軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

術具店

弓具を買いに来たお客さんもいないため、堂々と奥へ入らせてもらう。

靴を脱ぎ、小上がりを抜け、店主の先導に従い鍵のついた鉄製扉をくぐる。

その向こう側には表と同じたくさんの棚が並ぶ空間が広がっていた。

陰陽師の道具売り場は店の裏側に隠されていたのだ。

これは……すごく……浪漫に溢れている。

男の血が騒ぐ構造だ。

探検してみたい。

「こっちにもお客さんいないね」

「予約制だからだ。購入する道具を見られると、秘術の手掛かりを類推することができてしまう」

どうりで、登録から術具店へ行くまでに時間が空いたわけだ。

『まだ行かないの?』『まだだ』というやり取りの本当の意味がようやく分かった。

裏側にもカウンターがあり、店主はそこに座ってパソコンを弄りだした。

ネット注文の対応でもしているのだろうか。

店舗に来ようが来まいが、俺達が何を買ったのか彼はすべて把握しているのだ。

「店主さんは利用者全員の情報を握ってるってこと?」

「その情報を流出させた場合、利用客がいなくなり、店は潰れる」

信用の上で成り立っているってことか。

峡部家も長いこと利用しているみたいだし、情報漏洩を警戒しても今更だろう。

俺は余計な心配を頭の隅に追いやり、目の前に並ぶ商品へ意識を向ける。

何が入っているか分からない陶器の壺や、ロール状になっている紙の束、量り売りの粉末など、用途不明な怪しい品々が目を引く。

ガラスケースに入った植物らしきものが並ぶ光景は駄菓子屋を想起させた。

試しに手近にあった商品を手に取って親父に問う。

「これは何?」

「子供に筆の持ち方を覚えさせるための補助具だ。……お前は最初から正しい持ち方ができていたからな」

使う必要がなかった、と。

親父は使ったことがあるようだから、我が家にも同じのがあったのか。

そして、優也には俺が教えたから、この道具の出番が来ることはなかったようだ。

「おんみょーじチャンネルで教わってたから」

「そうか」

おんみょーじチャンネルは役に立つなぁ。

未だに俺の嘘に信憑性を与えてくれる。

隣を見れば、ちょっとだけ残念そうな親父がいた。

親子で同じ道具を使いたかったのだろうか。

「こっちは?」

「原料は知らないが、紙の材料に使われると聞いたことがある。混ぜると、通常のものよりも霊力が込めやすくなるようだ」

「へぇ、紙を手作りするところもあるんだ」

透明なガラス瓶に入った白い粉末を手に取ると、親父がスラスラ答えてくれた。

峡部家の指南書には書かれていないはずだから、どこかで聞いたのだろうか。

「とある御家では、紙の製法そのものが秘術として伝わっている」

親父の知識量の多さに俺は驚いた。

俺と同じく人付き合いが苦手な親父は、御剣家以外ほとんど交流がなさそうなのに。

いや、よくよく考えたら御剣家の同僚だけでも十分情報が集まりそうだ。

陰陽師はソロ活動が多いから、数十人集まればかなり大きいコミュニティと言える。

俺はさらに隣に置いてあった掌サイズの壺を手に取った。

「これは?」

「それは……」

さすがに知らないらしい。

ラベルには“幽魂末”とだけ書かれており、封がされているため中身も見えない。

成分表示なんて当然貼ってあるはずもなく、どんな品なのか全くの未知である。

よしよし、良いものを見つけた。

俺は壺を片手にカウンターへ向かい、店主に尋ねる。

「これ、なんですか?」

「ぁん?」

パソコンの画面から顔を上げた店主と視線がぶつかる。

「買う気がないなら触るな」

「使い方を教えてくれたら、買うかもよ?」

小学生らしく親し気な口調で話しかけた。

分かるよ、店主。俺には分かる。年寄りは若者に尊敬されるのと同じくらい、親しく接してもらいたい気持ちを持っているんだよな。

まぁ、この人が前世の俺と同じかどうかは分からないが。

「…… 幽魂末(ゆうこんまつ) は柳の根っこを加工したもんだ。お前さんのとこで使うなら、香に混ぜるか、しょく……それくらいだな」

俺の説得が効いたというよりは、面倒くさいからさっさと説明して追っ払おうとしている。

「しょく、って何?」

「秘密だ。ほれ、親父のところへ行って教えてやれ」

会話を切り上げられてしまった。うーむ、あまり手ごたえがないな。

子供好きじゃなかったか。

それとも仕事を邪魔したのがいけなかったか。

どちらにせよ“しょく”の続きが気になって仕方がない。

後ろ髪引かれながら、俺は親父の下へ戻る。

「聞きたいことは聞けたか?」

「まぁ、うん」

仕方がない、時間をかけて仲良くなるとしよう。

陰陽師にとって重要な道具。それを取り扱う人物とは、強いコネクションを結びたい。

息子さんがいるならそちらとも是非。

結局この日は店主への顔見せだけで終わってしまった。

ここへ来た主目的である“大蛇の鞍”を軽く見積もりしてもらったところ、300~400万円かかりそうだったので、やはり購入を見送ることとした。

実物も見せてもらったが、既製品では大蛇に使用できそうにない。

「必要なものに金を惜しむことはない」

「式神召喚の費用を見て、お母さんため息ついてたよ」

「……」

消耗品だけ買って帰った。