軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初召喚1

召喚されたのは、白い大蛇だった。

真っ白な蛇皮が秋の柔らかな日差しに照らされ、キラキラと輝いている。

どこを見ているのかわからない眼と、時折口から飛び出す二股の舌は真っ赤に染まっており、アルビノという単語が頭に浮かんだ。

白蛇は神の化身であると聞いたような……。

あくまでも式神なので、そんな肩書きは持っていないだろうが、縁起が良いのは間違いない。

その大蛇は大木のような胴体をくねらせ、召喚陣の中を狭そうに這っている。

蛇が狭い壺の中に閉じ込められたような光景だ。

召喚陣の境界線に沿って動く様子は、どこかに綻びがないかを探しているようにも見える。

直径3mの円柱を立体的に埋め尽くすって、体長何メートルあるんだ?

胴体の一番太い所は50cm以上あるかもしれない。

まごうことなき大蛇である。

「儀式は中止だ」

親父はそう言うと、式神の陣と召喚者の陣を繋ぐ線を破壊せんと動き出す。

2つの世界を繋ぐ線が破壊されれば、式神は送還されてしまう。

親父は手に持っていた札へ霊力を注ぎ、今にも飛ばそうとしていた。

「お父さん、大丈夫。儀式は続けよう」

俺は至って冷静に話しかけるが、親父は決定を変えようとしない。

儀式の中止は親父の判断に任せると約束した手前、少々申し訳なく思う。

それでも――。

悪いな親父。

ここは大人しく見ていてくれ。

俺は触手を伸ばして親父の右手ごと札を拘束した。

「何をしている! この式神は危険だ!」

そうだね、見た目だけなら恐ろしい限りだ。

同じ外見の妖怪と遭遇したら、俺は即時撤退を選ぶことだろう。

だが、こいつ相手に儀式の中止を選択することはない。

「こいつは僕より弱い。僕が負けるとは思えない。必ず勝つから、調伏させて」

「何を根拠に!」

焦る親父に対し、俺は冷静なままだ。

もしもこいつが自然界にいたなら、太く長い胴体で締め付け、獲物の骨を砕いて丸呑みするに違いない。

大人一人容易く呑み込みそうな大蛇を目の前にすれば、常人なら裸足で逃げ出すことだろう。

「うーん、勝てそうな気がするから、としか言えないけど……。なんとなく、分かるんだよ」

根拠を問われると困ってしまう。ただ、俺の本能が囁いている。

(こいつ全然怖くない)

見た目で判断するのは間違っているが、俺はこいつを見た時から格下認定していた。

初めて鬼を目の当たりにした時も、妖怪と遭遇した時も、生物的な恐怖が込み上げた。それは視覚情報だったり、陰気を感じ取ったことで、本能が危険と判断したのだと思う。

しかし、どうも大蛇からはそれが感じられない。

もしかしたら、親父から聞いた“式神との繋がり”とやらが影響しているのかも。

自分が召喚したからこそ分かる、言葉にできない確信が俺の中にあるのだ。

「いかん、戦いが始まってしまう」

結界を這いつくした大蛇が、その巨体で結界に圧力をかけていく。綻びがなかったので力技に出たようだ。

それでは、戦闘が始まる前に問うとしよう。

「活躍次第で昇給あり。福利厚生も配慮します。私の式神になりませんか?」

パリン

召喚陣の断末魔が返答となり、式神との戦いが始まる。

あらら、フラれてしまったか。

力ある式神は調伏が必要と分かっていたけれど、ちゃんとスカウトすれば必要ない可能性も期待していたのに。あっちは俺との力量差が分からないのか?

召喚陣の境界を破壊した大蛇は、蛇行しながら俺へ迫ってきた。

(速いな)

巨体の割にずいぶんすばしっこい蛇だ。

逃げに徹されたら面倒なことになりそう。

そのうえ力も強そうだ。

客観的に見れば破城槌が子供に向かって突っ込むようなもの。

シンプルな体当たり攻撃さえ、子供にとっては致命の一撃となるだろう。

丸呑みされるかもしれない。

しかし、それは当たればの話だ。

戦闘が起こると分かっていて、俺が何の準備もしていないはずもなく。

召喚者用の陣から出た俺は、予め用意していた結界で自らの守りを固め、同時に大蛇を妨害する。

陰陽五行のうち、土に分類される札を1枚飛ばせば、大地が隆起して壁を成す。

注いだのが霊力なら、おそらく大蛇の突進に耐えられない。だが、霊素なら鬼の一撃にも耐えられる強度となる。

突如現れた岩壁に対し、大蛇は破壊ではなく、わずかに勢いを殺して鎌首をもたげることで回避した。決して壁は低くないのだが、蛇が大きすぎて簡単に超えられてしまった。

(まぁ、それは織り込み済みだ。死角からの攻撃こそが真の狙い)

安心と信頼の実績を誇る焔之札を3枚、こちらは戦闘前に込めておいた第陸精錬霊素を抜き取り、重霊素に詰め替えておいた。

(こいつにはこれで十分だ)

俺は壁の傍まで札を飛ばし、大蛇のスピードが落ちて確実に当てられる瞬間を狙っていた。狙い通り大蛇の頭部に触れた瞬間、強烈な爆風と共に炎が溢れ出す。

蛇は大きく仰け反り、先ほどまでの攻勢から一転、俺から逃げるように距離をとり始めた。

炎に呑まれた体表は黒く焼けこげ、美しかった鱗が燃えてなくなっている。爆炎の中心地となった3点に至っては体内まで炭化しており、大蛇が動くたびにこぼれ落ちていく。

(見た目通り実体型か。それでも十分効いている。頭の傷にもう一度当ててトドメかな)

これがもしもニシキヘビだったら、ピット器官をズタボロにする大火傷になるだろうが、こいつは式神だ。

ただでさえ式神には霊的攻撃が効きづらいというのに、実体型の式神はさらに効きづらい。初見の一撃で倒せるほど柔ではなかったか。

(次は岩の弾丸でも飛ばすか、もしくは逆茂木陣に誘導するか。いや、効いているのだから、焔之札で確実に仕留めよう)

事前に戦闘準備はしているが、そもそも親父は俺に戦闘させる気がなかった。

故に、鬼退治の時のように、陣をあちこちに仕掛けたりはしていない。

手持ちの札もお手頃なものばかり。

召喚そのものにお金がかかるので、使うかも分からない道具に金をかけることはできないのだ。

今回のように強そうな式神が現れた時には、一度召喚の儀を中止して、後日親父が万全の準備と共に戦う予定だった。

それ用の陣も一応教わってはいるのだが、今回は使う必要ないな。

だって、ここで仕留めてしまうから。

(問題なく調伏できそうでよかっ……ん?)

背を向ける大蛇にトドメの札を飛ばそうとしたところで、大蛇に変化が現れた。

ピシッメリッと音をたてながら皮が剥がれていく。

その変化はあっという間に全身へ広がり、本物の蛇なら数日掛かる脱皮をたった40秒で済ませ、移動しながら脱ぎ捨てていった。

俺がつけた傷もいくらか癒えたようだ。そういうところは蛇準拠かよ。こちらの世界の蛇より治癒能力は高いみたいだし、式神の生態はよく分からない。

ただ、そんなことよりももっと不可思議な変化が起こっていた。

「翼……?」

脱皮が終わった大蛇に追加装甲がついていた。