軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.祖父母登場です(第七話)

翌日、リデラインがベティと図書室にいると、祖父母がやってきた。

リデラインが挨拶のためにソファーから降りようとすると、「そのままでいい」とオーガスタスに告げられる。言葉に甘えて軽く会釈をする程度にとどめた。

オーガスタスはソファーのすぐそばで立ち止まり、リデラインに横長の箱を差し出す。

「あの……」

「開けてみろ」

リデラインは恐る恐る箱を受け取り、中身を確認するために開けた。

(眼鏡……)

入っていたのは眼鏡だった。リデラインは視力が悪いわけではないので、これを渡された意図が読めずに困惑する。

しかし、よく見ると度が入っていないことに気づいた。ますます疑問が浮かぶ。

「目の色が他の色に変わって見える眼鏡だ」

オーガスタスの説明に、リデラインは少し目を見開く。ただの眼鏡ではなく魔道具だったらしい。

「銀は目立つ。王都を出歩く時にでも使え」

「……ありがとう、ございます」

お礼を告げると、今度はパトリシアからは別のものを渡された。手のひらサイズのガラス瓶で、中にはドライフラワーなどが入っている。

「安眠効果のあるポプリよ。あまり眠れていないと聞いたから」

「……ありがとうございます」

リデラインのお礼に、パトリシアは柔らかい笑みを見せた。

二人のプレゼントはリデラインを想ってのものだ。リデラインのためになるものを考えて用意したのだろう。

この人たちは少しずつ、距離を縮めようとしている。そう感じられた。

◇◇◇

厨房で新しいりんごジュースをもらったベティは、リデラインが待つ図書室に向かっていた。その途中で呼び止められ、後ろを振り返る。

パトリシアの侍女グウィネスの姿に、ベティはほんの僅かに目を細めた。

「何かご用でしょうか、グウィネス様」

「少し聞きたいことがあって」

ベティがローレンスたちに拾われてこの邸に来た頃、彼女はすでに伯爵領の邸に移っていた。そのため、ベティは彼女と顔を合わせた回数は多くない。まともに会話をしたこともあまりないくらいの関係性である。

「ジャレッド様が四級の魔法使い試験を受けるんですってね。お嬢様もご同行なさるとか」

「はい。私もお嬢様に付き添うことになっております」

「魔法の……モーガン先生だったかしら。彼も同行するのよね?」

「その予定で調整しているそうです。試験の三日前に魔動列車で王都に行き、あちらで最後の追い込みをするそうなので」

確認作業だとはっきり理解したので、ベティは迷うことなく情報を提供していった。

「何か気になることでもございますか?」

「そうね。とうとうジャレッド様も試験に挑戦することになったのはいいことだけど、心配でもあるわ。本当に受かるのかしら」

「それほどの実力があると判断されましたのでご安心ください」

「そう……よかったわ」

一瞬、グウィネスの目が仄暗さを帯びたけれど、すぐに愛想の良い笑みに戻る。

「悪いわね、引き止めて」

「いえ。失礼いたします」

ベティは頭を下げて、図書室へと足を動かした。

◇◇◇

祖父母が伯爵領に帰る日の前日、ジャレッドの訓練を終えたモーガンは訓練場から去ろうとしたところで、屋敷へと続く道に人が立ちはだかっていることに気づいて歩みを止める。

話したことはない相手だ。

「グウィネスさん、でしたね。私に何か――」

「ヨランダ様がお怒りよ。この意味がわかるわね?」

モーガンはぴくりと肩を揺らす。

彼女の一言だけで、モーガンの体に緊張が走った。

「ジャレッド様が試験を受けるのは早くても十二歳の予定だったのに」

「……ローレンス様が直々にジャレッド様の指導をなさって違和感を持たれたのです。どうしようもありませんでした。私だってクビになりかけたのですよ」

「言い訳は結構よ」

ぴしゃりと言い放って、グウィネスは続ける。

「王都には貴方も同行するのでしょう。王都の駅に到着したら、隙を見てあの二人と侍女や護衛を引き離してちょうだい。それだけでいいわ」

引き離して、何をするのか。それを聞いてもまともに教えてはくれないのだろう。

「なぜお二人をそれほどまで目の敵にするのですか」

「あの二人はフロストに相応しくないから。それだけよ」

グウィネスはそう冷たく断言した。

「後継者はローレンス様ですし、お二人はご結婚などでそのうち本家を出るはずです。それなのに……」

「没落寸前の家の者と出来損ないがフロストの名を持っていること自体が罪なの」

「ジャレッド様は氷の適性をお持ちです」

「今更覚醒したところで使いこなせるわけないわ。ローレンス様には遠く及ばない。――それでも、家門の中にはジャレッド様を次期当主に推す者も少なからずいる。祭り上げられることのないよう、今のうちに芽をつんでおくのよ」

