作品タイトル不明
エクトプラズムと親子丼
「勝手なことをしてすいません」
帰ってくるなり真白に謝られた。
「なにが?」
「さきほど、ましろが勝手に交渉をしてしまいました」
「ああ」
姉の遺体を探す件でニャンゴト・サービスとかいう謎の存在に依頼をした件だ。
「あの、でも……義姉上様の遺体の所在を探すにはあの方法がもっと手っ取り早いと思ったんです。お金が必要でしたら真白の貯金から」
「いや、そういうのはいいから」
お金の話になりそうになったから、咄嗟に止める。
「姉のことは僕がやりたいことなんだし、あの人たちに依頼するなんて方法は僕には思いつかなかったことなんだから問題ないよ。それにやりたくないバイトだったら受けなければいいだけなんだし」
「……はい」
なんでか知らないけど、いきなりしょんぼりしている。
「どうしたの?」
「いえ……大丈夫かなと思ってたんですけど、もしかしたらやっぱりダメだったかなって、軽率だったかなって」
ああ……。
よくわからないけど、なにか後悔するポイントがあったんだな。
「なにか悪いことが起きるかもしれないって、心配してるんだ?」
「はい」
「どういう風に?」
「うまく説明できないですけど、こういうのは徐々に蓄積していって後からすごいことになるんです。もしかしたら真白は、その最初を選んでしまったんじゃないかって。ましろは旦那様に幸運を運ぶ神蛇にならないとなのに」
「やっぱりよくわからないけど、そんなに気負わなくてもいいよ」
それでも落ち込んだまま、真白は自分の箱の中に潜り込んでしまった。
落ち込んでるなぁ。
たしかに不思議体験だったし肝が冷えた場面もあったけど、そんなに気にすることかな?
斜九字と戦った時の方がよっぽど危なかったと思うんだけど。
よくわからないけど、とりあえず真白の気持ちが落ち着くまでは放っておくとしよう。
その間は、とりあえずアイテムボックスの整理かな?
あそこは無限に散らかり続けるんだから。
でもまぁ、あそこでの作業は時間潰しにはならないんだけどね。
なにしろ実際の時間が流れないんだから。
そう思いながらアイテムボックスに入ると……。
ヌチャア……。
「は?」
いきなり全身が謎の粘液まみれになった。
「なにこれ? どういうこと⁉︎」
「あ? アキヤ? どったの?」
「姉ちゃん! なんでこんな変なのこんなところに?」
いつも通り、どこからか姉の声が聞こえてくる。
「どういうこと? んん? なにそれ?」
「なにそれって! 姉ちゃんだろ!」
なんで僕が入ってくるところにこんなものを置くんだよ!
「それは私じゃないけど」
「ええ、じゃあなんだって……」
「んん? それって……」
あ、このヌチャヌチャって手で掴める。
とりあえず掴んで引き剥がす。
全身に引っ付いている割に、簡単に取れるな。
体にも残らない。
おもちゃのスライムみたいだ。
「おお、珍しい! エクトプラズムじゃない!」
「エクトプラズム?」
なんだっけ、聞いたことがあるような、ないような?
「アキヤってばどこでそんなの見つけてきたのよ。ラッキラッキー。ちょうだい」
「まるで僕が持ち込んだみたいな言い方」
「私に覚えがないんだから、アキヤが持ち込んだに決まってるじゃない」
「ええ……それで、エクトプラズムってなに?」
「ううん? なんて言えばいいのか……幽霊が物質世界で活動するために必要なエネルギーが物質化したものっていうか、幽霊の体っていうか」
「幽霊の体?」
「とにかく、希少な物質なのよ。うっほほ〜これでレシピを知ってるだけの霊薬とか作れちゃうんじゃない。やったね私。えらいぞアキヤ。褒めて遣わす」
「それはどうも」
よくわからないけど、姉の役に立つっていうならそれでいいかと、全身についているヌチャヌチャをひっぺがし、いつもどこかから現れてくる謎の瓶に詰めていく。
合計で五つのエクトプラズムの瓶詰めができた。
棚に並べた瞬間に二つ消えた。
姉が持っていったのだろう。
どこからか聞こえてくる姉の鼻歌を聞きながら、アイテムボックスの整理をしていく。
一瞬の油断なく散らかすのは本当になんなのだろうか?
いまは話に出ていた霊薬の作成をしているのかもしれない。薬草類の棚からあれこれと消えていき、そして戻る時にはまったく関係ないところに出現する。
ああもう……。
それにしてもエクトプラズム?
幽霊の体?
それだけの単語で思いつくものがある。
さっきまでしていた謎バイト。
いかにも曰くありげな物件に侵入していわくしかなさそうな物品を集めてくるという作業……幽霊的なものが体に付くのだとしたらあの時しかないわけで。
アイテムボックスに入った瞬間に、全身に張り付いたヌチャヌチャ。
入る前から僕の体に付いていたということか?
そして、アイテムボックスに入ったことで物質化したとしたら?
真白が後悔していたのはこれが原因だったりしたのかも?
「ふうん」
危惧していたものがまさしく物質化した?
いや、一回バイトしただけでこんなものが張り付いてしまうのだとしたら、真白が後悔するのも妥当かも?
でも、そうだとするとアイテムボックスの中に入ることで問題解決するのかも?
それなら真白の心配は杞憂になるってことだから問題なしだな。
確認はもう少し後にするとして、片付けをある程度済ませた後で夕食について考える。
普段は生肉派の真白だけど、卵だけは料理したものでも食べるっていうことが判明した。
この間のお好み焼きもそうだ。
なので卵を使った料理にしよう。
うん、コカトリスの肉があるし、親子丼にしよう。
でも、卵がないな。
「姉ちゃん、卵ないの?」
「な〜い」
うん、知ってた。
アイテムボックス内にないんだから、その向こうで姉が持っているはずもなし。
そして霊薬作成に集中しているのか、返事もテキトーっぽい。
なら、これは買ってくるとしよう。
一度、アイテムボックスから出て近所のスーパーに買い物に行く。
真白は不貞寝中か?
声はかけなかったけど、動く様子がないのでそのまま出てきた。
卵以外にも色々と買い足してアイテムボックスに戻り、中で親子丼を作っていく。
卵もたくさん買っておいた。
これさえあればカツ丼だって作れる。
「姉ちゃん、親子丼作ったからな」
「は〜い」
制作難航中なのか?
作り置きを棚に置き、二人分を持ってアイテムボックスから出た。
買い物に行った分、時間が過ぎている。
夕食にはまだちょっと早いかな?
でも、お腹も空いているし問題ないと思うんだけど。
「真白、ご飯〜、親子丼は食べれる?」
「食べます!」
スパンと箱から顔を出してきた。
おや、ずっと起きていたのか?
それとも声をかけられるのを待ってた?
「はへ?」
蛇姿の真白は僕を見てなのか、変な声をこぼして箱から出て人の姿になり、そして僕を見上げた。
やっぱり、僕を見てだったのか。
「旦那様、なんかスッキリしてます」
「でしょう? 食べながら説明するから。テーブルの用意して」
「は、はい!」
わたわたと動き出す真白を見ながら、さてどうやって説明しようかと考えた。