軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

システムを知る者

「で……お二人を追い出して、何の御用ですか?」

オリヴィアによる二人だけでの面談要求。

その結果として、不敵な微笑みを浮かべる女性とユイは一対一で部屋に取り残される形となっていた。

「ふん、あやつらがいれば、お前は口を割るつもりは無かろう? のう、エイス」

「はは、よくお見通しで」

エイスと呼ばれたユイは、もはやその名を否定することさえせず、ただ苦笑を浮かべる。そしてそのまま彼は、一つの疑問を口にした。

「で、なぜ貴方がここに?」

「第三者の立会をトルメニアが望んで来たからさ。まあ奴らが他の西方の国家を信用できんのは、やむを得ないところと思うが」

それだけ述べると、オリヴィアは右の口角を僅かに吊り上げる。

それを受けてユイは、軽く自らの頭を掻いた。

「もし必要なら、私が立会でも良いと思っていましたが……」

「ふん、あれだけ好き放題やっておいて、貴様が第三者の立ち位置になどなれるか。第一、今もキスレチンに肩入れしているわけだろ?」

「見方によってはですけど」

オリヴィアの発言に対し、ユイは両腕を左右に広げながらそう述べる。

しかしそんな彼の見解を、女王は鼻で笑ってみせた。

「見方も何もあるか。貴様の悪い癖だ、本音も真実もすぐに包み隠そうとする」

「そんなことはないですよ。私の本音は終始一貫、常に公言しています。のんびりと田舎で昼寝をして暮らしたいとね」

「ほう、田舎を失ったお主がどこで暮らすのかね」

意味ありげな笑みを浮かべながらその発言がなされた瞬間、ユイの目はわずかに細められた。

「へぇ、よくお調べになっているようで」

「私の本質を薄々貴様も感づいているのだろう? だから、カリブルヌスを我が手元から盗み去った。違うか?」

「……否定はしません。ですが、より切実な理由がありましたので」

オリヴィアの問いかけに対し、少し迷いを見せた後に、ユイはそう回答する。

途端、女王は彼のその発言に興味を示した。

「ほう、より切実な理由か」

「ええ。東方と西方、それぞれに一振りずつ委ねられた正しの剣。その一振りをお借りしておく必要がありました。来るべき時の前にね」

もはや隠す必要がないと判断したユイは、目の前の人物に向かいその最大の理由を告げる。

途端、オリヴィアの視線はユイの腰に下げられた一振りの刀へと移った。

「それは貴様の持つものが写しに過ぎないからか?」

「確かにこれは……この雪切は影打ちに過ぎません。ですが、それは問題ではないのです。システムの内側からコードを正す力は、別に剣のみに与えられたわけではありませんから」

「なるほど。その意味で貴様には不要というわけか。そしてここに無いと成れば……あの厄介な赤髪が持っているのだな?」

すべてを察してみせたオリヴィアは、確信を持ってそう問いかける。

「はてさて、どうでしょう。誰かに又貸ししたような記憶はありますが、よく覚えて――」

「とぼけるのも大概にするんだな」

ユイの誤魔化しの言葉を遮る形で、オリヴィアはピシャリとそう告げる。懐に忍ばせていたナイフを、ユイの首元に当てながら。

一方、刃物の冷たさを皮膚で感じたユイは、一切の動揺を見せることなく、先程の彼女の誤りを指摘してみせた。

「一応断っておきますと、彼以外にも安心して預けられる人はいますよ。二人ほどではありますが……ともかく、この物騒なものはしまってくれませんかね」

「それはこれに対する貴様の返事次第だな」

オリヴィアはそう口にすると、空いた手で一枚の紙を彼へと突きつける。

そこには借用料として、まさに天文学的な金額が記されていた。

「……これはちょっと盛り過ぎではないですか?」

「ほう、ではもし貴様のその雪切の真打ちが盗まれたら、あの国はこの程度で許してくれるものかね?」

その問い掛けはまさに劇的であった。

ユイは疲れたように溜め息を吐き出すと、両手を軽く上げた。

「……はぁ、やむを得ないですね。わかりました、降参です。魔石払いでいいですね?」

「結構。取引成立だ」

女王は上機嫌でそれだけを述べると、ナイフを懐に収める。

一方、思わぬ支払いを受け入れる形となったユイは、差し当たっての要望を口にした。

「ともかく、一括でなんてお支払いできませんから、分割でお願いしますよ」

「それは構わん。しかし戦争で奪えなかったものが、これで手に入るわけだ。どうやらこの私にも、誰か同様に商売人の才があるようだな」

ブリトニアに於いては商人のエイス・クローサーを自称していたユイに向かい、オリヴィアは意気揚々とそう述べてみせる。

「脅して商売を成すのは、才能とは些か異なる気がしますがね。で、これだけの額を払うのです、この度の交渉に際してはそれなりのご配慮をお願いしますよ」

「それはそれ、これはこれであろう……だが、考慮はしておいてやる」

そのオリヴィアの返答。

それを受けて、最低限の言葉を引き出したと解釈したユイは、この裏交渉の設立を受けようやくわずかばかりの笑みを取り戻した。

「はは、お手数をおかけします」

「なに、構わんさ。私自身、大陸にもこの世界のことにも興味がない、私はあくまでブリトニアの女王なのだからな」

「だからこそ、システムと喧嘩せぬために再現を試みられたわけですか」

この場にいるものが二人であったからこそ発せられたユイの問い掛け。

それを耳にしたオリヴィアは端正な口元に不敵な笑みを浮かべてみせた。

「その通りだ。ロンディニウムの位置も、現在の王政の形もかなり忠実にシステムの理想を模している」

「ならば、貴方の名前もエリザベスに模しておくべきでしたね」

ユイが口にしたその名前。

オリヴィアは興味をいだいたのか、その詳細を問いかける。

「エリザベス? ほう、それがあるべき形なのか?」

「ええ。もっともまだ世界はそこまで進んではいないようですが」

「ふむ、実に興味深いな。そのあたりに関し、貴様にはもう少し詳しく吐いてもらおうか」

「残念ながら、私も欠片を覗かれている老人から断片を聞かせて頂いているだけでしてね。そのあたりに関しては知っていることに限りがあるのですよ」

とある教授を彼女へと売りつつ、ユイは軽く肩をすくめてみせる。

すると、オリヴィアはわずかばかり残念そうな表情を見せた。

「ほう、そうか。では、他に何か知っていることはあるのか?」

「そうですね……知っていることと言えば、貴方の想い人が捕虜期間中に記していた日記の中身なんかを知っていたりはしますよ」

ユイの口から発せられたその言葉。

その言葉の持つ力は絶大であった。

「は? ……き、貴様いまなんと?」

「愛しくも理不尽なるオリヴィア女王への思いが綴られていたフランツ・ウィレンハイムの日記の中身、興味はありませんか女王様」