何を言っても彼女の――彼女たちは揺らがないようだ。グウィネスはヨランダの思想を植え付けられているように見える。

「安心して。ヨランダ様は二人を殺すつもりはないから。ただ少し痛い目を見てもらうだけ」

「……」

迷いが見えるモーガンの反応が思うようなものではなかったからか、グウィネスは鋭い目つきでモーガンを見据える。

「薬草が手に入らなくていいの? ご家族が大切なら黙って従いなさい」

そう言い残してグウィネスは去っていった。モーガンは薄く息を吐く。

「――ばっちり撮れました」

物陰から、騎士二人と侍女が現れた。フロスト騎士団副団長のデリックと団員のケヴィン、そしてベティだ。ケヴィンの手にはカメラがある。

「予想どおり、モーガン先生に接触してきたな。狙いもローレンス様の推測が的中だ」

先々代公爵夫妻と主治医、そしてグウィネスが邸に来てから、ケヴィンはグウィネスを監視する任務にあたっていた。

グウィネスは明日、伯爵領に帰る。なので今日のうちにモーガンに接触すると踏んで、ベティとデリックも合流したのだ。

「しかし、本当にジャレッド様まで目の敵にしてるんだな。氷属性使えるようになったし、魔力も増えたのに。お嬢様がきっかけって知ってるなら、そんな理由で情けないとかいちゃもんつけるのもなんとなく想像できるけど……」

リデラインの魔法の影響でジャレッドの魔力が増え氷属性の適性まで得たというのは、おそらく事実ではあるけれど、あくまでヘクターの推測である。前例がないうえにヘクターはリデラインが魔法を使用した場面を見ていないので、確実だと証明することができない。

よって、このことは秘匿されることになった。ジャレッドは偶然魔力が成長して氷属性が覚醒したことに、リデラインは魔力暴走で魔力が減ったことになっている。

公爵家の中でも真実を知るのは一部の者だけだ。騎士団の上層部やその場にいたケヴィン、ベティは当然知らされている。リデラインとジャレッドの魔法の指導を続けているモーガンも然りだ。

「適性を持って生まれなかった時点で汚点として確定しているのでしょうね。もしくは、ジャレッド様が大旦那様に似ていらっしゃらないからでは?」

「ああ……」

ベティの推測を聞いたケヴィンは納得したように声を零す。

母親似のジャレッドはオーガスタスに似ていない。そこでも線引きしているとなると、彼女はどうあってもジャレッドを認めないのだろう。

「それにしても驚きだよな。あのローレンス様が、ジャレッド様たちを囮にするような作戦を許すなんて」

ヨランダたちがリデラインとジャレッドを狙うなら王都に到着する時だろうと予想したローレンスは、ヨランダと協力者たちを捕らえるのをそのタイミングにして作戦を立てたのだ。

もちろん、二人に危害を加えようとする直前まで様子見をするようなものではなく、確実に安全を確保できるような作戦ではある。

「それほど私たちを信頼なさっているということだ」

ケヴィンの疑問に答えたのはデリックだった。

信頼とは随分甘い言い方だ、とケヴィンは思った。この程度の役目がこなせないようならフロストの騎士失格だと通告されているだけではないだろうか。

多少しくじるくらいで作戦が成功に終わるなら特段の問題はないだろう。ただもし、万が一にでもリデラインとジャレッドにかすり傷一つでもつこうものなら。

(はは、殺されそう)

まったくもって笑い事ではない。

「当日は、くれぐれもジャレッド様たちには勘づかれないように。モーガン殿も」

「はい」

デリックに念押しされてモーガンが頷くけれど、ケヴィンは「いやいや」と微妙な顔をする。

「お嬢様ってどうも魔力とかに敏感じゃないですか。気づかれません?」

そう考えるのももっともである。

リデラインは訓練を重ねるごとに更に魔力や魔法の反応に敏感になっている。意識的に探知しようとしているわけでもないのに感知してしまうのだ。

「それについてはローレンス様が対策を進めていらっしゃるということですから、問題ないと思います」

「そりゃ安心だ」

ベティの言葉にケヴィンは肩をすくめた。