軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10連式神召喚

第漆精錬霊素がしばらくまともに使えないと判明した後のこと。

拝殿を前に、俺は二礼二拍手一礼する。

( 智夫雄張之冨合(ちふぉちょうのふあい) 様! どうかご加護を!)

俺は祈った。

それはそれは真剣に祈った。

今日は式神を召喚する日なので、ありったけの幸運が必要なのだ。

「まだ祈るのか?」

親父は呆れたように言うが、何せ今回の召喚費用は俺が稼いだお金だ。

そりゃあ力が入るってもんよ。

「よしっ! 行こう!」

「うむ」

俺は街中で堂々と大蛇を召喚し、親父と口内へ乗り込む。

陰陽師が表に出たことで、規制が緩和されたのだ。

その結果、特定の高度なら陰陽師は自由に空を飛べるようになった。

おかげでこうして訓練場まで一直線である。

「慣れないな」

「でも楽でしょ。口内」

「ああ」

大蛇から出てきた俺は、さっそく準備を進めていく。

俺が去年の税金対策で購入した道具だし、俺が召喚することで決まった。

峡部家が最後に召喚したのは、俺の20本目の乳歯が抜けた時だ。

さすがに俺が召喚を独占するのは可哀想だったので、親父が召喚することになり──ネズミが出た。

『ぬぅ』

その時の親父はとても残念そうだった。

俺の召喚した式神が有能だったから、期待したのだろう。

それ以来、俺も親父も慌ただしい日々を過ごしたため、しばらく召喚はお預けとなっていた。

そして迎えた今日、ついに式神召喚を行う!

第漆精錬霊素がすぐに使えないなら、こっちで戦力増強だ!

「道具ヨシ! 陣ヨシ! 装備ヨシ! 鬼ヨシ! テンジクヨシ! サトリヨシ!」

大金を注ぎ込んで臨む一大イベント、否が応でもテンションは上がる。

親父もGOサインを出した。

さぁ、お楽しみの召喚だ!

10連召喚しますか?

→はい いいえ

(リアルマネー5000万円を消費します)

N(ノーマル) ハツカネズミ

N ドブネズミ

N ドブネズミ

N ハダカデバネズミ

N ハツカネズミ

N クマネズミ

N カヤネズミ

N リス

N ジャンガリアンハムスター

ネズミピックアップ期間かよ!

俺の足元が齧歯類で溢れかえってるよ!

色々条件変えて召喚したのに、この有様である。

途中から、金をドブへ捨てている感覚に恐怖心が芽生えたほどだ。

ラスト10回目。

次こそは!

次こそはいいやつ来い!

R(レア) 鬼

「えぇ〜、鬼? 最低保証じゃん。こんだけハズレ引いたんだから、もっと特別感のある式神が来てもいいんじゃない?」

物欲センサーに引っ掛かっちゃったか。

テンションダダ下がりである。

そんな俺に親父が訂正する。

「鬼は当たりだが?」

改訂 SR(スーパーレア) 鬼

それにしたって、宝玉霊素を使ってこれとか……ないわぁ。

第漆精錬で大量に消費するため、宝玉霊素の価値は跳ね上がっている。

道具代5000万円も合わせたら、とんでもない額の損失……。

「鬼が出たのだから、十分な成果だ。なぜ落ち込む」

「大蛇とテンジクみたいな、特殊な式神が来て欲しかったんだよ」

できれば、切り札になる戦力が欲しかった。

智夫雄張之冨合(ちふぉちょうのふあい) 様に祈っても、やはり召喚は時の運、か……。

「これだけ多くのネズミを手に入れたなら、訓練に使える。そう落ち込むな」

「複数の式神と感覚を同調させるんだっけ?」

式神の五感を共有する技能である。

俺はこれで大蛇に乗りながら外を確認したり、飛ぶ方向を指示したりする。

これを複数体同時に行うのが、召喚術を扱う家の必須技能なのだと、親父は言う。

ただなぁ……。

「二匹は一瞬できたけど、これ以上増やすのは無理だと思う」

テンジクとネズミで試したところ、二つの視覚情報だけで頭が割れるような痛みに襲われた。

見えている景色がバチバチにぶつかり合い、脳みそが処理しきれず沸騰する感覚。

怨嗟之声に耐える俺が即座に止めるレベルの負荷である。

これに他の感覚も加えたら、多分死ぬ。

「少しずつ増やせば慣れるものだ」

そんなセリフを簡単そうにおっしゃる親父は、戦場で十匹の感覚全てを同時処理できるらしい。視覚だけなら倍はいけるとのこと。

俺からすると信じられない所業だ。

御剣家で話を聞けば、やはり普通じゃないらしい。

召喚術を扱う家でも、多くて五匹の視覚を共有するのがせいぜいだとか。

「お父さんって凄かったんだね」

「突然なんだ」

親父がちょっと照れてる。

伊達に御剣家で雇われていないということだ。

「感覚共有はたまに練習してるけど、全然向上する気がしない。精錬も止まっちゃうし、偵察任務は諦めることにする」

「そうか……」

自分の得意分野を教えられると意気込んでいた親父は、どこかしょぼんとしている。

すまんな親父。

精錬技術に挑む親父と違い、俺は諦めが早いのだ。

人間の寿命はとかく短い。

限られた時間を使うなら、適性の高い第漆精錬の改良に力を入れる。

タイパというやつだ。

道具を片付けた俺は、待機させていた大蛇を呼ぶ。

あとは家まで一直線である。

「帰ろっか」

「また口の中か」

快適だからね。

〜〜〜

時を同じくして、錦戸家の最奥の間に怒声が響き渡る。

「どうしてうまくいかん!」

金は癇癪を起こしたように、側近へ扇子を投げつけた。

それは側近の体へ当たるも、かろうじて届く程度の力しか込められておらず、全く痛くない。

「ご期待に応えられず申し訳ございません。ことごとく阻止されております」

「なぜこうもうまくいかん……!」

時間が短く、大した策もなく、終幕へ向かう金に一部の人間が見切りをつけ始めた。

そうなれば、安倍家・東部家・源家・御剣家の防壁を崩せるはずもない。

さらに、金が一ヶ月前に救急搬送されたことも堪えている。

己の命と共に使える手札がこぼれ落ちていく。

その恐怖心は、金の焦燥感を煽った。

喉を痛めているというのに、金は唾を撒き散らして叫ぶ。

「他の命令は後に回してかまわん! 奴を手に入れろ! 時間がない!」

まるでそうしなければ世界が終わってしまうかのように喚き立てる。

そこには、かつての聡明な錦戸家当主の面影は微塵も残っていない。

何も遺せず消えゆく事実に直面し、ただひたすらに怯える、しわくちゃな子供がいるだけだった。

「かしこまりました。最終計画を進めます」

幼子と違うのは、忠義を尽くす男が側にいたことである。

その結果が幸福につながるかどうかは、神のみぞ知るだろう。