軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全国書写展覧会

2本目の歯が抜けるよりも先に、展覧会の開催日がやって来た。

あらかじめ先生から案内を貰っており、親父が休みの日に家族で見に行くこととなった。

「ここだな」

親父を先頭に公共交通機関を乗り継ぎ、やって来たのは街中の高層ビル。

優也だけでなく、両親も揃って見上げるような高さだ。

そのうちのワンフロアが大ホールとなっており、全国の小中学校全学年分の作品が展示されているらしい。

早速エレベーターで上にあがると、すぐ目の前が会場だった。

そこかしこにいる家族は皆、俺達と同じ目的で来た人達だろう。

「おぉ。すごいね」

「おにいちゃんのはどれ?」

「たくさんありますね。一緒に探しましょう」

広いフロアを埋め尽くすようにパネルが立ち並び、そのパネルに隙間なく作品が貼られている。

硬筆と毛筆で分かれており、さらに学年や学校ごとに分けられているようで、俺達はそれを手掛かりにフロアの探索を始めた。

「皆さん字が綺麗ですね。一生懸命書いたのが伝わってきます」

この辺りには小学校1年生の作品が並んでいる。

お母様の言う通り、小学生にしては綺麗な方だと思う。

でも、まだまだだね。線がブレていたり、子供っぽい字が多い。

その点俺の作品はしっかりした筆遣いでバランスよく書いてある。

お題が「二」というシンプルな文字とはいえ、隠すことのできない明確な差があるのだ。

「むっ、これか」

親父が見つけた俺の作品には、朱色の判子で審査結果が記されていた。

【大賞】

うん、まぁ、悪くないんじゃない?

大臣が選ぶ特別賞なんて取ったらどうしよう。そうしたら子供達の活躍の場を奪っちゃって悪いなぁ〜。なんて、期待してなかったし?

毛筆に命かけてるわけじゃないしね、うん。

ある程度の綺麗さを維持出来れば、後は効率のためにスピードの方が大切になってくるし。

……うん、まぁ、こんなもんでしょ。

「聖、なんで嬉しくなさそうなのですか? 大賞ですよ?」

「陰陽師が仕事として扱う文字と、芸術的な文字は異なる。気にするな」

親父、もしかして俺と同じ経験ある?

的確な慰めの言葉をどうも。

先ほどから目に付いた作品の感想を述べていたお母様に、俺の作品の感想も聞いてみたくなった。

「僕の字はどう?」

「聖の作品は字が整っていて……」

ん?

どうかしましたか。

さっきまでポンポン感想が飛び出てたじゃないですか。

お母様は数瞬悩む様子を見せ、ニッコリと微笑みながら寸評を述べる。

「……聖らしさが出ていますね」

え、何?

なんで答えを濁したの?

何か本音を隠してませんかお母様?

俺は親父にしゃがんでもらい、耳打ちする。

「お母さんがなんて言おうとしたのか分かる?」

「……綺麗な字を書いていると褒めたのではないか」

いや、その裏に隠した本音を、夫として読み取ってほしかったんだけど。

親父に聞いたのが間違いだったか。

あの 間(ま) は間違いなく言葉を選んでいた。

俺らしいって、なんだ?

汚い心が反映された字ってことか?

直接お母様に真意を尋ねるも、いつもの優しい笑顔で受け流されてしまった。

あっ、これは聞かない方が幸せなやつだ。

さて、俺の展示も見たことだし、後は屋上の展望室で夜景を眺めて、帰りに外食かな。

ここに来る途中で食べたいものを聞かれたから、焼肉と答えておいた。

間違いなく、息子の作品が展覧会に選ばれたことを祝して、焼肉屋に連れて行く流れだろう。

楽しみだ。

なんて考えていた俺は、出入り口の方へ振り向いた状態で固まった。

え……な……なぜ、彼女たちがここに?

「あら、源家の皆さんと……明里ちゃん 母子(おやこ) も来ていますね。聖がずっと会いたがっていた明里ちゃんですよ。会えてよかったですね。ご挨拶しましょうか」

なんて、ママ友に挨拶するような気軽さで入口へ向かうお母様。

陰陽師界の重鎮である源パパを前にして、分かりやすく緊張する親父とは大違いだ。

なお、俺は親父と同じく3年ぶりに会う可愛い幼女との再会に固まっていた。親父のことをバカにできない。

ふぅ、予想外の展開に少し動揺したが、落ち着きを取り戻せ、俺よ。

これはチャンスじゃないか。

俺は意を決して少女達の下へ一歩踏み出した。

懇親会で会った頃よりだいぶ成長した明里ちゃんは、さらに可愛さを増している。

淡いピンク色の着物が少女の可憐さを引き立てており、ハレの日にピッタリな装いだ。

「源さん、こんばんは」

日和った。

明里ちゃんへ挨拶するより先に、慣れ親しんだ源さんに声を掛けた。

源さんも紺色の着物姿がとても似合っている。とはいえ、それを褒める余裕は俺にはなかった。

「峡部さん、こんばんは」

「安倍さんも、えっと、お久しぶりです」

「こんばんは」

明里ちゃんはそれだけ返すと、源さんの方へ顔を向けた。

そんな彼女に源さんが耳打ちする。

「峡部家の長男です。懇親会で会ったことがあります」

源さん、わざと俺に聞こえるように言ってる?

この子、あなたのこと覚えてませんよって、暗に教えようとしてくれてる?

やめて、地味にメンタル傷つくからやめて。

「あ、お兄さまに勝った人」

よかった! 思い出してくれた!

本命の卵が不発だったけど、結果オーライだ。

「晴空様は……ご一緒ではないのですね」

「お父さまのご指導の時間だから」

さすがは安倍家嫡男、夜でも陰陽師教育を進めているのか。

幼稚園には行かせてもらえなかった彼も、小学校には通っていると聞いたことがある。彼の作品もきっとここに展示されているだろうに、少し可哀想だ。

どうして目の前の2人が一緒に来ているのかと尋ねれば、予想通りの答えが返ってきた。

「お兄さまとわたしの習字が選ばれたの。しずくちゃんもね」

「はい。我が家に同伴する形で明里さんの外出許可が下りました」

加奈ちゃんの作品も展覧会に選ばれていたので、察しはついていた。やはり、陰陽師関係者の子供は展覧会に選ばれやすいのだろう。

さて、ここからどうすべきか。

大人達の会話もそろそろお開きになりそうな雰囲気だ。

「はい、息子の作品は先ほど確認したので――」

緊張しっぱなしな親父はさっさと帰ろうとしている。

せっかくお偉いさんと懇意になれる状況なのに、逃げ出そうとするんじゃない。気持ちはよく分かる。けど、いいかげんお母様だけでなく当主同士でコネを作れ!

俺は俺で将来の布石を打ちたいんだ。

峡部家の未来のためにも、この場は引き延ばさせてもらう。

「せっかくですし、一緒に鑑賞しませんか?」

「私は構いません。明里さんは?」

「いいよ」

天が俺に味方したのか、狙い通りの展開になった。

子供達が一緒に行動するとなれば、大人達はついて行くしかない。

この展覧会の主役は子供達なのだから。