軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

修学旅行①

修学旅行先は学校によって様々だが、我が校では栃木県の日光へ行く。

関東圏ではメジャーな観光地らしい。

前世でも行ったことがないので、楽しみだ。

子供達は俺よりもっとソワソワしており、移動中は常に騒いでいた。

そりゃそうだ。6年間頑張って得た、お友達と旅行へ行く機会。ここで燥がなければ、いつ燥ぐというのか。

「ひじり盛り上がってるか?!」

「おう! みんな俺についてこい!」

「聖くんは先生について来てね。でないと本当にみんな聖君の後ろについていきそうだから」

先生のツッコミでクラスが沸いた。

現地に着いた今、クラスのテンションは最高潮に達している。

ここらでノリを合わせておかないと、いざという時に誘導できなくなるかもしれない。

ゆえの演技である。

なかなかいい演技ができたんじゃないか?

……前世で陽キャが旅行を楽しんでいたのを羨んでいたわけじゃない。ないったらない。

「それでは出発!」

先生と観光ガイドさんが引率し、日光の名所を回っていく。

輪王寺や日光東照宮を解説付きで、しかも気の置けない友人と観光できる幸せを、俺は噛み締めている。

大人になったら、こんなことできないからなぁ。

「日光東照宮にはかの有名な徳川家康が祀られていて──」

観光ガイドさんが解説してくれる。

陰陽師になってから寺社仏閣を回る楽しさに気づいた。

神様や仏様という、超常の存在に御目通り叶う機会、そうそうない。

いざという時にご加護を賜れれば幸いです。

日本を守るために貢献してるこの 私(わたくし) 、峡部 聖、峡部 聖を、どうぞ、どうぞ、よろしくお願いいたします。

「御守りやお札などは、社務所にて取り扱っております! 順番に並んでください!」

政府は公言していないが、神や霊の実在も広まりつつある。

そのおかげで日本中の寺社仏閣が賑わっているそうだ。

もともと有名な観光地である日光東照宮はさらに賑やかになっている。

人ごみの中での集団行動。生徒にとって初めての観光地。先生方は神経をとがらせなければならないので大変だ。

一通り観光したところで、次は工芸品づくり体験である。

「日光彫体験はこちら!」

「ふくべ細工に申し込んだ人は向こうだよー」

現地の工芸品に触れ、伝統を重んじる人間に成長してほしいという意図だろう。

生徒たちは旅行前に希望を出しており、俺は真守君と共に日光彫体験へと向かう。

すると、隣の工房で別の体験コースが開催されていた。

「オリジナル御守り袋作りはこちらです」

ここにも陰陽師関連グッズが現れたか。

商売人は行動が早いな。

「真守君は彫刻もできるんだね」

「一通り、経験しておきなさいって」

教育熱心な真守君ママなら言いそうだ。

午後は班別行動となる。

林間学校の再来か、浜木さんに捕まった俺たちは同じメンツで班を組んでいた。

「ねぇねぇ、聖君、あの建物何かな?」

「あれは何だろうね?」

「すごい変わった形だね! あっ、あっちも見て!」

修学旅行効果でハイテンションな浜木さんは、ずっと俺に絡んでくる。

可愛い女の子と一緒に旅行を楽しめるなんて、本来なら喜ぶべきことなのだが……相手が悪すぎる。

親父の方針もあるし、加奈ちゃんに協力してもらおう。

加奈ちゃんも俺達と浜木家の関係は理解している。

お願いすれば断られることはないはずだ。

俺はタイミングを見計らって加奈ちゃんに近づいた。

「加奈ちゃんちょっとちょっと。……浜木さんを近づけないようにしてくれない? あの子は悪くないけど、峡部家にとっては仲良くできない相手だからさ」

「ねぇ、それは酷くない?」

あれ?

思った以上に冷たい反応が返ってきた。

さっきまでもう一人の女子と楽しそうにお話ししてたじゃん。

「陽彩ちゃんは聖のこと好きなんだよ。話しかけるくらい良いじゃん」

あれれ?

「いっつも塩対応でさ。陽彩ちゃん嫌われてるのかなって泣いてるんだよ」

「ちょっと待って。なんの話してるの? 好きって、恋愛感情の好きってこと?」

「それ以外ないでしょ」

ませてるなぁ。

いや、同級生にもカップルがいたし、前世でも小学生カップルが一組いたっけ。

どっちもすぐに別れてたけど。

恋に恋するお年頃だから、そういうこともあるのだろう。

それに巻き込まれる側は迷惑極まりないが。

とはいえ、そんなことを口にしたら加奈ちゃんに絶交されかねないので……。

「気持ちは嬉しいけど、応えるつもりはない。そもそも話が本題からズレてるよ。個人の感情じゃなくて、家の関わり方だから」

「家とかさ、そんなの何か意味あるの?」

浜木家はずっと前に本家から独立していたので、直接的な裏切り者ではない。

それでも、浦木家の分家だった事実は変わらない。血縁というのは、そう簡単に切れるものではないのだ。

「そりゃあ意味あるよ。血は水よりも濃いって言うし。自分を育ててくれた両親には感謝してるでしょ? その両親を育ててくれた祖父母にも俺は感謝している。そんな相手を傷つけた家と仲良くはできないって」

