軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67.予想外の出会いです(第十話)

翌日はローレンスを筆頭に邸の者たちの過保護が発揮され、リデラインはほとんど部屋で過ごすことになった。せっかく王都にいるのだから、自分のことは気にせずまた街を歩いてきたらどうかとジャレッドに提案したのだけれど、即座に却下されてしまった。「お前は俺を体調不良の妹を放って自分だけ遊びまわるような奴だと思ってんのか?」と怒られてしまったので謝った。

ちなみに、朝にはローレンスが「学園なんか行かないで看病する」とリデラインから離れようとしなかったのだけれど、ポールに連行され、馬車に押し込まれて強制登校になったらしい。学園が終わって帰宅したローレンスはすぐにリデラインの様子を見にきて全然離れなかった。

そしてまた翌日。

リデラインとジャレッドが領地に帰る日になり、使用人たちが馬車に荷物を載せたりと忙しない時間が流れている。

ローレンスの登校の時間とリデラインたちが駅に向かう時間が被っているので、同じ馬車で一緒に出て学園でローレンスを降ろし、リデラインたちはそのまま駅に向かう予定だ。

「まだこっちで休めばいいのに」

邸の前でローレンスがリデラインと目線を合わせ、リデラインの頬を撫でながら切実な様子でそう言う。相変わらずキラキラを飛ばしている兄にリデラインの心臓が射抜かれるけれど、努めて平静を装った。

「チケットもう買ってるんですから」

「お金より体調だよ」

「もう元気ですよ」

昨日一日、ベティの監視のもと安静にしていたので、体調はもう万全である。それなのにローレンスはまだまだ心配らしい。当然それだけではなく、リデラインとジャレッドに帰ってほしくないとも思ってくれているのだろう。

