作品タイトル不明
堂城宅拝見
いまいちなにをしに来たのかわからない柚木さんwith取り巻きたち。
僕は彼女たちから少し離れるようにして、周囲を確認した。
田んぼに向かう農道はあるけれど、車も走れるような道路はこの道しかない。
道の左右で家はあるんだけど、人の気配はない。
どこかから犬の鳴き声がする。
でも、なんか変な緊張感を覚えているのは僕だけなのかな?
見えない視線でズブズブ刺されているみたいな?
やだなぁ帰りたいなぁと思うんだけど、さっきのメガネの彼の話を聞いているうちに、道の終わりが見えてきてしまった。
アスファルトで舗装された道は最奥にある一軒の家の庭に吸い込まれる形で終わっており、その横に山の中へと続く未舗装の道がある。
畑や田んぼがあるのでそれ用の農道なんだと思われる。
山の中に入れそうな道はここに来るまでにもいくつかあったけれど、彼らはどうするのか?
「祠はどこかな?」
「こっち行く?」
「行ってみようか? 柚木さん、行ける?」
「うん、私は大丈夫だよ」
柚木さんたちは祠を探すことで意見が一致しているらしい。
説明がないのでわからないのだけど、説明を求めて仲間意識を深めたいわけでもない。
この辺りが退き時かな?
でもその前にとダウジングアイを着けて確認。
……線は山の中に向かっている。
マジか。
まさか、この山の中に姉の遺体が本当に?
え? じゃあ付いていく?
でもなぁ。
「ああ、ごめん」
少し悩んだけど意思は変わらず、山に向かう柚木さんズに僕は声をかけた。
「悪いけど、僕はここまでだよ」
「え? 尾羽くん?」
だから柚木さん。
どうして「嘘でしょ?」みたいな顔ができるのかな?
「僕は他の探し物があってここに来ただけだから、そっちにはたぶんないだろうし、山にまで入る気はなかったから、ここで帰るよ」
いやほんと。
ここがタチキってやばい場所だったとしたら、こんな日中に堂々と中に入るって、どんだけ危機感がないのだろうと思うんだけど?
柚木さんズは、そこのところ、どう考えているんだろうか?
「なんだよ、ビビったのか?」
「厳里が気になるだけだし」みたいなことを言った一人が煽ってくる。
いやほんと、千館高校って県内でも二番目くらいの進学校のはずなんだけど、なんでこんなのが入学できたの?
勉強に常識は必要ないから?
「それでもいいけど」
知らない奴らに臆病者だと思われたからなんだって話なので、気にしない。
「僕には柚木さんに擦り寄りたい理由がないし、おかげ様で厳里には恨みしかないし。君らがやることに巻き込まれるのはごめんだから」
そこまではっきり言うと、男子連中は絶句した感じで黙った。
柚木さんはまだなにか言いたそうだったけれど、男子三人が完全に僕を突き放したので、なにも言えなかったようだ。
彼らが山の奥へ向かうのを少しだけ見送り、僕は道を下っていく。
できれば走って逃げたいんだけど、それはそれで怪しいよねぇ。
ここになにかがありそうなのはわかったんだから、今度はちゃんと準備して改めて探索に来よう。
今度は一人で、誰にも見つからないように。
そう思っていたのに。
「やあ、また会ったね」
道を下っていると、中年たちが道を塞いでいた。
その中の一人は、厳里の車の運転席に入ってきたあのおじさんだった。
「あ、どうも」
「こんなところになんのご用かな?」
「ああっと……探し物をしていて自転車を走らせていたら、知り合いに捕まっちゃって……」
「あの四人だね。困った子たちだねぇ」
「はは、そうですね」
「それで、君の探し物って?」
「それは……」
「彼は尾羽亮哉」
背後からの声に振り返ると、そこに堂城さんがいた。
「尾羽莉菜さんの弟よ」
「それはそれは」
私服の堂城さんはやっぱりお嬢様っぽいなと、どうでもいいことを考えて現実逃避をしていると、彼女がまさかの爆弾発言をした。
姉のことを知っていると認めた。
「それは悪いけれど、そう簡単に帰すことはできないかもしれないねぇ」
