の羽が生えた黒狼に見えたらしい。何という欲張りセット、どれだけ期待していたのやら。

普段は透明化しているため、霊獣マニアさんと御剣家で会うたびにサトリはいないかと尋ねられる。

サトリが苦手そうにしているので、家で留守番中と嘘をついているのだ。

今も透明化して俺の隣に佇んでいるのだが、教えた方がいいのだろうか。いや、他に聞きたいこともあるし、次回にしよう。

「それにしても、まさか峡部家のご子息にこうして教えることになるとは思わなかったよ」

「御剣家の繋がりがあれば、いずれこうなる可能性もあったのでは?」

「いや、君の噂を聞く前に、君のお父さんに養子縁組の打診をしたんだ。霊力持ちがいないと断られたがね」

辺阿家には霊力持ちの子供が生まれなかったらしい。

だからこそ、ここにいる、と。

「最初は 辺阿(へあ) 家の利益ばかり考えていた。だが、養子を取っても我が家の血が陰陽師から離れていくことに違いはない。ならば、せめてご先祖様が磨き上げてきたこの技術を広く正しく知らしめることこそ、私にできる最後の役割ではないかと思ってね」

そういう目的なら、陰陽師学園は最適な場所である。

新しい生徒が絶えずやってくる環境は、日本でもここにしかない。

しかしなるほど、一度断られたはずの峡部家の人間にこうしてマンツーマンで教えている状況は、なんという運命のイタズラだろうか。

親父と接触した時から、縁が結ばれていたのかもしれない。

「さて、そろそろ雑談は終わりにしようか。次の授業が始まってしまう」

こうして、初めての秘術の授業は穏やかに終わった。