軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

錯視と策士

確信を持った剣撃。

結果としてそれは、エミオルの肩口から深い傷口が生み出される……はずであった。

参戦しないと宣言していた彼女の邪魔がなければ。

「……まったく情けないものだ。この私が無関係なものを救うために剣を振るうとは」

「咲夜!?」

自らを救い、そしてリュートの剣を受け止めた存在。

それに気づいた瞬間、エミオルは驚愕と共に剣の巫女の名を口にする。

「なるほど、あいつの母親の後継者か。面倒な」

「この私を一緒にするんじゃない!」

怒りとともに咲夜はリュートの剣を弾き飛ばす。そしてそのまま彼の腹を蹴り飛ばした。

「グフッ……くそ、足癖が悪いのも東方らしいやりくちか」

後方へと蹴り飛ばされたリュートは受け身を取るなり、明らかに誰かに似た戦い方を前にして舌打ちする。

一方、救われたはずのエミオルは戸惑いを隠せぬまま、目の前の黒髪の少女へ問いかけた。

「ど、どういうつもりですか」

「別に貴様が死ぬのは構わない。だがこれで二対一となれば、あいつが最後まで姿を現さぬ可能性がある。それでは、何のためにこんな西の果てまで来たのかわからない」

苛立ちを隠すことなく、咲夜ははっきりとそう言ってのける。

すると、そんな彼女の言葉を耳にしたリュートは、軽くその発言を鼻で笑った。

「ふん、あいつを求めてここまで来るとは物好き極まるものだ」

「物好き……か。物は言いようだな。だがいずれにせよ真実は一つ。お前はここで死ぬ。この私に殺されてな」

その言葉が発せられた瞬間、咲夜は一足飛びにリュートの眼前に飛び込み、そのまま剣撃を放つ。

それはあまりに早く、そしてあまりに靭やか。

まさに電光石火とも言うべきその一撃は、普通の兵士ならば完全に一太刀のもとに戦いを決めていたであろう。

しかし彼女が対峙した人物はそんな彼女の剣撃をギリギリのところで受け止めてみせた。

「疾い……な」

「馬鹿な、なぜ反応ができる!?」

咲夜の戸惑い。

それはまさにまっとう極まりないものであった。

先程から戦いを観察していた彼女にとって、目の前の男は魔法士として一流と評していた。だが同時に、剣士としては一流とは呼べぬ存在であり、甘く見積もっても二流に過ぎないと判断していたのだ。

しかしそんな二流が彼女の剣を受ける。

それはまさに彼女にとって理解できない事実であり、同時に無意識に続けてはなった二撃目まで剣を受けられた時、戦闘中にもかかわらず思わず彼女は頭を振った。

「そんな、どういうことなの。なぜ魔法士が私の剣を受けられるのよ」

「決まっている。君に近いレベルの剣と接してきたからだ。もちろん長くは続かんがね」

直ぐ側でゼスと打ち合い続ける赤髪の親友。

その戦いをちらりとのぞき見ながら、リュートははっきりとそう言い放つ。

それに対し咲夜は、僅かに顔を歪ませると共に、手にした真打ち……星切を握り直した。

「……吐き気がするわ。あんな気持ちの悪い剣士とこの私を比較されるとは。でも、許すことにしよう。貴方のその首をもって」

「気持ちはわからなくもないが、残念ながらそれは不可能だ。確かにこのまま君と切り合えば、俺は敗北する。しかしそんなことはありえない。何しろ私は魔法士なのでね」

その言葉を口にした瞬間、リュートは片手を前へと突き出す。

「喰らえ、トルネード!」

彼が扱うは最も得意とする風魔法。

その中でも最高位に位置する超大規模魔法を、リュートは迷うことなく解き放った。

次の瞬間、彼の眼前には唸りを上げる巨大な竜巻が現出する。

「な、なんだと!」

突然出現した激しい風の暴威。

それを前に咲夜は思わず呆けたように口を開く。

一瞬で視界は風の渦によって閉ざされ、大地をえぐるかのような暴風が彼女の身に直撃する。

だがしかしその瞬間、そんな彼女を守るように、背後から飛び込んできた存在があった。

「伏せていろ、咲夜!」

剣の巫女を突き飛ばし、そして巨大なる風の渦と対峙する一人の青年。

彼は周囲を一瞬で包み込んだ風の暴威にその身を切り裂かれながら、もはやまともに機能しない視界の中で、必死に竜巻の本質である魔法としての全てを見通し、同時に一つの呪文を唱える。

「Magiccode access……hack!」

その呪文を唱えると同時に、周囲一帯を一瞬で包み込んだ竜巻は、まるでその存在が嘘であったかのように消え失せる。

そして残されたものは荒れ果てた大地と、不幸にも竜巻に巻き込まれた兵士たち、そして何より肩で息をする疲れ切った魔法士の姿であった。

「賭けは貴方の負けです。偉大なる……そう、偉大なる魔法士。彼のような異常個体でもなく、そして忌まわしいあの調停者でもなく、ただの人間が本当によく我々に立ち向かったものです。ええ、貴方は尊敬に値します。だがここまでです」

明らかに極大魔法を使った影響から、疲労の極みにあるリュートに向かいエミオルはそう告げる。そしてその首を刎ねる為に彼が一歩前へと足を踏み出したところで、思いがけぬ笑い声が周囲に響いた。

「はぁ、はぁ、はぁ……はは、はっはっは、はっははっははは」

「どうしました。自らの死を前に気でも狂れましたか?」

「いや、そうではないさ。こうまで魔法がうまくいくとは思っていなかったものでな。あえて言うなら、自らの役割をなした歓喜からの笑いだ」

頭を振りながら、リュートは彼らしからぬ笑い声を再び上げる。

それは明らかに異質。

そして明らかに異常。

だからこそ、エミオルは僅かな不安と不吉を感じ、慌てて声を上げる。

「上手くいっただと? 一体、何を――」

「先程の魔法はお前たちに向かって放ったものではない……あれを見て見るんだな」

言葉とともにリュートが指さした先。

そこには赤髪の男と真正面から対峙していたはずの少年が、背後から刀で貫かれ崩れ落ちていく姿が存在した。

そして帝国軍の服装に身を包んだ黒髪の男は、少年を突き刺した刀の血を軽く払う。

その光景を目にしたエミオルは、そして地面に倒れ込んでいた黒髪の少女は全てを悟る。

先程の魔法は……あの強大な魔法はただの目くらましに過ぎなかったということを。

そして全てはたった今、彼らの瞳に映る人物によって企まれた策であったということを。

だからこそ彼らは思わずその人物の名を叫ぶ。

「「ユイ・イスターツ!」」