堂城さんを見ている間に近付かれ、おじさんに腕を掴まれた。
抗うことはできたかもしれない。
だけどそうする前にたしかめたいことができてしまったので、僕は引っ張られる力に従うことにした。
山の間にあるような道なのでというか、左右にある家には段差があり、左側が高い位置にあって、右側が低くなっている。
あ、左右は道を上る時の基準です。
堂城さんの家は高い位置の方にあった。
本道を上りきる途中にある脇道に入り、それを一番奥まで行くと、他の建物に隠れるように立派なお屋敷があった。
脇道に入ってすぐのところに大きな車庫があり、そこにいつも堂城さんを送迎している高級車が駐車されていた。
お屋敷に入る前に門があり、そこに堂城の表札がある。
「堂城さんは本当にお嬢様なんだね」
「私の家じゃないわ」
「え?」
「私、本当は分家の娘なの。でも選ばれたからここに住むことになったのよ」
「お嬢さんは大事な方ですので」
僕の腕を掴んだままのおじさんが、笑顔のままで何度も頷いている。
「ここに住んでいるのは、私とこの立花だけよ」
堂城さんがちらりと見たのは僕の腕を掴むおじさん。
つまりこの人が立花さんか。
内部は僕みたいな庶民がイメージする田舎の古い屋敷という雰囲気だった。
広い玄関には一枚板の衝立があって、中を覗けないようになっている。
玄関を上がってすぐのところの部屋に入れられたのだけど、そこが応接間のような作りになっていた。
ソファなんかがあって、ここは洋風の家具なんかが揃えられていた。
ごちゃごちゃといろんなものがあって、広い部屋なのに狭く感じるぐらいだ。
ソファに座らされると、堂城さんが向かい側に座る。
立花さんがお茶を淹れて持ってきてくれた。
木製の菓子鉢も置かれて、中にはいろんなお菓子が入っていた。
「あの子の弟なら、粗相はできないね」
なんてことを立花さんが言う。
作り笑顔が少し優しく感じられた。
「あの……姉のことを知ってるんですか?」
「少しね」
「姉は行方不明になっているのですけど、なにか知っていますか?」
「ああ……それは……」
作り笑顔が固まってしまった。
「立花、ここはいいから」
「はい」
ほっとした様子で立花さんは部屋から去っていった。
「堂城さん?」
「あの言い方ではわかってもらえなかったみたいね。あんな連中を連れてきて」
「いや、あいつらとは別でここに来たから。偶然同じになっただけで」
その点だけはちゃんと言っておきたい。
「一緒にしないで欲しい」
「そうよね。でも、すぐにいろんな人と仲良くできるんじゃないかと思えるわ。なにしろ莉菜さんの弟なんだから」
「……はい?」
疑わしげな目でそんなことを言われたのだけど、その内容には疑問しかない。
「姉がいろんな人と仲良くできる?」
「ええ」
「……ごめん、本当にそれはうちの姉? 尾羽莉菜違いだったりする?」
陰キャ雰囲気な姉がどこで誰と仲良しになっているって?
「それなら、どうして私と莉菜さんが知り合いだと思ったの?」
「それは……」
異世界転生した姉が堂城さんのことを知っていたから……なんてことは言えるわけもなく。
「莉菜さんからなにかを聞いていたわけではないみたいね」
僕が答えられないでいると、堂城さんはそう言ってからお茶を飲んだ。
なんとなく僕もそれに従う。
お茶は熱かった。
「姉を探しているんだけど、なにか知らない?」
「知らないわ」
「どうやって姉と知り合ったのか聞いてもいい?」
「答えたくない」
「ええと……」
「いまなら帰してあげられるから、大人しく……」
堂城さんが言いかけたところで玄関が開けられた。
「お嬢、大変だ!」
「どうしました?」
玄関から響いた声に、別の部屋で待機していたらしい立花さんが応える。
「あいつら、祠壊しやがった!」
目の前で堂城さんの顔色が変わった。
僕はその言葉を聞いて、頭を抱えた。
どうしてそういう行動になるわけ?