軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過ぎ去りし日々

エルトブールから北に半日ほど歩いた小さな農村。その外れにある寂れた墓地に、見慣れぬ黒髪の男が訪れていた。

男は立ち並ぶ墓の中を歩くと、ややみすぼらしい墓石の前で立ち止まる。そして彼は、その墓石周りの枯葉をまとめ、掃除していく。次に墓前に華を供え、墓石に水をかけると、目を閉じて合掌する。

しばらくそうした後に、彼は墓石に向かって顔を上げると、話しかけるように口を開く。

「ただ今戻りました。ほぼ四年ぶりとなってしまい、申し訳ありません。そして、またこの地を離れないといけなくなってしまったことを、お許し下さい」

彼はそこで、一度口を閉じると、再び目を閉じる。その瞼の裏に溢れ出る光景は、彼以外の誰にも窺い知ることはできない。

ただ、その僅かな間で、彼が悲しいような、思わず笑い出しそうな、なんとも言えない表情を浮かべたことは、在りしの日の光景が、そこに映しだされていることを物語っていた。

どれほど目をつぶっていただろうか。彼は、三度頭を左右に振り、曖昧な苦笑いを浮かべた後、表情を引き締める。

「さて、そろそろ時間です。またこの旅路が無事終われば、必ずここに参りますので」

彼はそう呟くと、墓を後にして、ゆっくりと歩き始める。

そしてまだ冬の残滓が残る、春の木漏れ日の中、空にむかって呟いた。

「昔、母さんがクラリスに向かった時、こんな気持ちだったのかな」

彼はその言葉を空に吐き出すと、一度だけ後ろを振り返る。

そしてスッと頭を下げると、再び前を向き、緑広がる春の草原に向かって歩み出した。