軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初召喚3

「お父さん大丈夫? 調伏したから、このまま契約に移ってい――?!」

後方で戦いを見守っていた親父の方へ振り向くと、いつの間にか親父は俺のすぐ傍にいた。

「怪我はないか?」

俺の体を軽く叩きながらそう問いかけてくる。

俺にとっては余裕のある戦いだったが、親父にとっては危険な戦いに見えたのだろう。

結界には傷1つ付いていないというのに、全身くまなく確認された。

御剣護山で妖怪と戦った時のことを思い出す。

ひとしきり心配した後、親父のお説教が始まった。

「なぜ私の判断に従わなかった。強大な式神が現れた時は一度召喚の儀を中止すると言ったはずだ。お前がその指示を理解できなかったとは思えないが」

「今回はその条件に合ってないから。強大な式神が現れた時、でしょ? あれは弱いよ。重霊素で倒せたし、僕に傷一つ付けられないくらいの武器しか持ってない。空を飛べなかったらただのデカい蛇だよ」

「デカい蛇……」

俺は親父との約束を破った非を認めている。だが、ここで退いてはならない。

ここで謝ってしまったら、次の機会に召喚させてもらえないかもしれない。

御剣様が紹介してくれる依頼だって取り消しになるかも。

ゆえに、ここはゴリ押しする。

「お父さんも言ってたでしょう? 式神との繋がりで感覚を共有できるって。召喚してから感じた、あの感覚のことだよね」

実際、力の大きさというか、存在感というか、言葉にできない強さの指標が伝わってきた。

そして事実、あの大蛇は見かけほど強くなかった。

世の中は結果が全てだ。もしも、俺の感じていたものがまやかしだったら、なんて仮定は意味を成さない。

「お父さんもあれを感じてるんでしょ?」

「私はそんなものを感じたことはない。契約した式神との繋がりはあるが、未契約の式神の力を推し量れるような感覚は知らないし、聞いたこともない」

ん?

あれ?

ここでも前提条件がずれている。

てっきり俺は親父もこの感覚を知っているものだとばかり。

もしや、重霊素を込めたことによる特殊効果?

あるいは、実力差が大きい時だけ分かるとか?

うーん、この原因を究明するには、いろいろ試すしかないな。

「お父さんはどれが原因だと思う? まずは重霊素を他の精錬霊素に変えて試してみたいと思うんだけど」

「そうだな、次は第参精錬で……いや、今はそんな話をしているのではない。お前が何か確信を得て戦ったのは理解した。だが、なぜ私に結界を張った? 戦闘中に余計なことを考えるな。自分の身は自分で守れる。もしもその一手が切っ掛けとなり、戦況が一変したら――」

おっと、余計なお世話だったか?

いや、油断した俺への指導のためだな。

自分の息子が調子に乗っていたら、俺だって注意するだろう。

でも、大蛇相手には戦闘力に対する適正なコストを支払っただけだから。妖怪相手にはこんなことできないから心配しないでくれ。

「分かったな」

「はい」

せっかく心配してくれているので、反論せずに受け取っておいた。

内心で『コストを抑えつつ目標達成できて良かった』と呟くが、口には出さない。

第陸精錬霊素を作るのにも時間や諸々を投じているのだ。節約できるに越したことはない。

それに、簡易結界と捻転殺之札は常に懐に忍ばせている。いざという時の備えもしてあるから、決して油断しているわけではないつもりだ。

「お父さん、このまま契約していいよね」

「疲れていないか? 霊力が不足したりは?」

「大丈夫。全然疲れてない」

霊力が枯渇したのなんて乳児の頃だけだ。

今ではストックしている各種霊素のおかげで疲れ知らずの体となっている。それは親父も知っているだろうに。

俺は親父の同意を得て、いよいよ契約フェーズに移る……その前に。

式神用の陣を確認しに行くと、一度破壊されたはずのそれは、いつの間にか形を変えて元に戻っていた。

「これが契約用の陣なんだ」

「そうだ。調伏した場合はこのように形が変わる」

また何かしでかすのではないかと心配した親父が、後ろについて来ていた。

親父の言う通り、召喚時に俺が描いたものとは異なる紋様が紙に描かれている。漢字で“界”と書いた場所が2つの円に変わっていたり、三角形で囲った部分が文字のような何かの羅列になっていたり。

