軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

消えた不思議生物

しばらく家を探索して、俺はついに気が付いた。

大問題が発生していることに。

「ふしきせいぶつ、いない」

~~~

おんみょーじチャンネルどころの話ではない。

俺の霊力総生産量を大幅に増加させる唯一の手段がなくなってしまった。

俺は慌てて寝室を中心に物陰などを探す。

あいつらは日の光が差さない場所に居ることが多い。

「しかし、いない!」

あちこち探し回ったのに影も形もない。

あいつらもともと影もないし輪郭もあやふやだけど。

とにかくどこにもいないんだ!

どうする、どうする、どうする。

俺は寝室をぐるぐる歩き回りながら思考していた。

いや待てよ。

改めて考えたら別に慌てる必要はない気がする。

俺の霊力総生産量は今でも1日に精錬できる量を超えているんだ。

だったらこれ以上増やす必要は———

ない———前世の俺ならそう答えた。

興味の無いことに全力を尽くすことの出来なかった、あの頃を思い出す。

小学生時代、俺はスイミングスクールへ通っていた。

通い始めた理由は、授業で泳げなかったから。

体育の授業で泳げなかったことを両親に話したら、習い事をしてみたらと勧められたのだ。

チラシがちょうど目に付いたのと、スポーツで成長期の身体を作らせようと考えたのだろう。

だが、俺は正直何とも思っていなかった。

泳げなくても死ぬわけじゃないし、泳ぐ意味が見出せなかったから。俺はただ泳げなかったという事実を夕食の話題に出しただけだった。

とはいえ、別に泳ぐのが嫌いというわけではなかったので、俺は普通にスイミングスクールへと通い、普通に泳げるようになった。

スイミングスクールは上手いこと稼ぐシステムが出来ており、進級という制度で次の教育課程へ進むことができる。蹴伸びから始まり、クロール、背泳ぎ、平泳ぎと、少しずつ泳ぎ方を習得していった。

ここまで大した壁はなかった。水泳に興味の無い俺でも週一回通うくらいなら続けられる。

しかし、最後の泳法であるバタフライで躓いた。

指導員の言う通り体を動かしているのに、ちっとも進まないのだ。

クロール25mと同じだけの体力を消費して10mも進めばいいところ。

「母さん、スイミングスクール辞める」

バタフライを覚えて進級したら、次はこれまで覚えた泳法で長距離泳げるように練習する課程へ進む。

俺はちっとも上達しないバタフライという壁を前に、撤退した。

これ以上進級しても大した意味はないし、主要3泳法ができるようになったのだから十分だろうと。

これが、俺の人生における最初の妥協、逃避の始まりだった。

結局、死ぬその時まで、俺はまともにバタフライを泳げなかった。

泳げなくても困らなかったし、進級にかかる試験料を節約できてよかったとすら考える。だが、そんな風に言い訳し始めた俺は、それからの人生でも同じような行動を繰り返すことになる。

そう、ダメなのだ。

ここで妥協してはダメなのだ。

一度妥協したら何度だって妥協し始める。

ここまでのめり込めるものを見つけたのは初めてなのだ。

転生してようやく見つけた陰陽師の世界、これすら妥協するのであれば、俺は何度人生をやり直しても有名人になんてなれない。

「ぜったいにみつけてやる」

霊力総生産量をガンガン上げて、霊力世界一の陰陽師になってやる。

決意を新たにした俺は敷布団に座り、そもそもの原因を考える。

不思議生物がいなくなった……というのは考えづらい。

毎日毎日吸収していたのに、今日まで減る様子が見られなかったから。

ならば、居なくなったのではなく。

「みえなくなった?」

そうだ、大人にはあいつらの姿が見えない。

俺は昨日で1歳となった。正直1歳なんてまだまだ赤ん坊の範疇だと思うのだが、0から1になったという意味では大きな変化といえる。

そもそも、年齢が関係しているのかもわからない。赤ん坊に負けるようなか弱い存在からすれば、大人のように歩きだした人間は恐怖の対象だろう。家をテクテク歩くようになった俺から姿を隠す可能性だってあり得る。

つまり、変わったのは不思議生物の方ではなく、俺の方だったのだ。

「すぁたを、けせる。ても、とこかには、いる」

たとえ姿を消せたとしても、この家のどこかにいるのなら……やりようはある。

俺はさっそく1つの案を実行に移す。

「しょくしゅ」

俺は両手から包○型触手を伸ばす。

使い切れないほどの霊力を手にした俺は触手を2本同時に出せるようになった。しかも、一度出した触手を体内に戻すことでリサイクルできるのだ。

「あっ、なにか、さわった、きぁする」

廊下の隅の影、触手がそこを通った時、何かに触れた気がした。触れたというよりはすり抜けたという方が正しい。ほんの僅かに抵抗感があっただけで、触手は何も掴めなかったのだから。

やっぱり、不思議生物はいる。

でも見えないし、いつもなら捕まえられた触手でも空振り。

あいつらは間違いなく俺から隠れている。

年齢か、霊力量か、身体能力か、どれが原因でも隠れられては捕まえられない。

今思えば、触手を使えるようになって以降、不思議生物が俺の口の中に入ってくることはなくなった。

俺の方から襲撃するようになり、俺は気づかぬうちに生態系ピラミッドの上位へ進んでいたのだ。

じゃあ、肉食獣から逃げ隠れする草食動物をどうやって捕まえるか。

その答えは人間なら簡単に導き出せる。

野生の獣と違い、人間は道具を駆使する生き物なのだから。

「わな、つくろう」

かなり簡単に第2案が出た。

しかし、この案には致命的に足りないものがある。

———餌だ。

奴らをおびき寄せる餌が必要だ。

捕獲する道具は触手でいいだろう。だが餌がない。

不思議生物にとって、怪しくても食いつきたくなるようなもの……赤ん坊?

文字通り入れ食い状態だったくらいだし、赤ん坊を餌にすれば……いやいや、近々生まれる弟を餌にするなんてありえない。

「うーん、うーん」

「聖、うんうん唸って、どうしたのですか。お昼ご飯の時間ですよ」

結局この日、俺は良い解決策を思いつかなかった。

だがしかし、悩みに悩み頭を捻っても解決しなかったこの問題を、投げ出すことだけはしなかった。