俺の言葉を聞いた加奈ちゃんは、ムスッとした顔で反論する。

「お爺ちゃんもお婆ちゃんも会ったことないもん」

「それは……!」

思わず声を荒げそうになった。

元老人として、祖父母の気持ちは少しだけわかる。

今の言葉を草葉の陰で聞いたら、二人は泣いてしまうだろう。

荒ぶる心を落ち着かせ、なるべく優しい言葉で伝える。

「……それだけは、言わないでほしいなぁ。お爺ちゃんとお婆ちゃんは、きっと加奈ちゃんに会いたくてたまらなかったはずだから。加奈ちゃんが産まれてくる世界が少しでも平和であるように、命を賭けて戦ったんだから」

「……なんで、聖がそんな悲しそうな顔するの?」

分からないよね。

大人の視点がなければ、子供を大切に思う気持ちは理解できない。

いや、俺も浜木さんの気持ちがわからないから、お互い様か。

結局人は、当事者にならないと心から理解し合うことはできないのだろう。

「お説教になっちゃってごめんね。浜木さんの件はこっちで対処するから。それじゃあ」

最近は遊びに誘われることもなくなり、加奈ちゃんとの距離が広がっている。

男子より成長の早い女子は、異性を意識してしまうのだろう。

大学生くらいになれば、また仲良くできるんじゃないかな。

「あっ、聖君戻ってきた。加奈ちゃんと大切なお話?」

「そんなところ」

うん、こっちは諦めよう。

どうせ修学旅行の間だけだし。

観光名所を巡るうちに、いつの間にか暗くなって来た。

楽しい時間というものは、光の速さで過ぎていくものだ。

修学旅行が終われば、小学校生活も残すところあとわずか。

人生のうちで最も自由な時間が終わりを迎えてしまう。

まぁ、俺はとっくに現場へ出て仕事をしているわけだが。

「ホテルに戻ろうか」

「暗いし、仕方ないね」

「えー、もっとここにいたい」

「皆、聖君の指示に従って!」

なぜか浜木さんがサポートしてくる。

君は俺の何なんだ。

ただ、時間だけでなく、帰らないといけない理由が他にもある。

そろそろ真守君が限界を迎えそうなんだ。

「足疲れた……」

生粋のインドア派は、多少外遊びに誘ったところで体力は付かない。

旅行って、歩く距離が長くなりがちだからなぁ。

ホテルでも遊べるから、みんな帰ろうね。

思った通り、ホテルに着いたら着いたではしゃぐ子供達。

「あっ、テレビあるじゃん」

「何見る?」

「You〇ubeつながる?」

友達がいると、ただのテレビすら盛り上がる材料になるのだから凄い。

リモコンを見つけた男子がテレビをつけると、突如見知った顔が映った。

「あれ、晴空君?」

「えっ、聖知り合いなの?」

「この子誰?」

ニュース番組にて、晴空君の顔がドアップで映っているではないか。

そこでちょうどインタビュー動画が流れ始めた。

ライトに照らされた夜の公園は地面が荒れており、妖怪と戦った直後の撮影らしい。

背景で国家陰陽師部隊らしき人たちが後始末をしている。

そんな場所で、リポーターが晴空君へマイクを向けた。

『妖怪と戦うのは恐ろしくありませんか?』

『怖くありません。僕は安倍家の人間として、国民のために戦う覚悟をしていますから』

『立派な信念に、大人の私も言葉が出ません。続いて、妖怪の魔の手から救われた女性にお話を伺いたいと思います』

次にマイクを向けられたのは、テレビで見たことのある可愛らしい少女。

テロップで表示された少女の肩書は、アイドル。

うーん、背後関係が気になるなぁ。

そんな都合よくアイドルが妖怪に襲われてる場面に出くわすか?

安倍家と阿部家がタッグを組んで演出したと言われた方が納得がいく。

『お疲れのところ申し訳ありません。妖怪被害に遭われた心境をお聞かせ願えませんか?』

『はい、今思い出しても震えが止まりません。彼に助けてもらわなければ、間違いなく死んでいましたから。助けてもらった今は、感謝の気持ちでいっぱいです』

『ありがとうございました。一般の方からの提供により、その時の映像があります』

再生されたのは、鹿のような妖怪に襲われるアイドルと、そこへ偶然通りがかった晴空君が颯爽と助けるシーン。

これまた偶然ファンがアイドルを見つけて撮影していたら撮れたらしい。

ダメだ、俺には胡散臭く見えて仕方ない。

逢魔時だから、カメラに映ってもおかしくはないんだけど……。

妖怪の強さはギリギリ脅威度4といったところか。

封印で連れてくることも可能だが…… 晴空君(ほんにん) は何も知らないだろうな。

戦闘中の晴空君は終始圧倒していた。

画面はスタジオに切り変わり、コメンテーターが感嘆した様子で語る。

『私たちを守るため、こんな子供まで体を張っていたなんて。これまで知らなかったことを後悔しています』

『これはもう、一種の戦争じゃないですか。平和な社会だと思ってましたが、陰陽師の方が戦ってくれたおかげで守られていたんですね』

台本通りなんだろうなぁ。

見事なまでに陰陽師賛成派の内容だった。

しかし、子供たちにはそんな背景など見えるはずもない。

「聖もさっきのやつみたいに戦うのか?」

「うん。あんな感じ」

「「「すげー!」」」

承認欲求は底なしなので、クラスメイトにチヤホヤされるのは素直に嬉しい。

だが、どうしても思ってしまう。

(晴空君ヨイショするなら、俺も一緒にテレビ出してくれない?)

なお、うまくコメントできる自信はない。