軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93.伯爵領に行きます(第四話)

ストウ森の魔物討伐前日になり、リデラインたちは魔動列車を利用し、祖父母が暮らしている伯爵領に到着した。駅前には普段祖父母の移動に使われている伯爵家の馬車が待機しており、その馬車で領主邸に向かった。

「いらっしゃい……ではなくて、お帰りなさいと言うべきかしら」

邸では使用人たちに出迎えられ、談話室で祖父母と挨拶を交わした。祖母パトリシアは上品な笑顔で息子家族を歓迎する。祖父は相変わらず無表情だったけれど、雰囲気はそれほど厳しくない。

伯爵家は本来、当主であるデイヴィッドの家だ。結婚してフロスト公爵家を出てから公爵位を継ぐ前まで、デイヴィッドとヘンリエッタはこちらで暮らしていたらしい。ジャレッドが生まれたのはデイヴィッドが公爵になってからだったので、ジャレッドはこの邸で暮らしたことはないとか。

「ジャレッドは試験に合格したそうね。おめでとう。これからも精進してね」

「ありがとうございます、頑張ります」

「ローレンスは十七歳になったのね、おめでたいけれど、時が経つのは早いわ」

「ありがとうございます、お祖母様」

「リデライン、元気そうでよかったわ。討伐のお手伝いをすると聞いたけれど、無理はしないようにね」

「はい」

柔らかい空気感のパトリシアは、孫一人一人としっかり会話をすることが心の底から楽しそうだった。

そんなパトリシアにデイヴィッドが確認の言葉をかける。

「ヒューバートたちは何時頃に来ると?」

「あの子たちもそろそろ到着予定よ」

ヒューバートとオスニエルも今日この邸に来ることになっている。伯爵家に一泊し、明日の早朝から拠点へと向かうのだ。

祖父母は討伐には参加しない。引退した身であるのと、パトリシアの体調を考慮してだ。ここはおそらく小説どおりだろう。

「拠点のほうの報告書は」

「いつもどおり、騎士団の者たちがベースの準備を進めている」

祖父オーガスタスが、報告書をデイヴィッドに渡した。

リデラインたちは明日、拠点の設営の仕上げや最終確認に加わるけれど、すでに拠点の設営は始まっている。この伯爵領の治安維持、そしてストウ森の管理を主に担っているスクリヴン騎士団が主体となって動いているのだ。フロスト騎士団の騎士もすでに派遣されている。

ストウ森は三つの領地の境界にあるため、拠点の中心となる調査員のための建物はそれぞれの領地に建てられている。けれど、討伐の際の拠点は伯爵領側に設営することが大半だ。今回も例に漏れずなので、スクリヴン騎士団が主導しているのである。

両親とオーガスタス、ローレンスが拠点の報告書に目を通して何かを話しているので、リデラインは祖母の元に移動した。

「お祖母さま」

「あら。何かしら」

「例の植物はどうですか?」

「あれね。順調に育っているわ」

ベティのおかげで見つけた、ほとんどの魔物の毒に効果があると思われる新種の植物。リデラインはすぐにそれを伯爵領でも育てたほうがいいと、祖父母に手紙を出して勧めた。魔物の毒の脅威は祖父母もよく理解しており、早急にその植物を育てる環境を整え、植物の苗も手に入れてくれたのだ。新種の植物をこんなにも早く入手できたのは、フロストの人脈と権力によるものだろう。

「この領地は植物がよく成長するから、最初に育てたものはそろそろ使えそうね」

フロスト家門の領地は国の西部から北西部に集中している。国内では低い気温の地域なので、気候的には植物が育ちにくいはずの土地だ。しかし、この伯爵領や隣の領地など、西部の土地はなぜか植物や農作物がよく育つという。

その土地柄のおかげか新種の植物も無事に成長しているということで、リデラインは安堵の息を吐いた。

「よかったです」

「討伐があるから心配なのかしら」

「はい」

「解毒薬はあるけれど、一部は効くのに時間がかかるものね。それに、未知の毒が出てくる可能性もあるから、あの植物はとても有用だわ」

今ある解毒薬の底上げより後半がリデラインの本命だけれど、あの植物は様々な魔物の毒に使えるということで、あればあるだけ助かるだろう。

「ただ、元々の数はそれほど多くないみたいね」

「そうなのですか?」

「他の領地ではなかなか育たないんですって。発見された森にもそれほど群生していなかったそうよ」

新種というだけあり、簡単に扱えるわけではないようだ。これからの研究次第ではあるだろうけれど、大量に流通させるのは難しいのかもしれない。

「王家所有の温室でも育てようとしているらしいけれど、上手くいっていないみたいね。発見されたばかりだから、これからに期待かしら」

王家の情報はヒューバートあたりから聞いたのだろうか。

「フロストだけが安定した供給が可能となると面倒なことになりそうよね。そこが少し心配だわ」

パトリシアが困ったように零す。

確かに、ただでさえ異質なフロストへの不満がますます大きくなりそうな懸念はある。しかし、それに怯むことなく退けるだけの力を持っているのがフロストなのだ。

「大丈夫だと思いますよ」

確信に近い声音のリデラインにパトリシアは瞬きをしたあと、「そうね」と微笑む。その直後、窓の外を眺めていたジャレッドがリデラインの隣に来た。

「エルたちが来た」

門から入ってくる馬車が見えたようだ。パトリシアがふわりとした笑顔で提案する。

「出迎えに行ってあげたらどうかしら。オスニエルはあなたたちのことが大好きだもの。行かないと拗ねてしまいそうだわ」

リデラインに関しては大好きから大嫌いになっていたし、今は嫌いだとはっきり言われたのだけれど、パトリシアの中では以前のままで情報が更新されていないらしいことが発覚した。

「行くぞ」

「はぁい」

ジャレッドは快く出迎えるつもり満々で、扉に向かっていく。リデラインも後に続いた。

「遅いよ。もっと早く来てくれないと」

「なんでだよ」

リデラインとジャレッドが外に出ると、ちょうど馬車から降りたオスニエルがなぜか呆れ気味に文句を言ってきたので、ジャレッドが冷たく返すのだった。