ジャレッドからは「いつまでやってんだよ」と言いたげな眼差しが送られているけれど、ローレンスは気にしていないようだった。

「せめてあと一日……」

「――さっすがシスコン。やってんねぇ」

突然入ってきた声にくるりと振り返ると、制服を着ているネイサンが「よお」と笑顔でこちらに歩いてきていた。ローレンスが遠慮なく嫌そうな顔をする。

「なんでいるんだ」

「弟くんたち今日帰るって聞いたから、見送り」

「門番はなんで通すかな」

「実はお土産あるんだよっつったら通してくれた」

「お土産?」

そこに真っ先に反応したのはリデラインだった。

ネイサンはニヤリと口角を上げてリデラインの横にしゃがむと、ジャケットのポケットの中から「ほれ」とカメラを取り出す。

「こちら、学園で過ごしているラリーの写真が入っているお品物でございます、お嬢様」

「!!」

「なんだって?」

リデラインは目を輝かせてカメラに釘づけである。しかし、ローレンスは怪訝そうに眉を寄せた。

「いやあ、ちょっと意地悪しちゃったからお詫びも兼ねて」

「謝罪はすでにいただいておりますがぜひそちらも受け取らせていただきますわ。ありがとうございます」

「はは。やっぱこれで正解だったなぁ」

食いついているリデラインの手にカメラが置かれる。

「学園の行事の時とかの写真一年分だから色々あるよ」

「なんでそれを君が持ってるんだ」

「妹ちゃんのために生徒会の女の子にお願いして譲ってもらいました」

要するに、自分の顔を利用して手に入れたのだろう。女生徒相手であれば彼の顔立ちは非常に強力な武器だ。

「行事の記録のためってのを言い訳に俺もお前も結構隠し撮りされてんの。それを回収してあげたんだから褒めてくれてもいいんだけどなぁ?」

ニヤニヤしているネイサンをローレンスが睨みつけているので、リデラインはカメラをじっと見つめて、それからローレンスを見上げる。

「お兄さま、これ処分しますか?」

盗撮なのであれば、ローレンスもいい気はしないはずだ。ローレンスが不快だというのなら諦めようと思って訊ねたけれど、ローレンスはリデラインの頭を優しく撫でる。

「リデルがほしいなら構わないよ」

その返答にぱっと表情を輝かせて、リデラインは笑った。

「弟くんはこれな」

ネイサンはジャレッドにも何かを渡す。

「……なんですか?」

「 辺境伯領(うち) でとれる魔石。水属性と相性がいいやつだから、武器とかに加工して使うのがおすすめだなぁ」

「ありがとうございます」

ジャレッドは興味深そうに魔石を眺めている。

魔石鉱山があるフロスト公爵領でも魔石は手に入るけれど、辺境伯領でとれたものとなると、魔物から回収した魔石かもしれない。

「皆様、そろそろお時間です」

ポールに声をかけられて、四人は同じ馬車に乗り込んだ。モーガンとベティは別の馬車になったので、ネイサンのせいでリデラインと離れることになったベティは不満そうだった。

馬車の中でリデラインはカメラを見つめながら、魔動列車での移動は退屈しなさそうだとわくわくしていた。しかし、学園の前についていざローレンスと別れてしまうと、またしばらく会えないという現実を改めて突きつけられてそのつらさに心を沈ませ、魔動列車の中ではジャレッドにずっとくっついていた。

◇◇◇

――昼前。王宮の執務室では、国王が騎士団長から報告を受けていた。

「例の組織か」

「はい。拠点には争った形跡がありましたが、組織の人間などはおらずもぬけの殻でした」

片手に持った報告書を眺めながら、国王は空いているほうの手で顎を撫でる。

騎士団はこのところ、ある犯罪組織のしっぽをなかなか掴めずに頭を悩ませていた。その組織の拠点にようやく踏み込むと、組織の人間が一人残らず消えてしまっていたという。

「活動拠点を移動したのか、現在調査中です」

「……いや、その必要はない」

国王は報告書を机に置く。

「おそらくフロストが関わっている」

「フロスト公爵家ですか?」

騎士団長の問いに、国王は頷いて見せた。

「フロスト家の次男が王都に来ているというから招待状を送ったのだが、案の定、断りの手紙が届いてな。その手紙に遠回しではあるが、今回の件に触れるような内容も記されていた」

「組織の、ということでしょうか」

「ああ。簡単に言えば、『手出しはするな』ということだな」

騎士団が目をつけていた組織だと理解しておきながら、フロストの次期当主ローレンスはそのような要望を出してきていたのだ。

「妹も王都にいるらしいな。余の推測だが、組織があれの弟妹でも標的にしたのだろう。それであれが手を下したのではないかと考えている」

「ローレンス殿ですか」

「ああ。邪魔をしてみろ、どんな報復があるか。あれの不興は買いたくない」

実父の記録を塗りかえて史上最年少で一級魔法使い試験に合格した天才、ローレンス・フロスト。それも第二次試験――実技の最初の試験で他の参加者を蹴散らすという前代未聞の結果をもたらした、規格外の才能を持つ魔法使いだ。彼を敵に回すことほど恐ろしいこともそうはない。

「妹君もいらっしゃるというのは、王太子殿下と護衛からの報告でしたね」

「ああ。体調を崩したようだったという話だが……魔力暴走の噂は事実かもしれんな」

フロスト家は魔法に関することならともかく、個人の情報を外部に積極的に流すことはあまりしない。養子であり末子のリデラインの魔力が多いというのも、実親がいたるところで話したために広まったことだ。フロストが関与していることではないので、魔力暴走を起こしたことが事実だとして、それをあえて周知させるつもりはないのだろう。

「殿下の婚約者候補としては見直しでしょうか」

「こちらが勝手に考えていることだからな。どちらにしろフロストから断られるに決まっている」

リデライン本人が望みでもしない限り、王太子と彼女の婚約は成立しないと思われる。

「しかし、莫大な魔力を失ったというのが事実であれば大きな損失だな。ローレンスほどの人材かと期待していたのだが……」

「学園に入学する頃になればはっきりすることです」

「そうだな。王太子妃は未来の王妃。王を支え、王と共に国を導く者だ。焦らずゆっくり見極めていこう」

国王は僅かに笑みを浮かべるのだった。