軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 土間博士の再就職

時は遡り、荒御魂討伐後。

病院へ搬送された被害者男性の下に、軽薄そうな男が面会にやって来た。

「失礼しま〜す! 博士いますか〜?」

「その声は……。 円(まどか) 君、生きていたのか」

「そりゃあ自分、逃げ足には自信ありますから」

二人は研究所で共に実験し、荒御魂を作り出した仲である。

土間博士が研究チームのチーフ、円は研究員だった。

ただし、荒御魂が殺しまわったことで施設は崩壊している。

現在は元同僚でしかない。

「元気そうで何よりだ」

「博士の方は死にそうですね~。何か差し入れ買ってきます?」

「売店でバナナとカステラと煮干し、それと蒸し鶏を買ってきてくれ。今の私には栄養が必要だ」

「そんなに食って大丈夫ですか?」

「私は怪我人だが、病人ではない。食欲があるなら食っておいた方がいい」

円研究員はお金を渡され、売店で指定されたものを買ってきた。

差し入れするつもりが、これではただのお使いである。

「それで」ボリボリ「私に何のようだ?」ボリボリ「もうあの研究所には戻れないだろう」ボリボリ「私に近づいても良いことはないぞ」ボリボリ

「煮干し食べながら話すのやめません?」

博士の奇行に呆れながら、円研究員はお見舞いに来た本当の理由を話す。

博士の性格からして、結論を先に言った方がよいと知っているのだ。

「実は良い仕事先を見つけまして。博士も一緒にどうかなって」

「どこだ?」

「陰陽師学園って場所でして。今、プレオープンしてるんですよ。開校に向けて本格的に動いてるところです。情報公開はまだなので、調べても意味ないですよ」

「運営と出資元はどこだ?」

「阿部家です」

研究所を運営していた陰陽財閥は阿部家によって構成されている。

つまり、土間博士が散々破壊してとんでもない被害を出した一族の下へ、再就職するということ。

どの面下げて戻ってきたのかと一蹴されるに違いない。

「行けるわけがないだろう。自慢しにきただけか」

「いいえ。博士は勘違いしているようですが、貴方は追放されていませんよ~。あの実験だって、ちゃんと上の承認をもらってやったことじゃないっすかぁ。俺らに責任はありません。まぁ、始末書は書かされるでしょうけど」

円研究員の言葉に偽りはなく、土間博士は毒気を抜かれた。

仕事先を失った博士としては、再就職先の案内はありがたい。

しかし、就活よりも大切なことがある。

「そうだとしても、今の私にはやるべきことがある」

「ほほう? お話を伺っても?」

博士は話した。

それはもう饒舌に語った。

荒御魂を屠った少年の活躍を。

如何に強大な力を持ち、圧倒的存在だったかを。

「なるほど。博士のことだから、その少年に会いに行くとか、そんなところですか?」

当然、博士はそのつもりだった。

しかし、円研究員は待ったをかける。

「ならやめておいた方がいいですよ」

「なぜだ!」

「いきなり知らないおっさんが話しかけてきたら、子供は警戒します。特に博士は熱中すると周りが見えなくなるから、最悪逮捕されて、二度とその少年に会えなくなっちゃいますよ〜」

「ぐぬぬ」

土間博士は反論できなかった。

普段は冷静な研究者だが、執着しているモノを目の前にすると暴走する。彼にはその自覚があった。

「そ、こ、で、提案なのですが」

言葉に詰まった博士に対し、円研究員は良い笑顔を浮かべて言う。

「実は、博士がご執心中の少年は、陰陽師学園に通う予定なんですよ! さっきも言った通り、始末書を書けば阿部家は許してくれます。そこで研究員として働いていれば、聖少年と自然にコンタクトを取ることができるでしょう。ってことで、陰陽師学園で一緒に働きませんか?」

「ぬぬ……」

円研究員の提案はとても魅力的だった。

しかし、博士としては一度断った手前きまりが悪かった。

バナナを貪りながらタイミングを見計らう。

そんな博士の機微を読み取ったのか、円研究員はもう一押しする。

「あっ、そうそう。博士が開発した霊力適性チェッカー、学園の入試判定に利用される予定なんですよ。陰陽師学園でも博士の実績は評価されています。邪険にされるどころか、尊敬されてますよ。だから、博士にぜひ来ていただきたくて。こうして病院まで勧誘しに来ました。おねがいしますよ、博士っ」

「そこまで言われたら、悪い気はせんな。それに何より、あの御方とお近づきになれるとあれば、行くしかあるまい」

「そうこなくっちゃ! さっそく面接セッティングしますね。博士の退院日はいつですか?」

望み通りの展開に運んだ円研究員は意気揚々と電話をかけ始めた。

学園の事務員には頭出しを終えていたのか、トントン拍子に面接日が決まっていく。

その姿を訝しげに見つめていた博士はあきれた様子で尋ねる。

「それで、私を引っ張っていきたい円君の真意は?」

「いやぁ、バレちゃいました? 俺だけじゃあ研究室を確保できなくって。開校前の今、博士の実績があれば良い条件で契約できそうなんですよね」

「相変わらず要領の良い奴だ」

博士は気づいていた。

円研究員は自分が矢面に立つことを嫌い、自由気ままに研究できるポジションを欲していることを。

面倒ごとからはすぐに逃げられるよう立ち回る、それが円という男だった。

博士は代表者として据え置くのにちょうど良い人材として選ばれたのだ。

それに気づいていてなお、聖に自然と会えるメリットが上回った。

利害の一致である。

「それじゃあ博士、これからよろしくお願いしますね!」

「ああ」

かくして、土間博士は陰陽師学園に所属することとなった。