軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

墓参り

ホスヘル公国首都ポドゴリカの北に存在する小高い丘。

そこには大規模な墓地が存在していた。

「護衛もなしによく来れたものね」

墓地の一角にあるフォーサイスと書かれた小さな墓石の前、そこで黙祷を捧げ終わった黒髪の男に向かい、背後から女性の声が掛けられる。

すると黒髪の青年は、軽く頭を掻きながらゆっくりと後ろを振り返った。

「彼等でもなければ、護衛がいるといざという時に逆に身動きが取れなくなるからね。この状況下では単独行動もやむないところさ」

「そう……ね。で、墓参りは終わったの?」

「ああ。と言っても、私自身フォーサイス家に来たことは一度しか無いのでね。形だけに近いものだけどさ」

ユイは苦笑を浮かべながら、それだけ告げると小さく頭を振る。

「でも律儀に足は運ぶわけね」

「数少ないまっとうな身内だったからね。我が祖父たちは」

それはまさにユイの本心からの言葉だった。

一方、そんな彼に向かい、クレハは異論を唱える。

「アンフィニさんもまっとうな人だったと思うけど?」

「それは母さんと比べてじゃないかな? だいたい四賢者と呼ばれる連中は尽くどうしようもない人たちさ。父さんはその中ではまだまともだったかもしれないけどね」

「自分のことを棚に上げて、よくもまあ好き勝手なことを言いおるな」

ユイの言葉が発せられた瞬間、突然彼に向かいやや棘のある口調でその言葉は向けられる。

声が発せられた方向。

そちらへと視線を向けたユイは、そこに長い髭を生やした老人の姿を認めた。

「アズウェル先生……お越しになられていたのですか?」

「アンフィニの父親、レボリナート殿にはかなり世話になったからな」

それだけを口にすると、花を手にしたアズウェルはユイ達の側を通り過ぎ、奥に存在する墓石へと向き合う。そして花を捧げると、そのまま手を組み黙祷を捧げた。

しばしの沈黙。

その後に彼が顔を上げたタイミングで、ユイはその背に向かい声をかける。

「知りませんでしたよ。祖父と先生に接点があったとは」

「ふん、アンフィニとは仲が悪かったからな。あいつもレボリナート殿絡みのことはろくに話さんかっただけじゃろ」

「そうですね、あまり聞いた記憶はありません。幼かったこともあるでしょうが、ここに来た時もそのあたりのことは祖父からも聞けませんでした」

かつて目にした祖父のしわだらけの顔を思い起こしながら、ユイはそう告げる。

するとそんな彼に向かい、アズウェルは軽く額に手を当てながら、過去に生じた一つの出来事のことをその口にした。

「嫡子がわけの分からぬ女に連れられて、ある日突然居なくなったわけだ。お主のことを可愛がりこそすれ、過去のことにはあの人も触れたくなかったのであろうな」

「ともかく僕には……いえ、私には優しい祖父でしたよ。一度しか会うことはかないませんでしたが」

「そうか」

それだけを口にして、アズウェルは一度口を閉じる。そしてそのまま、彼は話の矛先を変えてみせた。

「それで、これからどうするつもりだ?」

「しばらくはキスレチンのオブザーバーとして動くつもりです。もっとも連中が進めている準備に即応できるようにしながらですが」

アズウェルの問いかけに対し、ユイははっきりとそう告げる。

すると、沈黙を保っていたクレハが、彼に向かいその口を開いた。

「そう……ならば今、伝えておく。枢機卿がこの街に入ったわ」

「へぇ、やはりご本人自らご出馬となったか。しかし……」

そこまで口にしたところで、ユイは考え込むかのように黙り込む。

それを横目にしながら、クレハは自らの見解を口にするとともに、更に彼に向けて一つの情報を提示した。

「私は貴方の予想通り動いていると思う。どうやらケティスも連れてきているみたいだしね」

「それは賠償の一環として、交渉材料のためかい」

「どうも違うみたいね。今回の交渉に参加する唯一の枢機卿としてみたいよ」

「唯一の……ね」

そのユイの言葉は、普段とは若干違った色味を帯びたものだった。

クレハが告げた言葉の意味。

それはあの男が姿を表舞台に現していないことを表していた。

そう、目の前の女性を傷つけた、許しがたき修正者ゼス・クリストファーが。

「何れにせよ、深入りはしなくていい。そしてもし危険ならば、その爺さんを上手く使うようにしてくれるのが良いと思う」

「むう……クレハのためならば構わんが、あまり娘に頼りすぎず、自分のことくらいは自分で尻を拭け」

「はは、そのとおりですね。ですから、彼女にはしばらく危なくない仕事をお願いするつもりです」

アズウェルの言葉を受け、ユイは苦笑混じりにそう告げる。

途端、クレハの表情は険しくなった。

「ここから私を遠ざけるつもり?」

「正解であり間違いかな。これを彼に届くよう手配して欲しい」

「……そういうこと。でも、今でかまわないのね?」

宛先として記された帝国の後継者の名前。

それを目にしたクレハは確認するようにそう問いかける。

「ああ。彼が姿を現したということは、おそらく最終局面はすぐそこさ。ならば、既にこちらに向かっているはずの彼に、状況を伝えておく必要があるからね」

「わかったわ。ただ私が居ないからと言って無茶だけはしないようにね」

それだけを告げると、クレハはすぐにその場から姿を消す。

そして、義娘の背を見送った老人は、隣に立つ黒髪の男に向かい不機嫌そうに口を開いた。

「相変わらず人使いが荒いな」

「否定しようがありませんね。でも、今のこの街に彼女をおいておきたくないのは事実ですから」

「わしは良いというのか?」

「貴方なら自分のことくらい何とかされるでしょう。ちがいますか」

「まあ、ちがいはせんな」

ユイの指摘に対し、アズウェルは不承不承ながらに頷く。

それを見て取ったユイは、一つ頷くとともにゆっくりとその口を開いた。

「何れにせよ、状況は整いつつあります。そろそろ西方最後の大掃除を始めるとしましょうか」