軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪女の呪縛から解放して差し上げました。

「なら……なら、『悪女の私と、地獄に堕ちてくれる?』」

やはりと言うべきか、リゼットは あの(・・) 言葉を告げた。

とはいえ、僕の答えは最初から決まっている。

「まさか。リゼット殿下と一緒に地獄に堕ちるなんて、まっぴらごめんです」

「っ!? ……そう、そうですわよね。私のような悪女と地獄になんて、誰が好き好んで……」

「本当ですよ。そもそもリゼット殿下は悪女などではありませんし、地獄なんかに行きたい人も、あなたを地獄に行かせたい人も、ここにはおりませんよ」

顔を伏せる彼女の言葉を 遮(さえぎ) り、僕はあっけらかんとした声でそう告げた。

「……ハロルド殿下。私の話を、ちゃんと聞いていましたの?」

「もちろんですよ。知ってます? そもそも悪女って、リゼット殿下みたいにいちいちそんなことで悩んだりしないんですよ。だって、 悪女(・・) なのですから」

「だ、だけど! 私は悪女なの! 傍若無人に振る舞って、気に入らなければ使用人達に酷いことして……それは、この国の全ての人が認めているのよ!」

リゼットは、怒りの形相で叫ぶ。

僕の言葉を全否定して、絶対に認めようとしないで。でも……そのアメジストの瞳は、涙で濡れていて。

「僕達はデハウバルズ王国の人間です。カペティエン王国の人々があなたにどんな評価を下していようが、知ったことではありませんよ。僕は、僕自身と僕の婚約者の評価を信じます」

「ハル様のおっしゃったとおり、私もリゼット殿下が悪女などとは思いません。……いえ、私達を気遣い、優しく接してくださった殿下が、悪女であるはずがございません」

「あ……あああああ……っ」

僕とサンドラの言葉が決めてとなり、とうとうリゼットは泣き崩れた。

そうだよ……『エンハザ』では、共に堕ちることを求めた彼女だったけど、そんなのがリゼットエンドだなんて認めない。

進むべきは、闇なんかじゃなくて 光(・) であるべきなんだ。

そちらに進むというのであれば、僕もサンドラもリゼットに手を差し伸べて、一緒に進むよ。

「でも……でも! みんなが私のことを見てくれなくて! 私は悪女でしかなくて!」

「僕とサンドラは、あなたのことをちゃんと見ていますよ。悪女だって、あなたが見てほしいから、演じていただけなんでしょう?」

リゼットが自分を 卑下(ひげ) するようなことを言ったって、全部僕が否定してあげるとも。

僕が受け入れるのは、彼女が自分を肯定する言葉だけだ。

「そういうことですので、もう諦めて受け入れてください。あなたは悪女ではないということ、そして、僕達の『大切なもの』であるということを」

「あああ……ああああああああああああああああ……っ!」

リゼットは晴天の空を見上げ、泣き叫ぶ。

だけど、それは決して悲しみや苦しみによるものでないと、僕は信じている。

そうじゃないとおかしいよね?

だって彼女のアメジストの瞳は、あんなにも曇りなく輝いているのだから。

「さあさあ! こちらも食べてくださいまし!」

あれからひとしきり泣いたリゼットはようやく落ち着きを取り戻し、今では満面の笑みで僕達にしきりにお菓子を勧めている。

しかも。

「え、ええとー……何も僕とサンドラの間に入る必要はないのでは……」

「何を言っておりますの! あなた達と私は 大切な親友(・・・・・) なんですのよ! こうしなければ、どちらかが不公平になってしまいますわ!」

「は、はあ……」

つまり、リゼットにとって今のポジションこそが、僕とサンドラに対して平等に接するための最適解ということらしい。

いやいや、どうしてそうなる。

「……でしたら、リゼット殿下が私達の正面にお座りになればよろしいのでは……」

「とんでもないわ! そんなことをしたら、私だけ距離が離れてしまうじゃない!」

いやいやいやいや、大した距離じゃないだろうに。

むしろ物理的にサンドラとの距離が開いたばかりか、間にリゼットが挟まっているせいで、さっきからサンドラがメッチャ不機嫌だってことに気づいてほしい。

「だけど、羨ましいわ……ハロルド殿下とアレクサンドラは、婚約者同士。これから先も、ずっと一緒にいられるんですもの……」

「ふふ、そのとおりです。ハル様と私は、永遠に一緒なのです」

リゼットが寂しそうにそう呟くと、すっかり機嫌を直したサンドラが小さな胸を張る。うんうん、僕の婚約者も負けず劣らずチョロイなあ。

「ですが、あと一年もすれば、僕達はデハウバルズ王国の王立学院に入学します。リゼット殿下も、こちらに留学されてはいかがですか?」

そもそも『エンハザ』ではリゼットは王立学院に留学生としてやって来ることになってはいるものの、『聖女誘拐事件』や冤罪事件が本編を待たずに発生してしまった以上、イレギュラーが起こる可能性は否定できない。

そういう意味でも、僕は彼女が確実に留学するように、フラグを立ててみた。

「そ、それはいいわね! 一緒に王立学院に入れば、ずっと一緒ですわ!」

よしよし、すっかりその気になったな。

後は、デハウバルズ王国とカペティエン王国が友好を結ぶという名目で、今回の滞在中にサロモン王を説得……。

「ハロルド殿下」

いつの間にかモニカが、僕の後ろにいた。

というか、音もなく背後を突くのは心臓に悪いのでやめてほしい。

「どうしたの?」

「……サロモン陛下が、ハロルド様と面会をしたい、とのことです」

「ええー……」

嫌な予感しかしない僕は、思わず変な声が漏れてしまった。