事前にそうなるとは聞いていたけれど、不思議なものだ。

「適当に陣を描いて、偶然同じものができたら召喚できそうだね」

「それは出来ないらしい。正しい手順を踏んだ召喚者にしか本来の意味を成さないという結論が出ていたはずだ」

あぁ、同じことを考える人がいたのか。

ただでさえ謎に包まれている召喚術だ、何か制約があってもおかしくはない。

式神が認めた相手しか陣を使えなくするとか、十分あり得る。

この不思議現象をひとしきり観察した俺は、召喚者用の陣へ戻って今度こそ契約フェーズに移る。

「我が名は峡部 聖。汝の力を欲さんと召喚せし者也」

陣へ霊力を流すと、召喚した時同様2つの世界が繋がっていく。

そして、つい先ほど塵となって消えた大蛇が眩い光と共に姿を現す。

式神は 仮初(かりそめ) の肉体が滅ぼされても、再度召喚すれば何事もなかったかのように現れるのだ。

「喚び声に応えし異界の者よ。我と契約を結べ。その対価は力。汝が求めるさらなる力を授けん――」

印を結びながら契約の呪文を唱える。

何百回と練習した甲斐あって、舌と指は淀みなく動いた。

印によって一定の流れに霊力が動かされるのが少しくすぐったい。

この霊力の流れが契約に必要らしいのだが、原理はさっぱり分からない。ゆえに、どの家でも印の結び方は同じだ。召喚術の開発者が大昔にいたのだろうが、どんな人生を歩めばこんな超技術に辿り着けるのやら。

過去の偉人の恩恵に与り、契約は順調に進んでいく。

先ほどの戦闘で力の差をワカらせたので、契約を結ぶこと自体は決定事項である。

次は契約内容を詰めていく。

主な内容は報酬について。むしろこれ以外は定型文である。

言葉ではなく、不思議な繋がりによって報酬の交渉が始まった。

明確な意思疎通ができるわけではなく、互いに何を思っているのかふんわりと伝わってくる感じ。戦闘中に感じていたそれがより強くなっているようだ。

手始めに、霊力をこのくらいでどうよ。

少ない?

じゃあ、狛犬に支払うのと同じくらいで。

これでもダメ?

あのさ、さっき俺に歯向かってあっさり倒されたよね。どっちの立場が上か分かってる?

……ふむ、分かればいいんだ、分かれば。

こっちとしても無理やり召喚したから悪い気はするし、しっかり仕事してほしいから、鬼と同じくらいの霊力で手を打とう。

OK?

よし、決まり。

1回召喚するごとに、鬼と同等の報酬を対価として渡す。

親父が1週間仕事で酷使し、俺が一括払いしても大した量にはならない鬼の報酬。

結構気軽に召喚できそうだ。

丁寧に倒した甲斐があったというものである。

続けて定型文的な契約内容の確認に移る。

主人に危害を加えないこと。承諾。

主人の命令に逆らわないこと。承諾。

主人の不利益になることはしないこと。承諾。

違反未遂、あるいは違反した場合、地獄の責苦を受けることになる。

などなど、細々した契約内容が決まっていく。

よし、最後の契約事項にも同意を得た。

「異界より召喚せし式神よ。汝、我が下僕として、我がために異界の力を以て戦いに臨むことを誓え。闇を打ち払い、浮世の穢れを晴らす力となれ。今この時より我等の魂は繋がった――契約締結」

召喚の儀の最後、契約が締結されたことにより、明確に式神と繋がった気がする。

さっきまでのあやふやな感覚ではなく、使役している実感が湧く強い繋がりだ。

こころなしか式神も存在感が増したような。

狭い召喚陣の中で居心地悪そうにしている大蛇と視線が交わる。

「これからよろしく頼むよ。空飛ぶタクシー君」

召喚の儀はこれにて完了。

このまま送還してもいいけれど、せっかく召喚したのだから、早速仕事をしてもらおうかな。

「お父さん、空の旅をしてみない?」