作品タイトル不明
監禁
腕と胴体に縄、手足首に結束バンド、さらに目隠しと猿轡までされて、僕とたぶん柚木さんwith男子たちは運ばれていった。
運ばれていった先がどこかはわからないけれど、大人たちの数はさらに増えたようで二、三人が僕を抱えて運んでいく。
他の連中もきっとそうされているのだろう。
「お前たちはさ、蛇と見合いをさせられるんだ」
聞いたことのない声がそう言った。
年老いた、なんだか意地の悪い粘着質な声音だった。
「おいやめろ」
「いいじゃないか。どうせもう出られないんだ」
誰かが止めたけど、その老いた声は止めない。
「蛇神様の子供様方と見合いさせられて、気に入られたら蛇になって番になるんだよ。だけどな、気に入られなかったら……」
「ひひひ」と笑う声が耳に起こる。
「ちょっと前に来た三人はどれも気に入られなくてなぁ。全身を噛まれて死んじまった。始末するのが大変だったなぁ」
低く笑いながら呟く。
もう誰も、止めろとは言わなかった。
三人というのは厳里兄妹と運転手をしていた男のことかな?
あの運転手、逃げ切れなかったのか。
現実でこんなことが起こるとは思っていなかったので、どこかで厳里兄妹たちは生きているかもと思っていたけれど、違ったみたいだ。
そっか、こっちでもこういうことはあるのか。
不可思議なのは異世界だけじゃないんだなと、妙に冷静な気持ちで考えていた。
やがて、なにやら重い扉を開くような音が響き、さらに進んだ結果、ひんやりとした空気が僕を包み込んだ。
そうして、さらに少しして下ろされた。
顔に当たる感触からして畳かな?
土の臭いもしている。
畳が湿気っているのかもしれない。
「へへへ、一つだけいいこと教えてやるよ」
と、さっきの老人が話しかけてくる。
やけに声が近い。
もしかして、僕の耳に顔を近づけているのだろうか?
僕は地面に寝そべっているのに?
気持ち悪いな。
いや、話し方からして性格が悪いってのは確定っぽいんだけど。
「噛まれているのは、いわゆる甘噛みってやつだ。男女の睦言の時に興奮してやっちまうんだな。たとえ死んだとしても、死ぬほどいい目には会えるぞ」
それは慰めのつもりだろうか?
いや、僕も男子だし童貞なので、そんなシチュエーションにちょっとときめきを覚えたりしないでもない。
だけど、死ぬまで搾り取られるのはごめんだし、気に入られて蛇になってしまうのもごめんだ。
僕の部屋は姉のアイテムボックスになってしまっていて、そこには大量に未整理のアイテムが散らばっているのだ!
あれを整理しきるまでは、死ぬに死ねない!
大人たちが去ったのだろう。
遠くで金属の軋む音がした。
きっと、扉が閉められたのだ。
そうすると、周りでん〜ん〜と唸る声が聞こえてくる。
他の連中も近くにいるみたいだけれど、誰も拘束から逃れることはできていないみたいだ。
僕も鍛冶修行で鍛えた筋力を発揮したいのだけど、姿勢が悪くて踏ん張れないからか、どうにも力を込められない。
頑張っていると、どこからかシュルシュルと音が聞こえた。
滑るような音?
あるいは、息遣い?
蛇ってなんか舌を出しながらそんな音を出すイメージだけど。
まさか本当に蛇が来たのか?
んん……わからない!
いると思えばいるような気もするし、ただの気のせいのような気もする。
なんだけっけ?
熱した鉄棒を見せて、これでお前を焼いてやると脅した後で目隠しをして熱していない鉄棒を肌に当てると本当に火傷をするとか?
病は気からとか、偽薬とか、人は気分次第で自分の体を変調させてしまう。
タチキという隠されたような存在、祠、行方不明の同級生、そして老人の言葉にこの状況……。
追い詰められた精神が幻覚を自分で作り出したとしてもおかしくはない。
「んんっ!」
「んーっ!」
「んんんっ‼︎」
with男子も騒いでいる。
あれ?
だとしたらこれって、僕だけの気のせいじゃないかも?
そう思ったところで、冷たいものが首筋を撫でていった。
ああ、これは幻覚じゃないかもねぇ。
冷たい感触は首を撫でたり顔を撫でたり、服の上から胸とか腹とか腕とかを撫でたりしている。
ずっと撫で撫でされている。
だけど、このままっていうわけにもいかない。
撫で撫でされている中、体に力を入れる。
パワー・イズ・力!
力・イズ・パワー!
鍛冶修行で何千本と剣を叩いて磨いた筋力を……見ろう!
ブチブチ!
いけた!
手首を縛っていた結束バンドと腕を縛っていた縄が同時に切れた。
「きゃっ!」
すぐ近くで小さな悲鳴が聞こえた。
だけど、なにもしてこないので、少しだけ迷って足の結束バンドも千切る。
猿轡をずらし、そのまま目隠しも外そうとした時……。
「やめて!」
と小さな声が止めた。
「やめて、それを外さないで、そうしたらここから出してあげるから!」
声が必死だったので、僕の動きも止まってしまった。
「わかった」
「あっ、でも、他の人は……」
「いい」
あっさりと他を見捨ててしまった。
「「「んんっ‼︎」」」
と抗議めいた唸り声が聞こえた気がしたけど、それは別の悲鳴だったのかもしれない。
少しばかりの罪悪感が胸を刺してきたけど、いまは非常事態で、しかも自分から地雷を踏みにいった連中のことまでかまっていられない。
「じゃあ、こっち」
と、手を握って引っ張られた。
小さな手だった。
ひんやり冷たい。
その手に引かれていくと、やがて階段があり、それを上がるとまた扉の軋む音がした。
「扉が閉まったらそれをとっていいから」
「わかった。ありがとう」
「……あの」
「うん?」
「ううん、なんでもない」
また軋む音が聞こえて来た。
扉が閉まるのだとわかって、僕は目隠しをずらす。
そうして、ちょっと安心して気持ちが緩んだからだろう。
思わず振り返った。
声の主はまだそこにいた。
けど、姿はほとんど見えなくて扉の向こうの異常なほどの暗闇の中に沈んでいた。
着物姿の少女のように見えた。
「……いや、そのサイズ感的にそもそもできなかったんじゃないの?」
バタン!
僕の声が聞こえたのかどうか、最後に扉は大きな音を立てて閉まった。
「ふう……さて」
なにはともあれ脱出できた。
なら、後は……。
堂城さんにあの壺のことを聞くだけだ。